転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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10話 町作り

「おかえりリムル!」

「ご無事のお戻り、何よりでございますリムル様!」

「おう、ただいま」

 

 リムル達がドワーフ王国から帰って来た。村の住人達は皆リムルを出迎えたがり、続々と村の入口に集まってきて、ちょっとした集会のようになっている。

 大袈裟だな、と言いながらもリムルも少しくすぐったそうだ。

 

「どうだったレトラ、元気にしてたか? 俺の留守中に敵が攻めてきたりは?」

「なかったなかった」

 

 その代わり、他のゴブリン村から村長達が訪ねてきていることを伝える。

 ウチもまだ復興の真っ最中だし……とリムルは考え込んでいたが、自分がヴェルドラを『捕食』したことが森の情勢変化の原因とすると、放置するのも寝覚めが悪いんだろう。来たい者は来い、とゴブリン達を受け入れることが決定された。

 そして後日、村には移住希望のゴブリン達が五百人ほど到着し、それだけでもウチの数倍となる人数を前にして、リムルが途方に暮れたように俺を見た。

 

「……レトラ、名前を付けるのを手伝ってくれるなんてことは」

「ごめん無理」

 

 キッパリと断って、だが俺は今回もまたリムルの名付けに立ち会った。

 いや五百人分の顔と名前を覚えろって、難易度が高すぎるだろ……! 絶望的な気分で全員分付き合ったけど、これは覚えられない。無理です凡人頭脳の限界です。

 四人の元村長、ルグルド、レグルド、ログルド、リリナ。あとお付きとして来ていた数人は覚えたから……あとはどうにか少しずつ…………先生、本当に手伝ってくれよもう! 

 

 そういえば、元村長達には最初の面会で結構な脅しを掛けてしまったので、忘れずにフォローもしておいた。これから幹部になってもらって長い付き合いになるんだし、何か不都合はないか気を付けて声を掛けて、配下になるなら俺も頑張って守護するよ怖くないよーというアピールを続け、だいぶ慣れてくれたと思う。

 

 今の村では全員が暮らすには狭すぎるため、封印の洞窟近くの土地に引っ越し、そこに新たな町を作り上げるという提案がリムルから皆へ伝えられている。広場に集められたゴブリン達は真剣に話を聞いていて、リムルの意見に異を唱える者はもちろん誰もいなかった。

 

 リムルがドワルゴンから連れてきたドワーフの職人達、カイジンと、ガルム、ドルド、ミルドの三兄弟。彼らのうち、建築に明るい三男ミルドが数名のホブゴブリンと共に測量班として現地へ向かっている。開拓準備が終わるまでの間は、ガルム、ドルドが村の者達へ衣類製作や細工の技術指導を進める。

 やがて測量班から、移住の準備が出来たとの知らせが来た。今まで村のあった場所は跡地となり、皆がそれぞれ荷物を背負い、長い行列を作って新天地へと出発したのだった。

 

 

   ◇

 

 

 新たな町の建設予定地へ移動してきてから、数週間ほどが過ぎた。

 そこでは俺の推し進める上下水道整備を第一として、仮設の広い寝泊まり所や、前の村に建てられていた簡易テントよりはしっかりした作りの大きめのテントが並ぶようになってきた。

 今日は工事の様子を視察する俺に、レトラがついて来ている。

 

「ゼロから森を開拓するなんて本当に出来るんだな……皆すごくない?」

「カイジンも三兄弟も本当に優秀だな。連れてきて良かった」

 

 それに俺が名付けたゴブリン達も順調な進化を果たし、知能も体力も進化前とは比べ物にならないほどだ。四つの村から来た族長達はそれぞれゴブリン・ロードに任命し、ゴブリン・キングへ格上げしたリグルドの下に就かせたので命令系統も整って、皆が一丸となって町作りに励んでいた。

 レトラも度々、カイジンやミルドについて回っては、土地造成を手伝っている。

 

『カイジンさん、切り株が邪魔なら俺が砂にしようか?』

『ほお、そうか、レトラ坊は砂妖魔(サンドマン)……木を枯らせるのか。そりゃあいいな』

『おいレトラ、お前勝手に……』

『何でだ旦那? せっかくレトラ坊が手伝ってくれるって言ってるのによ』

 

 俺は別に、レトラに働くなと言ってるわけじゃないんだよ。

 カイジン達は子供っぽいところのあるレトラを甥っ子のように可愛がっていて、レトラが手伝いをしたいと言い出すのを微笑ましく思って好きにさせているようだ。

 

 だがレトラの仕事ぶりは、そんな子供の手伝いのような生温いものではない。

 工事の基礎作りに邪魔となる切り株を……しかし片付けるにはホブゴブリンが数人掛かりで掘り起こし、地下に張り巡らされた厄介な根を辿って取り除いてという重労働を、『風化』でサラサラッと根の先まで砂にして、尚且つ『砂工職人(サンドクラフター)』で砂から土を作って地中の空洞を何事もなかったかのように埋め直す、それらの工程を一分掛からずに終わらせてしまうのは流石に超能力過ぎるのでは? 

