ハリケーンが変身と共に巻き起こした暴風は、鎌鼬のように目前の肉塊たちを切り苛んだ。同様に、コンバスチョンが飛ばした燃える礫は肉塊に接触するや爆散し、その体表に幾多のクレーターを残した。
それらは半ば無意識の攻撃だったが、目前にひしめき合っていた肉塊たちにとっては致命傷となったようだ。真空に切り刻まれ、あるいは燃える飛礫に風穴を開けられた肉塊たちは、残らず倒れ伏す。
それらが微動だにしないことを確認すると、ハリケーンは座席の列を乗り越え跳躍、ひと跳びで壇上に降り立った。
そのまま、講師の方に詰め寄る。
「オバハン、解毒剤出せや。命までは取らへんさかいに」
その後ろから、不格好にどかどかと座席をなぎ倒しながらコンバスチョンが舞台によじ登ってくる。
目の前の事態にも、意外なことに講師の女は動揺した様子はない。相変わらず、周囲を見下したような態度は崩さなかった。間に立つ8本腕の怪物を、随分頼りにしているようだった。
「あら、不作だと思ったけれど、とんだ大当たりが混じっていたようね」
くぐもった笑い声すら漏らし、取り出した注射器を2本の指でつまんでこれ見よがしに振っている。
「解毒剤……そうね、これは血清。即効性のね。でも関係ないでしょ? どっちみち貴方たちはここで死ぬんだもの」
そう言うと、口の中でぶつぶつと何かを唱えだした。
それが何かは分からないが、唱え終わるのを待つほどハリケーンは呑気でもお人好しでもない。
棒立ちのようでいて、体内の結弦は既に引き絞られている。後はそれを解き放つだけだ。
予備動作無しで最高速を叩きだす無類の踏み込みに乗せて、ジャブを繰り出す。
2体の怪物の間をすり抜けて女を殴ることなど、造作もない。
たかがジャブとは言え、怪物ならぬ常人にクリーンヒットすれば昏倒は免れない一撃だった。それだけの手応えもあった。
だが、女は倒れない。鼻骨を叩き割られ鼻血をとめどなく溢れさせながらも、敵意に満ちたまなざしを崩す事は無かった。
「糞どもが」と言ったかもしれないが、その声はいよいよ聞き取ることが出来なかった。ただ、その態度はハリケーンの神経を逆撫でした。大人しゅう倒れとけ、とばかりに続けて拳を繰り出そうとするが、ハリケーンの左側にいた怪物がそうはさせじと襲い掛かった。八本ある腕のうち最も内側の1対を、ぶっ違いに振り回す。
「いって!」
太い鈎爪が深々とハリケーンの肩甲骨の当たりを引き裂いた。深い傷ではなかったが、肉は抉り取られ、黒い体液がじわりと溢れ出す。
もう1体の方には、コンバスチョンが殺到していた。怪物の体当たりを間一髪でいなし、至近距離から殴りつけている。訓練の行き届いた動きでこそないが、単純な筋力による一撃に加え、その肉体に内包する高熱が怪物の体組織を容赦なく破壊していく。肉の焼ける音と匂いが弾け、聞くに堪えない叫び声が、醜く開いた口から盛大に漏れた。
「退け、相棒!」
ハリケーンがそう叫んだのは、大技の合図だった。
何か事前に示し合わせていた訳ではない。だが、人外の力を得てなお拳撃を身上とするハリケーンが、この状況で敢えて敵から距離を取っているという特異さにコンバスチョンは何かを感じ、追撃の機会を捨てて素直に退がった。
ハリケーンは知っている。
知っていて、使わなかった力がある。
それは、自身が得た、人ならざる力のひとつ。
広げた両腕の周り、自身の身体の外側に力を籠める感覚。不可視の力が収束し、超常的な力場となって渦巻き広がる。空気を震わせ光さえ歪め、ハリケーンの周囲は不自然に向こう側の景色が揺らいで見える。何処からとも知れぬ風の唸り声のような音が聞こえた。
刹那、目に見えない何かを掻き抱く様なハリケーンの腕の振りと共に、壇上に暴風が巻き起こった。つむじ風という表現は生易しい、それは、狂風だった。
