転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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91話 保護者達の反応

 

 三獣士やガビル達が、数万の獣人達と捕虜を引き連れて魔国へ到着した。

 レトラやシオン達と共に行列を出迎え、三獣士達からの挨拶を受けた後、ガビルとその部下達も俺の所へやって来たので、労いの言葉を掛けてやる。

 

「お前も幹部になったことだしな。今後もよろしく頼むぞ」

「ハハッ! このガビル、リムル様の期待に応えられるよう、これからも精進する次第であります……! あ、そうでしたリムル様。ミリム様より書状を預かって参りましたぞ」

「ミリムから?」

 

 渡された手紙には、ミリムの元気の良い……あるいは自由度の高い筆跡で、今度自国の人々を連れて遊びに行くので、彼らに料理というものを教えてやって欲しい、というやけに切羽詰まった思いを感じさせる内容が綴られていた。

 何かと思ってガビルに聞いてみると、どうやらミリムの国の"竜を祀る民"には、料理の概念がないそうなのだ。自然の恵みをそのまま食べるのが正しいと思っているようで、そうすると必然的に主食が生野菜ということに……それは辛いな。

 

 ミリムはあれで空気の読める良い奴なので、自分のために善意で行われていることに文句が言えないんだろう。ミリムがあまり家に帰りたがらないのも、それが一因なのでは……? 

 我が国は料理にはそれなりの自信がある。ミリム達が魔国へ来た時には、美味しいもので持て成すとしよう。それでミリムの世話を焼きたがるという人々が、ミリムが何を望んでいるかに気付いてくれればいんだけど……

 

 そして俺がガビル達と話している間、向こうではレトラが、アルビスとスフィアと歓談していた。フォビオは来ておらず、ユーラザニア跡地で働く捕虜達の見張りのために、ゲルド達と残ったと聞いている。

 

「二人ともありがとう。無事に戻って来てくれて嬉しいよ」

「そりゃ、そういう約束だったしな! オレ達も誰一人欠けちゃいねぇぜ」

「戦士団の無事を望むレトラ様の御言葉は、我々にとても力をお与え下さいましたのよ」

「うん、それなら良かった。被害を出さずに勝てたのはユーラザニアの協力があったことも大きいし、戦士団の皆にも感謝し…………ってあの、どうかした? 何か良いことあった?」

 

 レトラが不思議そうに小首を傾げる。

 アルビスとスフィアには何となくおかしな雰囲気があった。アルビスは慈愛に満ちたような優しい顔でレトラを見ているし、スフィアなんか、ウズウズと? 緩みそうな口元を引き締めて……褒めて貰いたそうにしているランガのような──って、それは失礼か。

 

「とにかくお疲れ様。今日はちょっとした宴会があるから、楽しんで行って」

「じゃあよ、レトラ様! 大将も無事だったし、戦も終わったことだし」

「スフィア?」

「またオレの肉球触らせてやるよ!」

 

 ……そうだった。

 レトラの奴、スフィアとその約束をしてたんだったな…………

 

 

 

 

 夜には、帰還した者達を労う宴会が開かれた。

 集会場の大広間にはテンペストとユーラザニアの幹部や隊長格が集まり、いくつかの座卓に分かれて美味い料理と酒に舌鼓を打ちながら、互いの無事と健闘を讃え合う。

 そんな賑やかな喧騒から少し離れた所に──その問題の光景はあった。いつぞやのように『獣身化』で白い大虎となったほろ酔い加減のスフィアが、畳に座るレトラに寄り添うように寝そべって、ゴロゴロと喉を鳴らしながら纏わり付いている姿が…………

 

 レトラがスフィアの前足に手を添え、肉球をムニムニと揉んでいる。白い巨体とのギャップが大きい、あのプニッとしたピンク色の肉球は、確かに柔らかそうだとは思うけど。くすぐったいのか、時折スフィアが抗議するようにレトラの頭を鼻先でつつくと、レトラが首を竦めて笑う。

 

