お豊の鹿児島弁、難しいぞよ。
早朝にヘスティアを起こしたのは義務感であっただろう。
苦労と胃痛から逃げるためにバイトの掛け持ちをしているため、朝早くから本拠を出るためである。
今日は遠征の日であることは覚えているので今日のバイトを終えたら童貞に仕事を押し付けてゆっくりするぞ、と部屋を出た。
そんな時であった、中庭から聞こえたものだ。
豊久の声とベルの声、鍛錬によるものであることなど簡単にわかるものだった。
なにか気になって窓を開けて覗くと、中庭から煙がたっているのが確認できる。
「はっ?」
自然とそんな声が出てくる。
植物が生い茂っている本拠の中庭、そんな場所で豊久とベルはなんでもありの殺し合いを行っているのが見えたならそりゃあそんな声が出てくるだろう。
「見たことあるのう!お前もそんな妖術使えっどか!」
「シマヅぅ、シィッ!!」
ジル・ドレに渡された大槍にジャンヌの炎、それらを受け継ぎ豊久への豪快な一撃をくり出す。
土が抉られ、火を纏った槍の攻撃はさらに広範囲なものに昇華している。無論、ただの炎も攻撃手段に入る。
「かァァァッ」
口から湯気のように、煙が湧いて出てくる。
ベルは小柄で、ヒョロい見た目だ。
だから数多のファミリアを巡ってもファミリアに入れてもらえなかった。
城壁すら意に介さない程の大槍を持っていても外見での第一印象とは絶対的なものなのだ、これは【ロキ・ファミリア】でも同じこと。
しかし、実際はどうだっただろうか、自分の扱うものの使い道をわかり、貰ったものを最大限に活用して見せている。
その上で目の前の首を刈り取ろうと、感情のままに動き、浄化の炎を身から湧き出させている。
『ベル、これは怨嗟による炎じゃない』
そんなジャンヌの言葉があった。
ベルは以前のジャンヌを本人の口から聞いていて、無論質問した。
誰かを恨んで、それで出せるようになったんでしょ?と。
それに対してジャンヌは微笑みをもって答えた。
『その時はね。今は違う』
島津を燃やしたい、そんな気持ちは当然あった、今もあるけれどそれではダメだと気づいたのだという。
なぜ?いつ?そんなことは聞けなかった。
その顔は歪んではいなかったがそれでも悲痛なものであると幼いベルでもわかったから。
『じゃあね、ベル。オラリオでも元気にやるんだよ』
『ベル、良き旅を』
村から出る馬車。その見送りに来てくれたのは村の住人に加えてジャンヌとジル・ドレ。
二人によって鍛え上げられた肉体とジルの大槍にジャンヌの西洋剣、それらを携えて馬車の中で眠りについたのを覚えている。
「フゥゥッ」
足を広げ、膝を曲げる。大槍を肩に担ぎ、豊久との戦闘によって破れた服はどうでもいいと空いた左腕に炎を収束させる。
「燃やす!」
「こいは稽古じゃ。首取りはせんど」
炎はベルに効かない。
だから、燃え尽きるほどに全身を炎に巻いてもベルには何も影響がない。
死に向かってまっしぐらに突撃する。
炎に巻かれて深紅の瞳と白い髪が特徴的なベルも憤怒の形相となって印象が百八十度変わる。
それを見ての豊久の反応は、笑っている。
「恐ろしか術を使うのう」
防戦一方、ヘスティアから見たらそれはそう見えることだ。
ベルの魔力が尽きることはまずない、そしてベルの周りには常に炎が纏われ、槍にも同じものが付与される。
難攻、そんなものではないのが今のベルだ、普通なら逃げることを最優先に考える。
しかし、豊久は正気か?
豊久は正気であるがその思考回路は常に狂っている、戦に特化している思考をしている。
馬鹿ではないが馬鹿だ。
「じゃが、素人じゃの。なら、たやすか」
豊久にとっては戦ったことがあるようなものだ。
だから、恐るるに足りるものではなく倒せるもの。
そう豊久はベルに対して突出する。
気を失っていたのだろうか。
豊久と稽古をしていたはず負けたのか、と一瞬で状況を呑み込める。
「‥‥‥んぅ?」
誰もいないのか、と自室でのベッドの上で目を覚ます。
腰に差していたジャンヌの西洋剣とジルの大槍は壁に立てかけられているようだ。
しっかりと燃え尽きていた服は着ているようだ。
与一がやってくれたのだろうか、ありがたいことだ。
「ダンジョン行こう」
剣と槍を持つと本拠から外に出る。
一人で行くのは初ダンジョン、豊久に比べれば楽なものであろうと油断はしているっぽいが警戒心は持って挑む。
【青の薬舗】とは男神【ミアハ】が率いる医療系ファミリアである【ミアハ・ファミリア】の本拠である。
とある事情で団員が離れ、残るは元【廃棄物】である【アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ】と犬人である【ナァーザ・エリスィス】である。
借金を同じ医療系ファミリアの【ディアンケヒト・ファミリア】に作っているが完済はしている。
理由は【ヘスティア・ファミリア】の遠征にアナスタシアが同行していて報酬を貰っているからである。
今もアナスタシアは遠征に出かけており、残っているのはナァーザのみである。
【ヘスティア・ファミリア】は全面的に【ミアハ・ファミリア】に協力しており、様々な【冒険者依頼】を請け負っている。
アナスタシアは【治療師】としても有名である。
何よりもその胸と幸薄そうな雰囲気が人気だ。
誰かいわくおっぱいいずじゃすてぃす、らしい。よく分からないものである。
まあ、そんなことは閑話休題の話題に過ぎない。こんな話題書くなら、そうだ【タケミカヅチ・ファミリア】のことも話すこととしよう。
彼らは極東から出稼ぎに来た若者たちだ。【カシマ・桜花】に【ヤマト・命】それに【ヒタチ・千草】などがいる。
その中で異彩を放っているのはなんか信長に執着している金柑頭となんだか面白い方につく人。
金柑頭に関しては語ることは少なすぎる、というかない。
面白い方につく人、もう面倒くさいな【源義経】は特に変わり者である。
この人、まず強い。
速さでいえば易々と【女神の戦車】を超え、どんな手を使おうとも相手に勝つ、そんな思想も持っている。
与一いわく恐ろしい人であると。会っただけで冷や汗を流していた、それが故か彼は【ヘスティア・ファミリア】には入らなかった。
まあ、そんなことは関係ないだろう、ただ自由に好き勝手に動きたかっただけ、なのだろう。
ベルの働きは豊久たちが遠征に出かけていても変わらない。
朝には火の扱いと大槍に剣の鍛錬を、そしてダンジョンに潜る。
そんな時に悲劇、というのが適当だろうか。
ベルは笑って対応したのだが、普通は悲劇なのだろう。
上層でのミノタウロスとの遭遇、レベル1では勝てないモンスターを目の前にベルはどうしていただろうか。
「良さげな相手だ。燃やしてやる」
上層の洞窟は狭い。
そこで炎を使えば他のパーティがいたならば恐らく死ぬだろう。
だから普段は自重しているのだが、昂る心の前ではそんなものは無意味。
それにこんな【異常事態】だ、パーティがいるはずもないだろう。
炎といえば?不死鳥を思いつく。ならば不死身にしてもいいんじゃないかとも思ったけど却下ァ!