転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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開国祭編
118話 謁見式①


 

「レトラ、準備は出来たか?」

「いつでもイイヨ」

「顔の準備がまだだぞ……笑顔、笑顔な?」

「わかってるってー……ハア」

 

 ぽよんぽよん、と廊下を進む、着飾った鏡もちの隣で。

 スルスル、と美しい着物の裾が床を流れる。

 

 謁見式の日がやって来た。開国祭が始まる前に、ジュラの森中から集まった魔物達が魔王リムルに挨拶する期間が設けられているわけだ。そして、これが俺の記念すべき……いや全く何も記念じゃないけど、"姫様業務"の本番初日でもある。

 

 リムルに指摘された通り、今の俺には営業スマイルすら出来ていないみたいだ。

 俺が姫様なんて正気かよ……としか思えないんだからテンションが低空飛行なのは当然だが、そうも言っていられない。俺には完璧な姫様を演じなければならない事情がある。

 たとえどんなに気が進まなくても、だ。

 

 

 

 深紅の絨毯が敷かれた床。天鵞絨(ビロード)の装飾布で覆われた壁。

 リムルと共に足を踏み入れた謁見の間は、厳格な雰囲気でシンと静まり返っていた。

 そこで待っていたのは、儀仗兵として礼服を纏った幹部達。一分の隙もない完全装備で立ち並ぶ皆の姿に──俺の気分は一瞬で爆上がりした。

 

「おおおお……凄い! 壮観! 皆カッコイイ……! いいなあ、俺こういうの大好き!」

 

 自慢じゃないが、俺のメンタルなんて所詮はこんなもんである。

 いや本当、ガタイの良いリグルドは礼服姿の貫禄が半端ないし、ベニマルやソウエイの肩掛けコート格好良い……リグルは相変わらずカッチリした衣装が似合うし、各々で着こなしにアレンジも入っていて、ガビルの襟元ファーが良い感じ! 

 せっかくの静けさをぶち壊す俺の歓声に、厳しい顔付きで姿勢を正していた幹部達の表情がムズムズとしてきて……やがて、堪え切れないというように次々と崩れていった。

 

「いやはや……こうしてお喜び頂けると、我々も気合いを入れた甲斐がありますなぁ」

「まったく、まったく。レトラ様の御前では、情けない姿など見せられませんな!」

 

 リグルドが照れながら頭を掻き、ガビルが豪快に笑い出す。ベニマルやリグルは咳払いしつつニヤける顔を誤魔化そうとしている。ソウエイはフ、とだけ口元を緩めて頭を下げるクールぶり。反応は様々だが、皆、褒められて満更でもないようだ。

 女性陣もいつもと違う服装で新鮮だった。ブラウスにネクタイ、ミニスカ……シュナはジャケットをキッチリ着込んでベルトマーク。シオンは前を開けたロングジャケットを羽織っている。

 

「シュナもシオンも、格好良いし可愛いよ!」

「ふふ、ありがとうございますレトラ様」

「私達よりも、レトラ様こそ! 可っ……ではなく、綺っ…………くっ……!」

「け」

「こ」

 

 俺とリムルにしか伝わらないネタはスルーされ、シオンは言いたいことを言えないもどかしさにジタバタと不審な動きを見せた後、開き直りのように叫んだ。

 

「レトラ様! レトラ様は……私が、必ず、お守り致しますッ!」

「ありがとー」

 

 何の話だっけとは思うが、うん、選べる言葉がなかったんだな。

 "姫様業務"をすると宣言した際、俺を姫って呼んだら絶交な!(要約)とも言っておいたが、それを聞いた皆は、俺が"姫様業務"を嫌がっていることを理解してくれたようだ。それから優しい皆は俺のために、姫様姿の時は「可愛い」だの「似合ってる」だの、俺を落ち込ませることを言わないようにしてくれている。シオンもそうだ。

 

 俺を思いやってくれる皆の気持ちがありがたい。

 よーし、やる気出てきた。"姫様業務"、やるからには頑張るぞ……! 

