デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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前回の投稿から一ヶ月ちょいが立ちました。

今回は少し長めです。
対ヴァンデモン戦をこの一話で書ききりたかったので、だいたい二話分くらいの長さです。


ムゲン……キャノン!

「 ムゲン………キャノン!」

 

廃墟に近いお台場の市街。

 

その声と共に、メタルティラノモンの右腕から"あの夢"で見た光の弾丸が、大量に迫る黒いコウモリに向かって放たれた。

バシュンと打ち出されたその光弾は、夢の"彼"が放った物よりは小規模だが、内包されたエネルギーは主砲の非ではない。

 

大きな黒い波と小さな白い玉。

ひとたび放たれたそれは目映い光を撒き散らしてコウモリ達と衝突する。

 

「フン……最後の悪足掻きか……いいだろう……そうでなくてはつまらん」

 

所詮苦し紛れ、そう思っていたヴァンデモンだが、直後、その表情が驚愕に変わった。

 

「な……バカな……!この私が……押されている……だと……!?」

 

いや、押されているというレベルではない。

 

軌道上にいたコウモリは勿論、余波だけで道路一杯に広がる黒い波全てを消し飛ばしながら、"白い点"は放出元であるヴァンデモンに向かって一直線に突き進んでいるのだ。

 

その様子に、普段冷静なヴァンデモンの額に青筋が浮き上がる。

 

「グッ……私を……舐めるなあぁ!」

 

格下の者に逆襲されるなど彼のプライドが許さない。

怒声と共に奥歯を噛み締め、魔王は黒い弾丸、ナイトレイドの勢いを更に激しい者へと変えた。

 

ゴォッと、さながらマシンガンのように放たれるそれは、正にヴァンデモンの本気と言っても過言ではないだろう。

 

だが、

「!! ……ッ! ハアアアァ!!」

 

いくら勢いを増そうとも、もう直進する光弾を止める事は出来ない。

正面から襲い掛かるコウモリ達は全て消滅し、やがてその光弾は必殺を出し続ける魔王を捉えた。

 

そして、

 

「……あ……ありえん……」

 

目前に迫る光を前に、ヴァンデモンは目を見開きながらポツリと呟く。

そして次の瞬間、それはカッという音と共に勢い良く弾けた。

 

「があぁぁあああぁぁ!!」

 

響く魔王の絶叫。

周囲一帯に目が眩む程の閃光を上げて、光の玉は魔王を飲み込み、都会のど真ん中で勢い良く炸裂したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な……なんなんだ……今のは……!?」

 

やがて収まっていく光。

クラクラとした目を細め、ビル陰に身を潜めて一部始終を見ていたヤマトが呆然と呟く。

そしてそんな彼の後ろで、追い詰められる沙綾に息を飲んでいた空も、今、目の前に広がる光景にピョコモンを抱えたまま固まった。

 

「こ……これって……」

 

先程までの激しい必殺の応酬から一転し、地上にポッカリと空いた大穴。

魔王が立っていた道路の真ん中は、その一部分だけがまるでクレーターのように深く抉りとられていたのだ。

 

勿論、そこにヴァンデモンの姿はない。

 

唯一立っているのは、土煙が舞い上がる中ゼイゼイと荒い息を上げながらも、気を失った主を守った恐竜のみである。

 

「う……嘘……もしかして……ヴァンデモンに勝っちゃったの……!?」

 

絶対絶命とさえ思えた状況からのまさかの逆転。

沙綾が飛び出して以降、緊張のあまり張り詰めていた神経が緩んだのだろう。安堵からか、彼女はへなへなとその場にペタリと座り込んだ。

 

「よかった……今度こそ……もうダメかもって……」

 

「空……」

 

空のうるんだ瞳をピョコモンが心配そうに覗き混む。

彼女としては、一人ヴァンデモンの元へと向かおうとする沙綾に、あの時何も言えなかった事に責任を感じていたのだろう。

 

