転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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121話 子供達との出会い

 

 首都リムルの幹部以上専用プライベートエリアには、温泉旅館もある。各国の王侯貴族達ですら立ち入れない超VIP用の施設に、かわいいお客さん達がやって来ていた。

 

「リムル先生! このペンダントなあに?」

「明日から三日間の小遣いだよ。それを見せればどの店も利用出来るが……銀貨百枚分を使い切ったらゲームオーバー! 部屋に籠っての算数ドリルが待ってるからな」

「えーっ、そんなのアリかよ先生!」

「私は大丈夫だもん。先生にもプレゼント買うね!」

 

 高級旅館の広いロビーで、リムルを囲んではしゃぐ子供達。

 アリス、ケンヤ、クロエ……ゲイルとリョウタも、リムルから貰ったペンダントを大事そうに握り締め、お祭りで何を食べよう、何して遊ぼうと楽しげに話している。

 

 リムルが開国祭へ招待すべく連れて来たのは、イングラシアの自由学園特別クラス、通称Sクラスに在籍する五人の子供達──不完全な"召喚者"故に、制御不能の大きな力がいずれ肉体を崩壊させるのを待つしかなかった子供達だ。

 シズさんの教え子であり心残りでもあった彼らは、リムルへと託された。そしてリムルは約束を果たし、子供達の力の暴走を抑えることに成功したのだ。

 

「リムル」

 

 輪に近付いて声を掛けると、リムルと子供達が俺を振り向く。

 あの時イングラシアへ行かなかった俺が子供達に会うのは、これが初めてだ。やはり第一印象が重要なので、姫様なんてやってる場合ではない。今の俺はいつもと同じくリムルのような長髪(砂色)に、ドレスシャツにベスト、スラックスという仕事着姿だった。

 

「先生、その人って……」

「紹介するよ、弟のレトラだ。仲良くしてやってくれ」

 

 リムルの言葉を受け、俺はようやく会えた子供達に、初めましてよろしく、とウキウキしながら挨拶をした。だと言うのに、子供達から返ってきたのは──

 

「ふーん……」

「弟の……」

「へぇー……」

 

 思いっきり乾いた視線だった。

 ズドンッて心に刺さった。ウィズが精神体への影響を報告してくるレベルで。

 え、何……俺、嫌われてる? 会ったこともないのに何故……!? 

 子供達の反応は、リムルにも予想外だったようだ。

 

「お、おい皆……どうした? 話しただろ、俺には弟がいるって」

 

 ……!! 

 ピンと来てしまった俺は、リムルに向けて「ちょっとこちらへどうぞ」という意味合いでクイと親指を動かす。リムルには戸惑った顔をされたが、「いいから」と重ねてジェスチャー。スゴスゴと近付いてきたリムルの腕を引き、子供達に背を向けて小声で問う。

 

「あのさ、俺のこと、皆にどう説明したんだよ……!?」

「いや普通に……授業の合間とかに、弟がいるって……」

「それだけであんな風に睨まれるわけないだろ……!」

 

 原因があるなら恐らくリムルだ。前にカバル達が、リムルが俺のことを話す時は弟自慢になるって言ってたけど……子供達相手にもやったんじゃないだろうな……!? と、リムルを問い詰めようとした俺は、ハッと更なる可能性に思い当たった。

 

「リムル……あの子達に、どのくらいしつこく俺の話した?」

「しつこくって、だから普通に……一日に、二、三回くらい……?」

「多ッ!?」

 

 それだ! 原因! 二、三日に一回でも鬱陶しいのに、一日に何度も知らないヤツの話すんなよ! 大好きなリムル先生が、何の興味もない弟の話を延々としてくるウザさ……子供達が面白く思わないのは当たり前だし、俺への好感度が下がり続けていても全く不思議じゃない……! 

 

「あー! リムル先生がいじめられてる!」

「いくら先生の弟でも、先生にひどいことしたら許さねーぞ!」

 

 泣いていいかな? 

 転生してこの方、俺個人にここまでの敵意を向けられたことないんですけど……? 

 

「おいアリス、ケンヤ……レトラはそんなことしないから皆仲良く」

『もうリムルが何言っても逆効果だから黙ってて』

『ハイ』

 

 さっきも『思念伝達』で会話すべきだったんだけど、とりあえずリムルを封じて、俺はケンヤに近付いた。俺もまだ子供のような背丈だが、それでもケンヤよりはでかい。

 

「許さないって言った?」

「ああそうだよ! 先生に戦い方を習ったんだ、絶対に俺の方が強いんだからな!」

「わかったよ、それじゃあ……俺と勝負してみる?」

 

 もはやこれまで。

 覚悟を決めてやるしかない……子供達の中で俺の地位が最底辺なのを何とかしなくては、皆とホンワカ戯れられる未来は来ないのだから──

 

「ま、待てレトラ! 危ないだろ、こいつらに何かあったら」

「何よ! 先生は私達が負けるって思ってるの!?」

「いくら先生でも聞き捨てならないですね」

「ボク達、あれからずっと真面目に訓練してるよ……!」

 

 だからリムル、何も言うなって……負けん気の強いアリスだけじゃなく、落ち着きのあるゲイルや大人しめのリョウタにまで、火に油を注ぐ結果になってるだろ! 

