転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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95話 リムルの疑念

 

 俺が魔王になってから、もう少しで一月になる。

 ちょうどいい区切りなのでその辺りで一度、遠征中のゲルドやハクロウ、ディアブロ達を招集して、幹部会議を開こうかと計画しているところだ。定期的に報告を受けてはいるが、皆も情報交換がしたいだろうしな。

 

 夕食後、ぽよぽよと上階のバルコニーへ出て、一人で夜風に当たる。

 季節的にはもう冬なのだが、各耐性を完備している俺には寒いも暑いもない。

 今日も町は平穏だった。多くの冒険者達がまた宿や店舗に出入りするようになっているし、商人達は魔国の特産品の買い付けに忙しく、ウチの評判は上々である。

 

 こうやって家々の明かりを見ていると、皆の暮らしぶりを身近に感じられていいもんだな。

 スライムには視覚がないのでスキル頼みだが、俺の『万能感知』は効果範囲がやたらと広い。その気になれば町全体をカバーすることも可能という、凄まじい性能を誇っているのだ。

 

「ん? あれは…………」

 

 俺のいるバルコニーからは距離的にも角度的にも完全な死角となっている、別棟の外廊下。

 そこで話し込んでいる二つの人影を感知して、何となく意識を向ける。

 あれは、レトラと……ソウエイか。

 

 取り立てて珍しい組み合わせではない。

 ぶっちゃけレトラは仲間全員のことが大好きなので、誰といようが、ああまたレトラが懐いて行ってるな、という話にしかならないが……今日は様子が違っていた。

 たまたま目に付いたレトラの表情が、いつものような楽しそうなものではなかったのだ。

 何というか、困ったような、焦ったような……ソウエイ相手に? 

 

 ソウエイは隠密という仕事柄、というよりも本人がその役職に見合った冷淡な性格をしているが、俺やレトラに対してはそんなことはない。レトラがソウエイを苦手にしているとも聞いたことがないし、一体何があったんだ……と思っているうちに、二人の会話も聞こえてしまった。

 

「レトラ様。お考え頂けましたでしょうか」

「う……いや、それは……」

 

 何ということか、あまり和やかな雰囲気ではないようだった。レトラは弱々しく言い淀み、詰め寄ってくる(と表現して良いのかどうかわからないが)ソウエイを見上げている。

 

「毎日毎日、熱心だな……急かさないで欲しいんだけど」

「どうか御返事を頂きたく存じます」

「超クールにグイグイ来る……ソウエイの気持ちはわかったけどさ、俺にも心の準備が必要なんだって……もうちょっと時間くれよ……!」

 

 …………何だ、あれ? 

 

 まさかとは思うが…………

 まさか、ソウエイの奴、レトラに言い寄ってるのか? 

 

 え? こういう時、俺はどうすべきなんだ? 

 これが会社の後輩達だったら、ニヤニヤしながら相談に乗ってやって散々からかって扱き下ろした後に祝福したりフォローしたりと、そんな感じでやってきたはずだ。

 だが、弟と部下のこんな場面を目撃してしまった俺はどうすれば……? お、応援してやればいいのか? 別に俺にはそういう偏見ないし、当人達が良いって言うならそれで……レトラがソウエイを嫌いなはずがないし、ソウエイはイケメンで仕事も出来る奴だし……うん、駄目だ、泣きたくなってきた。

 

 落ち着け、冷静になれ。まだ慌てるような時間じゃない。

 とりあえず俺から行くのは得策ではないな、何で知ってんだってことになる。

 どうもレトラは困っているようだから……大人の余裕というやつで見守っておいて、レトラが助けを求めているのなら、それとなく話を聞いてやって……それが兄として取るべき正しい対応だろう…………

 

「リムル様に申し上げるのであれば、早い方が宜しいかと」

「だから、その時期を考えてるんだって……!」

 

 いや、違う……!? 

 あいつら、俺に何かを打ち明けるかどうかで揉めている…………な、何を?? 

 

「ううー……ソウエイ、作戦会議しよう!」

 

 唸り続けていたレトラが何やら片手を動かしたと思ったら、『万能感知』で捉えていた二人の姿が消えてしまった。あれ? 何だ、どうなったんだ? 

