COC「傀逅」リプレイ   作:又左衛門

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3日目-3

「えらく、物騒な内容の気が……」

「これは……せやな……」

「これは、ここの交番の人たちは、僕らと同じ任務に就いている、ってことですかね?」

「そうなんかなあ……」

 うーん、と今度は小笠原が唸る番だった。確かに、支援者と敵対するという点においては自分たちの所属する組織、すなわち頼佳たちの立ち位置に近い。しかし、この日誌に書かれている行動、少なくともこれを記す人物の思想は、それとは一線を画すようにも思える。そこがどうにも、ちぐはぐに思えて仕方がない。

「他にも、何か手がかりがあるやろか」

 もう1つのデスクに置かれている、やや型遅れしたデスクトップ型端末に触れてみる。

 マウスに触れると、暗転していた画面が輝度を取り戻した。

 デスクトップ画面上では、メーラーが立ち上がったままになっていた。甲斐は、何とは無しに送信ボックスの最新メールを選択してみた。

『お世話になっております。

例の件、出力調整が完了しました。

 フュージョンドライバは最善の状態に仕上がっておりますが、詳細な挙動については未知の部分があります。

 これらは予定通り明日、そちらまで輸送します。

輸送にあたり護衛は付けますが、万が一の事態に備えて派兵をお願いしたく存じます』

日付は3日前。この事件に巻き込まれるきっかけとなった、その前日である。

そして、肝心の宛先は……藤原頼佳。

「もしかして、フュージョンドライバって……」

「このシリンジのことかいな」

「フュージョン……融合……?」

「ん? そういう意味なん?」

 英語はからきしの小笠原である。

「まあ、あれだけのもんやし、人体実験の1つや2つは要るやろ」

 甲斐は答えない。そう割り切れるだけの非情さが、ない。

「それはそうと、ここに誰もいないってのはやっぱりおかしいんちゃう?」

「そう、ですね。さっきの暴走族の人も見当たりませんし……」

「せや、あの兄ちゃんなあ、どこ行ったんやろ?」

「でっかい血の痕もあるし」

「せやな、これ、あからさまに不自然やろ」

不自然、と小笠原が指したのは血痕そのものではない。

丸みを帯びた輪郭をもって床に広がる血痕の、その一画が綺麗に欠けていた。吹き取った痕とも違う。まるで血に汚れた床材の、その一部だけを取り除いたような……

「例えば、ここが蓋になってるとか?」

 血が垂れてから床板を剥いだのではなく、その逆。血が流れた時、この一画は床面と同じ高さに無かったのではないか。

 そう甲斐が当たりを付けて床をくまなく見てみると、確かに床材の片隅に違和感があった。ライトベージュのリノリウムと同色にカモフラージュされているが、押すと金具が飛び出てくる。丁度指を引っ掛けられる大きさの把手だった。

 甲斐が中腰になって把手をそっと上に引くと、微かな抵抗と共に床の一角、1メートル四方ほどが口を開けた。その下には、コンクリート打ちっ放しの階段が下に続いている。

 2人は、黙って顔を見合わせた。隠された地下への入り口だった。

 蓋は軋むことなく滑らかに動き、120度ほど開いたところで止まった。地下側に特殊な動きをする蝶番があって、ある角度で固定される仕組みのようだった。血痕は地下へと続いている。

 下の方から、さざめくような人の声が聞こえた。どうやら笑い声のようだった。それも1人ではない。そしてその合間に聞こえてくるのは、何かを殴打するような鈍い音。

 単身交番に乗り込んだ不良少年。

事務スペースから消えた警察官。

暴行の気配。

 答え合わせをする間でもない。階下で何が起きているかは容易に想像がついた。

(どうする? 降りるか?)

