転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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107話 会談と協定・後編

 

「"聖浄化結界(ホーリーフィールド)"を張ろうとしたのは、シルトロッゾ王国……?」

 

 やはり、鵜呑みには出来ないのだろう。

 俺が告げた敵国の名を、ヒナタは訝しげに繰り返す。

 

「シルトロッゾが神聖魔法を? それにあれは……私達の動きを事前に知っていたとしか考えられない手際だったわ。ルベリオスに内通者がいて、情報が筒抜けだったとでも言うの?」

 

 原作から奴らの背景と計画を知っているだけの俺には、口に出せることは少ない。だがこの場では、シルトロッゾの名前さえ示せれば充分だった。

 

「ふむ、そうか……ヒナタよ、そなたは知らぬことだったな」

「ルミナス様?」

「七曜の一人"日曜師(グラン)"は……本名をグランベルと言うのじゃ」

 

 この情報はルミナスから提供してもらうしかなかった。

 だから今ここで、シルトロッゾの関与を皆に知らせる必要があったのだ。

 

「それは……シルトロッゾ王国を統べるロッゾ一族の祖、グランベル・ロッゾのことでしょうか? "日曜師(グラン)"とグランベル・ロッゾは、同一人物だと……?」

「そういうことじゃな。遥か昔、グランベルは光の勇者として、魔王たる妾と敵対しておった……だが妾に人類を滅ぼす意志がないことを知り、妾と手を結んだのじゃ。ルベリオスとは共同関係を保ちつつ、己のやり方で人類を守ると言ってな」

「人類を守る?」

 

 リムルの疑問に、神妙な顔でヒナタが答える。

 

「数百年前、この西側の国々で構成された、魔物や災害に対する相互支援を行うための組織──西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)を立ち上げたのが、グランベル・ロッゾなのよ」

 

 西側諸国に平和な時代が訪れたのは評議会の存在によるところが大きいし、グランベルは偉大な人物ではあるのだ……ただ、その歯車が狂ってしまってからは、ロッゾ一族は利権を重視し人類を支配しようとする者達の温床となったのだろう。

 

「じゃあ……敵は西方評議会なのか?」

「そこまでは考えにくいわ。私は評議会の動向も気に掛けていたけど、貴方達への対処が議題に上げられたことはないの。強いて言えばブルムンド王国が、魔国連邦との交易によって得られる恩恵を大きく宣伝していたことくらいね」

 

 フューズがマジ仕事人。情報局統括補佐の名は伊達じゃないな……! 

 他にも、加盟国ではないがドワルゴンやサリオンの協力もあり、魔国はそれなりの評価を受けているようだ。人魔会談で話し合った狙い通りになっている。

 

「今回の出来事は"日曜師(グラン)"──グランベルが、私達の動きに乗じてシルトロッゾの戦力を投入し、魔国へ攻撃を仕掛けたということかしら。こうなってくると、ロッゾが関わっていたことを裏付ける証拠が欲しいわね……」

 

 ヒナタの言葉は当然だった。シルトロッゾの長老達は西側諸国に強い影響力を持っており、軽々しく疑いを向けられる相手ではないからだ。

 

「レトラ、何か証拠となるものは残っていないの?」

「一応、術者達が映った映像ならあるよ」

 

 ウィズが記録しておいてくれたものだ。

 早速、全員に思念リンクを繋げて、映像を再生する。

 俺が見たのと同じ、薄暗い広間、大規模な魔法陣、呪文を詠唱する男達……一緒にグランベルでも映っていれば良かったのだが、そこにいるのは"血影狂乱(ブラッドシャドウ)"のみ。

 

「……駄目ね。ロッゾが秘密の部隊を所有しているとは聞いたことがあるけど……あくまでも噂よ。これだけでは証拠には弱いわ」

 

 ヒナタから"血影狂乱(ブラッドシャドウ)"の情報を貰えないかと思ったのだが、そこまでは把握していなかったようだ。まあ、影の暗殺集団的な連中が、そう簡単に特定されたら問題だしな。

 脳内に映し出される映像を吟味していたヒナタが、ふと呟く。

 

「ところで……この場所は、シルトロッゾ王国なのよね」

「王都シア郊外にある森の中の、地下空間だよ」

「レトラ、貴方は昨日、間違いなく魔国にいたわよね? さっき、()()()()()()()()()()()()()と言ったけど……それは一体どういうこと? 貴方はここから何をしたの?」