「考えるのは後だ! とにかく今は沙綾とガブモンの無事を確認しないと……光ちゃんは此処で待っていてくれ……俺と空が行く」

 

ヤマトが二人に声を掛ける。

一瞬の間の後、空はそれに反応するようにゆっくりと腰を上げた。

 

「う、うん……そうね……」

 

「空は沙綾を頼む……俺は向こうのガブモンを見てくる」

 

「分かったわ。 光ちゃん、ちょっとピョコモンをお願いね」

 

「う……うん……」

 

少し戸惑いながらもそういって抱き抱えるヒカリにピョコモンを任せ、空とヤマトはそれぞれ、クレーターを挟んで倒れるワーガルルモン、そして沙綾の元へと急いで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……これは……予想……以上だな……」

 

構えていた右手をダラリと下ろし、肩で息をしながらポツリとメタルティラノモンは呟く。

無我夢中で放った一撃は、まさに予想を越える威力。

信じられないものを見る目で、彼はしばらくの間動けず硬直していた。

 

「……!」

 

しかし、考えるべき所は多々あるが、メタルティラノモンにとってまず一番にするべき事はそこではない。

 

「マァマは……!? ………良かった……気を失ってるだけか」

 

後方で倒れるパートナーへと振り返り、彼は腰を落としてその無事を確認する。

小さく一定のリズムで聞こえる呼吸に、メタルティラノモンは胸を撫で下ろし、そこで始めて、目の前に広がる現状へと目を向けた。

 

人気の消えた空虚な街の真ん中に、ポッカリとした穴が空いている。

 

「……咄嗟とはいえ……少し不味い事になったか……?」

 

一度夢で見たとはいえ、その"必殺"のあまりの威力にメタルティラノモンは内心戸惑った。

"もしや、今の一撃でヴァンデモンを完全に消してしまったのだろうか"と。

 

(……どのみちヤツはみんなに倒される筈だ……歴史的にはオレがヤツを倒しても問題ないだろうが……マァマの言っていた"究極体のデータ"が……)

 

そこまで考えて、メタルティラノモンは小さく溜め息を付く。

他に方法はなかったのだ。沙綾の方針を破る結果になってしまったが、彼女の命には変えられない。

 

(確か……マァマの話では少なくとも後三回、そのデータを得る機会がある筈だ……過ぎた事を悔やんでも仕方ない……今は……マァマが無事だった事だけでも良しとしなければ……)

 

そう、逆に"彼"よりも一回り以上小さな光でさえこの威力なのだ。夢通りの威力が出なかった事だけでも不幸中の幸いだろう。この距離では、彼は勿論、最悪沙綾や向こう側で倒れているワーガルルモンすら巻き込んでいたかもしれないのだから。

 

(敵の気配は……今はない……)

 

しばらくその場で周囲を見回し、彼は一応の安全を確認する。

 

(……マァマが目を冷ますまで待つしかないか……それに体力も……かなりキツい……)

 

先程の光弾を放った影響か、メタルティラノモンのエネルギーはほぼ空に近い。しかし、彼は成長期へと戻る事はせず、そのままズシンと、建物を腰掛けに沙綾の隣へと座り込んだ。

周囲に殺気は感じないが、今だこの街は敵だらけ。現状戦える者が彼一人しかいないため、まだ進化を解く訳にはいかないのだ。

 

そして、

 

そんな時、彼の目に此方へと走りながら声を上げる仲間の姿が写った。

 

「メタルティラノモン! 大丈夫!?」

 

「空……」

 

「怪我はない!? その……沙綾ちゃんは!? 」

 

「ああ……マァマも無事だ……」

 

「……よかった……」

 

地べたへ横たわる沙綾を抱き起こし、その無事を確認した所で、彼女の表情は少し柔らかくなる。

 

「今……ヤマトが向こう側のガブモンを見に行ったわ……もうすぐこっちに来ると思う」

 

「……そうか……」

 

