デジモンアドベンチャー01   作:もそもそ23

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一ヶ月ぶりくらいの更新です。
今のところ後もう一話は書ききっていますので、夜にでも見直して投稿しようと思います。



最後の進化……無情の決戦兵器《1》

ピッコロモンの死から丸一日が経過した頃。

 

『……追っ手のハンギョモン達は振りきりました。これで、一先ずは安全でしょう』

 

「そっか……ありがとう、助かったよ"ホエーモン"」

 

ドーム型の"体内"へと響くその声に、沙綾はホッと胸を撫で下ろしながら返事を返す。

 

(さて、ここまでは順調だね……)

 

昨日のピッコロモンのロードが少し堪えた彼女ではあったが、何時までも落ち込んでいる訳にはいかないと、今朝目を覚ました時から、沙綾は既に次に戦う究極体、メタルシードラモンのロードへ向けてきちんと意識を切り替えていた。

 

(今は"歴史の流れ"に出来るだけ任せて、アグモンの力を蓄える事に専念しなきゃ)

 

浜辺でのシェルモンとの戦闘、次いでアノマロカリモンの不意打ちを歴史通りに凌いだ沙綾は、立て続けに現れたメタルシードラモンから一時逃れるため、救援に駆け付けたホエーモンの体内での保護の元、今は皆と共に、此処デジタルワールドの深海を急ぎ進んでいるのだ。

 

「流石にこの水圧じゃ敵も迂闊に近付くのは無理みたいですね。メタルシードラモン本人なら、もしかすると此処まで潜って来るかも知れませんが……」

 

「もー、 折角逃げきったのに怖いこと言わないでよ!」

 

パソコンをカタカタと叩きながら状況を分析する光子朗に、ミミはパルモンをギュッと抱き締めながら不満そうな声を漏らす。 だが、

 

「いや、でも確かに……今の内に何か作戦を立てておかないと、今度アイツに見つかった時にどうしようもなくなっちまう……」

 

腕を組ながらヤマトはそう呟く。

追っ手の親玉であるメタルシードラモンの実力は言うまでもない。

実際、今回彼らが対面したあの究極体から逃げ切れたのは、一重にホエーモンの捨て身の体当たりが効を奏した結果なのだから。

 

「そうだな……なあ光子朗、何かいい手はないか?」

 

ヤマトの意見に頷き、太一はパソコンの画面を真剣に見詰める光子朗へと問いかける。

現在彼のパソコンはホエーモンと視覚情報を共有しているため、画面を通して体内から深海の様子を観察しているのだろう。

 

「そうですね……なくはない、と言ったところです」

 

「ホントか!?」

 

「はい。 えーと、皆さんこれを見てください」

 

そう言うと光子朗は一度モニターを切り替え、その画面を中央に集合した全員に見せる。

画面に写し出されていたのは、彼のデジモンアナライザーに登録されたウォーグレイモンの基本情報である。

 

「先程ウォーグレイモンのデータをもう一度詳しく調べたのですが、どうやら、彼の両腕の爪は『ドラモン系』のデジモンに対して非常に効果的だそうです。『ドラモンキラー』と言う名前まで付いてるくらいですから、もしかすると、これを上手く使えば多少の実力差は覆せるかもしれません」

 

(うん……その通りだよ)

 

そう、本来の歴史ではメタルシードラモンはこのドラモンキラーの前に倒れる。

その際今沙綾達を乗せているホエーモンが『犠牲』となってしまうものの、決着自体はほんの一瞬の間に付くため、子供達の身に危険が及ぶことはない。

つまり、今回も沙綾はロード以外は『何もするつもりはない』という事である。

 

(今の内に謝らないと……ごめんなさい。 ホエーモン)

 

そして勿論、今回彼女がロードする対象はメタルシードラモンだけではない。同時に消滅する筈のこのホエーモンすらも、沙綾は目的のためにアグモンの力に変えるつもりなのだ。

全ては、あの魔竜をこの手で倒すために。

 

「成る程……なら、問題はそいつをどうやって"当てるか"だな……」

 

そんな沙綾の内心など全く知らず、パソコンの画面をまじまじと見つめながらヤマトがそう口を開いた。

一撃で致命傷を与えなければ当然向こうに警戒されるだろう。元々戦闘力で劣っている分、外せば勝機は格段に下がるのだ

 

「そうですね。メタルシードラモンは接近よりも、どちらかと言えば距離を取った戦い方をしますから……」

 

「さっきは口から火まで吹いてしね……あれにはビックリしたよ」

 