 イチャイチャしやがって…………

 一見すれば、大きな白虎と美少女が仲良く戯れているだけの微笑ましい情景なのだが、俺達の胸中はちっとも安らかではない。ランガなど、レトラを取られてしまった気分になるのか、俺の影の中でスン……と丸くなっている。可哀想に。レトラも元気を無くしたランガには罪悪感を覚えるようで、宴の前に「後でいっぱい遊んであげるから!」と必死のご機嫌取りをしていた。

 

「リムル様……本当にあのままでいいんですか? 他国の幹部があれだけレトラ様に接近するというのは、俺としては見過ごせないんですが」

「そうは言ってもなぁ……」

 

 同じ卓で飲んでいるベニマルが、不機嫌そうに言う。前回こいつは留守にしていて、レトラとスフィアのじゃれ合いを見ていないからな……

 俺のいる卓には他に、シュナやシオンといういつもの顔触れが揃っており、その二人は……あ、やっぱり不機嫌でした。レトラ達を見守る目が怖い。ソウエイには警備任務があるので、影空間のどこかから見ているだろう。快くは思っていないだろうが、俺に暗殺の許可を求めて来ないだけマシである。

 

「クァーハハハ! どうしたリムルよ、飲んでいるか?」

 

 酒を片手に、能天気なヴェルドラが現れた。

 まったくこの人は……俺やレトラが忙しく働いている間にも一日中漫画を読んでダラけているし、遠慮という言葉とは無関係に飲むし喰うし、ダメな大人の見本のようだ。

 まあその話はいい。そっちでイチャついている例の二人を、静かに顎で示す。

 

「ヴェルドラ……あれ、どう思う?」

「ん? レトラと、獣人族(ライカンスロープ)のスフィア……ほう、『獣身化』か。レトラとの腕試しはなかなか見応えがあったが、あの獣化した姿ではどのような戦いとなるであろうな? もちろん、今度こそレトラが勝つことは決まっておろうがな! クァハハハ!」

 

 なるほど……戦闘狂(バトルマニア)さんらしい意見だ。

 それで、レトラと互角の戦いをしたスフィアの評価も結構高いってわけか…………ん? 

 

「お前、まるで見てきたみたいに言ってるけど……あの時は封印されてたよな?」

「そ、そうだとも! 残念ながら我はレトラの勇姿を見ることは叶わなかったが、立派な戦いぶりであったと町で噂されていたからな! おおそうだ、ゴブタ達が言っておったが、広場でも宴を開いているそうではないか? よし、我も少々顔を出してくるとしよう……!」

 

 ヴェルドラは何かを誤魔化す様子だったが──実際、集会場だけでは足りなかったため町の広場にも食事や酒が用意され、お祭りのようになっているらしい。捕虜達もいるので警戒は怠らないようにと命じてあるが……ヴェルドラが行くんだったら、それだけでかなりの牽制効果が期待出来るだろう。

 広間を去るヴェルドラを見送って、シオンとシュナがしょんぼりと肩を落とす。

 

「ヴェルドラ様は偉大な御方です……私など、全く平静を保てずにいると言うのに……!」

「やはりそれは、ヴェルドラ様がレトラ様を心から信頼していらっしゃるからなのでしょうね……それに比べてわたくし達は……お恥ずかしい限りですわ」

 

 二人とも、別に恥じる必要はないと思うぞ……ほら、ヴェルドラは大雑把で鈍いところがあるからさ。

 だが、ヴェルドラの心の広さには俺も一目置いている。俺達はついついレトラに対して過保護になってしまうが……レトラを信用しているのなら、ヴェルドラを見習って堂々と構えていた方がいいのか……? 

 

「まあ……人目があっても気にしてないってことは、レトラにもスフィアにも他意はないんだろうからな。俺達の見える範囲にいてくれるなら、目くじら立てるほどのことじゃ──」

 

 と、自分に言い聞かせていた矢先に、それは起きた。

 肉球をプニプニされていたスフィアが、レトラの耳元へ囁いたのだ。

 

「なあレトラ様、あのな、えっと……あんたに話があるんだよ……ここ、抜け出せねぇかな?」

 

 …………!? 

