転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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③地上へ~大賢者

 

 リムルとレトラに暫しの別れを告げ、我はリムルのユニークスキル『捕食者』の『胃袋』へと入った。我を封じる『無限牢獄』を内と外から解析し、封印を破るのが目的だ。

 こうなっては我も手を抜くわけにはいかぬ。

 我がユニークスキル『究明者(シリタガリ)』でリムルと共通の"名"に干渉し、リムルの眼を通して得た情報を転送させ──外の様子を観察することに成功したのだ! 

 

 何? 言っていることとやっていることが違う? 

 そんなことをしていないで『無限牢獄』を破れ、だと? 

 アホめ! 洞窟の奥深くに封じられ、三百年の退屈に耐え忍んできた我が、リムルの中にいるとは言え久しぶりに外界に触れられるのだぞ!? 少しくらい良いではないか!? 

 

 ……と思ったのだが。

 地上を目指すと言っていたリムルとレトラは、しばらく洞窟内をうろついていた。どうやら魔物と戦闘になった時のため、スキルの確認や訓練を行っているようだ。

 そこまでせずともお前達は、人間が定めた魔物の階級(ランク)で言うAランクオーバーの特殊個体なのだが……そこらの魔物など障害にもならぬだろうに、慎重なことだ。

 

 だが、わからぬ話ではない。リムルはレトラを守らねばと意識して行動しておるようだし、レトラもリムルの言うことを素直に聞いて従っている。二人とも、前世では人間という脆弱な種族であったために、危機に備える癖が付いているのかもしれんな。

 

(『捕食者』の能力は、ヴェルドラを収納した『胃袋』の他にも……)

(『砂工職人(サンドクラフター)』では、砂を操ったり形作ったり出来て……)

 

 しかしコヤツら、何の警戒もなくスキルの詳細をペラペラと暴露しておるな……リムルはさておき、おい、レトラ? レトラよ? 我の忠告はちゃんと覚えているか? 

 まあレトラに言わせれば、「リムルは敵じゃないから」ということなのだろう。"兄弟"となったからには、二人は互いを絶対の味方として信頼しているのだ。我なら、姉上達に手の内を晒すなど想像しただけで震えが…………ゴホン、まあ問題なかろう。

 そんな考え事をしている間に──

 

(で、もう一つのユニークスキル『大賢者』なんだが……コイツ、喋るんだよ。独り言に反応が来た時は驚いたけど、俺の疑問に答えてくれたりスキルのサポートをしてくれたり、色々と助けられてるんだ。スキルっていうか、頼れる先生みたいなもんだな)

 

 リムルがわけのわからんことを言い出しおった。

 スキルが喋るだと……? そういえば初めて会った時、リムルは我以外の何者かと会話するような素振りを見せていたな。あれのことか? リムルは、まるでスキルが意思を持って受け答えをするかのように言うが……まさかな。そんなことがあるはずもない。

 望んだ答えを得られるというスキルは確かに存在する。だがそれは、そのような権能を持つスキルを使用したというだけのことで、会話ではないだろう。

 スキルが喋るなどと言われても、レトラも困惑するだけ──

 

(あ、それ! 俺にもいるよ、喋るスキル! リムルと同じだなって思った!)

 

 えええええ? 

 いるのか? レトラの中にも、喋るスキルが? 我、初耳なのだが? 

 

(へえ、お前にも……これって結構、よくあることなのかな?)

 

 いや、ない! 決してよくあることではないぞ、リムルよ! 

 長く生きておる我でも、そのような事例は聞いたことがないのだからな!? 

 

(でも俺の先生、俺には気付いてないみたいで……いつも勝手に喋り出すけど、会話してくれないんだよ。どういうスキルかも謎だから、紹介しようがないんだ……)

 

 おい、勝手にとは何だ? 所有者であるレトラが何も命じておらぬのに、スキルが勝手に喋る? 自律型ということか? イヤイヤそんなわけがあるか。考えられるとしたら、レトラが己のスキルを把握出来ていないために、発動させていることにも気付いていない……のだろうか? 

 

 ウーム……この世にはまだまだ、我の理解が及ばぬ出来事があるものよ。

 これは更に観察を続けねばと決意を新たにして、しばらくの後。ふとした拍子に、レトラの喋るスキルの名前が判明した。ユニークスキル『独白者(ツブヤクモノ)』と言うらしい。

 

(ツブヤクモノ、か……)

(先生のツイートは届くのに、俺のリプが届いてない……? 俺がフォロワーじゃなかったら何なんだ……?)

(思うんだが、お前の先生ってもしかしてbot的な……)

(そ、そんなことない! いつか絶対に相互フォローして語り明かしてやる!)

 

 コヤツら、また我にはわからぬことを…………

 そこに我が居らぬからと、二人だけで通じる話ばかりするでないぞ! 