先程の浜辺での遭遇を思い返し、沙綾も光子朗に相槌を打つ。

選ばれし子供達が逃げ込んだ"海の家"を瞬く間に全焼させた火炎放射。得意攻撃ではないとはいえ、その威力は今のティラノモンよりも遥かに強力だろう。

 

「はい。ですがそれよりもまずあの鼻先の光線を何とかしないと……アレはズドモンを甲羅の上から倒す程の威力ですから……」

 

「よし! ならこれから作戦会議だ! どうせこのまま逃げてるだけじゃ世界なんて救えない……次会った時こそ、アイツをギタギタにしてやろうぜ!」

 

そして太一のその言葉を羽切に、まだ幼いタケルとヒカリを除いた全員が、対メタルシードラモンを想定した戦闘の話し合いを始めた。

最も、それは様々な意見がバラバラに飛び交う、何時も通り何処かまとまりにかけたものであるが……

そんな中で……

 

(ハンギョモンを追い払ってもう5分くらい……もうすぐ私達が深海にいるってバレちゃう筈だから、そこからメタルシードラモン本人が追い付いてくるまで、だいたい後30分くらいかな)

 

沙綾だけは一人頭の中で歴史を踏まえた作戦を練る。

何せ相手はこの海の支配者。水中での速度はホエーモンの比ではない。戦いはもうすぐそこまで迫っている事は明白である。

そして何より、

 

(……もうすぐ……アイツがこっちの世界に来ちゃう……)

 

カオスドラモンとの決戦も近い。

沙綾も形だけとは言え太一達の話し合いへと混ざりながら、これからの行動を頭の中へとまとめるのだった。

 

 

 

 

 

 

そんな中、

 

 

 

「……」

 

子供達やパートナー達の輪から少し離れた場所で、沙綾のアグモンは一人でチョコンと座る。

極力歴史通りに事を進めようとする沙綾とは違い、今、彼女のパートナーはそれとは真逆を考えていた。

 

(やっぱり"夢のボク"が言った通りみたい。一番始めに戦うのはメタルシードラモン、マァマも確かにそう言ってた…… )

 

昨晩の夢。

いや、最早ここ一週間近く意識を失う度に見ていたあの物語。

自分と同じ姿をした自分(本性)を名乗るデジモン。

そして、そのデジモンが放ったあの言葉。

 

『お前は……ヤツに勝ちたいか……?』

 

ホエーモンの体内で皆が作戦会議を続ける間、アグモンは一人昨晩の夢、もう一人のアグモンとの対話を思い返していた。

 

(……メタルシードラモンを……ボクが倒す)

 

本当にそんな事が可能なのか?

今日彼らが浜辺で見たメタルシードラモンの実力はやはり圧倒的なものであった。リリモンを尻尾の一振りで戦闘不能に追い込み、ズドモンの固い甲羅を物ともせず突き破る。

いくら大幅に強化されているとは言え、海辺で自身に勝ち目はない。

機動力、技の出力で圧倒的な差があるのだ。

切り札の"ムゲンキャノン"ならば大ダメージを与えられるだろうが、彼の出せる出力には限界がある。陸地から水陸空万能の相手に向かって放とうと恐らく当たらない。

 

だが、

 

("ボク"が"ボク"の力を押し上げる……かぁ……)

 

夢の彼は言っていたのだ。

"自分を信じろ"と……それで力が手に入ると……

始めは疑問に思っていたものの、今やそれを"出来る"と思っているアグモンがいる。

"ムゲンキャノン"を放った時もそうであったが、根拠は一切ない。ただそんな気がするだけ。

所詮は夢と言われればそれまでの話だが……

 

(やってみるしかないよね……夢のボクは、敵のロードだけじゃカオスドラモンには勝てないって言ってた……分からないけど、たぶんそれはホントのような気がする……)

 

結論を言うと、アグモンはあの夢に従い、メタルシードラモンへと単身で挑むつもりでいる。

 

(もし……夢のボクが言ってた事が全部ホントなら、もしかしたら太一のアグモンやガブモンよりもっともっと強くなれるかも……)

 

そう、ムゲンキャノンを放った時と同じように、"元々"自分の中に究極体になれる力が仕舞われているのだとすれば、その力を借りて進化する分には『今まで蓄積した敵データの力は一切関係ない』

究極体へと進化した上で、そこから更に今までロードしてきた敵デジモン達のデータが"上乗せされる"形になる筈なのだ。

 

そうして得られる力は、正に『沙綾に掠り傷一つ負わせない圧倒的な力』『何があろうと沙綾を守り通せる力』となるだろう。

敵データのロードだけでは辿り着けないその境地へと登り詰めるチャンスがあるのなら、多少の無茶は彼にとって何でもない。

 