「…………」

 

 その問いに答えるには、映像の続きを見てもらうのが一番早かった。

 詳細は教えられない、という対応ではヒナタ達の信用を得られない恐れがある。見せたら見せたで不必要に警戒されてしまいそうだが……その対象が俺個人であればまだマシだ。自分の行動の責任は、自分で取る。言い逃れはしない。

 

「その転送経路を、こっちからも利用したんだ」

 

 映像再生を再開する。

 

 最初の異変は、空間内に細く走った亀裂だった。

 だが詠唱の続く暗い地下では、誰もその異様な光景に気付かない。細い無数のヒビ割れは、石造りの壁や床、天井までをも貫通しながら駆け巡り……『境界侵食』は実行された。

 

 決壊した空間の向こうから押し寄せたのは、嵐か、蛇か。

 猛烈な暴風の勢いで渦を巻いた砂が──その一瞬で、全てを押し潰したのだった。

 

 

「……お、おい……? これって」

 

 僅か十数秒程度の短い出来事。

 真っ黒になって途切れた映像の後、リムルが声を絞り出す。

 ヒナタや聖騎士達は、言葉もないようで…………

 

「ヴェルドラの"破滅の嵐"じゃねーか……!?」

「わかるか、リムルよ!」

 

 えっ、と思った俺が返事をする前に、声は後ろから飛んできた。

 ソファで漫画を読み耽っていたはずのヴェルドラが、いつの間にか俺達の思念リンクに参加してる……映像もしっかりと見ていたらしい。

 

 リムルは究極能力『暴風之王(ヴェルドラ)』を得て暴風系魔法が使えるようになったから、"破滅の嵐"がどういうものかはチェックしてあったんだろう。あー……確かに映像のアレには"破滅の嵐"が含まれていたし、砂嵐も黒く染まっていて、ヴェルドラの瘴気のように見えたかも……? 

 

「お、お前……そんなもんを他国にぶっ放したのか!?」

「ムッ? 待てリムル、あれをやったのは我だけではないのだぞ!」

 

 そうだ、あれは俺が率先してやったこと。俺に便乗しただけのヴェルドラがリムルに責められる必要はないだろう。俺にはその反論を止める気なんてなかった。

 ヴェルドラは俺達の席までやって来ると、不敵な笑みで得意気に──……得意気に? 

 

「見たであろう、皆の者! 我が"破滅の嵐"とレトラの砂とが相まって、あれほどまでに凄まじい大魔法となったのだ! あの嵐に呑まれた後には全てが消え失せ、影すら残りはせぬ──"破滅"などとは生温い! さしずめ"殲滅の砂嵐"と言ったところだな! クァーッハハハハ!」

 

 ヴェルドラが…………

 俺達の危険物っぷりを、超絶ドヤ顔でアピールした…………! 

 

「ちょ、っ、ヴェルドラ……!?」

「レトラよ、本当に素晴らしかったぞ……まるで聖典にも登場するようなあの必殺技! 我らが力を合わせれば、この世に敵など居らぬであろう! 流石は我が愛し子だ……!」

 

 場違いなくらいご機嫌のヴェルドラが、俺の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜてくる。テンションが高すぎるが、俺を褒めたくて仕方ないことだけは伝わった。

 そうだな、ヴェルドラが俺に責任を押し付けて逃げるとか考えるわけなかった……いや、だからって、あの合体技を自慢したがってるとも思わなかったけど……! 

 

「…………リムル。申し訳ないけれど、少し時間を貰えるかしら」

「あ、ああ……」

 

 スッと片手を持ち上げたヒナタに、リムルが了承を返す。

 焦燥に駆られるように一斉に席を立った聖騎士達が、壁際で輪を作った。

 

「レナード、今朝は本部からは何も?」

「はい、通常通りの連携のみで……」

「もう一度本部に連絡を。アルノー達は各地の教会支部へ順に繋いで。シルトロッゾ及びその周辺地域から、災害または原因不明の被害報告が上がっていないか最優先で確認しなさい」

「了解……!」

 

 ヒナタの指示に、聖騎士達が慌ただしく会議室を出て行く。

 これは……シルトロッゾ王国の滅亡を疑われてるな…………? 