 

《解。個体名:レトラ=テンペストによる知覚隠蔽が行われました。隠蔽対象への『万能感知』が無効化されています》

 

 ラファエルが状況を教えてくれる。

 二人の姿は完全に消えていて、どこにも気配がなかった。既にそこを立ち去ったのか、廊下の左右どちらへ向かったのかもわからない。これもう、ハクロウの"隠形法"と何が違うんだよ。

 

(レトラの砂は反則だろ……追跡することは?)

《『解析鑑定』で捜索を試みることは可能ですが、究極能力(アルティメットスキル)先見之王(プロメテウス)』に察知されるでしょう。こちらも『解析鑑定』を受けることになるため、主様(マスター)の覗き見が発覚することは避けられません》

 

 覗き見と言うな、心に刺さる。

 うーむ、もし解析を妨害出来たとしても、レトラの先生に対抗出来る何者か……という時点で、該当者はラファエル先生くらいだからな。覗きがバレたら一巻の終わりだ、絶縁されてもおかしくない。覗きなんて悪趣味な、いや犯罪行為に近いことをするのが間違っていたのだ。

 

 もういい、寝よう。

 急に重みを増したスライムボディを引き摺って、ズリズリと自室へ向かう。

 俺は知らない振りをして、話があると言ってくるであろう二人を待つしかない…………

 

 …………聞きたくないな。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 風化実験で得たデータを元に、ウィズが研究に回ってくれている。

 しかしあれから、ソウエイが毎日俺をつっついてくるようになってしまった。リムルに"風化欲求"を打ち明けるのは俺に任せるが、『渇望者(カワクモノ)』のことだけは共有しておくべきだと。

 

「レトラ様は以前、そろそろリムル様にご相談されると……」

「俺も言おうとしたんだって! でもリムルが!」

 

 シオンや町の皆を生き返らせるため、俺が無茶して消滅しかけたことを、リムルは怒っていた。

 心配させた俺が悪いのはわかっている。でもあの時は、ああするしかシオン達の魂を守る方法はなかった。そしてあれは、俺にしか出来ないことだった。

 リムルもそう思っていたから、あんなことしか言えなかったんだろうけど……

 

「も、もしまた俺に何かあったら、そんな世界は滅ぼすって言うんだよ……」

「それは当然でしょう」

「当然!?」

 

 平然と即答すんのやめてくれる!? 

 どっちかって言うとソウエイが過激派なのはわかってたけどさ……! 

 

「いえ、世界にレトラ様を害そうとする意思があるのなら滅ぼすべきですが」

「べきなんだ」

「この場合は言葉の綾に過ぎません。リムル様が仰りたいのは、この世とさえ比べようもないほどレトラ様が大切な存在である、というその一点に尽きます」

「う、うん……」

 

 そう表現されると、少し落ち着かない感じがする。

 でも、リムルは俺を脅してるんだよなあ……ヴェルドラやミリムまで仲間に引き入れて、次また俺が無茶したら世界が大変なことになるぞいいのかって、俺に釘を刺してくるんだ……

 そんなリムルに、『渇望者(カワクモノ)』がヤバイ奴だったので、もしもの時には俺を犠牲にして止めます! とか言ったらどうなるんだよ……と恐ろしくて言えなくなった。

 

 でも、あの時とは状況が変わっている。亜空間に閉じ籠る案が潰されている今、俺には無茶する方法がないので、リムルを激怒させることにはならないはずだ。代替案もないまま問題提起だけするのは気が引けるんだけど……話すには良い機会なのかもしれない。

 

「うー……わかったよ、リムルに話すよ。明日にでも」

 

 そこでやっとソウエイが安心したように頷いた。心配掛けてごめん。

 ステルス砂で身を隠し、外廊下を回り込んだ奥の扉から室内へ入って話し込んでいた俺達は、会話を終えるとそれぞれ『境界侵食』と『空間移動』で、ササッとその場を離れたのだった。

 

 

 

 

 

「あ、リムル……大事な話があるんだけど、今夜庵に行ってもいい?」

 

 翌日、仕事で執務館内を行き来している間、リムルを見掛けたのでそう告げておいた。シオンの姿が見当たらないのは、訓練に行っているか料理をしているかのどちらかだろう。

 リムルは一瞬、思いっきり警戒するような……いや、そんな目をされる理由がないので俺の勘違いかもしれないが、とにかく俺を見て、ああ、と一言頷いた。

 

「良かった! じゃあ後でソウエイと一緒に行くから」

 

 何でソウエイ? ってごもっともなツッコミが入るかと思ったけど、リムルは厳しい顔をしたまま、言葉少なにスタスタと行ってしまった。何だ? 今、難しい仕事でも抱えてたかな……? 

