転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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112話 迷宮計画~仲間入り

 

 ブルムンドから魔国へ帰って来ると、西門前では一悶着が起こっていた。

 あれは……とリムルが呟く隣で、俺はウィズに『精神感応』を頼んでおく。もちろん自分に。うっかりすると俺は、また勝手にキラキラしてしまう可能性があるからだ。

 

「だから、この場所はアタシ達が占拠したって言ってるワケ!」

「んなこと言われてもですね……リムル様方は留守なんで、ちょっと待ってて下さいや」

「ヤダッ! 前の棲家を放棄してきたアタシ達を、ここから追い出そうっての!?」

 

 宙に浮かんでキャンキャン騒いでいる小さな妖精は、魔王達の宴(ワルプルギス)ぶりのラミリス。集まっている大工衆の中、棟梁のゴブキュウが困り顔でその相手をしている。

 門の傍には見覚えのない謎の小屋が建っているし、近くに倒れて眠っている数人はウチの門番達だな……ラミリスの後ろではベレッタが気まずそうに控えていて、哀愁を誘う。

 

「こうなったらベレッタ、軽~くコツンって──」

「何やってるの、お前?」

「ぴゃっ!?」

 

 気配なく近付いたリムルが声を掛けると、飛び上がったラミリスはダラダラと冷や汗を掻き始め……肩を落として観念し、事情を話し始めた。

 

 寂しくて引っ越して来ちゃった。

 以上終わり。

 

 俺はそれだけで納得出来るけど、ベレッタが説明を追加してくれた。

 以前ラミリスは魔国に住みたいとリムルに言ってみたが、色良い返事を貰えなかった。それなら勝手に住み付いてしまおうと考え、ここに小屋を建てることにした。すると門番達に止められてしまったので、強制睡眠魔法で眠らせた──のは、ラミリスやベレッタの仕業ではなく。

 

「ラミリス様、新しい木材を用意致しました! これでテラスを増築……あっ、リムル様にレトラ様! こ、これはご機嫌麗しく……!」

「何をしているんですかトレイニーさん……」

 

 門番達を眠らせた犯人は、トレイニーさんである。

 木材を抱えて素敵な笑顔で現れたトレイニーさんだったが、俺達の姿を見付けた途端、しどろもどろになって視線を泳がせる。罪の意識はあるらしい。

 

「ご……誤解ですわリムル様! ラミリス様は何も悪くないのです……!」

「いやラミリスも悪いし、貴女もすごく悪いですよ?」

 

 トレイニーさんがどんどんダメな方向に突っ走ってるな……ラミリスが門番達に酷いことを言われたから、という言い分も、許可無く小屋を建ててはいけないと至極マトモな注意をされただけというのが真相らしい。

 いくらラミリス愛が激しくても、何か言われたくらいで過剰反応して相手を攻撃するのは残念な人だとしか──あれ、そういえば俺も今日、ブルムンドでそういう残念な人を見たような? 

 

「レトラー……! アンタも何か言ってやってよぉ……アタシ達、友達よね?」

「ラミリス、身近な人に良くないことをさせちゃダメだし、そういう時は止めなきゃダメだ。俺達にはその責任があるんだから……その人のためにも、ちゃんと気を付けような……?」

「何でお前にも責任があるんだ……?」

 

 リムルが激変する原因が俺だからだよ! 

 本当はリムルはもっと常識的な奴のはずなのに、何でこうなったかな……!? 

 全く他人事じゃない出来事に、身につまされる思いで真剣に言い聞かせると、ラミリスはションボリしながらも「うん……」と頷いてくれた。

 

「そ、それで……アタシ達はどうなるのでありましょうか?」

「どうしたもんかな……」

 

 唐突な領土侵犯に呆れ返るリムルだったが、建てられたばかりの小屋の扉を開けた途端、その顔付きは呆気に取られたものへと変わる。

 ラミリスはともかく、ベレッタ達が住むには狭すぎるその丸太小屋は"入口"の役割を果たしているのみで──扉の向こうは、"迷宮妖精(ラビリンス)"の二つ名を持つ魔王ラミリスが作り出した、広大な空間へと繋がっていたのだから。

 

「…………ラミリスちゃん。ちょっと相談なんだがね?」

 

 おっ、リムルが商売人の顔になった。

 魔国が世界に誇る一大エンターテイメント、"地下迷宮(ダンジョン)"計画の始まりだった。

 

 

 