 

 迅速、的確、便利な凄まじい力だが、レトラにばかり頼ってしまって本当にいいのか? と俺は思うのであって……まあレトラも以前の俺の言い付けを守って、他の者の仕事を奪うほど張り切ってはいないようだし、急ぎの案件の応援程度ならいいだろうと許可を出していた。

 

 

 

「リムル様、レトラ様ー!」

 

 視察をしながら歩いていると、リグルドが駆け寄ってきた。

 近くの森で冒険者らしき人間達が巨大妖蟻(ジャイアントアント)に襲われていて、リグル達の警備班が保護しこの町へ連れて来ているらしい。そいつらは森で何かの調査を行っているということだったので、俺に報告に来たようだ。

 とうとう来たか……人間が! 

 

「御苦労。よし、そいつらに会ってみよう」

「リムル、俺も行くよ」

「ダメだ危険だ。レトラは待ってろ」

 

 万が一、ドワルゴン入国前に会ったあのアホな冒険者みたいな奴らだったらどうするつもりだ? 喋るスライムが珍しいからって捕まえられ、見世物として売られるかもしれないんだぞ? 俺が許しはしないがな。

 レトラは砂スライムのまま、器用に不満そうな態度を見せた。

 

「リグルド。その人達はどうだった? 危ない感じした?」

「いえ、特には……リグルにも感謝を述べていたそうですし、我らに対する敵意はないかと。あと空腹だと言うので食事の用意をさせると伝えたところ、大層喜んでおりましたな」

「ほら、すごく大丈夫そう!」

 

 うん……それを聞く限りだと、かなり能天気な連中だな……?

 魔物への偏見がなく、こちらと会話が成立するのなら、レトラを連れて行っても大丈夫かな。あまり厳しくしすぎるのも何だし、俺が一緒にいれば問題ないか。

 

「やった! あ、俺、人間になっておこうか?」

「いや……もう町を見られてるわけだしな、魔物の俺達を受け入れてくれることを願おう」

 

 ここで魔物の町が建設中ということは、もう誤魔化せない。

 出来ることならこの出会いを、人間達との交流の第一歩にしたいものだ。

 

 

 

 リグルドに案内されたテントの中では、四人の人間が焼肉を食べていた。

 焼肉……味覚のない俺には羨ましいぞこの野郎……という私情は一旦脇へ避けておこう。

 そのうち三人は、何とヴェルドラのいた洞窟で入れ違いになった冒険者達だった。レトラも覚えていることだと思う。あと一人は長い黒髪の女性だが、仮面を着けており表情が全くわからない。しかも仮面のまま上品に焼肉を食べている。手品かよ。

 

「お客人方、寛いでくれておりますかな? こちらが我らの主、リムル様と、レトラ様である!」

「えっ……主!? スライムが!?」

 

 主で悪いか、と思うものの、その反応も無理はない。見たこともないであろう筋肉ムキムキのホブゴブリンがスライムを二匹連れて来たと思ったら、主とか言い出すんだもんな。

 仮面の人以外の三人は困惑しているようだし、ここは緊張をほぐす意味でも……

 

「初めまして! 俺はスライムのリムル、悪いスライムじゃないよ!」

 

 ぶっ、という声がサラウンドで聞こえた。

 冷静に食事を続けていた仮面の人が噴き出したのだ。通じた……のか? 

 

「失礼……ごめんなさい、笑ったりして」

 

 仮面の人が片手を持ち上げ、顔を覆っていた仮面を外す。

 その下から現れた柔和な笑み──俺はその顔を知っていた。ドワルゴンの夜の店で占って貰った、俺の"運命の人"。まさかこんなところで出会えるとはな。

 あとレトラ、お前がウケてどうすんだよ。『思念伝達』でつついてやると、ごめん思った以上に面白かったと意味不明な返答が来た。白けるよりは、笑ってくれた方が気は楽だが。

 

「初めまして、俺はレトラ。砂妖魔(サンドマン)だよ」

砂妖魔(サンドマン)も喋るんだ……」

 

 三人組は俺やレトラが喋ったことに驚いているようだが、仮面の人は違うだろうな。レトラと同じく今のネタが通じたのであれば、恐らくは日本人だ。よく見ると正座してるし。

 そいつらは元々三人組のパーティーで、リーダーの"重戦士(ファイター)"カバル、"法術師(ソーサラー)"エレン、"盗賊(シーフ)"ギド、冒険者ランクはB。そこへ臨時で加わっているのが仮面の人、シズさんという話だった。

 

 この森へ来た目的を尋ねると、カバル達はあっさりと全てを話してくれた。

 "暴風竜"ヴェルドラが消えたことを発端とし、ブルムンド王国のギルドマスターから、封印の洞窟やジュラの大森林の調査を請け負ったらしい。ああ、それで洞窟にも来ていたのか。

 こっちとしては情報を得られて大助かりだが、コイツらを雇ったギルドマスターには同情するな。この世界に守秘義務ってないのかね。

 

 ヴェルドラの消失は、森の魔物達だけでなく人間達までをも騒がせる大事件となっているようだ。俺からすれば話し好きのいいヤツだったのだが、まさかそれほどの大物だったとは……そんなヴェルドラさんが俺の胃袋の中にいるだなんて、周りにはバレないようにしよう。

 

「話はわかった。今日はここに泊まっていくと良い、ゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます!」

 

 気の良い連中だ。魔物である俺達にも平然と接するし、礼も言える。

 世の中が皆こんな人間ばかりじゃないんだろうが、それでもうまくやれば、人間達と共存していくのも決して夢物語ではないような気がした。

 

 

 




※原作沿いですが、web、書籍、漫画、アニメの内容を適宜都合良く含みます



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