 

『リムル、約束する。子供達のことは絶対に傷付けないから』

『わかってるよ、お前がそんなヘマするなんて思ってない。でもな……』

『ぶっちゃけリムルも、最初に力試ししたって聞いたけど?』

『しました』

 

 リムルが子供達の教師として赴任して、すぐにやったアレだ。俺だって出来れば危ないことはしたくないが……場合によっては、悪い話ではないと思う。

 

(『先見之王(プロメテウス)』。聞いてたと思うけど、頼みがあるんだ)

 

 意識の奥で『思考加速』を行いつつ、俺の頼もしい先生に相談を持ち掛ける。ウィズならきっと、もう作戦を考え始めてくれているはずで──

 

《告。対象の子供達から主様(マスター)への敵意を感知しました。"砂呪縛(サンドカース)"による精神支配を実行しますか? YES/NO?》

(NO!!)

 

 洗脳しようとするんじゃない! 

 相手はクレイマンじゃないんだぞ!? 

 

《子供達の安全に配慮する場合、戦闘を避けることが最善と判断します》

(その言い分が正しいのは認める! でも洗脳はダメ! 根本的に解決してない!)

 

 精神操作で敵意を消して仲良くするって、手段としては最悪の部類である。

 子供達が俺に持ってる感情って、『大した実力もないくせにリムル先生の弟ってだけで可愛がられててムカツク!』ってところだろうから……よろしい、ならば俺の実力を見せよう。どうかそれで俺も仲間だって認めてくださいおねがいします。

 

(ウィズ、俺はこれから子供達と模擬戦をする。圧倒的に勝たないと意味がないけど、絶対に子供達に怪我はさせない……だから、お前にも手伝って欲しいんだ。どんな偶発的な事故や不測の事態からも確実に子供達を守ってくれ。出来るな?)

《了。主様(マスター)の御望みを確認しました。『未来予見』を使用し、最適解を実行します》

 

 そうそれ、そっち! 頼んだぞウィズ! 

 考えを伝えるのって大事だな、と俺はしみじみ思ったのだった。

 

 

 

 模擬戦のため、旅館近くの静かな草地へ移動する。

 残念ながら仕事が入ってしまったリムルは、子供達がブーブー言う声に後ろ髪を引かれつつ、俺に『子供達を頼むぞ』とアイコンタクトして去って行った。

 

 その仕事とは、町に到着したという勇者マサユキ一行の出迎えである。急遽子供達と模擬戦をすることになった俺は、マサユキやその仲間達と会えないことが決定してしまった。

 ちなみに、例のユウキも子供達と一緒にイングラシアから来ているが、もう部屋に案内されて行ったとのことで、俺はまだユウキにも会えていない。

 

 本来なら俺は、裏の顔を持つはずのユウキや、マサユキの仲間に扮しているはずの彼らにも警戒するべきだが……流石に、俺一人で三正面作戦は網羅し切れない。なので開国祭の間、俺はマリアベルに集中し、他については皆を頼るつもりだった。

 

 厳戒態勢が敷かれた今の魔国では、クレイマンが"あの方"と呼んだ雇い主として疑いを向けられているユウキや、リムル討伐を掲げる勇者一行への監視はより厳しいものになる。少しでも怪しい動きがあれば、すぐにリムルと俺に報せが来る手筈だ。俺の心配事は全て取り除く、と皆は言ってくれた。だったら、皆は必ずやってくれるだろう。

 

 

 

 リムルが子供達と模擬戦をした時と同じく、制限時間は十分。そして周囲に被害が出ないようにと考慮し、結界の中で一対一。皆はそのルールで納得してくれた。

 ケンヤ達が「旅行に剣持ってこなかった!」と嘆いていたので、刃の付いていない模擬戦用の剣が何本か入った壺を瞬間造形する。使いたい人はここから取って使ってね。

 

「よーっし! すぐに参ったって言わせてやるからな!」

「お手柔らかに」

 

 一番手は三崎剣也(ケンヤ・ミサキ)、十歳。光の精霊に勇者の資質を見出された少年だ。

 模擬剣を手にして結界内に入ったケンヤに倣い、俺も壺から剣を取って相対する。リムルは回避するだけだったし、俺は受けてあげようと思う。

 