変身時に肉塊を切り裂いた鎌鼬とは比べるべくもない。目の前の3体を中心とした極小の嵐は真空の刃でもってその中に取り込んだ犠牲者を切り刻み、煽りをくって巻き上げられた椅子や演壇が質量ある礫となって打ち据えた。
時間にすればほんの数秒、暴風はその始まりと同様唐突に止んだ。驚くほどの静寂が耳をうち、半ば破壊された天井から落ちてきた資材の欠片が、倒れ伏した3体の上に空虚な音を立てて落ちた。
怪物の1体は殆ど骨まで首筋を切り裂かれ、もう1体はうつ伏せに倒れているがピクリとも動かない。講師の女は頭から血を流し、目を見開いたまま死んでいた。まともな手足は一本もない。
「おお。こりゃええのう」
「うわあ……これじゃ何も聞けないじゃないですか」
呆れたような声を上げてコンバスチョンが倒れた3体に近づく。
瞬間、うつ伏せに倒れていた怪物が跳ねあがり、無事に残った3本の腕でコンバスチョンに襲い掛かった。体幹に最早力はなく、アンバランスに残った腕を力任せに振り回すものだから体軸は不格好にブレている。咄嗟に放ったコンバスチョンの右拳が首の辺りへカウンター気味に直撃し、直撃した周囲の体組織を根こそぎ焼損させた。
声にならない断末魔を上げ、怪物は今度こそ絶命した。
「雑魚が!」
吐き捨てたのは、止めを刺した訳でもないハリケーンである。それに対するコンバスチョンからのコメントはと言えば、特にない。自分も思い切りオーバーキルしてしまったのがちょっぴり気まずいのだ。
「ま、ええがなええがな。解毒剤か血清か知らんけど、ちょろまかして根墨に売りつけたろうや」
「売りつけるって……」
こんな時にまた良からぬことを、と甲斐が呆れていた、その時。
講堂のドアが、音を立てて大きく開いた。何者かが蹴り開けたのだ。
それは、黒いライダースーツを着た、若い女性だった。
それが誰なのか、ハリケーンもコンバスチョンも覚えていた。それだけではない、すっかり失われていた筈の昨日の記憶は、変身と共に戻っていた。それは、コンバスチョンの右目の視力やハリケーンの痛覚も同様だ。どういった原理か、変身の最中は副作用として失われた筈の機能その他が回復するようだった。
「よう、姉ちゃん。1日ぶりやんけ」
「表の奴らは、私が片付けたぞ」
茶化すようなハリケーンを無視し、後ろに括った黒髪を揺らしながら大股に入ってくる。何がしかの死地を潜った者にはすぐに分かる――ハリケーンにも、コンバスチョンにも――張り詰めた表情、それはあらゆる意味での覚悟の現れだった。
「今日ここで、決着をつけよう」
女の歩みは止まらず、その手つきに淀みはない。
「変身!」
『セイフティ、解除。トランスフォーム』
ターボチャージャーのごとき回転音が唸りを上げる。
ガギン、という重い金属音が一瞬の間に幾重にも重なり、伸びやかな肢体を装甲が覆っていく。
昨日の白銀のそれとはまた色合いの違う黒い金属表面が、講堂の柔らかな照明を反射して鈍く光っている。その左肩には白抜きで無骨な「D‐4」のレタリング。
『任務更新:D‐4ユニットの撃滅』
「これ以上、お前らを存在させる訳には、いかない」
電気的エフェクトが掛かってなお、凛と良く通る声で死刑宣告を放つ。
「何やとコラ!」
ハリケーンは打てば響くようにメートルを上げた。
「これ以上、彼らに何かするつもりですか!?」とコンバスチョン。
D‐4の意図するところをまるで汲み取れていない頓珍漢な返答ではあるが、その心根の現れとして、コンバスチョンはあくまで根墨を気遣った。させません、と力強い宣言と共に、気絶した根墨を庇う様に前に歩を進めた。
「どうして、僕たちの記憶を消したんですか!?」
「どうでもええわ、そんなん。いてもうてからじっくり吐かせたらええねや」
敵意に敵意を返すしか能のない小笠原に対し、甲斐はあくまで対話を試みようとしている。だが、それもD‐4にしてみれば訳の分からないたわ言でしかない。
