「やあ、人間」
そんな、声を掛けられた。
そこは真っ白な世界。
前後も左右も分からない。今が何時でここがどこなのか、まるで見当が付かない。
それどころか、自身の身体すらない。ただ意識があるだけ。気が付けば、ここにいた。何より奇妙なのは、自分でもそれを当たり前だと認識している事だ。
「やっと目が醒めたね。待ちくたびれたよ」
声の主も見当たらない。中性的で、性別どころか年齢すら定かではない。ただ、軽薄な口調であることだけが分かる。
何か返事をしようと思ったが、声が出ない。
当たり前だ、身体がないのだから声帯もない。
返事がないのを良い事に、声は一方的に捲し立てる。どうやら、随分なお喋り好きらしい。
「面白いものを見せてもらったよ。こんなに楽しかったのは久しぶり! やっぱさ、舐めてかかってた虫けらに倒される奴の顔って愉快でしょうがないよね、いい気味」
心底愉悦に浸る様な、哄笑。
「人間って、虫けらで、ちっぽけで、弱くて、愚かで、馬鹿で、どうしようもない種族だけど、君たちみたいなのがいるから愛おしいよね。自分の利益以外の為に動くなんて、本当に滑稽」
「いいもの見せてもらったから、ご褒美! あげるよ。君はもう死んじゃってて、ほら自分の身体触ってみな。触れないでしょ?」
あ、ごめんごめん腕もなかったね、と再び哄笑。
「という訳でえ、僕が生き返らせてあげまーす! 地球に空っぽの身体がいくつかあるからさ、そこに君の魂を入れて、あとは見た目から記憶からDNAまで、3分もすれば元通り!」
「でもでも、ただ生き返ってもねえ……君は色んなところから目を付けられちゃってて、ちょっとした有名人なんだよねえ。ただ生き返るだけだと、またすぐ死んじゃうかも!」
「だからさ、今回すっごく機嫌のいい僕が、もう1つサービスしてあげちゃう!」
「そうだね、君の運命が狂った、この6日間に関する記憶と記録でいいかなあ。君以外の全ての生命体と神さまたちから、消しちゃいます。太っ腹だね! でも僕も、君のこと忘れちゃいまーす」
哄笑。一体何がそんなに可笑しいというのか。
(最後の最後で、いっちゃんけったクソ悪い奴が出てきよったな……でもまあ、そういうことなら、お言葉に甘えさしてもらうわ)
「じゃね。ちっぽけな人間。とってもとっても、楽しかったよ!」
そして声は消える。いや、消えるのは声ではなく、自分だ。
意識がホワイトアウトしていく。
灼光に滲むように、全ては白く白く――