転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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92話 獣人達の主張

 

 何だかスフィアは、俺に話があるらしい。

 応接室で話を聞くことになり、先にシュナがスフィアを案内してくれているので俺も向かう。

 リムルの命令でついて来たソウエイ(本体)は、部屋から距離を取って警護をするそうだ。気付けば本体が来るのは、ソウエイにはよくあることなので気にしなくていいヤツだが……

 

「レトラ様、敵がどのような手を使って来るかはわかりません。どうか油断なさらぬよう……」

 

 敵って言ったぞ……

 あのさ、スフィアを刺客か何かのように話すのはやめような……? 

 気を取り直して応接室に入ると、ソファにスフィアが腰掛けていて、シュナが飲み物の入ったグラスを給仕していた。あれは、林檎ジュースか。

 

「こちらはユーラザニアの果物から搾った果汁ですわ。レトラ様が御考案された飲み物ですので、是非お召し上がりくださいませ」

「へぇ、どうせなら酒の方が良かったが、そういうことなら頂くぜ」

 

 シュナは「どうぞごゆっくり」と会釈してから出て行った。

 その可愛らしい笑顔に脅しを掛けられたような錯覚を起こしたが、気を取り直して(二回目)俺も向かいのソファに座り、冷えたジュースを一口飲む。

 たかがジュースと侮るなかれ、これはこの世界では贅を凝らした一級品だ。貴重な甘い林檎を真空製法で搾り出して新鮮なまま瓶詰めし、カイジンとベスターが研究中の冷蔵庫でキンと冷やして、グラスには氷魔法で作った氷も入れている。その工程をざっと説明すると、スフィアも自国の果物がこうして生まれ変わっていることに満足そうな顔をしていた。

 

「それでスフィア、俺に話って何?」

「あー……そうだったな……」

 

 部屋にはスフィアと二人きり。

 軽い雑談で気分は解れたかと思ったが、スフィアはまだ踏ん切りが付かないようだ。

 

《問。遮断結界は不要とのことですが、盗視・盗聴への警戒を強化しますか? YES/NO?》

(いや、普段通りでいいよ。リムル達は覗かないって言ってたしな)

 

 ウィズはいつもの感知レベルで周囲を見ておいてくれればいい。

 シオンやベニマルの護衛は断ることになったが、俺自身はそこまで完璧に人払いをしたいわけではなかった。言い出しにくいことがありそうなスフィアには配慮した方がいいと思ったけど、俺にとって聞かれてマズイ話なんて、こんな所では出て来ないだろうし──

 

「あのよ……ヴェルドラ様の封印が解けた時、レトラ様を娶るだの何だの、そんな話をしてたよな? あんたは違うって言ってたけど、あれって結局どうなってんだ?」

 

 フラグ回収が早すぎるんだよなあ……! 

 別にマズイ話ではないけど、良くもない話が来た! 

 

「……ああ、あれ、俺はOKしてないんだよ。ヴェルドラとは親子だし、結婚はしないと思う……」

 

 そういえば俺、まだヴェルドラにしっかりとお断りをしていない。ヴェルドラ復活直後のあの時や、魔王達の宴では、皆の前で振るのかよって問題があったけど……それも言っとかないとな……はあ。

 俺が答えると、何故かスフィアは、そうか! と顔を輝かせた。

 

「レトラ様、あんたは随分と見違えたよな。冬毛も伸びたし」

「冬毛……」

 

 いや俺のは、冬に向けて毛が伸びたのと違います。

 でもこれは獣人族特有の表現なんだろうから、そう思えば面白いかもしれない。

 

「こんだけ成長したんだ、あんたもそろそろ番を探してもいい年頃なんじゃねぇのか?」

「まだ十二歳くらいだし、早いんじゃないかな?」

「それでな、話ってのは……オレも色々考えてみたんだけどよ」

 

 あ、俺の話は聞いてない感じですか……

 スフィアは覚悟を決めたように勢い良く立ち上がると、テーブルを回り込んでこっちのソファへやって来た。俺の隣に上がり込み、ずいっと身を乗り出してくる。

 

「なあ、レトラ様……もし、あんたさえ良かったら……」

「え……」

 

 部屋には、スフィアと二人きり。

 至近距離にある猫のような瞳に、俺が映っているのがわかる。

 スフィアは少し躊躇いがちに──しかし期待と興奮を宿した目で、じっと俺を見つめながら。

 

「カリオン様に……ユーラザニアに嫁いで来てくんねぇかな?」

「そっちかよ!!」

 

 何でここでカリオンが!? 