 ラミリスの固有能力、『迷宮創造(チイサナセカイ)』。要するに迷宮を創造する能力なのだが……俺はそれがとんでもないチート能力であることを知っている。

 リムルはラミリスから色々と能力の聞き取りをし、ゴブキュウにも確認を取りながら、計画の大まかな内容を組み上げた。

 

 武闘大会用に建設する闘技場のすぐ近くに地下空間を用意し、堂々とした扉を設置して、迷宮への入口とする。ラミリスの作る地下百階層の大迷宮に冒険者を客として呼び込み、攻略してもらうのだ。魔物と宝物に溢れたダンジョンでのスリリングな冒険……これは絶対に楽しい。俺もずっと前から楽しみにしていた施設の一つである。

 ラミリス達は魔国に住む権利を得られるだけでなく、迷宮の管理責任者としてリムルから正式に仕事を任されることになる。当然、給料も出るわけで。

 

「それじゃ、それじゃ……もう"無職の引き篭もり"なんて言われなくなるってこと!? "貧乏魔王"って馬鹿にされることもなくなるのね!?」

 

 か、可哀想……誰が言うんだそんなこと。ミリムやギィは言わなそうだし……ディーノ? いや、特大ブーメランだから違うかな? あ、精霊の友達か? 

 ラミリスは、リムルの提案に一も二もなく飛び付いた。拳を突き上げてやる気満々なラミリスの姿を、ベレッタやトレイニーさんが微笑ましげに見守っている。

 これでリムルとラミリス、"八星魔王(オクタグラム)"の二柱が軽いノリで結託したことになるんだけど……俺もとっくの昔にラミリス一派を味方認定しているし、気にしなくていいね。

 

 闘技場の建設地は、ユーラザニアからの避難民が生活している南東の未開発区画に決まった。仮設住宅やテント、家財道具などはラミリスの『迷宮創造(チイサナセカイ)』の権能でまるごと迷宮内へ移動出来るし、本人達からの許可があれば獣人族の皆さんを移動させることも可能らしい。すごい能力だ。

 

「しかしリムル様……ゲルド殿が不在の今、二ヶ月で闘技場を建設するのは厳しいですぜ……この地下空間を掘るのも大仕事ですし」

「あ、やっぱり?」

 

 ゴブキュウの指摘に、うーん、とリムルが唸る。

 その目はやがて、ソワソワ感を控えめにして待機する俺へと向けられた。

 

「レトラ……悪いが、お前の力を借りてもいいか?」

「もちろん! 俺の出番だなって思ってたよ」

 

 原作ではリムルが『暴食之王(ベルゼビュート)』で地下を四角く切り抜くけど、土木作業は俺の得意分野の一つ。『旱魃之王(ヴリトラ)』で溶かした土は全て砂となり、後から『砂創作家(サンドアーティスト)』で構成情報を付与すれば木材にも石材にも鋼材にも作り変えられるので、俺がやった方が都合が良いのだ。

 

 もう暗くなってきたため、地下空間の工事は明日から取り掛かることになる。

 ラミリスにはひとまず、迷宮の階層を増やしておく作業が託された。

 

「でもさ、アタシの迷宮には魔物どころか虫もいないよ? 魔物はどっかから捕まえてくるワケ?」

「それなら心配ない。当てがあるんだ」

 

 不思議そうに尋ねたラミリスへ、リムルは自信ありげに答える。

 今日中にその話を済ませておこうと、俺はリムルと一緒に、目当ての人物が漫画を読んでいるだろう"リムルの庵"へと向かったのだった。

 

 

 

   ◇

 

 

 俺とレトラは、離れにある俺の庵へとやって来た。

 いたいた……やっぱりここだったか。素朴な和室に寝転んで漫画のページを捲っているヴェルドラを見付け、その背中に声を掛ける。

 

「ヴェルドラ。ちょっと頼みがあるんだが、いいか?」

「──何だ、我は忙しいのだが」

 

 ん……? 

 ヴェルドラにしてはつっけんどんな声だった。

 思わず言葉に詰まった俺達に、背を向けたままのヴェルドラが続ける。

 

「お前達はどこぞへ遊びに行っていたのだろう? 我を置いて、二人だけで」

 

 そうだ、俺とレトラは、ついさっきまでブルムンドでデートしてたんだった。

 ヴェルドラは俺達が出掛けたことに気付いてたのか……漫画に熱中しているんだったら、バレずに済むかもしれないと思ってたのに。

 