しかし、

 

(マァマは……やっぱり止めるよね……)

 

きちんとした説明が出来るのならまだしも、アグモン自身があの夢をよく分かっていない以上彼女は間違いなく反対する。

彼のしようとしている事は、言わば『勝った試合のやり直し』に他ならない。そして沙綾に"止めろ"と言われれば、自分は間違いなくその意見に従う。

それが分かっているからこそ、アグモンは朝から彼女に何も伝えてず、何時もと変わらない態度で接しているのだ。

 

「……見ててマァマ……ボク、強くなって見せるから」

 

既に彼の決意は固まっている。

皆の中に混じって話し合っている沙綾の背中を見つめなから、アグモンはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

 

「……では、取り合えず今までに出たみなさんの意見を纏めましょう」

 

フロア中央にてがやがやと作戦を練っていた一行の中、光子朗が先頭を切って話の"まとめ"に入った。

 

「まず最初、ウォーグレイモンには囮になりながら、先行してメタルシードラモンを引き付けてもらいます。太一さん、大丈夫ですか?」

 

「おう! いけるかアグモン」

 

「任せてよ!」

 

確認をとる光子朗に太一達が力強く頷く。

それを確認した後、彼はカタカタとパソコンを叩きながら更に言葉を続けた。

 

「……その間に、僕達は……えーと、こんな感じに敵の攻撃が避けられる位置に移動して、そこから攻撃とサポートを両方こなします」

 

「ああ、分かった」

 

分かりやすいよう、メタルシードラモン、ウォーグレイモン、そして他の子供達の戦闘時の簡易的な位置を表示しながら説明を続け、ヤマトもそれに頷く。

 

「……そして最後、それによって隙が出来た相手に、ウォーグレイモンがドラモンキラーの一撃を加える……簡決ですが、作戦はこんな感じでいいでしょうか?」

 

「ええ、私達も問題ないわ。 沙綾ちゃんはどう?」

 

「うん、私もそれが一番いい作戦だと思うよ」

 

問いかけてくる空に、沙綾も首を縦に降りながら一発返事でそう答えた。この作戦が八割方成功する事は既に未来で証明されているのだ。反対する理由は今の彼女にはない。

それよりも、

 

(もうそろそろってところかな……)

 

時刻は先程から数えて30分を少し過ぎた辺り。

撤退したハンギョモンがメタルシードラモンに此方の居場所を伝えたのなら、彼のスピードを踏まえればもう何時追い付いてきても不思議ではない。

 

 

そして

 

「じゃあアグモン、取り合えずイメージトレーニングでもしておくか」

 

「オッケー」

 

「僕ももう一度ダークマスターズの情報を整理してみます。他の三人にも何か弱点があるかもしれませんから」

 

作戦会議を終えた太一達が、各々自由に過ごそうとフロア内に散らばろうとした所で、遂に"ソレ"は現れた。

 

『……皆さん、聞いてください! 何者かが後方から猛スピードで迫っている様です!』

 

突然体内に響く鬼気迫るホエーモンの声。

その言葉の直後、

 

「なっ!どうしたんだ!?」

 

『ぐっ! これはっ!』

 

ドカンという岩を吹き飛ばすような衝撃音と共に、今まで順調に深海を泳いでいたホエーモンの体が、突如荒波に飲まれたかのように大きく上下した。

 

「 どうしたんだ! ホエーモン!」

 

(ドンピシャ……だね)

 

ざわつき始める船内。

フロア全体がグラグラと振動を繰り返し、沙綾も含めて全員がバランスを取れずに膝を着く。

 

「アグモン、こっちに来て!」

 

「うん」

 

予想通りの襲撃。この揺れは遥か遠方からの狙撃による余波であることは間違いないだろう。

揺れが小さくなっていく中、沙綾は少し離れた位置に座っていたアグモンに声を掛け、彼も何時も通り頷き、彼女の元へトコトコと歩み寄る。

だが、

 

その時、彼女は自らのパートナーの些細な変化に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

「う、後ろからの攻撃!? 当たりはしませんでしたけど……今の光線……ホエーモン! 皆さん! 気を付けてください! たぶんメタルシードラモンです!」

 

ガラガラという振動が収まると同時に、光子朗がパソコンのモニターを切り替え、カタカタと素早く操作しながらそう声を上げた。

 

「な、何だって!? もう見つかっちまったのか!?」

 

「そんな! 早すぎるわ!」

 

予想よりも余りにも早く見つかったためか、太一を始め皆の顔にも動揺が走る。

 