 ぼそぼそと小声で小笠原が聞いた。

(うーん……ちょっと待ってください)

 これは意外にも、甲斐の方が渋った。先ほどの日誌や送信メールが、どうにも甲斐の頭から離れない。何か大きなことが起きている、それは分かっている。自分たちが今まさに巻き込まれている渦中の出来事、その核心に近づく為の手がかりがこの場所に残されているのはないかと思えてならない。

 無意識に、右目の前に手を翳した。相変わらず視界は閉ざされたままだ。

(僕はもう少し、ここを探ってみます。小笠原さんは先に行っててください)

(そういうことなら、付き合うで)

 にやにやと笑いながら、地下室への蓋をそっと閉める小笠原。何が可笑しいのかと物問顔の甲斐に、悪戯小僧そのままの顔で教えてやった。

「交番をガサ入れやぞ。こんなおもろい事あるかいな」

 

「あ、これ」

「何か見つけたか?」

 書棚を2人で漁ることしばし、甲斐が目を付けたのは1冊の紙ファイルだった。ひと山いくらで売っている事務用のもので、表紙には特に何も書いていない。甲斐が表紙を捲ったそこには、「実験報告書」と警察署には相応しからぬ字面が、そっけない明朝体で記されていた。

 ページを更に捲ると、謎の機械部品の写真が載せられていた。2枚の金属板を長手方向に段違いに重ね、厚みを増した側に、更に別の部品が斜めに取り付けられている。部品の各部に集積回路図を思わせる線が描かれているが、大小の比較できる物が写真の中にないので大きさは不明だった。

 その下には、実験記録が記されている。

 

1組目

 滅茶苦茶な出力の高さだ。左右でバランスが取れていない。

 A個体に全て吸われてしまい、B個体が居なくなってしまった。彼は一体どこに消えたのか?

(面白い疑問だが、追及している暇はない)

 

2組目

 今度は出力を絞り過ぎた。

 A個体の右腕とB個体の左腕、A個体の右脚とB個体の左足が部分的に融合したものが出来上がった。

 失敗作だ。

 

3組目

 前2例を参考に出力を調整したが失敗した。

 頭部だけが2つある個体になった。

 だが、成功には近づいている。

(ぶつぶつ何か喚くのでうるさくて眠れない。明日処分する)

 

 この調子で、実験の失敗がつらつらと書かれている。

 それは、生命への冒涜の記録に他ならない。

 甲斐は胸が悪くなってきた。一気に最後まで読み飛ばす。

 

13組目。

 ついに成功か?

 A個体とB個体の身体を縦半分にくっつけ合わせたような完璧な合体だ。

 ただ、肉体の方はまずまずだが、精神(心? 人格?)が完全に損なわれた。

 これでは空っぽの肉塊に過ぎない。

 

考察:

 これは、適応体が使用しない場合に起こる作用であると思われる。

 しかし、これを扱うことの出来る適合体が見つかるのか、という懸念が残る。

 見つからない場合、人類は終わりだ。

 

「これは……」

「えらい胸クソ悪いもんが交番にあるもんやな」

 横から覗き込むさすがに小笠原も顔を顰めている。

「日報に書いてあったのって、この事ですよね」

「せやな、地下でやっとるのも大方その続きやろ。で、どうする?」

「どうするって……」

 助けを求めるように、甲斐は振り返ってAIbotを仰ぎ見た。

 それに対する答えは、何もない。ただAIbotはじっと見つめるようにカメラのレンズを向けているだけだ。

「ポンコツ、まだ撤退推奨とか抜かすんか?」

『はい。撤退を推奨します。後は彼らに任せましょう』

「彼らに、何を、任せるんですか?」

 一語いちごを区切るように、言葉の端に隠しきれない怒りと戸惑いを滲ませた問いも、AIbotは憎らしいほど涼しげに受け流す。

『本機に、その質問に答える権限はありません』

「けったクソ悪いのう」

 甲斐は、任務と倫理観の板挟みになっていた。どちらも満たす、満点の答えが出てこない。

 はあ、と小笠原が溜息を一つ、心なしか若干の距離を置いて浮遊しているAIbotに中指を突き立てた。

「行くか」

「え、止めに行くんですか……?」

「止める義理もないけどな。まあ、せやな、死にかけてるんやったら命ぐらいは助けたる」

「返り討ちに遭ったりしませんかね……」

「変身できるし、何とかなるやろ」

「そうですけど……」

「それか、弱い者いじめの方に参加させてもらうか?」

 うう、と弱弱しく甲斐は呻く。

 2人の立場は、いつの間にか逆転していた。

小笠原は自分でも驚くほど、百目鬼への同情心を掻き立てられていた。家族を失い、恐らくは今これから自身の命も失おうとしている若者の境遇に、少なからず我が身を投影していた。