 

 

 

 広々とした謁見の間の最奥。

 俺の記憶には存在しない二つの玉座──その内の一つに、スライム用の正装をしたリムルが乗っている。その隣の玉座には、姫様然として腰掛ける俺。

 リムルがスライム姿なら、俺も砂スライム姿でいいんじゃね? と考えたことはあったが……物々しい謁見室でスライムが二体祭られているという光景はギャグにしか思えなかったので、そういう意味でも俺は人型で参加するべきなのだ。

 

「レトラ、慣れないことをさせて悪いが気楽にやってくれ。魔物達なら外見より実力を気にするだろうし、とりあえずニコニコしながら妖気(オーラ)で威圧しといてくれればいいよ」

 

 リムルは俺をリラックスさせようとしたんだろうけど、注文の難易度が高い。

 しかし、謁見式の後日に控えている開国祭では、体面を重視する人間達の相手が主となる……そこで仏頂面なんて許されないので、予行演習のチャンスは今しかなかった。

 俺はこれまでの業務で身に付けた笑顔を駆使し、妖気(オーラ)の強弱調整に気を配りながら、粛々と進む謁見式の様子を眺める。

 

「い、偉大なる魔王リムル様。我ら兎人族(ラビットマン)の忠誠をお受け取り下さい……」

「そう怯えることはない。リムル様は寛大な御方だ、安心して御挨拶申し上げるがいい」

 

 リグルドに声を掛けられ、ビクビクと平伏していた兎人族(ラビットマン)の代表が顔を上げる。

 弱肉強食の魔物社会において立場の弱い種族の中には、魔王への恐怖心が拭い去れない者も多いようだけど──この兎人族(ラビットマン)の場合は、少し事情が違った。

 

「実は……我が娘フラメアも連れて来ておったのですが、この町の華やかさに浮かれ、あっと言う間に行方不明になってしまいまして……」

 

 この人は、知る人ぞ知るあのフラメアの父親なのだ。

 娘が騒ぎでも起こさないかと胃を痛める父親に、好奇心旺盛で頼もしい娘さんだなとリムルが気にせず応じたことで、兎人族(ラビットマン)達の魔王リムルへの警戒は緩和されたようだった。

 俺は前世の知識でフラメアのことも知っているけど……もしこの世界でもリムルが魔国の観光ガイドブックを作るつもりなら、フラメアと知り合いになれるかもしれないな。

 

 

 

 蜥蜴人族(リザードマン)の代表としてやって来たのは、ガビルやソーカの父親、アビル。

 以前リムルに名付けられて龍人族(ドラゴニュート)へ進化しており、年老いた姿から力強い壮年の戦士へと若返っている。初めはソーカのように人間に近い姿で現れたが、リムルに「どちら様でしたっけ?」とからかわれ、ガビルのような馴染み深い龍族の姿へ変化してアビルは跪く。

 

「リムル様。この度は魔王となられたそうで実に御目出度く……言祝ぎの機会を得られたこと、真に光栄に存じます」

「いえいえ首領、そんなに堅苦しくなくていいですよ。連邦に加盟してくれている仲間じゃないですか。今後とも宜しくお願いします」

 

 やたらとフランクに話すリムルに、玉座の両側に立つベニマルやシュナが呆れた顔をするが、室内には身内しかいないので多少は許されると思う。

 そしてアビルは、俺にも深々と頭を下げた。

 

「レトラ様、御無沙汰しております。暫く御目に掛からぬ内に、大変御立派になられて……このアビル、感慨無量の極みで最早言葉も御座いません」

「いえ、そんな。ありがとうございます……?」

 

 何だろう、ちょっとアビルの様子がおかしい。最後に会ったのは俺が五、六歳児の姿をしている時だったので、確かにアビルから見れば俺はめっちゃ成長してるだろうけど……感激で目頭まで熱くなってるようなその態度は一体……? 