「……さっき振りきったハンギョモンが僕達の進行方向をアイツに伝えたんだ……敵のスピードを侮っていました。どうしますか太一さん……このままじゃ間違いなく追い付かれます!」

 

「…………」

 

巨体であるホエーモンに直撃しなかった事から、先程の光線はかなりの遠距離から放たれたものだろう。

しかし、見つかってしまった以上逃走する事は難しく、もしこんな深海での水中戦になれば、抵抗も出来ずに全滅する事など目に見えている。

 

「………ホエーモン、出来るだけ岸に沿って浮上してくれ!」

 

光子朗に判断を委ねられた太一が腕を組んで少し考えた後、先程よりもスピードを上げて泳ぐホエーモンへと口を開いた。

 

『分かりました……最善を尽くします』

 

「ここで決着をつけよう! みんな、さっきの作戦通りに頼む!」

 

深海のカーチェイスならぬデジモンチェイスのような感覚。まだ確認できない程距離は離れているもの、確実に追っ手はこちら側に向かって近づきつつある。

自身に向かって放たれる光線をギリギリでかわしながら体勢を上向きへと変更し、ホエーモンは懸命に上を目指す。

 

 

グングンと迫ってくる追っ手、

 

 

 

 

そして、

 

 

 

ザバァっという豪快な音を上げて、一気に浮上したホエーモンの身体が突き抜けるように海面へと姿を表わした。

それと同時に、一行は体内のフロアから潮吹きの要領で甲板ともいえる彼の背中へと勢い良く飛び出す。

 

先程の太一の意見考慮したのか、幸いにも今ホエーモンが浮かんでいる場所は陸地に程近く、彼らの目の前には小さな海岸、そしてその奥には身を隠すためには持ってこいの森林地帯が続いていた。

 

「よかった……とりあえず海の底で沈没って事にはならなくて……」

 

丈が安堵のため息を吐く。

だが彼らに安心出来る間はない。

既に深海からこの水面までの浮上の間、追ってとの距離はかなり狭まっている事は想像に容易いのだ。

 

「アグモン進化だ! メタルシードラモンを迎え撃つぞ!」

 

「うん! アグモン、ワープ進化ァァ!!」

 

甲板で声を上げる太一に反応し、デジヴァイスが輝き彼のアグモンの進化が始まる。

元々作戦を立てていたいたためか、その行動の早さは沙綾から見ても流れるように無駄がない。

 

「ウォー……グレイモォン!」

 

小さかった身体は瞬く間に戦士を模した竜人の姿へと変わり、甲板から勢い良く宙へと飛び立つ。

そして、

アグモンのその進化の完了と共に、彼らから見て沖に当たる海面が微弱に振動し始めた。

 

『ヤツが来ます!』

 

ホエーモンの声。

その直後、ザバァっと、まるで竜が空へと昇るように振動した海面から、海水を吹き飛ばすようにソレが荒々しく立ち上った。

 

『……………』

 

蛇を思わせる巨大な細長い身体に、鼻先の射出口が特徴的なダークマスターズの一人。全身に合金を纏う海の支配者、メタルシードラモン。

 

『……逃げ回るのはもうお仕舞いか……ホエーモン?』

 

宙で静止し、敵は選ばれし子供達とホエーモンを見下すように睨みながらその口を開く。

 

「お前の相手はオレだ! 」

 

『ウォーグレイモンか……この間私達に手も足も出なかった貴様が、この海で私に勝てると思っているのか?』

 

「やってみるまで分からない! それに……今度は負けるつもりはない!」

 

ホエーモンと子供達を庇うように敵と対面したウォーグレイモンが、ドラモンキラーを構えて啖呵を切った。

それを見たメタルシードラモンは、彼を小馬鹿にしたように短く笑う。

 

『フン……まあいい。 誰が相手でも同じだ……何も変わらん、貴様らは結局……』

 

一瞬の間。

だが次の瞬間、敵ははキッと目付きを変え、

 

『全員この海で死ぬのだからな!』

 

「!」

 

その言葉と同時に、間髪入れずその鼻先に搭載された射出口をウォーグレイモンへと向けた。

両者の間は距離にして50メートル前後。

既に相手方の射程範囲内である。

 

高速でチャージされるエネルギー。データの粒子が周りから吸い寄せられるようにメタルシードラモンへと集まり、そして、

 

『アルティメットストリーム!』

 

放たれる光のレーザー。

完全体程度の耐久力なら容易く貫通する一筋の光線が、真っ直ぐにウォーグレイモンへと直進する。

しかし、

 

「させるかっ!」

 

既に二度この敵と遭遇しているのだ。

そんな相手の動きを予測していなかったウォーグレイモンではない。

 