 スフィアにプロポーズされるのかと思ったわ! ドキッとして損した! 

 そして、初めから俺が嫁ぐ側だという想定がされているのは遺憾である。じゃあカリオンを嫁に出来るのかと聞かれたらアレだけど……違うな、問題はそこじゃないな。ビックリしすぎて思考がおかしい。

 

「相手がいねぇならいいじゃねえか、考えてみてくれって! あんたが嫁いで来てくれりゃあ、晴れてオレも姫様に仕えられるんだし」

「ん……!?」

 

 出たよ姫様……! スフィアは、俺を姫扱いし始めた元凶トップ2の一角だからな……

 だが俺は冷静に対応しなければ……ディアブロじゃないんだから、口利かない攻撃が通用するとは思えない。しかし今、大きなヒントが出たような気がする。突然の見合い話(?)には、スフィアの姫様発言が関係しているとすると……? 

 

「……スフィアは、姫様が欲しくてそういうこと言ってるの?」

「ああ! 姫に仕えるのはオレ達の夢だからな」

 

 そ、それでスフィア達は、姫姫ってうるさかったのか! 自分達が姫様欲しかったから、何だかテンペストにいるパッと見は美少女……の俺を姫様に当て嵌めて、その俺をユーラザニアに連れて行けば解決すると……いやいや、やめようよ。そんなもん押し付けられても困る。

 

「スフィア、俺は女じゃないんだよ……だから姫でもな」

砂妖魔(サンドマン)だもんな。オレはいいぜ、レトラ様なら男でも女でも、どっちでもなくてもな!」

「懐が広い……!」

 

 男でも無性でも姫様なの? 何でそういうとこは適当なんだ? 

 っていうかこれ、カリオンは知らないことのような気がする……姫様が欲しいスフィアが考えただけの、とても雑な計画に見える。アルビスはさっきゴブリナ達と楽しそうに飲んでいるのを見掛けたが、あの様子ではきっと無関係……よーし、噂が外に広まる前に、この話はここで終わらせてしまおう。

 

「スフィア、ごめん。俺はカリオンさんとは結婚出来ない」

「何でだよ? オレの大将が嫌だってのかよ」

 

 そこで不機嫌になるスフィアは微笑ましいけどね。カリオンが勇猛で立派な人なのはわかってるよ、とスフィアには伝えたが……でもそれは、結婚するしないの話ではないのだ。

 大体カリオンにはフレイがいるんだから、こうなったらスフィアはフレイを姫様として……いや、あの人は明らかに女王様だけど──……あ! 

 

「姫様だったら……ミリムは?」

「え?」

「ミリムは"竜皇女"だし、これからはカリオンさんもスフィア達もミリムに仕えるんだろ? それって名実共に、スフィアの欲しい姫様そのものだよな?」

「え、でもよ、ミリム様は"破壊の暴君(デストロイ)"で……」

「いやいや、ミリムは可愛いし気遣いも出来るし、友達も仲間も大事にする良い子だよ。俺が保証する!」

 

 "破壊の暴君(デストロイ)"の悪名が高すぎて、スフィアにはミリムを姫様とする発想がなかったようだけど……今一番の姫様候補はミリムだろう。俺ではない。

 最後には、スフィアは煙に巻かれたような顔をしながらも、俺の演説が頭から離れなくなったようだ。このままそっとしておこう。上手くいけばミリムがスフィアの姫様になって、俺は解放される……! 

 

 大広間に戻った俺は、何の話だったのかとリムルに問われ、ミリムをオススメしてきた、と決して嘘ではない部分のみを語った。完全に俺都合の取捨選択だったが──

 

「そんな話かよ! 俺達はてっきり、お前に見合い話でも持ち込まれたんじゃないかって」

「んっぐ!?」

 

 ピンポイントで図星を突かれ、唐揚げが喉に詰まる。『万象衰滅』。

 き、聞いてなかったのに、何でわかるんだよ……! 