 対して甲斐は、助けたいという思いこそ持っているものの、今は完全に不安と恐怖心が勝っている。

「ほな腰抜けはここで待っとれや」

 おれ1人で行くわい、とやおら床の蓋を持ち上げ、階段を降りていく小笠原。

「ちょ、待ってください僕も行きます1人にしないで……!」

 結局、1人で残されることへの心細さが勝り、慌てて甲斐も後を追った。

 

 血痕は、階下まで続いていた。古い日本家屋のような急な階段は3メートルほど下って終わり、左手に続く通路を電球色の照明がぼんやりと照らしていた。明らかに、地下スペースの方が広い。

 小笠原は、最初交番を見た時に抱いた違和感の正体に気付いた。建屋に比べて妙に駐車場が広いのではない。広い地下の分だけ、基礎コンクリートの規模が大きいのだ。その露出した一部分が駐車場として利用されていたに過ぎない。

 降りた先、通路の両脇には独居監房のような狭い牢獄が並んでいた。特攻服を着た男たちが、牢獄それぞれに概ね1人ずつ監禁されている。概ね、というのは明らかに2人以上の融合体が複数混じっているからだ。

 頭が2つある個体がいた。またある個体は足が3本、腕が4本。目鼻口だけが2人分ある者もいる。

 それら人間同士のキメラに共通しているのは、苦痛に喘いでいること。

こちらを見て殺してくれと哀願する者すらいた。

 甲斐が堪らず嘔吐した。独房の格子に手を付き、喉を鳴らして胃液を逆流させている。

 バシャバシャと飛び散る吐瀉物の飛沫を、顔を顰めて小笠原が大げさに避けた。

「おや、誰かと思えば同志では」

 最前から気付いていたのだろう。わざとらしい声が角の向こうから聞こえた。

こうなれば隠れる意味もない。小笠原は腹を括って、堂々たる態度で角を曲がった。

 曲がった先は天井の高さは変わらないものの両脇の独房は途切れており、少し開けた部屋のようになっていた。

 暗い色のローブ姿の人間が10名あまり、足下のぼろ雑巾を爪先で小突きながら笑いさざめいている。ぼろ雑巾には見覚えがあった。特攻服は血と汚れに塗れ、リーゼントはぼさぼさになって床に這いつくばる、百目鬼である。

 男の内1人が、薄ら笑いを浮かべてこちらを見ていた。曲がり角越しに声を発したのはこの男のようだった。

「適合体の皆さん。お会いするのは初めてですねえ」

 ねっとりと、纏わりつく様な声色だった。

 それも勿論不愉快だったのだが、尚の事不気味なのは、こちらに形だけでも注意を向けているがこの1人だけという点にあった。気付いていない訳でもないだろうに、他の者はこちらには目もくれず、百目鬼を甚振り嘲笑う事に執心していた。

