COC「傀逅」リプレイ   作:又左衛門

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1日目-4

 現場から少し離れた路肩に停められたバン後部に2人は丁重に押し込まれ、黒服の一人がハンドルを握った。

 特段車内での会話は禁止されてはいなかったものの、おしゃべりに興じる気にもなれず、「……僕、甲斐って言います」「小笠原や、よろしゅう」とおよそ最低限のやりとりをした後は、重苦しい沈黙が車内を満たした。蝿でも殺せそうな沈黙に耐えること20分、到着したのは2人ともが見覚えのある施設、警察署だった。

 羽星市警察署。この辺りで警察署と言えばここで、人口30万都市の警察署と言うからには構えもご立派な4階建て、ここ数年で外装を建て替えたのは両人の記憶にも新しく、威容というよりは近代的な外観のビルディングである。

「本当に警察に来ちゃったよ……」

「おいおい、ヤクザに警察署は鬼門やで」

 委細構わずバンは地下駐車場に乗り入れ、だだっ広い空間の中ほどに停車した。

 黒服に促され、薄暗い空間を横切ってエレベータホールに向かった。

 甲斐が不思議に思ったのは、エレベータに乗り込んだ時である。

 何やら黒服が複雑な手順でボタンを階数ボタンを押しているのだ。微かな揺れと共に滑らかにエレベータは動き出すが、どうやら更に下層へと降りていくようだった。動き始めからたっぷり30秒は降下したところからすると、相当な深度まで潜ったことになる。階数の表示パネルはどれも点灯していない。

 やがてエレベータが止まり扉が開くと、そこは開けたスペースだった。天井は高く、部屋を区切る仕切りもない。照明は決して明るいとは言い難く、整然と並ぶディスプレイの光がその前に腰かけるオペレータ達の顔を煌々と照らしている。デスクの間を、10名を超えるスタッフが忙しなく縫って歩いている。その空間は、管制室を思わせた。

 扉から一番乗りと降り立ったドローンに先導されて最奥まで進む。

 そこには周囲の実用一点張りのインテリアから浮き上がるような木製の執務机、そして机上にどっかと脚を乗せた妙齢の女性がいた。歳の頃は40ほどだろうか。顔立ちは整っているが遠くからも分かるほど顔に険があり、更に老練さを纏った雰囲気が年齢を測りづらくしている。若いとは言えない年齢である事は確かだが、胸と腰が大きく張り出しており、襟ぐりの開いたシャツを着ているものだから、胸の谷間が凄いことになっていた。口には大きな葉巻を咥えている。その帯は切られており、銘柄は分からない。

 連行されてきた二人を睥睨しながら口の端で葉巻をひと吸い、ゆるりと吐き出した紫煙の向こう側から、横柄な態度で女が言った。

「お前達か」

 

 女は、藤原頼佳と名乗った。

「お前らは何という名だ?」

「甲斐、俊亮です」

 甲斐武田の甲斐に……と中空に漢字を書く素振りまでしながら説明する甲斐。

 お前は、と言いたげに視線を向けてくる頼佳に対して、

「その前に、一服つけさせてもろてよろしいか?」

 拘束された後ろ手を揺する小笠原。

「……外してやれ」未だ2人の後ろに控える黒服に向かって、頼佳は顎をしゃくる。

「こらどうも」

 自由になった両の手首をさすると、早速とジャケットの内ポケットからパーラメントを取り出し、1本を取りだして火を点ける。上を向いて深々と煙を吐き出す小笠原に対して、周りのスタッフから心なしか刺々しい視線が向けられているように甲斐は感じた。もしかしたら、ここは本来禁煙なのかもしれない。

 机上にある重厚な造りの灰皿を、頼佳は黒ストッキングに包まれた脚でがつりと足蹴にして小笠原の方に寄越した。タイトスカートの脚でそんな仕草をするものだから、奥の方が見えそうになってしまう。

 小笠原の視線が鋭くなった。怒っているのではない。スカートの奥を凝視しているのだ。甲斐はお行儀よく目を逸らし、頼佳は自分でそんな事をしたくせにぎろりと眉根を寄せて小笠原を睨んだ。