空の指差す方向を見ると、丁度ヤマトが瓦礫の散乱する街の中、エネルギーを失い退化したツノモンを抱き上げているところであった。

遠目からではあるが、少なくとも命に別状はないようである。

"巻き込まなくてよかった"

そう思い、メタルティラノモンはホッと胸を撫で下ろす。

 

「全く……無茶ばっかりして……」

 

そう呟きながら、空は抱き上げた沙綾に膝枕をするように座り込み、少しおずおずとした様子で、次にメタルティラノモンへと問いかけた。

 

「ねえ……さっきのは……一体何なの? ヴァンデモンは……どうなったの……?」

 

「…………」

 

"さっきの"、つまりは、光弾"ムゲンキャノン"

ヴァンデモンのナイトレイドすら圧倒した見たこともない必殺。気にならない筈はないだろう。

しかし、それに対してはむしろメタルティラノモンの方が聞きたいぐらいである。彼はただ、あの"夢"を再現してみただけなのだから。

 

「……さあな……オレにもよく分からん……ただ頭に浮かんだ行動を取っただけだ……ヤツがどうなったのかも分からない……そのまま消滅したのかもしれないが……」

 

「そう……でも、とにかく助かったわ……ありがとう……貴方が居なかったら……私達、きっと此処でやられちゃってたわ」

 

並んで座る一人と一匹。

それから少しの間無言が続き、やがて、再び空がおもむろにメタルティラノモンへと問いかけた。

 

「ねえメタルティラノモン……一つ、聞いてもいい?」

 

「……なんだ?」

 

「……さっきヴァンデモンも言ってた事だけど……貴方達は……何者なの……? 沙綾ちゃんも言ってたわ……貴方を失ったら、私は一人ぼっちだって……」

 

「…………それは……」

 

空のその質問に、恐竜は困り顔を見せる。

 

彼女のこの質問はある意味当然のものだろう。

何せ、沙綾自信が先程ヴァンデモンに対してもハッキリと認めたのだ。

だが弁明を図ろうにも、歴史に疎い彼には録な言い訳が思い付かない。下手な事を口走る訳にはいかないのだ。

 

すると、

 

「あっ……別に疑ってる訳じゃないの。 ただ……これまで一緒に旅してきたんですもの……やっぱり気になるなって……」

 

そんなメタルティラノモンの表情を察したのか、取り繕うように空は少し明るく振る舞う。

 

「……悪いが……オレからは何も言えない……だが信じてくれ……オレもマァマも……みんなの事は大切な仲間だと思っている……それだけは間違いない……」

 

結局、彼に言えるのはこれが限界。

勿論それに嘘はないが、メタルティラノモンは心苦しくうつ向く。

しかし空は、そんな苦し紛れの回答を聞いた上で、彼へと微笑みかけた。

 

「……そっか……言えないなら……仕方ないね……うん……心配しないで 。私達も信じてるから……」

 

「すまない……」

 

「……いいのよ。何か理由があるんでしょ……いつか沙綾ちゃんが話してくれるまで……私待ってるから」

 

沈んだ気持ちを察するように、空はニッコリとメタルティラノモンを見上げ、そんな彼女の表情に、彼は果たされないと知りながらも小さな声で頷くのだった

 

「……ああ」

 

 

 

 

しばらくして……

 

 

 

 

 

「ツノモンも無事だ。色々聞きたい事はあるけど、とにかくお前のおかげで助かったよ、メタルティラノモン」

 

「うん……貴方のおかげ……ありがとう」

 

瓦礫の中からツノモンを救いだしたヤマト、そして、安全を確認した後ビル陰から小走りに走ってきたヒカリが二人の元へと集まる。

依然沙綾は空の膝で気を失ったままの状況だが、ヤマトの提案で、彼女が目を覚ますまでに取りあえずのこれからの方針を話し合う事となった。

 

「それで……これからどうする?」

 

ヤマトが話を切り出す。

 