「私は、そんな事は知らない」
「どうして、支援者に加担しているんですか!?」
コンバスチョンは重ねて問いかける。
「加担などしていない。それはお前たちの方だろう!」
違う、と甲斐は叫びたかった。違う、違う、僕たちは、僕はただ、守ろうと……
「人類の敵はお前たちだ、ベリアル」
最早問答は無用、とD‐4は地を蹴った。
脚部に内蔵されたブースターが脚力を数倍し、閃光のような飛び蹴りが凶悪な勢いでコンバスチョンを襲った。
避けることは適わずとも防ぐことは出来ただろうそれを、コンバスチョンは甘んじてその身に受けた。
背骨までひしゃげそうな衝撃が胴を突き抜けたがド根性で堪え、引きの甘い蹴り脚を右手で捉えてぐいと引いた。もう片方で、胸部の装甲を掴む。
濁った悲鳴がD‐4の頭部装甲から漏れた。掴まれた端から高熱がその身を苛んでいるのだ。
「貴様ら……!」
「ええぞ相棒!」
そのまま押さえとけ、とハリケーンが拳を固める。
「は、話を聞いてください」
内臓がひっくり返りそうに体内で暴れているが、それでもコンバスチョンは諦めない。
「ええかげんにせえ! どう見ても話の通じる相手ちゃうやろ!」
「だってこの人は人間ですよ!? 支援者でもない!」
「お前たちはさっきから、何を言っているんだ!?」
D‐4が苦痛の滲んだ戸惑いの声を漏らす。
「僕たちは、ただ守りたいんです。怪しげな集団から、みんなを。変身して、戦って……」
それでも、僕らも人間なんだよ……そう言いたかった。言葉にならなかったのは、もう喋るのも辛かったからだけではない。
心のどこかで、違う自分が叫んでいた。
人間? 本当に?
「そんなはずは……」
それは、困惑の色濃く滲んだD‐4の声。
支離滅裂にも聞こえるコンバスチョンの言葉が、真意が、D‐4には届いた。装甲の下の顔は苦痛に歪んでいたが、それでも、自分に与えるダメージを最小限に止めようという気遣いのようなコンバスチョンの言動が、しかし戦意以外の何かをD‐4の心中に生んだ。
「今は、早く解毒剤を打たなきゃ……人の命が……」
ついに、コンバスチョンはその手を離した。現代兵装の権化のようなD‐4を前にして、それは自殺行為に等しい。
「おい、相棒……」
ハリケーンは困惑を隠せない。
「信じられん……」
だが、それはD‐4も同様だった。先ほどまで剥き出しにしていた敵意はどこかへ霧散している。戦闘態勢どころか、戦意を丸ごと喪失したコンバスチョンが、翻ってこの場の空気の中心となっていた。
「……今日の所は、一時撤退する!」
それは2人にではなく、通信機越しの会話だったのかもしれない。突如としてD‐4を中心とした閃光が講堂全体を真白に染め上げた。思わず手を翳し、身体を丸める2人。
ものの数秒で閃光は消え、同時にD‐4の姿も忽然と消えていた。出入り口へと続く微かな空気の流れが、その撤退の痕跡を伝えるに過ぎない。
「折角、話が出来たのに……」
「ほんまに敵やなかったんやなあ」
今更のように、ハリケーンが呟いた。
幸いな事に、根墨は一命を取りとめたようだった。
他人に注射器を打ち込むなど初めての経験だった2人である、勿論どこに打てば良いかすら分からない。脚から変異が来ているということはこの辺か、と素人判断まるだしで当たりを付けてスラックスをまくり上げ、生白い脹脛の真ん中あたりへ「えいや」と針を突き立てたのだが、その端から肉の波打ちは静まっていった。呆気ないほどに効果は覿面だった。
「勿体ない……それ金の生る木やで」
ぶつくさと小笠原が呟いているのは、まだ数本余りの合った解毒剤のアンプルを、甲斐が黙々と変形半ばの聴衆たちに打っていく姿に呆れているのだ。根墨への注射と同様、変形部位は即座に治癒していった。小笠原にすれば、それを目の前にちらつかせれば有り金どころか全財産の数割ぐらいなら各々から毟り取れるだろうという皮算用だったのだ。