「それ、楽しいん?」

「ああ、この蛆虫ですか」

 どこまでもわざとらしく、嘲笑う物言いだった。

「汚いものをお見せして、申し訳ありません。今片付けますので……」

「返せよ、クソども……俺の兄弟を、返せ」

 ぼろ雑巾が喋った。驚くべきことに、まだ意識があるだけでなく、反撃の意志を失っていなかった。倒れたまま、嘲笑う男を蹴り上げようとする。

 百目鬼の唇から流れる血は、暴力の痕ではない。憤怒のあまり、噛み締めた唇が破れているのだ。

 しかし、意志の強さだけでどうにかなる戦力差でない事を、今のこの状況が証明している。

「ゴミ屑。大人しくしてろ」

 更に激しく蹴りつけられ、踏みつけられて、百目鬼は遂に気を失ってしまったのか、突っ伏したままその動きを遂に停めた。

「おふたりも、わざわざこの屑を探して下さっていたとか。ご足労をお掛けしました。後はこちらで処分を引き継ぎますので……」

 気を失った百目鬼を男たちがゴミをつまみあげるように掴み、部屋の向こうに扉に向かって引き摺っている。

「……どこに連れて行くんですか?」

 他に聞きたい事は万とあっただろうが、青い顔をして甲斐がそれだけをようやく絞り出した。

 男が、さも面倒くさそうに答える。

「何を気にされる事がありますか? この屑は、我々にとって余計な事を知るだけの者でしかない」

 要らぬ口を挟むな、と言う事だ。

「いや、それは……」

 言い淀む甲斐。小笠原は、下を向いて片足をぶらぶらさせている。

「胸糞悪いけど、帰ろか」

「か、帰るんですか!?」

「おや、そちらの方は随分と物わかりの良い」

 その言葉にすら、揶揄の響きを隠そうとしていない。その嘲りに、小笠原も気付いていた。不満を隠そうともせず、床に唾を吐いた。

「あーあ、わざわざ無駄足運んで、こないなゲロみたいなモン見せられて……なあ、帰って一杯引っ掛けようや、相棒」

 首を突っ込んだのも反吐を吐いたのもこちら側なのだが、自分を棚に上げる物言いにかけては天下一品の小笠原である。

男は、顔にだけは笑みを湛えたまま、2人を交互に見ている。

「でも、処分って……」

「今日のおれらの任務は、そこの男を捕まえて引き渡すことや。ポンコツの言う通り、ここの兄さんらがその後を引き継いで下さるっちゅう訳や。これ以上何をすんねや?」

 唇を噛み締めるように甲斐が俯いた。任務という言葉に縛られるのならば、なるほどこれ以上自分たちの出る幕はない。しかし、このまま帰れば百目鬼は間違いなくここで命を落とす。歯噛みする以外に、出来ることなど何もなかった。

だが、それは本当にそうか?

 なあ帰ろうや、と踵を返す素振りで肩を並べた所で、小笠原は甲斐に耳打ちした。

(ただなあ、こいつらムカつくし、いてこますんなら手伝うで)

「本日の貴方がたの任務はこれで終わりの筈。どうぞお帰りになって下さい」

 男も煮え切らない甲斐の態度に苛立っているのだろう、ついに帰れという言葉すら隠さないようになった。

「早く、そこの蛆虫を連れて行け」

 後ろの男達にそう声を掛けている。

「待ってください!」

 甲斐が、遂に動いた。気を失って微動だにしない百目鬼と男達の間に割って入ろうと、明確に歩を進めた。

 最後の切っ掛けはといえば、この動きだったのだろう。

男の声のトーンがひと回り低くなった。

「これだから」

 吐き捨てるような物言いだった。

「ただ適応しているだけの人間風情は。そもそも適合体は私たちのような、選ばれた種族から探すべきもの」

 何を言っているのか、皆目わからない。ただ、尋常な空気でない事だけは確かだった。嘲笑だけはそのままに、男は明確な敵意を膨らませていった。

「丁度いい。適合体2人、支援者の奇襲を受け死亡……ジャックにはそう報告しておきなさい」

 後段の言葉は、AIbotに向けてのものだった。

 言い終えるや、男の身体はみるみる変形していく。

 風船の空気が急速に抜け表面の張りを失うように、皮膚が萎む。

眼球も骨格も、そう見えるように偽装されたものだった。背中から皮膚と服の裂ける音がした。

 それは、異形が擬態をかなぐり捨てる姿だった。

 かつて人間の頭部だったそれも輪郭を崩し、その後ろから怪物が現れた。

 それは、地球上のどの生物にも似ていなかった。体表は外骨格生物に似たキチン質で、古代の翼竜のような皮膜を張った一対の翼を背中に生やしていた。幾つもの節で継がれた長い尾と、甲殻類のごとくその先に鋏を備えた節足を持っていた。濃淡はあれど、全身の色は人肉と同色の薄桃色。何よりも恐ろしいのは、本来頭部があるはずの箇所に塊として蠢く、糸ミミズやイソギンチャクを拡大したような大量の短い触手だった。

