転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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⑨ガゼル王~魔国連邦

 

 魔物達の住まう町の建設は急速に進んでおり、リムルには専用の部屋が出来た。共用の建物とは別の、北側の区画に建てられた隠れ家のような庵だ。

 それは素直に羨ましいのだが……我には不満が一つある。リムルの庵の建設が決まった際に、レトラも自分用の庵を欲しがったのだ。

 

「え、レトラ……お前は今まで通り、俺と一緒の部屋でいいだろ?」

「いやいや……いやいや?」

 

 ブンブンブンブン、とレトラが首を振る。

 我は断然リムルを応援したが、レトラは全く譲らず、リムルが渋々折れた。

 今思い出しても納得行かぬが、リムルの庵から少し遅れてレトラの庵も完成し、二人は各々の自室で寝泊まりするようになっていた。

 

 ムゥ、アヤツらはこれまで同じ部屋で話したり眠ったり、夜だけは時間を共有していたのに……リムルとレトラが一緒に居らぬと、我もレトラと過ごせなくなる。最近、こういうのが多いな? 何となくだが、町が発展する度に少ーしずつ、二人の距離が離れてきておらぬか……? 

 モヤモヤとした気分の我を、イフリートが宥める。

 

「クロベエという者が言っていましたが、レトラ様はリムル様に頼られるほど強くなりたいとか……するとこれも、御自分を鍛えようという決意の表れなのでは?」

「何も離れなくとも良いであろう……レトラは立派に成長しておるぞ?」

 

 先日、レトラは砂の依代を作り直し、豚頭魔王(オーク・ディザスター)を取り込んで少し大きくなっていたリムルと同じくらいの背丈となった。ちなみに、我が力を貸して作り上げた顔は今でも変わらず美しく、順調に育っている。ウムウム。

 これはレトラのユニークスキル『独白者(ツブヤクモノ)』が『言承者(コタエルモノ)』へと進化し、演算能力が向上したことによる成果であった。他にも『魔力感知』や『身体強化』などのスキルを駆使しながら、ハクロウとも本格的に剣の修行をしておるとか。

 

 それだけではない。

 町には様々な種族の魔物が集うようになり、人口は増え続けている。

 あの蜥蜴人族(リザードマン)のお調子者ガビルも、今ではリムル達の配下だ。一緒に来た妹には蒼華(ソーカ)という名が、部下のリザードマン達にも名が与えられた。しかしリムルの奴、名持ち(ネームド)のガビルにまで名前の上書きを行うとは……そんなことが可能とは知らなかったし、『大賢者』は予告なく我の魔素を奪って行くし……とても痛かったぞ!? 

 

 リムルが魔物達に名付けを行って力尽きると、レトラがその者達を上手くまとめ上げ、後にリムルと緻密な情報交換を行う──という連携の下、リムルはジュラの森の盟主として、レトラは魔物達の守護者として、広く知られるようになってきておる。

 リムルと肩を並べるほど頑張っているように見えるのだが、レトラとしてはまだまだ足りぬらしい。そこまで己に厳しくせずとも良いと思うのだがなぁ…………

 

 

 

 

 平和が続いたある日、ドワルゴンから天翔騎士団(ペガサスナイツ)がやって来た。

 英雄王として名を馳せる公明正大なドワーフ王──確か、ガゼル・ドワルゴであったな。森の中でリムルと対峙したガゼルは、剣の勝負を申し込んできおった。

 

「見よイフリート。あの者、貴様よりも強いぞ」

「なんと……リムル様は勝てるでしょうか?」

「慌てるな。ガゼルはリムルを試しておるのだ」

 

 リムルの記憶から色々と勉強した今、国家という仕組みが如何に複雑怪奇なものであるのか、また、そこに寄り添う人々への責任がどれだけ重大であるのか、我は理解しておる。

 オークロードを倒した上、魔物の町を建設中という未知のスライム……ガゼルは一国の王として、リムルの本質を見極めねばならぬのだ。

 

 リムルもガゼルの目的を察しているだろう。ここで重要なのは勝ち負けではなく、ガゼルからの信頼を得ること。そして、勝負に負けたくないからとズルをするようでは、相手の信頼を得ることなど出来ぬ。我はちゃんと学んでいるのだよ。あれからの対局ではイフリートが勝つことも多くなり…………いや、今はこの話は関係ないな。

 リムルはしっかりとルールを守り、ガゼルの連続攻撃を剣技のみで凌いでみせ──勝利したのだった。

 

「凄まじい戦いでしたね。ガゼル王の技量も素晴らしいものでした」

「うむ。技術を磨き、魔素(エネルギー)量に頼らぬ強さを身に付けているのだな」

「それでしたら私も、いつまでもヴェルドラ様に甘えてばかりはいられません。貴方様の庇護下より抜け出し、自力にてこの場に立ちたく思います」

「ほう? 気付いておったか」

 

 リムルの『胃袋』の中に囚われれば、エネルギーは拡散して消滅し、リムルの力となる。それを防ぐため、今までは我がイフリートを保護しておったのだが……努力を怠らぬレトラの姿勢や、リムルとガゼルの勝負が良い刺激となったようだ。成長したものよな。

 

「良かろう。そろそろ我のサポートなしに、自身の身体を構築するようにせよ」

「ハハッ! ヴェルドラ様に頼らず、見事自我を保ってみせましょう!」

 

 こうしてイフリートは、我の指導の下でエネルギーをコントロールする技術を学び始めた。我も真面目に修行に取り組むことにする。将棋はともかく、我の凄さをイフリートに見せ付けチヤホヤしてもらうためにも、地道な努力を惜しんではならぬのだ! 