 し、してないしてない! 滅亡はさせてない! 俺めっちゃ頑張った! 

 

「ヒナタ……! シルトロッゾは滅亡させてないから! ちゃんと抑えたから! 砂で相殺して、地下空間を中心に効果範囲を出来るだけ絞ったから、他に被害は出てない……!」

「……"暴風竜"の魔法を抑えたの?」

 

 正確には"殲滅の砂嵐"にバージョンアップしてしまった規格外の大魔法を、"衰滅結界"で覆って閉じ込めた……ということになる。

 ウィズによれば、結界内に含まれる全ての物質体と非物質体は破壊され、第一質料となり……その砂は回収したので、あの場所には地下から地表へ突き抜ける直径およそ百二十メートルほどの巨大な穴が空いているらしい。天変地異だった。

 

「……レトラ、まさか!」

 

 隣に座るリムルが突然、何かに気付いた顔で詰め寄ってきた。

 

「お前、その所為でスリープモードになったのか……!?」

「え……? ちょっと違」

「おかしいと思ったんだよ! お前の魔素が空になるなんて普通じゃ考えられない……ヴェルドラの大魔法を抑えるなんて無茶をしたなら、話は別だけどな!」

 

 う、うーん……ヴェルドラと演算領域を繋げていたから『旱魃之王(ヴリトラ)』を二重起動して"殲滅の砂嵐"を抑え込めたけど、ヴェルドラと演算領域を繋げていたから俺の魔素が"殲滅の砂嵐"に引っ張られ続けて空っぽになったわけで……これって何が悪いんだ? 

 

「ヴェルドラ、俺はお前にレトラのフォローを頼んだよな!? お前がフォローされてんじゃねーか! レトラがいてくれなかったら、国が一つ消えてたかもしれないんだぞ!?」

「このトカゲめがッ……レトラが倒れた原因は貴様ではないか! レトラに尻拭いをさせてどうするのじゃ!? 貴様はいつもいつも……!」

「ム、ムゥ……そうだったのか? 我は、レトラが張り切り過ぎただけかと……」

 

 リムルとルミナスに怒鳴り付けられ、ヴェルドラは押され気味に狼狽えている。

 ていうか、だから何でルミナスまで俺の保護者みたいに……とは思ったが、ヴェルドラの所為で国が壊滅、ってところでトラウマを抉られてしまったなら仕方ない。

 

「あの、二人とも、ヴェルドラが協力してくれたお陰でもあるんだって……! ヴェルドラが"術式転送"のことを教えてくれなかったら、俺一人じゃ気付けなかったし! あの時ヴェルドラが来てくれて、俺は嬉しかったよ! ありがとう!」

「レトラよ……我の味方は最早お前しかおらぬ……!」

 

 メソメソしながらギューとしてくるヴェルドラをあやす俺。

 リムルやルミナスが心を落ち着かせ、戻って来た聖騎士達とヒナタが一通りの話を終えるまで、会議は一時中断されたのだった。

 

 

 

 

 

「──シルトロッゾは健在だったわ。相手方に悟られないよう簡単な確認のみだけど、王都にも異状はないそうよ。レトラ、民への被害を未然に防いでくれたことに感謝するわ」

 

 皆が着席した後、ヒナタから調査結果が語られた。

 論点がシルトロッゾ王国滅亡の真偽にすり替わってしまい、俺が感謝される側になってるけど……まあ、頑張ったのは事実なので! 

 

 緊迫感のすごかったヒナタ達を労う意味で、一旦お茶とお菓子が振る舞われる。

 皿に乗っているのは小ぶりのスライム型スコーン、通称レトラスコーンだ。焼き菓子は全部俺だもんな……と、そろそろ諦めも付いてきたが、今日のオヤツは一味違う。

 スコーンの横に丸く──そう、スライム型に盛り付けられているのは、薄青色のアイスクリーム。俺が考えた食用着色料"リムルブルー"を使用した、リムルアイスである! 