「偉いさんが出てきたと思たら、またえらい別嬪さんやないか」と小笠原が茶化す。

「……名は?」

「おれ、小笠原ていいますねん。小笠原造一」へらへらとした顔は崩さない。

「なるほど」と言って、頼佳は机上に脚を乗せたまま、膝脇に乱雑に置かれたキーボードを片手で器用に操作した。

「なるほど、甲斐俊亮……。良い身体つきをしていると思ったが、水球と水泳に打ち込んできたというところか。面構えは今一つだが、ウチに欲しいくらいの人材だな」

 いやぁそれほどでもと頭を掻く甲斐は、褒め言葉に満更でもない顔だ。個人情報が秒単位ですっぱ抜かれたという恐るべき事実には気付いていない。

「小笠原造一……プロボクシングを経験しているな。元ミドル級ランカーが、試合中のケガが原因で引退と。今は、ふん、田舎ヤクザか」

 小笠原は笑みを崩さぬまま、少しだけ首を左に傾げた。

「やめておけ」とモニターを見たまま興味なさげに頼佳は突き放す。「膝を撃ち抜かれたいのか?」

 ちっ、と舌打ちをして苦り顔の小笠原である。

 ぎょっとして、甲斐が二人を交互に見た。

「ともあれ、二人とも市内在住か。なら話は早いな」

 2人に向き直ると、聞きたい事は山ほどあろうがまずは私の話を聞け、と頼佳は切り出した。

「お前たち、霊憑き病は知っているか?」

 顔を見合わせる2人。

「ええ……勿論」と甲斐。

「まあ、ニュースでばんばん流れとるからな」と小笠原。

「知っての通り、この羽星市内でのみ流行っている原因不明の奇病だ」

 それは頻繁にニュースを見る者でなくとも知っている。ここ数週間、市内を賑わせている話題と言えば、ダントツでそれだった。患者は、正気を失ったような支離滅裂な言動を繰り返したかと思うと昏睡状態に陥り、やがて緩やかに死を迎える。病と名は付くもののあくまでそれは俗称であり、その感染源も経路も未だ定かではない。そもそも感染するものなのかも、その病原体ですら分かっておらず、病理学的には病であるというエビデンスも得られていない有様だ。市内に住むという以外およそ接点を持たない市民たちが次々と罹患しており、行政も対応に苦慮している。

「正体は恐らく、奇病でも何でもない」

 一拍を置いて、頼佳は続ける。

「邪神復活の為に、生贄となった者たちの末路だ」

「邪神、ですか……?」

「何を言うとるんや……」

 二人は戸惑いを隠せない。これが違う状況であれば妄言と一笑に付しただろうが、警察署の地下に秘密裏に作られたこれほど大掛かりな施設を背景にした頼佳の言葉には、不気味な説得力があった。

「何も驚く事ではない。お前たちも既に、人知を超えた力の一端を使ったのではないか?」

 それは質問ではない。そしてそれに反駁できる何かを2人は持っていなかった。

「お前たちがさっき駆除した男たちは、邪神復活の為に暗躍しているゴミクズどもだ。霊憑き病患者が増える、つまり生贄が増えれば増える程邪神復活は近づく。それの復活を許したら、人類は、終わる」

 葉巻の火が消えていた。頼佳は大きなマッチを擦ると、再度葉巻に火を点ける。

 緩やかな溜息のように煙を一筋口からたなびかせ、続けた。

「で、ここからが本題だが、お前たちには我々を協力して邪神の復活を阻止してもらう。言っておくがこれはお願いではない。命令であり、脅迫だ。分かったか?」

 自分で脅迫などと大真面目で言うあたりに、この女司令の性格が表れていると言えるかもしれない。

「急にそんな事言われて、『分かった』なんて言える訳ないじゃないですか……。そもそも、さっきの変身だって、何だったのか良く分からないままで……」

「そんなことより聞いときたいんでっけど、ご存知の通りおれはヤクザですねん。姐さん風に言えば田舎ヤクザやけど、警察のお偉いさんがおれみたいな人間に仕事を卸すなんてのは、ええですのん?」