 

 

 

 

 その夜には、ガゼル一行との宴が開かれた。

 修行の合間に宴会の様子を覗き見る。ガゼルと酒を酌み交わしていたリムルが、レトラを呼んでガゼルに引き合わせているところだった。

 

「レトラ=テンペストです。どうぞお見知りおき下さい」

「ははは、リムルと違って慇懃なことだ。だがそう堅苦しくするな、聞いたぞ? お前も剣鬼殿に師事しているのだそうだな。ならば我々は兄弟弟子というわけだ」

 

 見覚えのある剣技だと思ったら、ガゼルはあのハクロウの弟子だったのだ。

 ガゼルには最早リムルやレトラへの警戒などなく、寛ぎながら飲んでおったが──そんな中、奴は少し気になる話題を口にしおった。

 

 砂妖魔(サンドマン)は、乾燥と不毛を好み草木を覆い枯らす魔物。低位ランクのため自然への影響力は低いとされているものの、豊かな森ではあまり歓迎されぬ魔物と言われている、と。

 

「それがどうだ。本来森に存在することも許されぬはずの砂妖魔(サンドマン)が、こうして樹妖精(ドライアド)と笑い合っているのだからな。大森林との共生が可能だと、森の管理者に認められるほどの砂妖魔(サンドマン)であるという証明には充分よ」

 

 ガゼルはレトラをそう評価したようだが、リムル達の目は、ポテチを肴に飲んでいるトレイニーへと向けられた。トレイニーはリムル達に協力的で、ガゼルとの勝負の立会人を務め、先程までレトラと楽しそうに話しておったばかりだ。

 だが、ガゼルの言葉が正しいのなら──樹妖精(ドライアド)はレトラを敵視している、という意味になる。

 

「……ご存じでしたか、ヴェルドラ様?」

「いや、覚えが無い……我が封印されるより前、森で砂妖魔(サンドマン)を見掛けたことすらないしな」

 

 大体、砂妖魔(サンドマン)の固有スキルは『融合』のみであり、草木を枯らす力はない。小さな砂の塊が森に発生したところで、森に害を為すことなど不可能。樹妖精(ドライアド)ほどの上位種族が、砂妖魔(サンドマン)を気に掛ける理由はないのだ。レトラのように『風化』の力を持っているなら話は別だが…………

 

 …………それかな? 

 レトラには『風化』がある。あれはユニークスキル『渇望者(カワクモノ)』の権能であり、砂妖魔(サンドマン)とは無関係の力だが、トレイニーは『渇望者(カワクモノ)』を警戒しているのか……? 

 皆の視線を受けたトレイニーは、微笑みながら答えた。

 

「レトラ様は聡明にして慎ましやか、それに大変お可愛らしい御方ですもの。砂妖魔(サンドマン)でありながら決して森を枯らさず荒らさず、平穏と調和を重んじる振る舞いの数々……この町を始め、大同盟に集う多くの魔物達がレトラ様の守護に畏敬の念を抱くように、わたくしにも感謝こそあれ敵意などございません」

 

 トレイニーは『渇望者(カワクモノ)』を持つレトラを警戒していたが、森の管理者としてその言動をしかと観察し、レトラの本質を見極めて答えを出したのだろう。流石の冷静さよな……我の庇護の下で過ごしてきただけのことはある。

 我が出て行けたら、レトラに危険はないと証言してやれたのだが、その必要もなかったようだ。レトラが良い子なのはわかり切ったことだが、トレイニーには見る目があるな! 