 

 

 

 

 リムルとレトラは、かなりの期間を洞窟内で過ごした。

 何度か魔物と戦って圧勝し、二人とも魔物の情報を取り込んでスキルを得たようだ。ジャイアントバットの『超音波』で発声を可能としたのは、面白い試みだったな。

 

 そういえば、リムルの『捕食者』でレトラを『胃袋』に取り込んでみるという案は、目から鱗の思いであった。レトラとの再会が叶うのか!? と我は色めき立ったが、レトラは『捕食無効』を持っていたらしく……残念ながら、その計画は露と消えたのだ。落ち込んだ。

 

 そしてとうとう地上へ出たリムルとレトラは、ジュラの大森林に住む下位種族のゴブリン達と出会い、村の守護者を引き受けた。村を脅かしていた牙狼族を倒して配下に加え、その者達と村を整備しながら日々を過ごしておる。

 我は当初、何故守護者などと面倒なことを……と不思議に思っていたが、そのお陰で二人は村の魔物達から敬われ、チヤホヤされているのだ。ちょっと羨ましいぞ。

 

 我はこれまで、己の力を他者のために使ったことなどなかった。それ故に、我の周りには誰も居なかったのだな。我にはそれが当然であったし、悔いてはおらぬが……こうしてリムルやレトラが大勢に囲まれているのを見ていれば、考え方も変わるというものだ。

 

 他にも、我には劇的な変化があった。

 ユニークスキル『究明者(シリタガリ)』のリソースを少し割き、リムルの深層記憶野への接続を必死に試みた結果──リムルの持つ情報が一部解禁されたのだよ! 

 得たのは、素晴らしい情報の宝庫。リムル達が"漫画"や"アニメ"と呼んでいた、絵画や文字で構成された物語だ。異世界の言語を解き明かすなど我にとっては容易いことなので、それから我は、奥深い物語を堪能する作業に没頭した。

 

 おっと、もちろん漫画ばかり読んでいるわけではないぞ? 

 封印が解けた後のことを考え、今後必要と思われる知識を得ることも欠かしてはおらぬ。以前リムル達の話題にあった、異界の通信道具を使った連絡手段についても把握した。

 

 何か気になることがあれば調査を行えるようになり、我は大変満足している。

 例えば、リムルが表層心理で恐れていた、レトラの"反抗期"とやら……それはどういうものなのかとリムルの記憶野を探って調べると……精神の成長過程において、他者へ反抗的な言動を取るようになる時期、のことだとわかった。

 

 恐ろしい…………

 もしもレトラに、あの無邪気なレトラに、「うざい」「キモイ」「うるせーんだよ」などと冷たく吐き捨てられてみろ……我、泣いてしまうぞ? 

 あの時レトラは、もう反抗期はないようなことを言っておったので、本当に良かった。僥倖以外の言葉が見付からぬ。我はレトラを信じるとしよう……! 

 

 

 

 

 先日は、ドワーフの王国ドワルゴンへも行ってきた。

 リムルがドワーフの職人を探しに赴いたため、必然的に我も、という話なのだが、リムルのヤツめ、レトラを村に置いて行きおったのだ。

 レトラの身を案じて安全な村に残した……とのことだが、留守番をさせるのは可哀想ではないか? 心配と言うならば、常に傍で守ってやった方が安心なのでは? 

 

 しかし、リムルの言にも一理ある、と我は思い直すことになる。

 確かにドワルゴンには楽しそうなものが山ほどあった。竜の姿では訪れることの出来なかった"町"は新鮮であったし、そこは見たことのない品や食べ物で溢れていた。リムルがドワーフ達と訪れた夜の店にも、いつか行ってみたいと感じたしな。

 

 それと同時に、腹立たしい出来事もあった。リムルの実力もわからぬ愚かな人間共に絡まれたり、揉め事を起こしたと牢に放り込まれたり。嫌味なドワーフ大臣を殴った──のはリムルではなく鍛冶師カイジンなのだが、その件で裁判沙汰となったり。

 

 気に入らぬ相手は消し炭にすれば良いと我は考えるが、社会においてはそれではイカンのだそうだ。今回のようにドワルゴンへの出入りを禁止されるだけでなく、時には討伐の対象となることもあるようで……それ、もしかして我のことでは……いや止そう、過去の話だ。

 とにかく、そうなっては町の観光どころではないので、好き勝手に暴れるのはイカン。楽しみのためには、我慢も必要であることは理解したが…………

 

 もし目の前でレトラが嫌な思いをさせられていても、我は我慢せねばならぬのだろうか。いくら必要なことであっても、到底面白いものではない。

 レトラは人間社会の道理には明るいであろうから、恐らくはリムルのように我慢を選ぶのだろうが……ウウム、駄目だな、我が我慢出来そうにない。ならば、初めからレトラが嫌な思いなどしないよう平和な村に残しておくのも、悪くはないのかもしれんな。

 

 

 

 

 ドワルゴンから戻った後、リムルは引っ越しを提案した。参入したドワーフ達の協力もあり、森を拓いて新たな村を作る計画が立てられてゆく。

 皆が活気付く様子を横目に、ゆっくりと聖典(マンガ)を読み耽っていたある日のことだ。

 

「グオォォォ──!?」

 

 突然、我を襲った脱力感。こ、この感覚には覚えがあるぞ……! 