 ふん、と頼佳は鼻で笑う。

「お前たちは選ばれた人間だ。どんな立場であれ、お前たちには協力してもらう」

「おー、結構結構。ただ、協力というからには、()()()の方ははずんでもらいまっせ」

 片手の親指と人差し指の腹を擦る、紙幣を数える仕草。

 ちょっと待ってくださいよ……という甲斐の泣き言を無視して、2人はにこやかな笑みさえ浮かべて商談を進める。

「当然だな。仕事という形になれば当然、謝礼は出すぞ?」

「そこは契約や、具体的に行きまひょか」

「いいだろう」と言って、頼佳は黒服の1人を傍に呼びつけ、何事かを伝えた。程なくして運ばれてきたのは、

「一本ずつ。これでどうだ?」

 札束である。ぴんぴんに角の張った新札の束がひとつずつ、2人の前に放り出された。

 おほっ、と小笠原の声が喜色に弾んだ。

「豪奢なこったのう」

「ええ……」甲斐は目の前に提示された大金に魅力を感じるよりも、戸惑いの方が勝っている。

「何だ、金額に不満か?」

「いや、そう言う訳では……」

「1件の仕事につき100万円、悪くない条件だと思うが?」

「ちょい待ってえな。1件につきって事は、いくつも仕事があるってことかいな?」

「そうだ。お前たちの仕事は邪神の復活を阻止することだ。具体的には、この邪神復活を推し進めている『支援者』と呼ばれる存在の本拠地を突き止めることだ。ここを制圧することが出来れば、邪神の復活活動は完全に停止する」

 この組織は警察が市内の警らや監視に使用しているネットワークにタダ乗りしており、市民からの通報や捜査員からの連絡、あるいは秘密工作員の観測した事象がこの管制室に集約される。それらの膨大な情報がふるいにかけられ、情報密度が閾値を超える調査候補地がリアルタイムに地図上へとリストアップされる。そしてその地点へ調査に向かい、身体を張って具体的な情報を持ち帰る。そういう話だった。

 そこまでを聞いて、小笠原は呵々と嗤った。

「ヤクザに警察の設備を使わせるとは、こら傑作でんな」

「心配するな。お前たちの閲覧できる範囲など、たかが知れている」

「待ってください!」と、たまらず甲斐が声を上げた。どうもとんとん拍子に話が進み過ぎていた。このままではなし崩しに訳の分からない修羅場に巻き込まれてしまう。

「お金の問題じゃないっていうか……僕は平和に生きたいだけなので……その、出来れば他の方をあたって欲しいんですが」

 本心だった。金額の多寡が問題ではない。まっとうに定職についており、将来を共に過ごさんとする恋人がいる。甲斐にとっても100万円は大金だが、稼ぐことの出来ない金額ではないし、何より今の自分の生活が何にも替え難い尊いものであることを十分承知していた。そんな甲斐にとって、この話は魅力的どころではない、自分の生活を脅かしかねないリスクそのものなのだ。

「ほうかほうか。ほな、こいつの分もおれが貰うっちゅうことで」

 躊躇いなく甲斐の前の札束に手を伸ばす小笠原。その点、この男は甲斐とは何もかもが対照的だった。栄光をつかみ得たかもしれない道も今は閉ざされ、裏稼業に身をやつし、家族は暴力で支配する弟ひとりきり、後に残っているのは人を殴る才覚だけという有様の男に何の良識が期待できようか。

「いいです、あげますよそのくらい。だから、帰してくれませんか……明日も、仕事があるんです」

「そういやこのお話、断った場合は、どないなるんでっか?」

 言外に、自分は断らないというニュアンスを多分に含ませて、小笠原は尋ねた。

「何か、勘違いをしているようだな、僕ちゃん」

 突如として雰囲気が変わった。淡々としていた口調が、低く底冷えのするそれに変わっている。目に見える程の殺気が、甲斐1人に向けられた。

 合図を待たずして、黒服が2人、突然の恐怖に身を竦ませる甲斐の両脇を固めた。

 そして頼佳が、ジャケットの下のホルスターから大振りなオートマチック拳銃を無造作に引き抜き、目前の甲斐に狙いを定めた。

 小笠原はひと目で分かったし、甲斐もさすがに直感した。これは本物の銃だ。

「誰が答えを選んでいいなどと言った?」

 意地を張る相手を間違えるなよ僕ちゃん、と言う頼佳の指は既に引き金に掛かっている。

「私は国そのものだ。お前だけではなく、お前に関わる人間を全員消したところで、その空白を埋めることができる、それも合法的にな」

 やると言ったらやる。そう頼佳の目が言っていた。抜け抜けと自称するだけはある、堂に入った脅迫ぶりだった。

 カチリ、と安全装置を外す音が不吉に響いた。周りのスタッフ達も流石に手を止め、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