 眼前の男だけではない。更に2体、百目鬼を囲む男達の背中から同じ怪物が這い出ていた。

 ほっ、と小笠原が快哉の声を上げがたが、半分ぐらいは空元気である。甲斐は先ほどの嘔吐した時にもまして、顔から血の気が失せている。

 余りに嫌悪感を誘う変形であり、外形だった。小笠原も甲斐も、頭蓋の中身だけを揺さぶられたような悪心を、必死に堪えていた。

 逃げ出したい、と甲斐は考えていた。こんな化け物、一刻も早く視界の外に追いやりたい。

ぶ ちのめす、と小笠原は考えていた。聞いたかあのヘイトスピーチ、あんなカス相手にイモ引いてどないすんじゃ。

「何腰引けとんや。こんなとこでイモ引いてたまるか!」

 即座にジャケットからシリンジを取り出す。

『Hurricane!』

「変身!」と叫びながら右の首筋に突き立てた。青ざめながらも、目の前の羽蟲を睨み据え目を逸らす事は無い。

「あわわ……」

 こうなれば、甲斐も変身せざるを得ない。自分の命も惜しいし、百目鬼くんも助けなきゃ、と自分に言い訳しながらパンツのポケットからシリンジをわたわたと取り出した。

『Conbustion!』

「へ、へんしん!」

 前屈みで手首にシリンジを突き立てる。背を丸めた前屈みの格好だが、この大男がすると一種異様な迫力があった。

 轟音と共に、地下空間に炎嵐が吹きすさんだ。

 変身が終わったのはほぼ同時、お互いの初動も同時だった。ハリケーンは羽蟲に襲い掛かり、その隙をついてコンバスチョンが百目鬼の救出にかかる。

 完全な偶然ではあったが、2人の変身への動機の差が、完璧な連携を生んだ。

散々自分たちを嘲った男――目の前の羽蟲に、ハリケーンは雷光のような連撃を叩き込んだ。頭部と胴体に一撃ずつクリーンヒットを貰い後ろに吹き飛んだ羽蟲は壁にぶちあたり、そのまま沈黙。

 しかし、男たちの間に動揺は見られない。無言でもう1人の男の背が裂け、即座に羽蟲が補充された。

「この調子やったらキリがないな。しゃあない、ずらかるぞ!」

「は、はい!」

 舐めた態度をとった1体を片付けることで、小笠原の溜飲も下がった。ぐったりした百目鬼を抱えるコンバスチョンを囃し立てると、ハリケーン自身も踵を返して逃げ出した。コンバスチョンの背を押す様にして地上への階段を駆け上がる。先頭のコンバスチョンが、交番のガラスドアを蹴り開けて外に飛び出した。

 変身を解いている暇もない。偽の警察服を使い百目鬼の身体を負ぶうように括り付け、コンバスチョンはバイクに跨った。ハリケーンはその背中を庇う様に警戒している。

 羽蟲どもも、当然追いかけてくる。ハリケーンの目に、地下から這い出す複数の羽蟲の姿が見えた。

「急げ!」

『お待ちください。ジャックから通信が入っています』

 この状況で何を待てと言うのか。頼佳の音声だけが、AIbotから聞こえた。こちらの状況をモニターしながら方々に指示を飛ばしているのだろう、声色には緊張に張り詰め、その背後にもスタッフの慌ただしく行きかう気配が伝わってくる。

『私だ。ポイントブラボーまで飛ばせ。座標はAIbotのマップに落としてある。そこまで来れば後はこちらで処理する』

「分かった」

『任務更新:ポイントブラボーまでの退避』

「ええからお前も来い!」

 呑気に空中に地図を投影しようとするAIbotをむんずと掴むと、ハリケーンは抱きかかえるように自らの身体と燃料タンクの間に挟み込んだ。

 セルを回す。

 凶暴な唸り声をあげ、エンジンが始動する。

 後輪を滑らせながら、2台のバイクは猛スピードで発進した。

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