「ヴァンデモンを倒したんなら、後は太一と協力して街の人達をみんな解放すればいいんじゃない? ほら、太一だけだと危なっかしいし」

 

「うん……お兄ちゃんも、テイルモンも……心配……」

 

既に太一がヒカリの元を離れてから二時間程が立つ。

今だ戻らない兄に、彼女はピョコモンを抱えたまま、沈んだ表情を浮かべた。

 

「ああ……ただ、ツノモンもピョコモンも暫く進化出来ない……メタルティラノモンもかなり疲れてるだろうし、街でファントモンに出くわしたら終わりだ」

 

「それは……確かにそうだけど……」

 

「…………」

 

ヴァンデモンがいなくなったとはいえ、以前街中には彼の配下のデジモン達が徘徊している。バケモン程度ならいくら来ようと問題ないが、完全体に狙われればひとたまりもないと、皆が話を進める中、メタルティラノモンは目を閉じながら自身の回復に専念していた。

成長期に退化した方がエネルギーは溜まりやすいのだが、消費した体力が非常に大きく、ここで退化すると、他のパートナーと同じく暫く進化出来ない可能性がある。

身を隠す上では効率は悪いが、"沙綾を守る"ためにはこの姿を維持するしかないのだ。

 

「もう少しだけ……せめて空のピョコモンが回復するまで待たないか? バードラモンなら飛ぶことも出来るし、歩いてビックサイトに向かうよりも最終的に早く着ける筈だ」

 

「それが一番良さそうね……ピョコモン、後どれくらいで進化出来そう?」

 

「うーん……もうちょっとだけ待って……頑張ってみるから」

 

「ごめんね……無理いって……」

 

空の代わりに胸に抱いたピョコモンと顔を合わせ、ヒカリは静かにそう口にする。

だが、丁度その時、たまたまグルリと辺りを見回したヤマトが、突然ハッとした表情を見せた。

「どうしたのヤマト?」

 

「そういえば変だな……ヴァンデモンを倒した筈なのに……お台場の霧が晴れてない」

 

「あっ……言われてみれば……ホントだわ」

 

ヤマトに続いて首を動かした空もそれに気が付く。

 

ヴァンデモンによって作り出された霧の結界は尚も健在。依然として、お台場の街はまるで壁に囲まれたかのように周囲から孤立した状態なのだ。

 

「一体どうして……?」

 

頭を捻りながら、ヤマトがポツリと呟く。

 

 

その時、

 

 

「当然だ……まだ……私は消えていないのだからなっ!」

 

 

 

「!!」

 

ヤマト達がいる街の一角に突如として響いたその重苦しい声に、一同はまるで蛇に睨まれたかのようにビクリと鳥肌がたった。

座り込んだまま目を閉じていたメタルティラノモンもカッと意識を覚醒させる。

 

「嘘……でしょ……」

 

「まさか……」

 

それもそう。何せその声は、今しがた倒したと思われていたあの魔王の声なのだから。

 

「……残念だったな……」

 

遠くから響くような声は、次に聞こえる時には間近くからの物へと変わる。

その場の全員が恐る恐る声のした方へと振り替えると、クレーターの丁度真上に、それはユラリと現れた。

 

「……死んだ……とでも思ったか……?」

 

「「ヴァンデモン!」」

 

皆の顔が恐怖に引き吊る。

見間違いなどではない。不適な笑みを浮かべて浮遊するその姿は、間違いなくあの魔王本人である。

状況は最悪。皆が固まる中、冷や汗を浮かべながらヤマトが最初に声を上げた。

 

「お……お前……さっきので倒されたんじゃないのかよ!?」

 

「フン……確かに……アレはなかなか惜しかったな……私も……今回ばかりは反省する必要があるようだ……下等な雑魚と鷹を括っていた事は詫びよう……全く……想像以上のかくし球だな……」

 

宙にフワフワと浮きながら、魔王は全員を見つめる。

 

「クソ……どうなってるんだよ……」

 

"何故生きているのか"、具体的な回答が得られずヤマトが歯を食い縛るように声を漏らす。

 