 ……あ、そうか、名付け! リムルが直々に名付けをしてるから、アビルは系譜の中でもそれなりに上位の位置付けだ。それで俺に対しても心の距離が近いというか、親近感を持ってくれているというか、保護者目線入ってるんだな!? オーケー、把握した。ここにも俺の爺ちゃんがいた。

 

 それからリムルは、ガビルの幹部としての働きをアビルに話して聞かせた。

 リムルの配慮に申し訳なさそうなアビルだったが、ケジメのためとは言え自ら破門を言い渡した息子の近況は、やっぱり気になっているみたいだ。

 父親の存在に緊張しっぱなしのガビルは、「この機会に親子で話し合って来い」というリムルの目配せに気付くことはなく……リグルの耳打ちによりハッと背筋を伸ばし、リムルに礼を述べて親子で退室して行った。良かったな、二人とも。

 

 

 

 次は猪人族(ハイオーク)。謁見室に通された氏族長達が、集落での生活の様子をリムルに語る。もう飢える者などおらず、子供の姿も増え、皆で充実した暮らしをしていると。

 後方に跪いていたのは、ゲルドと一緒にハイオークの集落を回った時に会った、砂の部族の夫婦だった。二人の挨拶に言葉を返した俺は、両親に横からひっついている小さなハイオークの双子に目を留める。

 

「その子達、砂-279-1M(サニーナナクイチ)砂-280-2F(サニーヤレーニ)だよな? もうそんなに大きくなったの?」

「ああ、レトラ様……覚えていてくださったのですね。お陰様で、二人ともすくすくと育っておりますわ。是非ともレトラ様に御報告申し上げたく……」

 

 というか、半年も経ってないんだから覚えてるよ。赤ちゃんだった二人がもう歩けるんだな? って意味で聞いたんだけど……人間と魔物の成長速度には差があるんだろう。

 俺はヒョイと玉座から立ち上がり、壇上を降りた。スタスタ歩いて夫妻の前に屈み込むと、ハイオークの双子に向けて腕を広げる。

 

「二人とも、おいでおいで! また抱っこしてあげる」

「レトラ様、それは……お召し物が汚れでもしたら」

「大丈夫! 俺だから!」

 

 父親が戸惑う声を上げるが、俺はこの着物を砂で『創造再現』している。もし汚れても、この場ですぐ作り直せるので何も問題ない。

 恥ずかしがっていた双子達は、両親に促され、可愛らしい足取りで俺に近付いてきた。俺は艶々とした着物の袖を片方ずつ回し、二人を抱えて立ち上がる。うわー可愛い! あったかい! 

 

 そーれ、とその場でくるっと一回転。キャッキャッと声が上がる。

 この長い裾でよくやるなと思われるだろうが、着物に『砂憑依』しているから可能な芸当だ。俺の動きに合わせてウィズが自動で操ってくれるし、躓くなんて有り得ない。

 

 で、回転した時に幹部達の様子が見えてしまったが……リグルドが、俺を止めたいけど止められない気まずそうな顔をしていて……ベニマルが苦笑い、シュナも困ったように微笑みながら……ごめん、俺、リムルよりフランクなことしてたわ。

 身内しかいないからセーフセーフ! と自分に言い聞かせながら、夫婦に子供達を返し、来てくれてありがとうと伝えて玉座に戻る。隣でリムルの訝しげな声がした。

 

「……お前、聖母も始めたのか?」

「そういうのは全部無視していくから」

 

 前を向いたまま言い捨てる。

 リムルはちょっと、俺への気遣いが足りてないと思います。

 

 

 

 樹妖精(ドライアド)樹人族(トレント)を代表して、トライアさんとドリスさんがやって来た。

 礼儀正しく慎ましやかに挨拶を述べた二人は、どうか今後はラミリスに仕えることを許して欲しいとリムルに願い出る。

 魔王に向かって別の主に仕えたいと言い出すのは、本来なら大それた行為だろう。話をスムーズに進めるため、あらかじめ俺が仲介役となってリムルに相談を持ち掛け、ラミリスやトレイニーさんも交えて話し合いをしておいた。

 

 ──二人ともラミリスに仕えたいって? ああ、その方が良さそうだな。

 ──いいの? やった、またアタシの配下が増えちゃうのね! 