 慌てて外の様子を探ると、他の集落から加わった大勢のゴブリン達が、列を作って並んでおった。その者達に順に話し掛けている、一匹のスライム。

 

 リムルめ……! 

 またもや、我の魔素を奪って名付けを始めおったな!? 

 

 ついこの間、村のゴブリンや狼に"リグルド"や"ランガ"などと散々名付けをし、低位活動状態(スリープモード)に陥ったリムルだが……性懲りもなくまたやっておる。しかも前回より数が多いぞ? 

 我ら三体のように力を交換し合うのでもなければ、名付けで失った魔素は下手をすると元には戻らぬ……本来は、我のような上位者でもそうそう行うことではないのだ。

 そして、躍起になって魔素の流出を防ごうとする我に、声を掛ける者があった。

 

《告。回復可能な魔素量の算出に成功しました。規定の数値までは安全であるため、協力を要請します》

 

 依然として『無限牢獄』に囚われたままの我に、明確に話し掛けてきた何者か。だが、リムルとレトラの会話からその存在を知っていた我は、慌てず騒がず問い掛ける。

 

「お前がリムルの先生か?」

《否。ユニークスキル『大賢者』です》

 

 返ってきたのは否定だったが、『大賢者』と名乗りおった。コヤツがリムルの先生だ。

 本当にスキルが会話をするのだな……"世界の言葉"を利用して意思の伝達をしているそうだが、そんなデタラメなことがあるのか……? 

 

《告。前回の名付け時に採取したデータにより、安全率を計上しております。最大魔素量の減少を防ぎつつ使用可能な魔素量は、推定で──》

 

 ウム、この先生とやら、もっとデタラメなことを言っておるぞ。

 前回のデータを取っていたからとて、回復可能な魔素量を見極めて名付けをするなど……そんなことが簡単に出来るなら、名付けは危険な行為とは呼ばれなかったであろう。

 

《必要な魔素量を補うため、協力を要請します》

「イヤ、リムルの先生を疑うわけではないが、実際にそのような……」

 

 チラリと、外の様子に意識を向けた。

 ゴブリン達への名付けを一旦止めたスライムが、隣に佇む砂スライムに声を掛けている。

 

「ふう、なかなか進まないな……レトラ、やっぱり手分けして名付けしないか?」

「しないね」

 

 待て待てリムル! レトラに協力を求めるな! 

 お前と違って、レトラの中に我は居らんのだぞ? 己の魔素のみで数百匹もの魔物に名付けをしたら、間違いなくレトラが消滅するであろうが……! 

 レトラはしっかり断っておるが、リムルに何度も頼まれては万が一ということもある……

 

「ええいわかった、『大賢者』よ! 我の魔素を使うが良い……!」

《了。可能な限りの魔素を採取します》

 

 容赦のないヤツだな……! 

 しかし、我が力を貸してやらねばリムルも危うい。つまりこれは、盟友たるリムルが我を頼りにしているということなのだから、我としてもそう悪い気はせぬのだよ。

 

 何にせよ、総勢五百名への名付けが無茶なのはわかり切っていたことだ。リムルは三日程度の低位活動状態(スリープモード)を繰り返す羽目になっていた。

 リムルが眠ると外界の情報が得られなくなるため、我は大人しく読書をして過ごし……『大賢者』の宣告通り、我の魔素は無事に回復を果たしたのだった。

 

 

 

 

 まったく、リムルとレトラときたら……本人達もそうだが、所有するスキルも規格外のものばかり。常識人の我には驚きの連続である。

 大体にして、リムルの持つユニークスキルは『捕食者』と『大賢者』の二つ。レトラに至っては『渇望者(カワクモノ)』と『砂工職人(サンドクラフター)』、そして『独白者(ツブヤクモノ)』の三つ……我ですらユニークスキルは『究明者(シリタガリ)』の一つだけなのだが、コヤツらは一体どうなっているのだろうか? 

 

 だが、面白い。知れば知るほど興味は尽きぬ。

 未だ封印されてはいるものの、すっかり退屈とは無縁になった我は、さて次はどのような出来事との出会いが待っておるのかと、期待に胸を膨らませるのだった。

 

 

 

 




※十話あっても終わらなさそうで愕然としています


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