 スフィアの唐突な発言は、聞き耳を立てていた俺達を見事に動揺させた。

 だがその衝撃も抜け切らぬうちに、レトラが「いいよ、じゃあどこかに」と返事をしやがるので、おちおちフリーズしてもいられない。すかさず動いたシュナが、では応接室にご案内しますね、と人型に戻ったスフィアを連れ出し、俺はちょっと来いとレトラを手招いた。

 素直にやって来たレトラに、さて一体どう言ったものかと悩みつつ、ぶっつけで口を開く。

 

「いいかレトラ、お前はこの国では立場ある身だ……そう簡単に他国の者と二人きりになるってのは、ちょっとマズイ行動だと思うような思わないような気がしないか?」

「でもユーラザニアは友好国だし、スフィアは友達だし」

 

 わかってるよ! 俺だって、スフィアにレトラへの害意があるなんて思っちゃいない。ただその逆で、レトラへの必要以上の好意があったら嫌だなー……なんて…………

 要するにだ、これはランガを拗ねさせているのと同じような、言ってしまえばただの嫉妬心でしかなく……レトラにとっては理不尽な話だろう。身内以外とは関わらずにここにいろ、だなんて間違っても言うべきではない……俺にもそれくらいの分別はある。

 出遅れていたシオンとベニマルが、せめて護衛をと懇願するも、レトラは困り顔だ。

 

「うーん……スフィアは今日ずっと何か言いたそうにしてたんだけど……それって他の人に聞かれたくないってことだろ? 来てもいいけど、防視防音の遮断結界張るよ?」

 

 何だってこいつはこう、要らんところで器用なんだろうな。

 結界を壊せないことはないと思うが、壊せばレトラからの信用を失くすだろう……すると俺達には何も出来ない。中で何が起きていようと感知出来ず、手が出せなくなる。その方がマズイ。

 

「わかった、レトラ……行って来い。ただし結界は張るな。俺達も覗かないし、盗み聞きもしない。だがお前の安全も大事だ、常識の範囲内で異常を感じたら動くぞ。それでいいな?」

「んー……リムルが言うなら。そうするよ」

 

 

 

 レトラには、ソウエイの分身体を一体連れて行かせた。

 室内の会話が聞こえない距離で応接室の警護をする、ということで話を付けている。

 スフィアを案内しに行っていたシュナも、そのうち戻って来た。

 

「もうお酒は必要ないでしょうから、氷を入れた林檎のジュースをお出しして参りましたわ」

 

 よし、これで酒の勢いでってこともないだろう……って、俺達は一体何を心配してんだ。

 宴会の続く広間の中で、俺達の卓だけがシーンとしたお通夜状態となっていた。酔いも醒めてしまったらしいシオンがグラスを両手で握りながら俯き、「企みが読めました……」と呟きを漏らす。

 何だって? 企み? 

 

「スフィア殿はレトラ様を甘言で誘い、魔国から連れ去ろうとしているに違いありません……!」

「シオン、気持ちはわかるけどな……友好国をそこまで疑うのは……」

「いいえリムル様、私は忘れてはいませんよ! 以前スフィア殿が、自分達の国にもレトラ様のような姫がいればいいのに、と言っていたことを!」

 

 ん? 何だかそれ、俺も聞いた覚えがあるような……

 あれは、ユーラザニア使節団の歓迎会で……? 

 

『あんたみたいな姫様がいてくれりゃ張り合いも出るってもんだろ。ウチにもいりゃあいいのになぁ』

 

 ……あれ? 言ってたな。それってつまり、どういう…………

 

「すると、あれはまさか……いや……?」

 

 こっちではベニマルが青褪めている。何だ、どうした。

 ベニマルは焦った顔で、戦場に同行していた三獣士から聞いたという話を語り出す。

 ユーラザニアの三獣士の──"姫君"への並々ならぬ執着を。

 

 だから何で、レトラは自分の国よりも他国から熱心に姫扱いされてんだよ──とは思ったが、今はそれどころではない。ええと? それらの話を合わせて考えると…………

 

 もしかしてスフィアは、本当に、()()()()()()()って可能性があるのか……!? 

 

 いやしかし、レトラが肉球に釣られて国を出て行くなんてバカなことがあるわけないし……大体、レトラは強いぞ。連れ去るなんて現実的じゃない……だったら、どうしようってんだ……? 