「チッ……そういう事か……」

 

そんな中、メタルティラノモンはヴァンデモンを睨み付けながら立ち上がり、合点がいったかのように口を開いた。

 

「……空間の移動……だな……」

 

「……フフ……」

 

そう、それは彼が元々持っていた技。

ファントモンなどの幽霊型デジモンと同じく、離れた場所へとユラリと移動するヴァンデモン得意の瞬間移動。

先程の戦闘も、魔王はこの技を使って二匹の攻撃を避け、ファントモンと共に彼らを追い詰めたのだ。

 

「……その通りだ……最も……後一瞬でも遅れていれば……本当にチリ一つ残ってはいなかっただろうがな……」

 

言いながら、ヴァンデモンは自傷ぎみに笑う。

 

「…………」

 

よく見れば、魔王の高貴な服も今やボロ雑巾のように損傷しており、整えられたオールバックの金髪もほどけ、長い髪が仮面の半分を隠している。

そして何より、ボロボロとなったマントで隠してはいるが、

 

「……そんな"腕"で、まだ戦うつもりか……?」

 

メタルティラノモンは魔王の右手に一瞬視線を移し、威嚇するように低くそう声を上げた。

 

恐らくあの消滅の光の中、反射的に右腕を盾にしたのだろう。その片腕が肩口からバッサリと消失しているのが彼のシルエットからハッキリ見て取れたのだ。

 

「フフッ……このくらいのハンデで丁度いい……貴様も体力を相当削られているのだろう? ……分かるぞ……あのかくし球を、貴様はもう使えまい……?」

 

「……チッ……」

 

できる限り平静を装ったメタルティラノモンだが、どうやら魔王の目は誤魔化せないようだ。

一見ヴァンデモンの方が重症ではあるが、その実、体力的にはメタルティラノモンの方が劣勢だろう。肩で息をする彼とは違い、片腕を失いながらも、魔王にはまだ幾分かの余裕がある。

 

しかし、

 

「……ヤマト…… 空…… マァマを連れて出来るだけ遠くへ離れろ……」

 

最早戦えるのは自分だけ。

"主を守る"、その意思だけを原動力に彼は左腕を構え、後方の仲間達へと声を掛ける。

 

「でもっ!」

 

「早くしろ! マァマを危険に晒す事は許さない! 行け!」

 

空の抗議に厳しい口調で返し、メタルティラノモンはヴァンデモンを睨み付ける。

そして彼の意思を察し、ヤマトが素早く動いた。

 

「くっ……行くぞ空! 沙綾は俺が運ぶ! ヒカリちゃんはツノモンを頼む!離れるなよ!」

 

沙綾をその背に背負い、空の手を引いて立ち上がらせる。

 

「う……うん……ごめんなさい……負けないでね……メタルティラノモン……」

 

初めは戸惑っていた空も、ヤマトとメタルティラノモンに促されて立ち上がり、彼らはそのまま、急いでその場を後にした。

ヴァンデモン自身も、メタルティラノモンを一人の"倒すべき敵"として捉えたのだろう。立ち去るヤマト達に意識をそぐ事はせず、威嚇する恐竜に対し威圧を持って返す。

 

そして、

 

「……貴様のおかげで、私の力は幾分か低下した……我が野望の実現も……僅かに遠退いたといえよう……」

 

先程出来たクレーターを中心に挟み、二人だけとなった大通りでヴァンデモンが呟く。

力自体は彼自身の言う通り減退しているが、だからこそ、今そこに慢心は一つもない。だがそれでも

 

「……それは残念だったな……だが安心しろ……お前の野望は、"最初から"実現する事なんてない……!」

 

メタルティラノモンは一切怯まない。

 

「フフ……言ってくれる……覚悟しろ! ナイトレイド!」

 

「それはこっちのセリフだ……! ヌークリアレーザー!」

 