 

「もう、リムル様ったら。縁起でもありませんわ」

「レトラ様ならばどの国からも引く手数多なのは当然ですが、この私が許しませんよ!」

「そんなことになったら戦争するしかないですね」

「そうだな」

 

 するんだ……戦争…………

 俺は他国に行く気はないし、皆も俺を他国にやりたくない、と思ってくれているらしいのは、それはまあ……嬉しいと思うけど……でも! いくら何でも戦争までしてくれなくていいんで! 

 俺は魔国に居られるように頑張るから、これからもずっとよろしく……! 

 

 

 

 

 

 

「まあ……! スフィアがそんなことを?」

 

 宴会の翌日、俺は密かにアルビスを訪ねた。

 昨夜の事件にはアルビスは絡んでいないはずだと俺は踏んだが、もし国家ぐるみのお見合い計画だったら戦争が起きる前に何とかしなくてはならないので、確かめに来たのだ。

 

「も、申し訳ありませんレトラ様……スフィアの勇み足ですわ。カリオン様は一切ご存じないことですので、どうかご容赦下さいませ」

 

 ですよねー。それが聞けて良かった。

 今後はスフィアが無茶なことを言い出さないよう気を付けておいて欲しいと、アルビスに協力を依頼する。とても言い辛かったが、俺に対するリムル達の過激な意気込みを伝えると……アルビスは顔を青くしながら了承してくれた。だよな、ウチとは戦争したくないよな。

 

 それと、俺を姫って言わないで欲しい、とも頼んでおいた。

 キョトンとした反応を見るに、アルビスも俺=姫様説を信じ込んでいた一人のようだが……俺は、その噂が魔国の一部にも影響しており、困っているのだということを切々と話す。

 

「そうでしたか……レトラ様は姫君ではない、と……」

「アルビス、何かすごく残念そうだけど……」

「いいえ、そのようなことは。レトラ様がお嫌だったとは気付かず、度重なる無礼、真に申し訳なく存じます。スフィアの件も含め、これ以上レトラ様を煩わせることのないよう誓いますわ」

 

 アルビスは俺を安心させるように微笑み、そう約束してくれた。

 味方にするべきは話のわかるお姉さんである──と、思ったのも束の間。アルビスはその綺麗な笑顔を維持したままで、念のために一つお伺いしたいのですが、と続けた。

 

「レトラ様がスフィアの持ち込んだ話をお断りされたのは……まさか、カリオン様に御不満がお有りだったということではございませんわよね?」

「そうじゃなくて……ですね?」

 

 カリオン本人が結婚を望んでるわけでは全くないのに、それでも主が振られるのは許せないとか……! 本当にカリオン大好きなんだな。好感度上がるわ。

 違います、俺は魔国が好きなので皆と離れたくないだけなんです……と正直に白状すると、あらあら、とアルビスは俺に理解を示してくれた。助かった。

 

 結界内でのアルビスとの内談は、短時間で済んだ。今日も俺は仕事の合間に抜け出して来ているので、バレないうちに執務室へ戻ろうとしたのだが……お待ち下さい、と呼び掛けられた。

 アルビスは恥じらうような態度になって、伏し目がちに口ごもる。

 

「ところで、あの……レトラ様は、ベニマル様とは御仲がよろしくていらっしゃいますわよね?」

「ベニマル? うん、仲良いよ」

「もしよろしければ、なのですが……少々お力添えを頂けたらと思いまして」

 

 ベニマルと仲良くなりたいので協力して欲しい、というお願いだった。

 そうだな、恋バナって本来こういうもんだよな……俺なんて、カリオンとの見合い話が発生しそうになっただけだぞ……目を背けたい現実との落差もあり、アルビスが可愛く見える。

 俺はほっこりとした気分で、いいよ! と力強く返事をした。

 

「ああ良かった、感謝致しますわ。それでは、レトラ様にはベニマル様を呼び出して頂いて……沢山お酒を飲ませてくだされば充分ですわ。ベニマル様が眠り込んでしまいましたら……」

「ゴメン待って! アルビス! 待って!」

 

 もっと可愛いこと言って欲しかったんですけど!? 