 俺はデータベースの更新チェックを入念に行うようにと、ウィズに指示するのだった。

 

 

 厄介な案件は特になかった。

 夜になり、ソウエイと連れ立ってリムルの庵へ向かう。

 

「レトラ様。リムル様と御二人で話された方が宜しいのでは?」

「リムルって、俺相手だと遠慮が無くなるっていうか……たぶん第三者の目があった方が、リムルも冷静に話を聞けると思うんだよ」

 

 そしてやって来たリムルの庵には、異変が起こっていた。

 なんか、庵全体を覆う結界が張られている。これ、究極能力『誓約之王(ウリエル)』の『絶対防御』じゃないか? 今夜行くって言ったじゃん……何やってんだリムルは。

 

「入って来んなって意味かな?」

「リムル様がレトラ様との御約束を反故にされるとは思えませんが……」

「居留守にもなってないしな……あ、破ってみろってことかも? 試してみるよ」

 

 万能結界と空間断絶の『誓約之王(ウリエル)』に、万象衰滅と空間連結の『旱魃之王(ヴリトラ)』か……面白いマッチアップではある。世の中に絶対はないので、相性や様々な要素にも左右されるとは思うが──発動させた『旱魃之王(ヴリトラ)』は『絶対防御』を貫通し、庵を覆っていた結界を消滅させたのだった。

 

 行けた行けた。リムルもあんまり本気で結界張ってなかったんだろうな。

 庵に入ると、スライム姿のリムルが机の上で待っていた。結界が張られていたことに苦情を言うと、悪いな御茶目心だと返答があって、俺とソウエイは机の前に正座する。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 えーと……話を始めていいんだろうか? 

 リムルの周りに、非常に重苦しい空気が漂っているのが予想外である。

 

『ソウエイ……リムルが怖いんだけどどう思う?』

『リムル様に何か不都合がお有りなのでしたら……』

『おい二人とも、何コソコソしてるんだ。俺に話があるんだろ、聞いてやるからさっさと話せ』

『…………』

 

 リムルが思念会話に割り込んできた……そういうのやめて欲しい。

 肌を刺すピリピリとした威圧感は気にしないようにして、用件を切り出す。

 

「リムル、話っていうのは……『渇望者(カワクモノ)』のことなんだ」

 

 ユニークスキル『渇望者(カワクモノ)』。トレイニーさんから聞いた話では、あの豚頭帝(オークロード)が持つ『飢餓者(ウエルモノ)』のように所有者の精神を侵し、世界に危機をもたらしてきたという災厄のスキル。

 俺の印象では、普段はそこまで危ない感じもせず大人しく眠っているような奴で、俺に従って『風化』の力を使ってくれるが……俺が感情に駆られて心の安定を欠くと、おぞましい意識のようなものが起き出してくる感覚がある。

 

 今回の襲撃事件で初めてそれが起こり、俺の憎しみに呼応して破壊を撒き散らそうとする『渇望者(カワクモノ)』の意思をはっきりと感じた。持ち堪えたけど、呑み込まれるんじゃないかとヒヤリともした。

 進化して『旱魃之王(ヴリトラ)』となったことで、コイツが俺の制御を離れて暴走する可能性は更に高まっている。それを防ぎたくて、精神系スキルで自分を安定させる方法を探しているところだと。

 

 一通りの説明が終わると、和室は再び沈黙に包まれる。

 机の上のリムルは静かに話を聞いていて、やがて重々しく口を開いた。

 

「話って、それだけか……?」

 

 それだけかって言われても…………まあ、頷く。

 俺は結構な決心の上で話しに来たので、そういう扱いをされると少し複雑だな。

 

「はああああああー……!」

 

 とてつもない全身全霊の溜息と共に、リムルがぐにゃあと溶け落ちた。

 意味がわからないんだけど、それはどういう反応……? 