 レトラを見ると、ヴェルドラの反応が全くの想定外であったかのように、目を真ん丸にして固まっていた。

 あのな、お前も、俺が黙ってヴェルドラの封印を解きに行ったら怒ったじゃねーか……そして俺も、レトラとヴェルドラがコッソリ遊びに行くようなら絶対に機嫌を悪くする自信があるので、ヴェルドラを責める気にはなれない。

 

「二人でさぞ楽しんで来たのであろうな? 今更、我に何の用があると言うのだ?」

「あ、ヴェルドラ、ごめ……」

 

 アワワワワと可哀想なくらい狼狽して謝ろうとするレトラを、しっ、と制する。

 俺に任せとけ、全部丸く収めてやるよ。

 

「いや悪かったなヴェルドラ。でも俺達は遊びにって言うより、仕事に行って来たんだぞ? 開国祭の件でミョルマイルやフューズに話があったからさ」

 

 レトラが「そうだっけ……」という眼差しで俺を見てくるが、物は言いようである。デート自体はとても楽しかったが、それは胸に秘めておけばいいことだ。

 刺々しかったヴェルドラの声が、少し平静さを取り戻す。

 

「では、我を仲間外れにしたわけではない……と?」

「ああ、当然だろ? その証拠に、開国祭での新しい企画がいくつか出来たんだ。お前にピッタリのカッコイイ役目もあるから是非協力して欲しかったんだが……スマンな、忙しいのに邪魔して」

「──まあ待てリムル!」

 

 ヴェルドラがマントを翻して跳ね起きる。

 

「ウム、そうではないかと思っていたのだ、仕事なら仕方あるまい! 我も日々忙しいのは事実なのだが……貴様の頼みとあらば、話を聞こうではないか!」

 

 チョロゴンさんは、今日も今日とてチョロかった。

 機嫌を直したヴェルドラが早速レトラを膝に抱き、「だが遊びに行く時は我にも声を掛けるのだぞ?」「う、うん」という会話をしているのを眺めながら──三人で遊ぶのも悪くはないが、レトラと二人で出掛ける時は仕事として話を進めよう、と俺は誓うのだった。

 

 

 

 それから数日が経過した。

 迷宮への扉を据えた地下空間は、レトラの活躍でとっくに出来上がっている。

 安全面を考え、地下空間の真上に重ならないよう位置をずらした地上部では、円形闘技場(コロッセオ)の建設が始まっていた。ベレッタやトレイニーさん、獣人族の皆さんも工事を手伝ってくれているし、俺とレトラも資材加工の助っ人として加わり、作業は順調に進んでいる。

 

 そしてその夜、全百階層となる迷宮の増築が完成したとラミリスから連絡を受け、俺とヴェルドラとレトラは、最下層に当たる大広間へとやって来た。

 

「では行くぞ! おりゃあああーッ!」

 

 必要のない掛け声と共に、ヴェルドラが本来の姿を解放する。

 荘厳な広間の中央に出現したのは、空間を圧迫せんほどの巨大なドラゴン。

 全身を覆う漆黒の鱗、立派な翼に尻尾、力の漲る爪……久しぶりに見た竜形態のヴェルドラは、とてつもない威厳に満ちていた。ヴェルドラが調子に乗るから俺はそういうことは言わないが、俺と違って素直なのが…………

 

「うっわああ……ヴェルドラ、やっぱり格好良いなー! すっごい強そう!」

「クアーッハッハッハ……! もっと褒めても構わんのだぞレトラよ!」

 

 二年ぶりにヴェルドラの真の姿を目の当たりにしたレトラは、すっかりハイテンションの全開笑顔だ。ヴェルドラさんの方は、レトラから感激と称賛のキラキラ攻撃を浴びて有頂天になっている。はいはい、好きにやってろよ。

 ついでに言うと、同時に解き放たれたヴェルドラの妖気(オーラ)はただそれだけで凶悪な爆風となり、その凄まじい内圧で四方の壁を歪ませていた。俺達の周囲は『絶対防御』でガードしておいたので無事だが、楽しげにはしゃいでいるだけのレトラに対して、ラミリスは涙目で俺の肩にしがみ付いてガクガクと震えている。

 

「あ、あぶ、危なぁ……! やっぱ師匠って凄いね……アタシの迷宮が歪むとは思わなかった……」

「我、スッキリ! しかし今まで妖気(オーラ)を我慢していた分、派手にいったな。これは外でやっていたらちょっぴり大変だったやも知れぬ」

「これからは、ここでちょくちょくガス抜きしといてくれよ……?」

 