「何言ってるんですか、もう」
甲斐は相手にもせず、淡々と注射器を打ち込んでいく。
「んー、まあえっか」
金に汚いこの男に珍しく、深くは追及しない。1件100万円という給金が約束されているという点にもよるが、それ以上に何もかもを許せてしまいそうな晴れやかな気分が心中に満ちていた。思う様暴力を振るい、敵を蹂躙した。それも自身は無傷のままに。
小笠原にすればこれほど自尊心を満たす痛快な出来事はない。変身の解除と共に昨日の記憶にも靄が掛かってしまっていたが、それでも朝までのぐずついた曇天のような気分が一掃されていた。
「キリついたら、コイツ連れて取りあえずズラかろうや」
今は気持ちよく失神しているばかりの根墨の襟首を、ぐいとつまみ上げた。
根墨がベンチの上で目を覚ましたのは、いよいよ日も傾き夕焼けが迫ろうとする時間帯だった。
「んあ」
横になっていたベンチからむくりと身体を起こすと、だらしなくずり落ちかけた眼鏡の位置を直す。煙草の臭いが鼻を刺した。隣のベンチで小笠原が脚を組み、背もたれに両腕を掛けて煙を吹いていた。
「あ、起きましたか」
大丈夫ですか? と甲斐が心配そうに覗き込んでくる。
「えと、ここは……」
「たこ公園ですよ」
そう言えば、皆さんをセミナーに連れて行って、それから、それから……と記憶を遡り、ついには蒼い顔になって黙り込んだ。気を失う前の事を思い出したのだろう。
「……僕は、騙されていたんでしょうか」
どこを見ているとも知れない虚ろな顔で、根墨が呟いた。
「……言いにくいのですが」と甲斐。
「まあ、傷の浅いうちで良かったんちゃうか」と小笠原。
「あの水を飲んでも、強く生まれ変われる訳じゃなかったんですね……」
僕の人生、これからもずっと弱くて惨めなまま、利用されるばっかりだ……と泣きそうな声でぐちぐちとこぼす。セミナーの講師や同僚たちを初めとする、自分を対等に扱う事のない人間を思い出し、これでおさらばできると思っていた立場を今一度突き付けられてしょげかえっている。
「そ、そんなに落ち込まないでください!」
お人好しの甲斐が、必死にとりなす。
「差し出がましい申し出かもしれませんが、転職を考えた方が良いのでは……?」
「そう、ですかねえ……」
根墨にはあまりピンと来ていないようだ。
ハッ、と小笠原が鼻で笑った。
「今のままやったら、どこ行ったかて変わらへん。いちびり倒されるんは目に見えとるわな」
「ちょっと!」
甲斐が窘めるが、小笠原は不遜な態度を崩さない。煙草を一口吸って上を向き、長く煙を吐き出す。
「仕事より先に、変えるならまずオノレや」
おれに言わせりゃ、まずは筋トレやな、と火のついた煙草で根墨を指す。
「はあ……筋トレですか……?」
「死ぬほど自分追い込んで、肉さえ付きゃ自信も付く。せや、ついでに何ぞ格闘技でも習って、アホどもを返り討ちに出来るようになったらええ」
この街にゃええボクシングジムもある、とやや遠い目をする小笠原。
「……水を飲んでも変われないなら、そうですね、自分でちゃんと努力しなきゃ、ですね」
「うさん臭い水飲むぐらいなら、朝晩プロテイン飲んだ方が何ぼもマシや」
根墨の顔に、少しだが明るさが戻った。自らの人生に、小さいながらも目標と希望を見つけた顔だった。
「あ、ありがとうございます……僕、がんばってみます」
「かまへん」と小笠原は手をちゃいちゃいと振りながら、「それよか、何か忘れてへんか? ボク」
「え、何でしょうか」
「危ないトコロを助けてもろて、有り難いアドバイスまでもろてからに『ありがとうゴザイマス』の一言で終いかと、訊いとんねや」
あからさまな謝礼の要求である。
「ちょっとちょっと!」
小笠原さんにも良いとこあるじゃないか、と感心半ばでいた甲斐が慌てた。