 ──寛大な御心に感謝を。これからは、妹達とも暮らすことが出来るのですね……

 

 スムーズにもほどがある。わかってたけど、ウチは本当にユルいな……それでもちゃんと手順を踏むべきなので、こうして謁見式でやり取りをすることになったのだ。

 リムルはジュラの森大同盟の頃からの協力を労い、二人の申し出を許可する。他にも、街道の対魔結界によって森の魔素濃度が低下し、魔素をエネルギー源とする樹人族(トレント)に影響が出ていることから、里を丸ごとラミリスの迷宮内に移すことも決定した。

 

「ラミリス様の迷宮は、魔国にとっても重要な場所であるとのこと……迷宮内部の管理については、是非、我らが御役に立ちたく存じます」

樹人族(トレント)及び樹妖精(ドライアド)一同、今後ともよろしくお願い申し上げますわ」

 

 そう微笑むトライアさんとドリスさんの眼差しが、そっと俺にも向けられる。

 当然俺も、よろしくお願いします、と笑って返した。

 

 

 

 

「おう、魔王様よ! 戦の役に立つなら、俺達牛頭族(ゴズ)の方だぜ? 俺達を味方に付ければ、この森にも睨みが利くってもんさ!」

「いいや、我ら馬頭族(メズ)と組むがいい! そこの牛頭族(ゴズ)だけでなく、逆らう魔物共は皆殺しにしてみせるぞ!」

 

 中にはこういう者達もいた。それぞれ牛頭と馬頭を持つこの二種族は仲が悪く、百年以上も争い続けているんだとか。魔素(エネルギー)量はAランクに達しており、ジュラの森では最強格らしいのだが……魔王に謁見する態度じゃないよな。

 幹部達は、礼儀を欠いた二人に冷たい視線を送っている。今は我慢してくれているようだが、リムルや俺が少しでも嫌そうな顔をすれば、すぐ行動に移るだろう。

 

『なあ……こいつら結構強そうだし、迷宮の中ボスにちょうど良くないか?』

『逃がせないね。是非スカウトしないと』

 

 表情の窺えないスライム姿で押し黙るリムルと、曖昧なアルカイックスマイルを続ける俺が、『思念伝達』でのんきに会話している最中──

 

《告。個体名:シュナが張った常設結界が突破されました》

 

 ウィズの声と共に、町に強大な妖気(オーラ)が出現する。ゴズメズの二人も膨大な魔素量に気付き、まさか他の魔王が攻めて来たんじゃ……と震え出した。

 リムルが人化して玉座から降り、ベニマル達を連れて歩き出す。

 

「あ、リムル。俺も行くよ」

「大丈夫か? その格好で外に出ると目立つんじゃ……」

「こんなこともあろうかと!」

 

 リムルを追って歩く俺の着物が、サラリと揺れる。謁見室の大きな扉を出る頃には、砂色の短髪と礼服姿の──そう、憧れの儀仗兵となって配下達に紛れ込んだ俺がいた。

 衣装合わせの際、本来着るはずだった礼服も着てみたい着てみたいと押し切って、ちゃっかり構成情報を取得しておいたのだ! 