 頬を染めた乙女みたいな表情と、非情な計画の内容が釣り合ってねぇ……! 

 

「俺はベニマルの味方なので! そういう騙し討ちには加担しません……!」

「では、一体どうせよと仰いますの?」

 

 何も思い付かないって顔すんな! 蛇の情念怖い! 

 とりあえず、ベニマルといられる時間を増やしてあげると約束した。侍大将のベニマルは、他国の者には簡単に警戒を解かないだろうから……まずは仕事仲間として信用を得た方がいいのでは? 捕虜達の統率役として一緒に任命しておけば、三獣士に仕事を押し付けて帰ってきた心当たりのあるベニマルは断れないだろう。実は俺は結構アルビス推しだから、後は頑張って……! 

 

「うふふ、レトラ様。先のことはまだわかりませんけれど……もしかしたらわたくしにも、いずれレトラ様に御仕えする日が来るかもしれませんわね?」

 

 そう言ってアルビスは微笑んだ。アルビスらしく妖艶に、でも何となく悪戯っぽく。

 ああ、もしかして……アルビスにも、スフィアみたいに企みがあったのか? いずれアルビスが魔国に嫁いで来ることになれば、そのついでに姫様もゲット出来る…………とか? 

 いや、だから……俺は姫様じゃないんだってば……

 

 

 

 

 

 

 元ユーラザニアの首都だった更地には、戦の拠点に使われた野営地がある。

 もうすぐ日没という時間帯となった頃、建てられたテントの一つにフォビオが入って来た。記録や回覧に使っているのだろう数枚の木の板を簡素な机に放り出し、一つ長く息を吐き出す。

 

「お疲れ様。ポーション飲む?」

「ああ、悪いな……」

 

 フォビオの片手がポーションを受け取り、直後、その身体の動きが止まった。

 自分以外誰もいないはずのテントで、ポーションを渡してきたのは一体誰──恐らくそんな疑問が浮かんだんだろう数秒の後、バネ仕掛けのような動きでフォビオが俺を振り返る。

 

「ッ……レトラ様!?」

 

 はい、俺です。

 例によって魔素隠蔽して、『境界侵食』で来ました。こっそりと。

 最近の俺は隠密行動が過ぎる……とは思うのだが、軍事作戦でも使用された超精密なユーラザニアの周辺図がちょうどデータベースにあったので仕方ない。ウィズも転移可能だって言ったし。

 

 何故ここに……と焦るフォビオに、昨夜の出来事を説明する。

 やはりフォビオも何も知らなかったようで、「スフィアが!?」と、アルビスと同じ反応が来た。加えて、「急に番なんて言われても戸惑うでしょうけどカリオン様は素晴らしい御方ですよ」ってチクリとしてくるところまで。ブレねぇな三獣士。

 

「レトラ様、スフィアの奴がご迷惑をお掛けしてすみません……俺は前にも、レトラ様は魔国の大事な御方だから手を出すなと言ったんですよ……何聞いてんだアイツは!」

「でもそれ、フォビオも悪いだろ?」

「え……俺がですか?」

 

 俺は前からずっと、もう一人の元凶であるフォビオを問い詰めようと思っていたのだ。

 なかなかフォビオが魔国に来なかったり、来ても状況が悪かったりで、かれこれ半年近く経ってしまったが……やっとこの日が来た! 

 

「俺が姫様かどうかスフィアに聞かれて、そうだって答えたんだって? フォビオが無責任なこと言うから、スフィアが俺を姫様だと思い込んだんだろ! 何でそんなこと言ったんだよ!?」

「ちょっと待って下さい……レトラ様は魔国の姫君ですよね?」

「違いますけど!?」

 

 結界の中で声を張り上げる俺に、フォビオは不可解そうな顔をした。何でだよ。

 顎に手を当てて考え込み、やがて何かを閃いたように顔を上げる。

 

「いえ、レトラ様。敬愛する主君の最愛たる姫君は、王国にとっては最も尊い宝です。カリオン様にそうした御方がいないのは俺達としては無念と言わざるを得ず……リムル様にはレトラ様がいるという点で、テンペストの戦士達を羨ましく思っているほどですよ」

 

 何の話が始まったんだ……

 リムルに弟がいることと、姫君とは関係ないだろ……? 