 そこへシュナが、あの……と緊迫感漂う表情で声を上げる。

 

「た、例えばの話ですが……レトラ様に婚姻を申し込む、という方法でしたら……」

「ッ……!?」

「そうすれば、レトラ様を自国へ迎え入れることも不可能ではなくなるかと……」

 

 飛躍しまくった考えではあるが、それを思い過ごしだと笑い飛ばせないほどには、今日のスフィアの挙動はおかしかった。彼女は本来もっと豪快な性格をしているはずなのに、妙にソワソワとして、レトラと二人になりたがって…………

 

 え、マジで? あいつ今、スフィアに結婚申し込まれてんの? 

 レトラは無性の砂妖魔(サンドマン)だが、本人の意識的には中身は男……ヴェルドラの嫁取り発言にはハイハイって感じだったが、もし女性に言い寄られたら、レトラはどう反応する……? 

 あ、ダメだ、頭が痛くなってきた……『痛覚無効』仕事しろ。

 

「申し訳ありませんリムル様、俺の失態です! もっと早くその可能性に気付くべきでした……!」

「リムル様、部屋に踏み込む許可を! 急いでレトラ様をお守りしなくては!」

「待てお前ら、落ち着け! 今約束を破ったら、レトラは二度と俺達を信用しなくなるぞ……!」

「くっ……!」

 

 ベニマルとシオンを制し、ソウエイに連絡を取る。

 ソウエイは影空間から俺達の会話を把握していたようだ。普段と変わらない静けさで、『応接室の異変を察知した際には、一思いに……?』と確認されたが、まだそうと決まったわけじゃないから! お前も大人しくしとけ! 

 

 報告では、部屋の外から窺う限りでは異状無し。ただ何かを話し合っているだけのようで、たまにレトラが声を張り上げてツッコミを入れているのが聞こえるらしい。レトラが元気で何よりだ。

 あいつ、本当に結界張ってないんだな……レトラは俺の言葉を信じてくれている。それなら俺達も早まるべきではないし、楽しそうにしているだけなら心配することもない……んだろうか? 

 

 

 

 

 しばらくして、レトラとスフィアが大広間に戻って来た。

 俺達は注意深く二人を観察するが、特に親密な空気……といったものは感じられない。

 だがスフィアの様子は更に変なことになっていた。首を捻りながらというか、考え事をしながらというか……いわゆる上の空で、獣人達が集まる卓の傍に座り込んでしまったのだ。

 

 レトラは俺達の卓へ来て腰を下ろすと、無事の生還を喜ぶシオンやシュナの勢いに若干引きつつも、並べられた料理をつまんでいる。

 俺は手にしたグラスを傾けながら、久しぶりに隣へ戻って来たレトラに声を掛けた。

 

「おかえりレトラ……なあ、何の話だったか聞いてもいいか?」

「あーうん……今度からスフィア達は、ミリムに仕えることになっただろ?」

「え? ミリム?」

「"破壊の暴君(デストロイ)"のイメージが強いみたいだったから、ミリムは良い子だよってオススメしといた」

「…………」

 

 そうだな、俺もミリムは良い奴だと思ってるよ……

 蓋を開けてみれば、俺達の狼狽っぷりが馬鹿馬鹿しくなるほどの内容であった。

 

「何だよ、そんな話かよ! 俺達はてっきり、お前に見合い話でも持ち込まれたんじゃないかって」

「んっぐ!?」

 

 唐揚げを飲み込もうとして失敗したのだろうか、レトラが目を白黒させる。

 何やってんだ、早く砂にしろ砂に。

 

「もう、リムル様ったら。縁起でもありませんわ」

「レトラ様ならばどの国からも引く手数多なのは当然ですが、この私が許しませんよ!」

「そんなことになったら戦争するしかないですね」

「そうだな」

 

 ようやく不安が取り除かれ、俺達は冗談めかした調子でハハハと笑い合う。

 ところで……何でレトラは、目を泳がせてるんだ? 

 

 

 

 




※次回はレトラ視点の解答編が含まれます


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