 

「貴方達の国では、こういう食べ物を作るのが流行っているの?」

 

 そうなんです。みんな命懸けてます。

 皿の上の俺達(仮)をマジマジ眺めたヒナタだったが、結局美味しそうにオヤツを完食してくれた。合わせて出てきたポテトフライも含めて、聖騎士達には好評だったようだ。

 

 

 

 休憩を終え、会議が再開された。

 ここまでの話を総合しながらリムルが考えを述べる。

 

「黒幕の疑いが濃厚なのは"七曜の老師"で、中でもグランって奴はシルトロッゾ王国のグランベルでもあり……狙いは聖教会の実質的なトップであるヒナタを排除することと、ルミナス教の教義に従い俺達を討伐することだったわけだな」

 

 魔国が経済的な意味でロッゾに敵視されているという情報は、この段階では出て来ないからな……騒動の大元はルベリオスにおける権力争いということになり、魔物の国は討伐対象であったついでにヒナタの謀殺に利用されるところだった、と解釈される。

 

「だが計画は破綻した。残党はいるかもしれないが七曜は全滅したし……シルトロッゾとしてもグランベルが死んだ今、これ以上事を荒立てようとするかな?」

「この機会に、教会内の裏切り者を洗い出して粛清するつもりよ。ロッゾ一族もすぐに戦力を立て直すのは難しいでしょうけど……今度こそ評議会に手を回して、私達を対立させようと動いてくる可能性はあるわね」

 

 評議会の加盟国を巻き込んで、ルミナス教の教義を盾に、魔国討伐の責任を果たせとヒナタ達に迫るということか。ルベリオスを掌握出来ないなら、消耗させて弱体化を狙うだろうという考えには納得出来るし、魔国も同時に疲弊させることが出来るというわけだな。

 

「貴方達を"神敵"としないことは、既にルミナス様が決定されているけど──」

「足りぬな」

 

 ソファに座るルミナスが、厳しい面持ちで言う。

 ルミナスって、最初からずっと真面目に会議に参加してくれてるよな……オヤツ食べて満足してまた読書に戻って行ったヴェルドラとは大変な違いだ。

 

「この件は明らかに此方に責がある……妾は借りを作るのは嫌いなのじゃ。よって今後百年、魔国と国交を結ぶと約束しよう。それを妾からの詫びの証とするが良い」

 

 ルミナス教の総本山ルベリオスが、魔物の国を国家として認める。俺達と敵対しないどころか、擁護する立場に回ると宣言したも同然だった。

 焦ったヒナタ達から、ルミナス教の教えはどうするのかとの意見が出たが、ルミナスはどこ吹く風だった。ルイの説明によると、教義は民の信仰心を高めるための方便として定められただけなので、守られなくともルミナスは気にしないということらしい。

 

 ただ、信者達に大きな戸惑いを与えることは避けられないだろう。そこを何とかして、神ルミナスへの信仰心を揺るがせないようにするのはヒナタ達の仕事だ。ルミナスの決定とあっては、やるしかないとヒナタは腹を決めたようだった。

 そしてリムルが、俺達も協力出来るかもしれないと明るく言う。

 

「要するにさ、俺達の評判が上がれば世間も納得するって話だろ? 実は春になったら、魔国をお披露目する開国祭を開くんだ。各国から大勢招いて俺達のことを知って貰う予定だから、ちょうど良い宣伝になると思うんだよ」

「ほう? そんなものを計画しておったのか」

 

 興味深いオモチャでも見付けたように、ルミナスが食い付いてきた。

 

「当然、妾も招待する手筈となっているのだろうな?」

「え? 来るの?」

「悪いか?」

 

 そういや、ルミナスはかなり軽いフットワークで開国祭に来るよな……メイドさんの格好で正体を隠して。魔王達の宴(ワルプルギス)でもそうだったけど、あの衣装を着るのは趣味なのかな? 

 

「リムル様……よろしいでしょうか」

 

 ルベリオスにも招待状を出すとリムルが約束した直後、発言を求めて挙手したのはリグルドだった。どうしたと問われ、リグルドが躊躇いがちに口を開く。

 

「開国祭と言えば……シルトロッゾ王国も、招待状を送る予定の国々に入っております。かの国が我らに敵意を持っているならば、招くのは危険ではないでしょうか?」

「あ、そうか……だけど、シルトロッゾにだけ招待状を出さないのは不自然だよな? 俺達が連中の関与に気付いてると認めるようなもんだし……レトラ、連中は、お前にやられたってことには気付いてるのか?」

 

 ウィズに確認しつつ、リムルの質問に返す。

 

「向こうが俺を解析する時間はなかったよ。砂は回収したから何も残ってないし……砂嵐は見られたかもしれないけど」

「あの黒い嵐は、どう見てもヴェルドラの仕業だった。俺ですらそう思ったんだから、恐らく奴らは"暴風竜"を敵に回してしまったと思い込んでいるはずだ」

 

 ……なるほど? 