再開される戦闘。

バシュンと一閃の光と黒の弾丸が、大穴の上で激しく激突する。今やお互いの力は五分と五分。閃光と弾丸は一歩も引かず、衝撃と共に爆散した。その中

 

「行くぞ……!」

 

発生する衝撃と煙が晴れない内に、ヴァンデモンは残った片腕に赤い鞭を握りしめ、メタルティラノモンへと高速で飛行する。

 

「ブラッディストリーム!」

 

「グッ!」

 

爆風の中から突如として伸びてくる鞭に、恐竜は反射的に差し出していた左腕で身を守る。

バチンと弾ける音を上げて叩きつけられると共に腕を拘束されるが、片腕である以上所詮扱える鞭は一本だけ。

追撃を受ける可能性は低い。なにより、長期戦が出来るほどの体力など彼には残ってはいない。ならば、することは一つだけ。

 

「うおおおぉぉぉ!」

 

捉えられたまま、メタルティラノモンもまたヴァンデモンへと一直線に突撃した。

煙で姿が見えなくとも、たとえ瞬間移動が出来ようとも、この鞭を辿れば本体が分かるのだから。

 

煙の中を駆けながらその拳を握りしめる。

 

「何……!」

 

対面したヴァンデモンの表情が歪んだ。

煙に紛れたつもりが、まさか正面から突進してくるとは思わなかったのだろう。

迎撃しようにも、今彼の彼に片腕はない。不慣れな身体に魔王の反応が鈍る。その間、恐竜が大きな一歩で踏み込み、握りしめた拳を引いた。

そして、

 

「吹き飛べっ……!」

 

「クッ!」

 

ガツンと、小柄な魔王の体に巨大な鉄拳が命中する。

 

「グガッ! 」

 

圧倒的な体格差から繰り出す鋼の一撃。その余りの衝撃にヴァンデモンは鞭を手放し、まるで豪速球の勢いで吹き飛ばされ、近く住居の壁を突き破る。

 

ドゴンという音と共に激しく飛び散る外壁、そこへ、

 

「ダイノキック……!」

 

地鳴りを上げながら勢いよく加速し、メタルティラノモンは跳び蹴りで建物ごと追撃を掛けた。

進化と共に重量と威力が跳ね上がった巨体による渾身の蹴りに、建物は爆発したかのような音を上げて倒壊する。

力に任せた連続攻撃。ただ、その追撃は魔王に当たる事はなく、

 

「……次は此方から行くぞ……!」

 

「!」

 

瞬間移動。

一瞬にしてメタルティラノモンの後頭部へとフワリと回り込んだ魔王が、そこで片腕を差し出し、今度は逆に、彼が必殺の構えを取った。

 

しかし、

 

「ナイトレ……!」

 

無防備なその背中へと黒の弾丸を打ち込もうとしたその時、不意に何かを察知したように行動をやめ、ヴァンデモンは身体を後ろへと剃らすように高度を高く上げる。その直後、

 

「クッ!?」

 

ブオンと、

 

まるでアッパーカットのように、ノーモーションで分厚い尻尾が彼の鼻先を僅かにかする。

 

「フン……これは危ないな……」

 

「ハァ……ハァ……チッ……ヌークリアレーザー!」

 

その間に恐竜は体勢を立て直し、上空へと距離をとる魔王に向けて副砲を乱射するも、ヴァンデモンはそれを空間をユラリと移動する事でかわしていく。

 

息をつく間もない攻撃の応酬。

力の低下からか、二人の戦力は拮抗しているようにも見えた。

 

しかし、

 

「ハァ……フゥ……ハァ……」

 

時間の経過と共に、その均衡が崩れ始める。

 

やはりここに来て元々の体力差が影響しているのだろうか。宙へと放たれるレーザーの出力は、回数を撃つ毎に目に見えて弱まっているのだ。

戦闘が始まった段階からもう満身創痍。無制限に副砲を連発出来る程の体力を、もう彼は持ち合わせていないのだろう。

 

「クッ……降りて……来い……」

 