 こんな瘴気を地上でバラ撒かれたら本当にたまったものではない。この最下層でなら発散してくれて構わないし、これこそが俺の考えた"当て"だった。

 ヴェルドラが解放した膨大な魔素は、各階を繋ぐ通気口から次第に上階へと拡散する。この魔素溜まりから発生した魔物が迷宮内を闊歩し、冒険者達の行く手を阻むのだ。濃度の薄まる上層では弱い魔物が、下層に近付くほど強力な魔物が生まれ……そして最下層で待ち構えているのは、迷宮の王たる最強の守護者──"暴風竜"ヴェルドラ。

 

 ヴェルドラは迷宮の王(ラスボス)という肩書きにご満悦だったが、どう考えても人類に課していい難易度ではない。いや、こんな所まで辿り着ける冒険者なんていないだろうし、まあいいか。これで一応、半ニートと化していたヴェルドラも、めでたく仕事を得たわけである。

 

 よし次だ。この大広間には、上階層への階段に繋がる大扉の他にも扉がある。ヴェルドラにはまた人型になって貰い、皆で扉の先の部屋へと移動した。

 先程の大広間は、ヴェルドラが竜の姿に戻るための場所だが……

 

「おお……! ここが我の部屋となるのだな!」

 

 そう、ここはヴェルドラが人型で過ごすための私室だった。

 まだ殺風景な室内に、『胃袋』から取り出した家財一式を置いていく。ゴブリナ達が織ってくれた絨毯、職人が作った椅子と机、大きなベッド。漫画を読むための長椅子と、飲み物やオヤツを乗せるサイドテーブル。壁際の本棚には、ヴェルドラが気に入っている漫画を『複製』して並べてやる。レトラも『創造再現』したおすすめの漫画を追加していた。

 

 完成した部屋をラミリスがとても羨ましがっていたので、後日ラミリスの分の家具も用意すると約束をして、今日のところは解散となった。

 ラミリスが自分の住む精霊迷宮に戻った後、部屋の中をあちこち見て回っていたヴェルドラが俺達へと向き直る。

 

「リムル、レトラ、これまではお前達の部屋に随分と世話になったな。今後はいつでも我の部屋に遊びに来て良いぞ──というか、今日は二人とも泊まって行くが良い!」

「いいの? やった!」

 

 レトラは即座に大喜びしているが、俺もか? 

 まあそれもいいかな、と頷きかけた直後……ふと考え直して、口を開く。

 

「俺はまた今度にするよ。今日は二人でゆっくりしろよな」

 

 ヴェルドラに内緒でレトラと出掛けたことについては、流石の俺にも少し後ろめたい気持ちがあった。その埋め合わせにはちょうど良い機会だろう。

 そう思って、気を利かせてやったのに──

 

「どうしたリムル? 我の部屋が完成した記念すべき日なのだぞ?」

「ヴェルドラがいいって言ってるんだし、リムルも泊まってこうよ?」

「あー、泊まるってどこで寝るんだ……三人だと狭いだろ」

「眠らなければ良いだろう。朝まで飲み明かそうではないか!」

「そうじゃなくて、俺が言ってるのは……」

「わかった! じゃあ、俺がもっと広いベッドに作り直すから!」

 

 まったく、こいつらと来たら……! 

 結局、あの手この手で俺を引き止めようとする二人に折れて、俺もヴェルドラの部屋に泊まって行くことが決まったのだった。

 

 レトラがサラサラと作り出した数枚の畳を組み合わせて部屋の一角に敷き、靴を脱いで寛げるスペースを用意する。そして酒とツマミを大量に持ち込んで、酒盛りをした。

 今日はラファエルさんも酒酔いを解禁してくれて、先日のルミナス達との宴以来の酩酊感に、俺は調子付いて酒を呷る。

 

 だが考えてみれば、酔える状態での内輪飲み……ここにいるのは気心の知れた三人だけということもあり、俺の口の滑りは格段に良くなっていた。

 

「だーかーらー、お前らは普段からイチャイチャしすぎなんだよ! 親子だから何だってんだ、俺がどれだけイラついてるかも知らないで! 少しは遠慮しやがれ!」

「クァハハハ、それは無理というものだぞリムル! 我とレトラほど仲の良い親子は存在せぬのだからな、自然の成り行きにして必然だ!」

 

 後から思い返すと悶絶しそうな内容でも、酔いの回った頭では自制も出来ない。

 それ以前に、いくら俺ががなり立ててもヴェルドラには効果がないし、逆にレトラとの仲の良さを自慢されてこっちがぐぬぬとなる。俺だってな、レトラとデート……

 