「もう一度聞くぞ。返事は?」

「分かり、ました……」

 遂に甲斐が折れた。

「可哀想なこっちゃのう。命まで賭けて、タダ働きかい」

 と嘲笑う小笠原は、手を付けた甲斐の分の100万円戻すつもりはないらしい。

「一件で200万か。さっきの変身ちゅうやつを使たら楽勝やろ」と嵩をくくっている。

「なるほど、物わかりの良い大人で助かるよ」

 いい子だ、それでいい、と頼佳はご満悦だ。

「私たちは人間同士、味方であって敵ではない。仲良く手を取り合おうじゃないか」

 銃と権力で脅し付けた人間の台詞じゃないだろ、と甲斐は呆れたが、言うと絶対に良くないことが起きるので黙っておいた。だが、これだけは言わずにはいられない。あの……と意を決して切り出した。

「一緒に暮らしている人がいます。せめて、連絡を取らせてください」

「ん? それは構わんよ。何なら家に帰ってくれたって良い」

「え、そうなんですか?」

「調査時以外は極力普段通りの生活を送ってもらう。どこにいるか分からんゴミクズどもに目を付けられないようにしろ」

 監禁や、下手をすれば拘束すら想像していた甲斐は、予想以上にあっさりした返事に拍子抜けした。

「お前たちは選ばれた人間だ。お前たちは変身して、今五体満足、意識正常でこうして今私と会話している」

 だがそんな事は本来あり得ないのだ、と頼佳は断じる。

 今まで変身を試みた者の辿った末路を、微に入り細に入り頼佳は教えてくれた。変身をするや正気を永久に失った者、自らの四肢を捥いだもの、狂気が噴出したかのように暴れ出す者、突然電池が切れたように倒れ伏す者……つまるところ身体か精神のどちらか、あるいは両方が変身という過負荷に耐えられなかった者たち。彼等は例外なく生命活動を停止し、その身体はゼリー状からゲル状に、最終的には正体不明の液状になってしまうのだという。最後の様子を詳らかにしようとしたところで、「もういいです……」と甲斐からのギブアップが入った。小笠原も、そういうのは趣味ではない。

「要は今までのどのケースも、最後に残るのは変身装置であるストレージシリンジ――お前たちの見た例の筒っぽだけというわけだ」

 自分たちの貴重さが分かるか? という問い掛けは、しかし本来ならお前らもドロドロに溶けていた筈なんだがなあ、の裏返しだ。気持ち良かろうはずがない。

「お前たちはどういう訳か力を制御し、今のところその影響もない。邪神の復活の阻止には、その力が必要だ。復活はすぐそこまで迫っている」

「それは……もしかして、『そう』なる可能性もあるってことですか?」と青ざめた面持ちで甲斐が質す。

「何とも言えんな。今まで変身から無事『帰って』きた奴はいない。何も断言はできん」

「そんな……」

「だが、何があろうとこちらは全力でサポートする」

 そう言われても、甲斐の顔は晴れない。ゼリーのように溶けてしまって、何のサポートを受けられるというのか。

 対して、小笠原はにんまりと笑っている。それは、目の前の女が易々と自身のウィークポイントを喋ってしまっている事に対して。道理で黒服達が自分たちに無用な暴力を振るわないはずだ――もし小笠原が誰かを取り押さえる立場なら、彼我の実力差に関わらずそいつが抵抗の意志を失くすまで痛めつける。だが彼らはそれをしなかった。2人を丁重に扱わざるを得ない事情があったのだ。こら金玉いっこ握れたな、と小笠原はほくそ笑む。

