アストレアレコード
子どもが冒険者を道連れにして自決した。
敵が工業地帯から奪った撃鉄装置、そしてダンジョンでとれる火炎石、それらを組み合わせれば簡単な自爆装置の完成だ。
それでその爆発を合図に皆、
しかし、女は焦っていたのだ。
「なんで、なんで爆発しねぇんだっ!」
焦っている声、冒険者は仲間の死に絶句していた。
そんな女の声など聞けていなかったに違いない。
馬鹿な、焦っていたのは何も現場だけではない。
指揮系統も、予期していなかった
ある一つの派閥を除いての話であったが。
まだオラリオに来て間もない派閥、まだファミリアにすら所属していない漂流物たち。
彼らは予定調和だと、そう笑っていた。
白装束の拠点は血の海であった、攻め入った者達のものではなく、元々いた白装束のものである。
服の内にあった【火炎石】と【撃鉄装置】を見つけた時、その知らせを受けた時、魔王は笑った。
殉教者とはよく言ったものだ、自爆とはよく言ったものだ。
彼らは好んで死んでいく、家族に会いたいから、来世では幸せになれますようにと願いながら。
その面では男はそれと同じであっただろうか、否だ。
全く違う、全然違う。
男は死にに行くのではない、勝つために死ぬのであれば大歓迎なだけ。
自分が死んでも子孫が勝つ、仲間が勝つ、そう馬鹿正直に信じているから笑っている。
「なんじゃ、女じゃなかか」
白装束の首を持った男が現れる。
島津十字の家紋、ただの功名餓鬼、大太刀を携えて男は現れる。
赤髪の白装束の指揮官、レベル5、ヴァレッタは絶句する。
落胆したような表情を豊久を見て、だ。
【ガネーシャ・ファミリア】が捕縛しているはずの
そして簡単に状況を飲み込んだ、この男に台無しにされたと。
恥ずかしさ?馬鹿にされたような怒り?全てが綯い交ぜになる。
その場において踊らされた冒険者など蚊帳の外、漂流者と
豊久は落胆した表情のまま、その場を去る。
女首は、子どもの首は恥であるから、敵の首は全員刈り取ったから。
ここは戦場だ、騙し討ちでも私刑《リンチ》でもサシでもなんでもあり。
声にならない怒声、それを掻き鳴らしてヴァレッタが突出する。
誰に?豊久にだ。
そんな激昴した相手、周りの見えなくなった猪、普段ならば当てられない物が当たるその時。
ストン、と軽快な音が鳴る。
「‥‥‥ア?」
皮肉である。
矢とそれに付けられているのは導火線付きの筒。
中にはたんまりとオラリオに来るまでに作った
抜こうとしても無意味、既に導火線はなくなり、火は火薬に届いている。
断末魔などはない、本来ならばそれが人の終わりだ。
「信さん、敵の指揮官を撃破。そっちは?」
『おう。順調よ、順調。自爆ってのは厄介だがいくらでもやりようはあるもんだ』
胸に巻き付けられた【火炎石】とそれを発火させる撃鉄装置。
それを封じるならば自爆する暇もなく殺すか腕を機能させなくしてやればいい。
脳波でコントロールするだとかそんなハイテクなものはここにはないから簡単な思考でそこに至る。
【
自爆が知識にある、狂信者との交戦経験がある、様々な戦争を経験している、様々な知識を持っている。
無論、冒険者では経験できないものがそこに詰まっている。
モンスター相手ではない、人を殺す術を誰より持っているのが漂流者と呼ばれる人間である。
この場では確かに闇派閥に勝っている。
しかしながらここまで大規模な作戦を何故今やったのか、拠点を発見されたからにしては用意周到が過ぎる。
今この時を待っていた、駒が爆炎を上げて合図を出した今を待っていた。
ならば、これから何をする。
爆発だけではまだこちらの形勢は逆転できるかもしれない、完膚なきまでに戦意を喪失させるために何をする。
相手の保有戦力は不明、ならば何を出してくるかは分からない。
ラキアを攻め滅ぼし、オラリオにやってきた彼らは当然、この世界の情報を手に入れている。
それから想像するのは最悪なこと、闇派閥の保有戦力のうちに今のオラリオの戦力を押し包める者がいる。
雑魚は信長たちに任せてもらえれば滅ぼせる。
冒険者にはそんな大ボスを倒してもらいたかった。
そんな算段は簡単に崩れる。
【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】のもつ最高戦力の敗北が耳に届いた。
【
台無しだ、全て。
丸っきり考えが台無しになった。
こんなこと想像こそすれどんな対策ができると壁を殴った。
激昴して周りを見えないようにすれば火薬矢で死なないまでも傷は与えられる、しかし余裕こそすれ油断なんてこれっぽっちもないじゃないか。
一が大きすぎる、もっと小さくても罰は当たらない。
押し包む、不可能。
一騎打ち、不可能。
火薬、不可能。
爆撃、不可能。
陰陽術、不可能。
考えうる全ての可能性が却下されていく。
即興で豊久をファミリアに入れたとして、勝てるかどうかは分からない。
詰み、チェックメイト。
ヴァレッタ一人潰したところでこの状況は変わりはしない。
退くことさえできやしないのだ。
諦めかけたその時である。
敵の首魁であるエレボスの声が聞こえた。
アルフィアってベルの叔母なんですよね。知らなかったぜ。