「あの、僕あんまりお給料貰ってないし、そんなに手持ちもないんですが……」
「造一くんは今非常に気分がええさかい、財布の有り金でええぞ」
「ちょっとちょっとちょっと!」
再び泣きそうな顔になる根墨から財布をひったくった小笠原は、中身を無遠慮に検めて「シケとんな」と吐き捨て、それでも言葉通り中身を全て回収した。
「あの、いいんです。大丈夫ですから」と情けない顔で財布の中身をまさぐられるままの根墨だったが、小銭はさすがに甲斐が止めた。
「あの、改めて、ありがとうございます。おふたりの期待を裏切らないように、僕、頑張ります」
「別に期待はしとらn「頑張ってくださいね!」
被せるような甲斐の大声に見送られながら、根墨はペコペコと頭を下げつつ公園を後にした。
その顔が昼間に出会った時のものと違って見えたのは、夕陽のせいだけではないかもしれない。
『ベースへ帰投しましょう。記録終了。支援者の情報が多数収集できました、お手柄です』
珍しく労に報いる言葉を掛けるAIbotに促され、2人は警察署の地下へと戻った。
「ご苦労だった。まずは報告を」
相変わらずデスクに脚を投げ出しふんぞり返る頼佳に、今日は小笠原が先に口を開いた。大暴れできた上にお小遣いまでせしめてホクホクなのだ。
「今日は怪しげなセミナーに行ってきたんやけどな」と身振りを交えて話し始めたのだが、その後が酷い。
「おばはんが念仏唱えたと思たら周りのやつらが身体ぶくぶくしはじめて、ドカーンなりそうなところをガッといわして、注射器ちょろまかしてぶすっといったら、ほら、元通りよ」
な、という得意顔の小笠原を阿呆を見る目つきで一瞥した頼佳は、視線を甲斐の方に振った。お前が報告しろ、という顔だ。
「あ、はいハイ……」
口頭の報告ともなれば甲斐の説明も完璧とは言い難いものだったが、大筋は頼佳にも伝わったようだった。詳細は、後でAIbotの映像記録を観れば良い。
「成程、信心深い人間を集めてのセミナーか」
「はい、羽星タワーの五〇階でした」
「心が弱った人間を集めて、支援者勢力を増やそうとしていたのだろう」
しかし、一体なぜ……と顎に手を当て思案顔の頼佳。
「……まあ良い。末端組織ではあるだろうが、奴らの拠点を1つ潰したのは確かだ。追求調査はこちらでする」
話はこれで終わりと言いたげな態度だったが、甲斐にも小笠原にも、まだ知りたい事があった。
「……あのD‐4っちゅうんは、結局何なんでっか?」
頼佳は苦虫を噛み潰したような顔だ。
「こちらでも、正体は掴み切れていないのだ」
「少し会話は交わしたんですが、どうやら支援者に加担している訳ではないみたいです」と甲斐。
「その言葉を信じるのか?」
頼佳は鼻で笑った。うかうかと口車に乗りおって、と言わんばかりだ。
「お前たち、本当に何も覚えていないんだな。昨日もこの話はしたはずだぞ」
変身中は確かに昨日の記憶が戻っていたのだが、変身を解いた今、改めて昨日の出来事を思い返そうとしても、さっぱり思い出すことが出来ない。どうやら変身中は身体の異変から切り離されるようだった。どういう仕組みなのか、甲斐自身にも不思議でたまらない。
「はあ、すみません……」
申し訳なさげな甲斐と不服そうな態度を隠そうともしない小笠原を交互に見て、頼佳は「副作用かもしれんな」と零した。
「早く終わらせなければ、お前たちの身体にも害が出かねん」
「そんな……」と絶句する甲斐。
「その為にもだ、早く本拠地を潰す必要がある」
要は、お前らの生命が惜しければつべこべ言わず成果を上げろ、という人質交渉である。あまりの言い様に甲斐は言葉もない。
「まあ、おれは貰うもんさえ貰えたらええわ」
小笠原はケロッとした顔で片手を差し出す。
2人の前に札束を放り投げて、「では今日は解散だ」と頼佳は切り上げた。