 じゃあもしかして……俺はまだノーマークってことなのか? 

 存在は知られているだろうけど、取り立てて危険視されていない、という意味で。

 

「よし、招待状は予定通り送る。俺としては、開国祭までは余計な衝突を避けたいんだ。招待状が届けば奴らは警戒するだろう、これ以上俺達に関わりたくないと欠席してくれてもいいし、招待に応じるようなら何食わぬ顔で迎えてやるさ」

 

 大胆な決定だが、王様としては難しい問題なのだ。

 国主代理をしていた俺にもわかるが、敵がいるからって全てを後回しにして戦争のことだけ考えていると、国が立ち行かなくなる。開国祭は外交の面で重要な行事だし、魔国の評判が高まれば相手への牽制にもなるため、祭りの開催を優先するという判断には一理ある。

 

「俺もリムルに賛成だけど、開国祭を台無しにされるのは嫌だな……相手がどう動いて来てもいいように、準備はしておくべきだと思う」

「勿論だ。お前が掴んでくれた情報だからな、無駄にする気はないぞ。万一の時も完璧に対処出来るよう、最大限の備えで臨む。やれるな? ベニマル」

「お任せを。レトラ様の御憂慮は、俺達が全て取り除きますよ」

 

 リムルやベニマル達は、俺の話に証拠がなくても全力で動いてくれる。

 だったら、リムル達が裏を掻かれることはないはずだ。

 その他の懸念は──……

 

「ま、ヒナタ達と情報交換が出来て良かったよ。東の商人の存在に気付かなかったら、ユウキが黒幕なんじゃないかって疑うところだったしな」

 

 それだ……! 

 俺にもまだ九十九%くらいの確信しかないが、黒幕の正体はほぼ間違いなくユウキだろう。

 自由組合総帥(グランドマスター)神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)。有名人と言っていいユウキの名前が出て来たことに、レナード達は驚いた様子だったが、ヒナタの反応だけは違っていた。

 

「ユウキが黒幕……かどうかまではわからないけど、無関係ではないかもしれないわ」

「え? おいおい、今更同郷者を疑うのか?」

 

 リムルは軽い気持ちで言っただけなんだろうけど、ヒナタの口調は真剣だ。

 

「ユウキの作った自由組合は、西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の下部組織という位置付けなのよ。その設立と運営に当たっては、上から相当の資金提供を受けているはずよ」

「そうか……ロッゾ一族が親玉やってるっていう評議会が、スポンサーなのか」

「ええ。だからもし、評議会の重鎮から貴方の情報提供を求められたなら……ユウキは従うしかないでしょうね」

 

 ヒナタすげぇな……その推理は違和感なく成り立っている。

 しかもこれ、ユウキの方もまだまだ言い訳が出来るぞ……組織のしがらみからリムルの情報を上に渡してしまった、ということならリムルはユウキを強く責められないだろう。

 ユウキが黒幕かはともかくあらゆる可能性を考慮すべき、というヒナタの指摘に、リムルは気を引き締めたようだった。

 

「そうだな。七曜が裏で動いていたのは事実でも、"あの方"だという証拠があるわけじゃない。黒幕の存在には今後も要注意ってことで行こう」

「グランベルにも充分に備えるのじゃぞ。奴は妾と渡り合ったほどの男……ニコラウスとやらに倒されたとは言うが、生き延びていたとしても何ら不思議ではないからな」

 

 

 もう一つ、俺には注意すべき懸念事項があった。

 グランベル達が魔国攻略を諦めることはないだろうけど、奴らは"暴風竜"ヴェルドラや、"真なる魔王"リムルを直接相手にすることを避けたいはずで──

 そして、この世界には俺がいる。

 

 三人いるなら、一番弱い奴を狙えばいいってことだよな? 

 

 

 

 

 




※(弱いとは言っていない)
※次回は宴会とまとめで、聖教会とのアレコレは大体終わりです



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