 

「…………じゃあ、ソウエイは何だ? 事情を知ってたってことか?」

「トレイニーさんに『渇望者(カワクモノ)』の話を聞いた時、護衛のソウエイも一緒にいたから。リムルに話しておいた方がいいって言うから、来てもらったんだよ」

「ああ、そうだったのか……悪いなソウエイ……」

「このような重大な件をリムル様に申し上げられずにいたこと、大変申し訳ございません」

「口止めしてたのは俺だろ。リムル、お咎めは俺に頼むよ」

 

 リムルに聞かれたら答えて良いとは言ってあったが、ソウエイは本当にリムルにも黙っていてくれたのだ。主君であるリムルに背くような状況は、ソウエイにとっては心苦しいものだったろう。

 リムルの方は、そういうのはいいから、とあっさり不問に処してくれた。

 

「レトラ、その『渇望者(カワクモノ)』って……お前が最初から持ってたスキルだよな」

 

 あ、話はちゃんと聞いててくれたみたいだ。良かった。

 そんなにヤバイ奴だったのか……と呟き、溶けていたリムルがスライムの丸い形に戻る。

 

「お前がそいつを持ってる限りは大丈夫、って解釈でいいんだな?」

「それは丸投げって言うんだよリムル」

 

 俺なら大丈夫と思ってくれているのは嬉しいけど……

 国主のリムルは魔国を守る術を考えないわけにはいかないし、きっと気付いているだろう。

 リムルには『無限牢獄』という、俺を封じる手段があることを。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 要するに、こういうことだ。

 

 レトラとソウエイは、俺が勘繰ったような仲ではなかった……! 

 ああ驚いた。あの時目撃した思わせぶりな会話も、とある秘密について明言を避けて話していただけのことで、それを俺が早とちりしてしまったのだ。恥を掻く前に気付けて良かった……あのままだったら俺はもう少しでソウエイに、俺を倒してみろとか言うところだったぞ……危なかった……! 

 

 頭痛の種が片付いた俺は、憚りながらも晴れ晴れとした気分ではあるのだが……庵にやって来た二人に打ち明けられた本当の秘密も、放ってはおけない重要な内容だった。

 

「レトラ、その『渇望者(カワクモノ)』って……お前が最初から持ってたスキルだよな」

 

 どうやら『渇望者(カワクモノ)』はレトラが生み出したものではなく、昔から存在していて度々世界を脅かしてきた厄介なスキルであるらしい。確かに豚頭帝(オークロード)の『飢餓者(ウエルモノ)』と似ているな。

 まあ俺の『捕食者』……『暴食者(グラトニー)』も、暴走状態にして解放すればあらゆるものを無尽蔵に喰らい続けるだろうという破壊衝動の塊だった。ユニークスキル以上の能力は強大な力を持つ代わりに、適切に使いこなせなければ危険な側面もあるというのは当然かもしれない。

 レトラの助けとなるような智慧を、ラファエル先生に借りられたらいいんだが……

 

《告。個体名:レトラ=テンペストの魂には認識不可領域が存在します。"魂の回廊"の確立が不充分である他、同個体の所有するスキルについても詳細は不明です》

 

 そこなんだよな。智慧之王(ラファエル)さん曰く、レトラの魂は不可解で、表層から読み取れる魔素量や状態、スキルの概要などはともかく、魂の深部に関わることほど解析不能なのだそうだ。

 レトラとの"魂の回廊"も、俺とヴェルドラの繋がりほど強固なものではないらしく……そのためレトラは『食物連鎖』の適用外であり、智慧之王(ラファエル)さんによる『能力改変』も不可能だった。

 

 打ち明けられておいて何だが、俺に出来ることが何もない……他にはないのか? 

 うーん、『捕食者』には元々『解析』が付いていたし、『胃袋』は俺のテリトリーでもある。レトラを『胃袋』に入れてじっくり調べてみれば、何か発見があるかも──

 

 レトラを、喰う……喰うのか……俺が……? 

