漂流物のファミリア   作:衛鈴若葉

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ベル君の炎と炉の女神ヘスティア、なんか親近感湧くなぁ!意図してなかったぜ。



火を畏れ給えよ

少年の強さは半端なかった、精神も肉体も並の比ではなかった。

火が洞窟を包み、火が少年と牛頭を包んでいた。

燃え尽きるであろうその熱量には第一級冒険者であろうと近寄れない。

そんな場所で戦っているのは恐慌状態で後にも前にも行けない詰んだ牛頭とその中で笑っている少年。

 

『ヴゥゥゥッ!!』

 

半ば狂乱状態の牛頭は悪あがきとばかりに腕を振り回す。

少年は押し黙り、ただただ槍を腕に食いこませる。

炎とは生命の象徴、炎とは太陽を表し全てを照らしている。

ヘスティアの眷属になったのは宿命であったのだろう、炉の女神たるヘスティアの元に聖なる火を届ける役回りとなった。

モンスターという邪悪を燃やし尽くしちぎり落とす。

炉の女神の愛しい従僕、ただの火とはよく言ったものだ。

それをベルは肯定して喜んでヘスティアのために死ぬだろう。

 

「燃えろよ燃えろ」

 

紅い瞳は炎の中でも牛頭を見ている、それを牛頭はしかと分かっている。

だから怖いのだ、逃げてきた先でも相対したあの化け物共より異常な化け物がいるなんてとそしてもう逃げられないことを知ってしまっている。

 

『ヴゥゥゥ、ヴモォォォォォォォッッ!!』

 

「僕が仕えるのは炉の女神。なら僕の力が増幅するのは必然」

 

ベルは既にヘスティアを主として認めている。

ベルの師匠は神のために戦い、その末に人に殺された復讐者。

ならば神に仕えるは必然、神のために全てを尽くして、費やすのは必然のこと。

 

「不死鳥の如く舞い踊ってみせよう」

 

周りから炎か失せた時、ベルの身体から羽が生える。

流麗な、それはそれは神秘的なもの。

ベルの顔も身体も失せて純粋な火がベルの身体になる。

その概要は、分からない。

わかってはいけないものだった。

 

「なんだァ?ありゃあ」

 

それを見ていた外野も声を漏らす。

声すら漏らせない者もいるが、二人ともベルに魅入っていた。

なんだか、あの首狩りと同じようなそんな感じがしたのだ。

容易にミノタウロスの身体は裂かれる。

ただの一薙で、魔石すら砕かれて、ミノタウロスは死ぬ。

戦闘終了、そう認識すると先程の殺気が嘘のように炎は収束して元のヒョロい白兎が現れる。

装備も初心者セットで腰にあるのはバックパックと支給品のナイフ。

目立っているのはやはり担いでいる長槍、左目の蒼炎であろうか。

 

「あぁ、砕いちゃったかぁ」

 

灰の中に魔石は存在しないがドロップアイテムは存在する。

【ミノタウロスの角】それを見つけた時のベルの反応は初々しくて微笑ましいものであった。

それに一瞬動揺してしまう【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者である【アイズ・ヴァレンシュタイン】と【ベート・ローガ】であったがベルがドロップアイテムを回収して帰る時に我に返る。

 

「ちょっと待って」

 

「はい?」

 

アイズが呼び止めるとベルは振り返る。

何故呼び止められたかわかっていない様子であったようなので説明するべきだろうとアイズはベートにそれを託す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルは高揚感に溢れている、わけではなかった。

ミノタウロスは強かったし一度当たればベルが死んでいたのは確実であっただろうが半月で何故か新しいスキルが発現していたため、それによって少しでも生きていたら回復できたのでそんなに危機感もなかった。

【異常事態】ではあったため、報告義務はあるためにギルドへ足を運んだのだが、すぐさまエイナに個室に連れていかれた。

 

「ベル君」

 

「な、なんですか?」

 

エイナは机に肘をつけて指を絡ませてその上に顎を置く。

なんかどこかのマダオがやっていそうなポーズだが、真剣な顔をしたエイナがそれをやっているので綺麗、や可愛い、が先行せずおっかないが勝るものになっている。

 

「私、言ったよね。いくら君が強くても相応の働きをしてねって」

 

「で、でもあれは【異常事態】でっ」

 

「うん、それはわかるよ。大変だったよね」

 

うんうん、とエイナは二度頷く。

しかし眼光は鈍ることなくベルに突き刺さっているため縮こまったままだ。

 

「でもね、私のことも気にかけて欲しいな」

 

「えっ?」

 

「ベル君が帰ってきてくれないと私の気が休まらないしベル君に厄介事持ってこられると胃が、ね」

 

「ええっと。‥‥‥ああ、豊久さんですか。」

 

ヘスティアから教えられた豊久のトラブルメーカー具合は計り知れないものであった。

狂奔、であったか豊久の狂気に共に戦う者は魅入られていく。

だからこそトラブルメーカー、いや薩摩兵子は伝染していく。

おそらくベルもそれに魅入られているのだろう。

 

「‥‥‥善処します」

 

「お願いよ?お願いねっ!?」

 

「ガンバリマース」

 

「目に光がないんだけどっ!?」

 

厄介事を持ってくるな、そんなものは無理な話である。

諦めよう、そう誓ってエイナには色々と優しくしよう。

とまたまた誓う瞬間であった。

 

換金を終えてギルドを出る。

その後のこと、ベルは一直線に本拠ではなくヘスティアのバイトをしている屋台を目指して歩く。

 

「あ、ベル君」

 

「神様ー、帰りました!」

 

「おかえりー!じゃが丸くんはいるかい?」

 

「じゃあプレーンを一つ」

 

ヘスティアは熟練の動きでじゃが丸くんを揚げてベルに渡す。

朝昼、全てをじゃが丸くんに捧げてきたヘスティアのじゃが丸くんは絶品である。

どこぞの金髪じゃが丸くん大好き剣姫も通い詰めるくらいには絶品だ。

 

「今日って豊久さん達帰ってくる日ですよね。ダンジョンで【ロキ・ファミリア】の【剣姫】さんに会いました」

 

「アイズ君にかい?確かに予定は今日だけど、何かトラブルあったのかな」

 

先に【ロキ・ファミリア】が潜っているとはいえ【ヘスティア・ファミリア】の潜る速度は【ロキ・ファミリア】を容易く超える。

それにあの遠征は単なる調査のためであり、早めに帰還するのが予定であった。

まあ、ヘスティアにはオラリオに信長が勝手に延ばした斥候によって大体の情報は簡単にヘスティアの手に入るようになっている。

それがまたヘスティアの頭を悩ませる要素になっているのだが関係ない話である。

 

「トラブル?」

 

「ん、いやなんでもないよ。ベル君は直ぐに帰るのかな」

 

「そうですけど、神様も一緒に帰ります?」

 

「そうしようか。そろそろバイト終わるし」

 

もう屋台を閉める時間だと店長にまで成り上がったヘスティアは屋台を片付けようとベルに手伝いを頼む。

無論、ベルはそれを断らずにそれを手伝った。

 

「‥‥‥あぁ、誰か手伝ってくれないかなぁ」

 

本拠に残った童貞人間の過労によるその呟きは誰にも聞かれることはなく無視される。

 

 

 

 




このベル君がアポロンの眷属になったとしてもこんな力は出せないゾ。
善神であり、炉の女神であるヘスティアだからこそなのです。
このベル君が、アーカードっぽくしてぇなぁと思ってこんな感じにしました。

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