「リムルよ、お前もレトラとイチャイチャすれば良かろう? お前達は唯一の兄弟なのだから、それこそ何を遠慮することがある?」

「あー? そうだな、そうするか……レトラ、こっち来い。イチャイチャするぞ」

「んん? はーい……」

 

 俺とヴェルドラの言い合いを子守唄代わりに舟を漕いでいたレトラが、呼ばれて中途半端な覚醒を見せる。「リムルが酔うんだったら俺も」とか言って自分も酔うことにしたらしいレトラは、やはり酒には不慣れなようで、今回も眠そうだった。

 のそのそと畳の上を近付いてきて、えーいと俺に向かって倒れ込むレトラ。酒が入っているからだろう、受け止めた身体がポカポカと温かくて心地良い。

 

「おいレトラ……俺のこと好きか?」

「うん」

「言葉にして言え」

「リムル好きー」

「はあ……お前はいいよな、いつも能天気で」

「言わせといてこの仕打ち」

 

 ああしまった、俺には余計な一言が多くていけない。

 誤魔化すように頭をナデナデしてみても、レトラは眉間に皺を寄せながら、ムム……と俺を睨む。そういう顔も可愛いのだが、言ったらもっと怒らせそうだ。やめとこう。

 

「っていうかリムル……! 俺とヴェルドラに文句言うんだったら、俺もリムルとヴェルドラに言いたいことあるんだからな!」

「え、お前が? なになに?」

「ほう? 珍しいな、どのような話だ?」

 

 レトラの愚痴を聞けるなんて貴重な体験である。日頃からこいつは不満のある素振りを見せないからな……酒の力を借りて何でも言ってしまえばいい。

 ヴェルドラも興味津々で身を乗り出し、不機嫌そうなレトラの言葉を待っている。

 

「リムルとヴェルドラは……似ててズルイ!」

「は? 何だそりゃ?」

「俺とヴェルドラは親子なのに、俺とリムルは兄弟なのに、顔が! 似てないんだよ! でも、リムルとヴェルドラは友達なのに顔が似てる! ズルイと思う……!」

「俺達の顔は、シズさんがベースなんだから仕方ないだろ……」

 

 ヴェルドラは俺の『強化分身』を依代にしている。だからこそ、もしもの場合の『暴風竜復元』も簡単に行えるわけで……これはどうしようもない話なのだ。

 レトラの方は確か、前世の顔を作ろうと試行錯誤していたところ、ヴェルドラの指示で魔改造した結果がこの美少女顔だったな。これまでのレトラの成長を見ていると、俺の人生経験全てと照らし合わせても前例のない美貌になりつつあるのが恐ろしい。

 

「仕方ないのは……当たり前、で……わかってるけど……でも!」

「クァーッハハハハ! そんなことが羨ましいのか? 可愛いヤツだなお前は!」

 

 あ。ヴェルドラが俺の腕の中からレトラを抱き上げた。

 酔っ払いのオッサンが、むくれてしまったレトラにうりうりと頬擦りをする。

 

「前にも言ったが、どんな姿をしていようとお前が我が愛し子であることは永遠に変わらぬ! その顔が嫌ならば、お前の好きに作り変えて構わんぞ?」

「嫌じゃない……この顔は、ヴェルドラに貰ったようなもんだし……」

 

 この世界で親から貰った顔を変えるつもりは、レトラにはないのだろう。親とも兄とも似ていないことが少し気になるという些細な話なので、今まで口にすることはなかったんだろうけど。それはレトラにちょっとした疎外感を与える、コンプレックスだったのかもしれない。

 よし、じゃあ俺達はレトラが引け目を感じたりしないよう、もっと甘やかしてやらないと……というわけでヴェルドラ、俺もレトラを可愛がるからそろそろ返せよな。

 

 

 そして俺達は、せっかくレトラが作り直してくれていた特大のベッドを使うこともなく、敷かれた畳の上で折り重なるように雑魚寝して朝を迎えたのだった。

 二日酔いで苦しんだのが俺だけだったのは、理不尽な話だと思う。

 

 

 

 

 




(ふあ、眠い……リムルは俺とヴェルドラがベッタリでイライラしてるのか……そんなに鬱陶しいかなあ、前と比べたらあんまりベタベタしてないのに……まだ多い? いやでも、ヴェルドラとくっつくのゼロにしろって言われても……ムリだしなあ…………あ、リムルが呼んでる……イチャイチャする? くっつけってこと? はいはーい……)

※兄の嫉妬を理解してない、残念
※更新期間なのでまたよろしくお願いします


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