 

「えーっと、だな……俺は姫じゃないって話をしてるんだけど……」

「テンペストの戦士達は皆、リムル様とレトラ様に忠誠を捧げているじゃないですか。特にレトラ様に対しては、あの笑顔と信頼に応えるためにはどんな苦難も障害とはならない、再びレトラ様の元に戻るためならばいくらでも力が湧いてくると豪語する者が多いですよ」

「……」

 

 フォビオが言うには、今回の戦では魔国の部隊と行動していたため、リムルや俺の話をよく聞いた……ということだったが。

 皆は一体どういうつもりで、そんな恥ずかしいことを他国に言い触らしてるんだ……? 

 

「こういうのもよく聞きますね。レトラ様は配下が傷付くことにも心を痛められるお優しい方で、自分達の失態がレトラ様を傷付けることがあってはならない、レトラ様に御安心頂くためにももっと強くならねばならないと……皆そうした決意で日々の訓練に励んでいるんだとか」

 

 あ、ハイ、嬉しいです。皆は俺のことよくわかってんな……

 皆には無事でいて欲しい。そのために強くなって欲しい。命を差し出されても嬉しくはない……それは戦における、負けることは許すが死ぬことは許さない、というリムルの命令にも表れている。そうだ、生きていてくれればいいのだ。後は俺やリムルが何とかするから。

 

「魔国の庇護と発展のために、レトラ様がどれほどその身を捧げられてきたかは聞き及んでおります。仕える国にレトラ様のような御方がいらっしゃることは、何物にも代え難い誇りでしょう。戦士達の心をそこまで引き付け、一つにまとめ上げることが出来るんですから……やはりレトラ様こそ、魔国の姫君であると言う他はありませんよ」

 

 い、言い切った……何だこれ、ユーラザニアの体育会系すごくない? 

 ていうかフォビオはそんな……何だろう、皆の熱い忠誠心? を、そこまで記憶に残るほどしょっちゅう聞かされてたの? よく耐えられるね? 人格者かよ……ウチの配下達が申し訳ない……

 

「でも、それ別に姫じゃなくても……」

「姫君は守るべき宝の象徴です。しかしそれは、守らねばならない脆弱な存在だと言っているのではありません。レトラ様が全てを懸けて自分達を守って下さるから、戦士達もまた全てを捧げてその御恩に報いたいと──あらゆる憂いからレトラ様をお守りしたいと、そう誓いを立てるんですよ」

「いや、だからあの……!」

「国主リムル様の最愛の弟君であり、比類のない強さと美しさと聡明さ、何より家臣を信頼し民を愛する御心を持つレトラ様です。これほど姫君に相応しい御方はいな……」

「もういいもういい! わかった! 俺が悪かった!」

 

 か、勝てる気がしない……! 

 この話題もうヤダ! 俺が何を言っても、めっちゃ褒められるだけで終わる! ヤダとか違うとか言ってるだけの俺では、どうやってもフォビオの姫様観を引っ繰り返せない……! 

 

 完全に口喧嘩で打ち負かされた気分で、俺はスゴスゴと帰ることにした。

 フォビオには帰り道の心配をされたけど、今度こそ空間座標の捕捉による『境界侵食』が行えるので、来た時よりも安全だ。俺はまたサラリと見えない砂になり……誰にも気付かれることなく魔国へ戻ったのだった。

 

 

 

 フォビオの姫様論にはロクに異議を唱えられなかったが……

 何だか、とても重要なことを聞いてしまった。

 

 俺を悲しませたくないから、皆は強くなろうとしてくれる? 

 じゃあ、俺が()()()()()()でありさえすれば、皆は命を落とすような無茶は避けて、俺のために生き残ることを目指してくれる……? 

 

 もし本当にそうだったら……

 俺が"姫様"役をやることにも、意味がある……ってことなのか? 

 

 

 

 




※レトラの価値観にヒビを入れたところで、姫様論議は一旦終わります。



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