腕が小刻みに震え、標準が上手く定まらない。

発射の勢いに耐えられずに身体がよろめき、見当違いの方向に閃光が走る。

 

「当てればいいだけの話だ……先程の拳のようにな……」

 

そして勿論、ヴァンデモンはそれを見逃さない。

距離を保ったまま、自らは牽制程度のコウモリを飛ばして相手の攻撃を誘発させ、その体力が切れるのを待つ。

 

攻めているのはメタルティラノモン、しかし、追い詰められているのもまた彼なのだ。

 

やがて、

 

「ハァ……ハァ……グッ……」

 

幾度目かの副砲を空へと放つ最中、その身体が遂に崩れ落ち、灰色の恐竜は地に片手をついた。

 

「どうした……? ずいぶん苦しそうだな……」

 

同時に、宙を舞うヴァンデモンがスタリと地上に舞い降りる。

 

「お前の方こそ……ハァ……ハァ……さっきより……弱くなったんじゃないのか……」

 

「黙れ……」

 

片手から放たれる数匹のコウモリの弾丸、それがピストルのような早さで恐竜へと打ち込まれる。

 

「ぐおっ!……がっ!」

 

その威力自体は大した事はない。普段の彼ならば余裕を持って耐えることが出来る

だが、疲弊しきったその身体ではそれさえも凶弾へと変わるのだ。

 

三発、四発、そして五発目の衝撃を受けた後、メタルティラノモンの身体はうつ伏せにゆっくりと崩れ落ちた。

 

「……ク……ア……」

 

最早限界。

倒れ付したまま、恐竜は苦しげに呼吸を繰り返す。

 

最も、ヴァンデモン側としても本来なら今のは一撃で終わりに出来た筈でる。それを、辛うじてとは言え四発まで耐えられたのだ。弾丸を放った左腕を憎々しげに見つめながら、彼はポツリとつぶやいた。

 

「フン……貴様の言う事も間違いではない……こんな体たらくでは……選ばれし子供を全員抹殺する事さえも難しいだろうな……」

 

「……はっ……だから……言っただろ……最初から……お前は……失敗……したんだ……」

 

「減らず口を……」

 

「グッ……!」

 

あくまで反抗的なその態度に、ヴァンデモンは更に一発、その額に向けて黒い玉を放った。

 

「フン……力が足りないなら、他者から奪いとるまでだ……忘れたのか……? 今やこの街の市民全員が、私の人質なのだぞ……失った力や右腕など、その気になれば容易に再生できる……」

 

「……………!?」

(……成る程……あれほど力を無くしているのに妙に余裕なのは……それが理由か……)

 

そう、それはヴァンデモンのみが行える簡易的なデータのロード。いや、人間からも力を得れるという点に置いては、寧ろ未来のデジヴァイスよりも優秀だろう。

デジモンの肉体はデータで構成されているのだ。それさえ補えるなら、身体の損傷など大した問題ではない。

 

ただ、それでは一つ疑問が残る。

メタルティラノモンを追い詰めながら、魔王は自らその理由を語り始めた。

 

「……ならば……何故手負いの状態で再び貴様の前に現れたのか……か?……答えは簡単だ……」

 

バシュン、バシュンと、片腕を差し出して一定の感覚でコウモリを放ちながら、魔王が恐竜へと近付いてくる。

 

「貴様だけは先に潰す必要があったからだ……例え回復したとしても、万が一にでも"あのかくし球"を受ければ全てが無に還る。 ならば、貴様の体力が尽きている間に叩いておく事こそ最善だ……二度目を撃たれない確信を得れるまで私は気配を殺し……貴様の様子を注意深く監視した……」

 

「………ガフ……ウッ……」

(……だからあの時……ヤツはすぐには現れなかったのか……)

 

最早満足に動かない身体。

両腕で身体を起こそうとするも、その手は震え、自身の体重すら支える事は出来ない。

瞳に写る街の景色もボヤけ始め、目前に迫る魔王の姿は分身のようにブレて見える。

 