「ガイアフォース!」

 

相手の攻撃に合わせ、必殺である大気の力を集結させた巨大なエネルギー弾で素早く対抗する。

光線と光弾、二つが交わり巨大な衝撃が一行のほぼ真上に近い位置で炸裂し、

 

「行くぞっ! こっちだメタルシードラモン!」

 

「成る程……この間よりは"究極体の力"にも慣れたか……面白い!」

 

その爆風が収まるより早く、ウォーグレイモンは海面ギリギリを低空飛行しながら相手の注意を自分へと向けた。

 

これが"始動"の合図。

 

「作戦開始です! 皆さん、今の内に陸に上がりましょう! 」

 

ウォーグレイモンとメタルシードラモンが戦闘を始める中、光子朗は眼前に広がる大陸を指差しながら声を上げる。

白い浜辺の直ぐ奥に続く森林地帯。そこまで後退すれば、少なくともメタルシードラモンが海中の何処から攻撃してこようと反応する事が出来るだろう。

更にそれは、遠隔からウォーグレイモンのサポートも辛うじて行える絶妙な距離。

 

「皆さん、出来るだけ分散しながら森を目指してください! メタルシードラモンに狙いをつけられないように!」

 

「分かったわ! 行くわよピヨモン!」

 

「進化して! テイルモン!」

 

光子朗の指示の元、空を始め、選ばれし子供達は自身のパートナー達を成熟期、ないし完全体にまで進化させた後、各々がホエーモンの背中から海上、空中へ次々にと飛び出していく。その中で

 

「わりぃ空、乗せてってくれ!」

 

「うん、そっち側の足にに捕まって!」

 

「サンキュ!」

 

ウォーグレイモンが戦闘中の太一は空と共に飛翔するバードラモンの足へと飛び乗り、

 

「丈さんごめん、私達もいいかな?」

 

「えっ? ああ、そういえば沙綾君のアグモンは飛んだり泳いだりは出来ないのか。 勿論いいよ、ほら、手を貸すよ」

 

「ありがとう」

 

「うぅ……何だかごめんねマァマ」

 

そして進化しても陸上しか移動出来ないもう一匹のアグモンと沙綾は、丈と共にイッカクモンに乗せてもらう事で、全員がホエーモンの背から無事に離脱した。

 

「ホエーモンも早く避難してください! 此処にいると巻き添えを食らいます!」

 

カブテリモンの背中から、光子朗は海上のホエーモンへと声を上げる。巨体の彼はメタルシードラモンにとって格好の"的"。ウォーグレイモンが彼の注意を引き付けるように戦っている今こそ、この"仲間"を安全に逃がせるまたとないチャンスなのだ。

 

「此処までありがとな! 後は俺達に任せてくれ!」

 

「心配しないで! きっと何とかして見せるから!」

 

二度も彼らの旅を支えてくれたこのデジモンにこれ以上の被害がでないよう、太一達はそれぞれの場所から手を振り、有無を言わさず彼へと別れの合図を送る。

そして、

 

『わかりました……皆さん、お気を付けて……』

 

そんな子供達の意思を汲み取り、ゴボゴボと、ホエーモンは巨大な水飛沫を上げて海中へと姿を消したのだった。

 

 

 

しかし、

 

「…………」

 

イッカクモンの背中、それを黙って見送る沙綾は考えずにはいられない。

 

(ここでもしちゃんと逃げてたなら、ホエーモンは死なずに済むのに……)

 

そう、彼女は知ってしまっているのだ。

ホエーモンは逃げてなどいない。ただ海中に身を潜め、この戦いを最後まで見守っていた事を。

そしてその果てに、避けられない消滅の運命が待っている事も。

誰にも教える事が出来ず、また自らも動く事は許されない。言葉に表せない"やるせなさ"がそこにはある。

 

「急いでくれイッカクモン!」

 

「…………」

(やっぱり辛いな……ただ見てるだけなのは……)

 

「……マァマ」

 

イッカクモンが砂浜を目指して大海原を急ぎ泳ぎ始める中、沙綾の表情には小さな陰が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ほんの些細な事ですが、今回の話は多少原作とは違います。
具体的には、『エコーロケーションによる海底洞窟の発見のスキップ』と『メタルシードラモン戦の他の子供達参戦』ですね。
前者はあまり書く必要がないと判断したため、後者はメタルシードラモンとの戦闘をアニメのまま再現するとあまりにも一瞬で終わってしまうというのが理由です。
『沙綾が関わったからこうなった』のではなく、この小説では『元々こうだった』という感じですね。


では、次の更新は夜の八時から九時当たりになるかと思います
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