「しばらくはここに出勤してもらう形になる。職場には各自連絡しておけ」

 と、スタッフの1人が何やら手提げの紙袋を持ってきた。

 中身を改めてみると、警察服だった。空恐ろしい事にサイズは誂えたよう、そして荷物の中には警察手帳までが用意されていた。一般人の格好では何かと捜査にも不便だろう、という気遣いだった。当たり前だが、手帳は偽造だ。「現職相手には見せるんじゃないぞ」と頼佳には釘を刺された。この組織と活動の存在は、警察の中でも幹部以上の立場しか知り得ないという話だった。

「では、特になければ明日から早速調査にあたってもらう。……が、その前にいくつか注意事項を伝えておく」

 と頼佳が改めた。

 ひとつは、有事以外は変身を避ける事。今回が無事だったとはいえ、変身が2人の身体にどういった副作用をもたらすかは完全に未知なのだ。2人が死んでしまえば、邪神復活を目前にして適合体探しからやり直す必要がある。

 ふたつは、正体を誰にも明かさない事。秘密活動なのだから、これも当然といえた。特に『支援者』に正体が割れてしまった場合、やつらはどんな手段を使ってでもお前たちを殺しに来るぞ、と頼佳は重ねて脅し付けた。

「みっつめは先ほども言った事だが、調査時以外は極力普段通りの生活を送れ。誰が支援者か分からん以上、誰にも目を付けられんよう気を配れ」

 職場を休む以上誰にも目を付けられない、というのは事実上不可能なのだが、それは流石にやむを得ない。

「なお、調査時はこのドローン、AIbotを同行させる。お前たちも会話しただろう。こいつには最新鋭のAIを搭載してある。ネットワーク機能も持っているから、カメラ映像はリアルタイムでこちらに転送される。こちらから指示があれば、AIbotを通して行う」

 出番を待っていたかのようにふよふよと漂ってきたのは、例のドローンである。

『ジャック、積み荷の回収を完了しました』

 アームに吊り下げたジュラルミンケースを机の上に降ろす。

「ああ、ご苦労」頼佳は中身を見て、「なるほどな」と苦い顔をした。

「全てとはいかなかったか。しかしよく守り通してくれた」

 きっと、それはケースをその身に庇い、息を引き取っていた女性に対する言葉だろう。死者を通り一遍に労うと、ケースを閉じてデスクの引き出しに仕舞った。

「聞いての通り、私のコールサインはジャックだ。お前たちはハリケーンにコンバスチョンでいいだろう……何か他に質問は?」

「その『支援者』っちゅうのは、さっきのローブ着たブサイクのことでっか?」と小笠原。

「そうだ。だが、他にどんな奴らが所属しているか、まだ全貌は把握しきれていない」

 調査中なのだ、と頼佳は言う。

「あの場で倒れていたのは、ここの人たちでしょうか?」どうなったんですか?と甲斐。

「それを知る必要はない」

「なるほど……」

 予想通りながら木で鼻を括ったような返答だったが、あの機械装置を造った人たちなのかもしれない、と甲斐は当たりをつけた。

「まあおれはその辺はええわ」それにしても1件200万か、と目を輝かせながら小笠原はうっとりと呟く。

「あの、僕の分は……」

「いらん言うたのはお宅さんやんか」

「いや、それは引き受ける前の話であってですね……」

 甲斐は助けを求める様に頼佳の方を覗った。

「おい」と顎をしゃくる頼佳に黒服が無言のまま行動で応えた。小笠原が掴んだ札束の一つをもぎ取って甲斐の前に放る。

「なんや、がめついやっちゃなあ」我が身の事は一切顧みずに非難がましく小笠原はぶーたれたが、それ以上の文句は言わなかった。1件100万円でも小笠原にしてみれば十分儲けものである、下手に騒いで折角取った言質をひっくり返されたら目も当てられない。

 気が付けば、頼佳が指で弄ぶ葉巻も殆ど根元まで燃え尽きていた。

「ではこれで解散だ。明日朝、また警察署まで来い」そう言って、女司令は葉巻の燃え残りを灰皿に投げ捨てた。

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