「……結局……貴様には最初から最後まで手を焼かされたな……だが……それもこれで終わりだ……!」

 

「……………」

(クソ……此処までか……すまない……マァマ……)

 

既に対抗策はない。

次のヴァンデモンの一声で全てが終わるだろう。

 

"歴史の登場人物"ではない自分に命の保証はない。

 

そう理解した上で、恐竜は観念したかのようにその目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼はまだ気付いていない。

それすらも全て含めて、"歴史の流れ"は順調に進んでいる事を。

 

 

「なっ!」

 

絶好の機会を前にして、突然、ヴァンデモンは驚きに満ちたそんな声を上げて、彼の目と鼻の先から大きく後退した。

 

(な……なんだ……?)

 

直後、ドカン、ドカン、という音を上げて、魔王の居

た位置に火柱が上がる。

そう、止めを刺そうとするヴァンデモンに目掛けて、遠方から巨大な火炎弾が飛来したのだ。

 

それと同時に、メタルティラノモンは横たわる自分の顔に小さな暖かい手の感触を覚え、ゆっくりと再び目を開く。すると、ボヤけた視界の中、其処に居たのは、

 

「悪い……遅くなっちまった……大丈夫か、メタルティラノモン?」

 

ゴーグルを着けた一人の少年。そして、そのパートナーであるグレイモンの背中。

 

「……太……一? ……フフ……ああ…………おかげで……もう……ボロボロ……だ……」

 

まるで図ったかのようなタイミングでの登場にメタルティラノモンの表情が緩む。

 

「ヤマト達から簡単に話しは聞いたよ……沙綾は大丈夫だ……後は俺達に任せて、お前はゆっくり休め……」

 

「……俺……達……?」

 

光子朗やミミも来ているのだろうか。それとも、単に太一とグレイモンの事を指しているだけだろうか。

いや、そうではない。

 

「がんばって! テイルモン!」

 

首を僅かに動かして周囲を見ると、其処に居たのは先程逃がした筈のヒカリの姿。

ただ、少し前とは違い、彼女のその小さな手にはデジヴァイスが握られ、何時か見たデジモンがそれを守るようにグレイモンと共にヴァンデモンを睨み付けている。

 

「さあ! 今度はボク達が相手だ!」

 

「ヴァンデモン……手負いのお前なら、私でも勝ち目はある……」

「……成る程……あの子供が八人目だったか……だが舐めるな! まだ貴様ら数匹に負ける程弱っているつもりはない!」

 

グレイモン、テイルモン、そしてヴァンデモンとの戦いが始まった。

 

「心配するなって……もうすぐ丈や光子朗達もここに来る……だから安心して休め……沙綾と一緒に目が覚める頃には、全部解決しておいてやるからよ!」

 

いいながら太一はポンっと自らの胸を叩いて見せる

 

歴史の歯車は着実に回り続ける。

魔王との最終戦、メタルティラノモンはその結末を直に見ることなく、太一の言葉に頷き、再び目を閉じた。

 

「……ああ……まか……せた……」

 

小さな黄色い姿へと退化したその寝顔は先の引き吊ったものではなく、穏やかな笑みさえ浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、ヴァンデモン戦ラスト。申し訳ありませんが、ここから先の戦闘はカットです。
というのも、メタルティラノモンのダウンに伴い、若干流れは違いますが、これから先は殆ど原作と同じです。
暫くテイルモンが一人で奮闘しますが、最後に隙をつかれ、遅れて到着したウィザーモンが盾になる。という展開ですね。

原作とは違い、ワーガルルモン、ガルダモンは最後の戦闘に不参加となりますが、ヴァンデモン自体の力が原作より弱まっていますので、エンジェウーモンが力を集めてヴァンデモンに止めを刺す部分も、原作のように完全体全員の力を集結するにはおよびません。

では次回、ヴァンデモン編最終回です。

矛盾はない……かな……







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