 

 

 町では、ヤンキーのような風貌の魔人達が暴れていた。俺はもう知っているが、彼らは魔王ダグリュールの息子達……長男ダグラ、次男リューラ、三男デブラだ。

 "紫克衆(ヨミガエリ)"の部下数名をやられたシオンが、険しい表情でダグラに問う。

 

「ここを魔王リムル様の支配領域と知っての狼藉か?」

「ほお? お前……クレイマンの野郎をぶっ飛ばしたっていう悪鬼(オニ)だな? 面白い、と言いたいところだが雑魚は引っ込んでな。俺は魔王リムルに用があるんだよ!」

 

 あっ、と思ったのは俺とリムルだけだろう。

 シオンを含め、この場にいる配下全員が険悪な顔付きになるのを見て、ダグラが可哀想になった。この国でリムルに敵意を向けるとは、そういうことで──

 

「それと、魔王の弟も出せよ。親父の話じゃ、そいつもなかなか強ぇらしいな?」

 

 あっ、再び。

 俺にも来た……ヤバイ、皆の殺意が倍増するぞ……! 

 

「兄貴! 魔王は譲るけどよ、他は俺達にも寄越してくれや」

「ふぇーっふぇっふぇっ。オイラも一人くらい欲しいでやんす」

「もういい、黙れ……要するに、リムル様とレトラ様に害を為そうと言うのだな?」

 

 リューラとデブラを遮って、ユラリ……とまさに悪鬼の迫力でシオンが進み出る。あまりの低い声に思わず「シオン」と名前を呼べば、俺を振り向くのはニッコリとした笑顔。却って怖い。

 

「お下がりください、レトラ様。私がお守り致します」

 

 まあ……そういう約束だったもんな。

 気を付けてと返すと、シオンは嬉しそうに微笑んでから、三人に向かって吠える。

 

「時間が勿体無い! 貴様ら、まとめて掛かって来るがいい!」

「ああ? 俺達を舐めてんのか!?」

 

 三人の魔素(エネルギー)量は覚醒前のクレイマンに匹敵するほどだったが……ダグラも言っていた通り、そのクレイマンを拳でフルボッコにしたのがシオンである。

 つまり、逆上してシオンに襲い掛かった三兄弟は──今回もまた唸りを上げた鉄拳により、全員あっと言う間に沈められたのだった。合掌。

 

 その後、三人は簡単に口を割った。ちょっと暴れただけで(絶対にちょっとじゃない)父親のダグリュールに激怒され、魔王リムルの下で修行しろと追い出されて来たそうで。

 それを聞いたリムルは、厄介者を押し付けやがって……と頭を抱えたものの、彼らを鍛えてやるようにとシオンに命を下す。

 

「フフフ……貴様らのような軟弱者であっても、私にかかれば一流の戦士に育ててみせよう!」

「ヘイ、姐さん! 願ってもないことでさあ!」

「姐さんの下で、精一杯頑張らせてもらう所存です!」

「オイラもでやんす!」

 

 シオンも三兄弟も楽しそうだ。

 相手の実力を認めれば素直になるあたり、三人の性格は悪くなさそうなんだよな。

 

 

 謁見の間に戻ると、ゴズメズコンビも様変わりしていた。シオンの暴れっぷりを知り、そんな配下を従える魔王リムルを見下す気はなくなったらしい。むしろ、自分達のやらかしを自覚したことで、真っ青になって震えながら平伏していた。

 

「お、お戻りをお待ちしておりました……何卒、先程の無礼をお許し下さい!」

「我らの忠誠を、魔王リムル様に捧げたく存じます……!」

 

 必死に頭を下げる姿が哀れみを誘う……しかし、この二種族は森の弱小種族から略奪行為も行っているそうだし、しっかりと反省してもらった方がいいだろう。

 スライム姿で玉座に乗るリムルが、厳しい声で返す。

 

「俺に忠誠を誓うと言うなら、一度だけは見逃そう。争うのを止めて、俺が伝達を出すまで大人しくしているように。レトラもそれでいいか?」

「いいよ。今後は他の種族に迷惑を掛けないようにね」

「は……ははっ!」

 