 

 

 

 

 リムル達は、魔物の国としてドワルゴンと国交を結ぶことになった。宴会が終わった後、国や町の名前を決めるため、皆で会議室の机を囲んでおる。

 国の名前か……魔物達の中心は、やはりリムルとレトラなのだから……リムル=レトラ=ヴェルドラ大帝国だな。これで行こう。

 

「それじゃ俺達の国は、ジュラ・テンペスト連邦国……"魔国連邦(テンペスト)"でいいな?」

「いいと思う! それしかない!」

 

 我の意見は黙殺された。まあ、国名などどうでも良いのだが、会議中はどちらかと言えば大人しいレトラが珍しく張り切っていたので、見ていたのだよ。

 国の代表、つまり王はリムルである。配下達はレトラのことも同様に王にしたかった様子だが、それはレトラがいつになく毅然とした態度で断っておった。

 荒れたのは、首都……この町の名前だな。第一候補は"首都リムル"で、レトラは喜んで賛成したが、リムルが文句を言ったのだ。

 

「俺ばっかりおかしいだろ……せめて、お前の名前も並べろって」

「悪いけどダメなんだ。俺は首都リムルがいい」

「首都リムルレトラでもいいだろ?」

「長くなる、語呂が悪い、よって却下!」

「じゃあ縮めて首都リムレト」

「ダメ! 王様の名前が採用されるべき! 首都リムルしか認めない!」

「今日はどうしたんだお前……」

 

 レトラの活躍により、町の名前は"リムル"で決定となった。

 会議の後、レトラはリムル専用の庵へとついてきた。朝になれば二国間の調印式があるとかで、二人はそれまで休息代わりに雑談を楽しむつもりのようだ。

 

「こうやって、リムルとレトラがゆっくり過ごすのは久しぶりだな」

「そうですね。レトラ様の庵が出来てからは、夜も別々になってしまいましたからね」

 

 久々の癒しの時間に、我とイフリートもウキウキである。

 スライム姿のリムルと、人の姿を取ったレトラは、布団に寝転がりながら話をする。レトラは"国相"という役職で、リムルのサポートをする仕事に就くらしい。

 だが、自ら仕事を欲しがるほどの働き者でありながら、レトラは目立つことを好まぬようだ。王であるリムルの弟なので、王弟殿下という身分になるらしいが……そんなに偉くなくてもいい、とレトラは言う。

 

「諦めろ。俺の弟なんだからな」

 

 偉大な存在として皆にチヤホヤしてもらう……それの何が嫌なのか、我にはわからぬ。ウーム、レトラの引っ込み思案にも困ったものだな。

 我はそんな感想を持っただけだったが──リムルはそうではなかったようだ。

 

「それとも、俺の弟なのが嫌なのか?」

 

 !? 

 我もイフリートも息を呑む。

 最近のレトラの成長ぶりは、戦闘技術においても、政務能力においても目覚ましい。レトラが望んで努力しているのだから、それは当然と言えよう。しかし。

 我は慌てて、リムルの思考を読み解いた。

 

 ──お前は間違いなく優秀な力を持ってるのに、どうしていつも必死になってる? 

 ──俺がいるから? 俺の弟でいることは、お前にとって重荷なのか? 

 

 充分に優れた働きをしているレトラが、更に更に優秀であらねばと、何かに急かされるように必死になるのは……自分が原因ではないか、とリムルは考えてしまったのだな。己の弟であることが、レトラを苦しめているのではないか…………と。

 

「リ、リムル様も不安を抱えていらしたのですね……ええ、わかります、私にもわかりますよ、そのお気持ち……!」

「ええい、共感している場合か! もしこれが元で、二人の仲に亀裂が入りでもしたらどうする!? 我、そんなもの見たくないのだが!?」

「私だってそうですよ……!」

 

 イフリートと二人で騒ぎ立てるが、我らには為す術もない。

 我にはリムルの表層心理は読めても、レトラの考えまでは読み取れぬ。もし、リムルの危惧が当たってしまっていたとしたら……レトラは何と答えるのだ? その答えによっては、リムルが傷付くことになるのでは……一体どうすれば……!? 

 

「……それはアレ? もしかして、俺がリムルの兄貴になってもいいってこと?」

「んなわけねーだろ! お前、俺の半分くらいしか生きてないじゃねーか」

 

 緊迫の空気は一瞬で消えおった。

 レトラの真剣な呟きにリムルのツッコミが入り、じゃれ合うような笑い声が上がり──寝転んだレトラは、枕を抱えながら恥ずかしそうに小声で言う。

 

「俺はさあ、ずっと兄弟欲しかったよ……転生してから叶ったとは言え、俺は嬉しいけど?」

 

 ……そうであったな。前世のレトラには兄弟がおらず、親もいなくなったとのこと。そんなレトラが、初めて得た兄のリムルを重荷に思うわけがなかった。何のことはない、レトラはクロベエが言っていた通り、リムルに頼られたくて頑張っているだけなのだ。

 

「安心しました……どうなることかと思いましたね」

「まったくだ。リムルとレトラには仲良くしていて貰わねば、こちらが落ち着かぬわ」

 

 それから二人は以前のように、朝までのんびりと他愛もない話をして過ごしておった。少し距離が離れてしまったと思っておったが、我の気のせいだったようだな。

 ただしレトラよ、お前があまり一人で頑張り過ぎると、我もリムルもちょっぴり寂しいのだ……くれぐれも、それだけは忘れるでないぞ? 

 

 

 

 




※総括:リムレト
※漫画版25巻の発売が1月らしいので、それまで更新を一時停止します。ここまでありがとうございました!



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