 …………いや、無理だな、レトラは『捕食無効』を持ってるし……やめておこう。

 大体、レトラには『智慧之王(ラファエル)』にも匹敵する優秀な先生がついている。『先見之王(プロメテウス)』が知り得る以上の情報を、俺達が手に入れることはないだろう。本人達に任せておくべきだ。

 

「お前がそいつを持ってる限りは大丈夫、って解釈でいいんだな?」

「それは丸投げって言うんだよリムル」

 

渇望者(カワクモノ)』が究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』となり、危険度が上がったとは言うものの……所有者を支配して世界を『風化』し続けるとされるスキルが、レトラに宿ってからは大人しい──レトラを主人だと認めているからだとすれば、上手くやって行くことは不可能ではないはずだ。

 

 あの襲撃事件では、本当に済まないことをした。俺の危機管理の甘さで仲間達を死なせ、レトラには手を汚させて……だがレトラは耐え切った。憎悪に流されず『風化』の暴走を許さず、敵のみを滅ぼしてシオン達の魂を守ってくれた。その事実が覆ることはない。

 

 レトラはやると決めたことはやる、それが仲間のためなら尚更という奴である。

 無茶だけはして欲しくないと切に思うが、俺の脅しがどこまで効くかはわからない……必要に迫られれば、レトラはどうせまたやるだろう。絶対にやる。俺にはわかる。だが悪いのはレトラではなく、レトラにそんなことをさせる世界の方だ。兎にも角にも、レトラに無茶を強いるような状況を防ぐのが先決なのだ。

 

「『旱魃之王(ヴリトラ)』を制御するには、平和が一番ってことか」

「うん。皆が無事でいてくれたら、暴走の危険は減ると思う……」

 

 一番の鍵は、やはりレトラの心の安定だろう。

 さしものレトラも、自分にはキラキラとした絶対的な自信を持てないようだが、その気持ちはわかる。俺の場合は智慧之王(ラファエル)さんがついていてくれて、レトラがあの輝く目で俺を見てくれるから、よしやってやるかと思えるだけで……キラキラ出来ない俺は、どうやったらレトラを安心させてやれるんだろうな。

 

「大丈夫だレトラ。もう二度と、あんなことは起こさせないからな」

「俺もそのつもりだよ。聖教会の出方にもよるだろうけど……」

「動きがあるなら、そろそろかもな。ソウエイ、警戒は抜かり無く頼むぞ」

「お任せ下さい」

 

 魔国を守ることは、レトラを守ることにも繋がる。

 俺は国主として、兄として、その責任を果たし続けなければならない。

 俺だけでなく、レトラや仲間達も協力してくれるのだから、きっと大丈夫だ。『無限牢獄』なんてもんに出番が必要ないことは、皆で証明してみせればいいのだ。

 

 

 

 

 話を終える頃には夜も更けていて、今日はお開きとなる。

 昼間からずっと、二人がどうとか聞きたくないので逃げようかとか引き籠ろうかとか現実逃避ばかりしていたが、結局俺の勘違いだったのでどうということはない。

 

「二人とも、わざわざ来て貰って悪かったな。いや俺はてっきり……」

「てっきり? 何?」

 

 藪蛇だった。何でもない、とすかさず誤魔化す。

 レトラはさほど気にした様子もなく、リムルに話せて良かったと笑った。

 

「なかなか踏ん切り付かなかったんだけど、ソウエイのお陰だよな。ありがとう」

「御役に立てたのであれば光栄です」

 

 ……はて。二人のやり取りが、妙に親密そうに見えるのは何故だろう。

 レトラは通常運転だとして、ソウエイの雰囲気が意外に柔らかい所為だろうか……いや、前からこんな感じだった気もするし……あれ? 俺の疑念は勘違いだったはず…………

 

「…………お前達って、仲良いよな?」

 

 俺は一体何を聞いているんだろうか。

 レトラも何言ってんだという顔で首を傾げた後、隣に座るソウエイを見て一つ頷く。

 

「うん、俺達、仲は良いよな」

「恐れ多いことではありますが」

 

 当然の返答だった。

 そうだよな、こいつらが仲良いのは当たり前のこと…………

 いや、別に二人がどうだからと言って、俺に異論や不満や文句があるわけではないのだが。本当に。

 

 

 




※3/17(木)から原作沿いに戻ります
※次回はレトラが畑の様子を見に行きます

誤字報告ありがとうございました。



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