 謝罪と赦免。これをキチンとしないことには、話が終わらない。

 リムルと俺が"許した"という形を作ったことで、配下達の怒りも落ち着いた。ゴズメズに向ける目が終始すごかったもんな……あの圧力を浴びながら、ちゃんと謝った二人は偉いと思う。

 俺達の内心はやっぱり──『中ボス、ゲットだぜ!』なんだけどね。

 

 

 

 耳長族(エルフ)の隠れ里からは、美形の青年にしか見えない長老が挨拶に訪れた。

 エルフは数百年生きるが、生まれて二十年ほどで成人してからは歳を取らず、寿命を迎える前の二十年ほどで急激に老化する種族らしい。

 

「お初にお目に掛かります、リムル陛下、レトラ殿下。本日は御祝いと、御礼を述べさせて頂きたく……」

 

 長老の話では、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)の戦争によって森が荒らされ、自然の恵みは減り、出稼ぎに行ったまま戻らない者も出てきて……隠れ里の人口は、現在三百名にも満たないんだとか。

 そこで、牛頭族(ゴズ)馬頭族(メズ)を何とかしてもらえないかとリムルに陳情しに来たところ、両種族はリムルの配下に加わった。魔王リムルの支配領域である大森林で暴れ回ることも御法度となるので、エルフとしては一安心のようだ。

 

「これで森が元通りになれば、出て行った者達も戻って来るでしょう」

「長老、そのことだが……また一から森を育てるのも時間が掛かるだろう?」

 

 リムルの発案で、エルフ達を地下迷宮に受け入れることが決まった。

 獣人達の避難場所である九十五階は、樹妖精(ドライアド)樹人族(トレント)が移住して憩いの森林階層となる予定なので、エルフが暮らすにも最適な環境なのだ。

 長老がリムルに何度もお礼を言って退室した後、リムルからソウエイへ送られた『思念伝達』の内容が、思念リンクで繋がる俺にも届く。

 

『ソウエイ、ブルムンド王国のカザック子爵とやらを調査してくれ。もしかすると、エルフ達が里に戻って来ないという件に関係があるかもしれない』

『御意』

 

 エルフ愛の賜物か、リムルの采配が早すぎる……! 

 ジュラの森に住むエルフの一族が正式にリムルの庇護下に入ったので、民が事件に巻き込まれた疑いがあるなら、こっちにも調査を行う権利があるからな。まあ、あの勇者一行はもう動いているだろうし、後はソウエイの報告待ちだ。

 ちなみにリムルは、九十五階にエルフの高級クラブを出すという野望を持っている。俺も行ってみたいけど、「お前にはまだ早い」とか言われそうなんだよなあ……

 

 

 

 

 

 明日は謁見式の最終日。

 この数日間で"姫様業務"にも慣れてきた。笑いたくない時でもずーっと笑っていなきゃいけないのは疲れるが、お仕事なので仕方ない。

 それと、「なんて格好してんだこいつ」的な目で見られることがなくて良かった! 本当に良かった! 初めて会う人はともかく、知り合いには驚かれる覚悟をしてたのに全然だったな。やっぱり魔物は外見を気にしないのか? それとも、俺は元々そういうもんだと思われてたとか…………深く考えないようにして、明日もがんばろう。

 

 さて、明日はとうとう長鼻族(テング)の代表が、ハクロウの娘のモミジが来る。

 今夜にはファルムスから、いや、もうヨウムが戴冠式を終えて新国家の樹立を宣言したので……ファルメナス王国からハクロウが戻って来る予定だ。

 

 ここまで、色んな人の父親ぶりを垣間見てきたけど──ハクロウはどうだろうな? 

 

 

 

 

 




※幹部達はレトラの愛想笑いを見て「キラキラしてない……」と思っています
※"姫様業務"を知らない幹部は、あとハクロウとディアブロ


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