 開始と共に踏み込んで来たケンヤの勢いは、大人顔負けだった。溢れる魔素を身体強化に回しているようで、その身に宿した光の精霊との連携も良好だ。それと時折、空いた手で素早く魔力弾を放ってくることがあって侮れない。

 だが、こちとら伊達に剣鬼ハクロウを相手に修行していないのだ。痛みを代償に植え付けられた反応速度があればお釣りがくるほどで、ケンヤの剣撃全てに対応してゆく。

 

 ネタバラシとなるが、周囲の安全のためにと張ったこの結界は、実は子供達の安全のために機能していた。『万能結界』で区切られた空間内での事象について、ウィズの『未来予見』が実行されるので──その範囲が狭いほど、計算が容易に、緻密に、膨大に行える。

 

《告。三億通りの想定の下に計算を行い、確実な安全対策に努めます》

(お前すごいね……知ってたけどすごいね……?)

 

 ウィズがこれだけ全力を出してくれているのだ。俺は安心してケンヤの剣を捌き続け──制限時間の十分が過ぎる前に、ケンヤの体力を空にしてみせたのだった。

 

 

 

 二番手は関口良太(リョウタ・セキグチ)、十歳。宿した精霊は"水風"。二属性という世にも珍しい精霊は、リムルが精霊同士をくっつけて上位精霊として生み出したものだ。

 リョウタも剣を手にして、真剣な眼差しでこちらを見据えてくる。

 

「ボ、ボクだってやってやる……!」

「良い気合いだ。それじゃ、始めようか」

 

 いざ模擬戦が始まると、リョウタは気弱そうな印象を裏切る、野生的とでも言えばいいのか俊敏な動きで剣を繰り出して来た。確か、リョウタは元々身体強化の能力を持っていたはず……そのためか、スピードやパワーの強化幅がえげつない。

 

 ケンヤと違うのは、攻撃に"水風"属性の〈精霊魔法〉が織り交ぜられている点だ。こちらも己の精霊と仲良く切磋琢磨し、力に磨きを掛けている様子。

 襲い来る変幻自在の魔法は、『風化』させて頂いた。『万能結界』のもう一つのメリットとして、空間が限定されているため、結界内部の空間全てが"捕捉"済みということだった。つまり、俺は範囲内のどこにでも瞬時に『万象衰滅』を発動させられる。反則だなこれ。

 この勝負も、リョウタのスタミナ切れで、俺の勝ち。

 

 

 

 三番手はゲイル・ギブスン、十一歳。宿すのは"地"の精霊。一番年上で大人っぽく、そろそろ身長がリムルや俺を超えるんじゃないだろうか。

 ゲイルは剣ではなく、闘気で拳を強化して戦うようだ。じゃあ俺も、と剣を消して拳を構える。俺も剣を持つ前には、ハクロウと闘気を練る訓練をしていたしな。

 

「──ハァッ!」

 

 何度か俺に攻撃を躱された後、大振りの一撃と見せかけて、ゲイルの拳が地面を砕く。

 宙へ跳んで回避しながら、は? カッコイイ、と思ったが、これは"地"属性の<精霊魔法>による足場崩しと、残る安全な足場への誘い出し。

 俺が地面に着地する瞬間を狙って放たれた魔力弾は、着弾点を"捕捉"して『風化』させといた。だが、ゲイルはそれを予想済みだったようだ。

 

「やっぱり掻き消してきましたね! じゃあこれはどうですか!?」

 

 お、と思う間に、地面の破片が飛散する。なるほど、地面に魔力を流し込んだのはこのためか。エレンの"土石大魔弾(ストーンショット)"の<精霊魔法>バージョンだ。魔力弾なら中和出来ても、物理の瓦礫ならどうだ、ということだろうが──俺の『風化』の前では全てが同じ。

 

「な、何で岩石まで消えるんですか!」

「俺はそういう奴なんだよ」

 

 さあ、どんどん来い。渾身の策を潰されたゲイルは潔く接近戦を挑んで来たが、同じく闘気を纏った掌でパシン、パシンと往なしながら対応するのは、俺には容易いことである。

 ゲイルが疲れ切って勝負が付いた後、「ちょっと元に戻すね」と荒れた周辺を『万象衰滅』で砂に変え、『創造再現』で草地を作り上げた俺を、子供達が変な顔して見つめていた。

 

 

 

 四番手はアリス・ロンド、九歳。精霊は"空"属性。

 金髪の美少女で、能力は人形使役者(ゴーレムマスター)だ。

 

「次は私よ! 皆でアイツをやっつけちゃって!」

 

 リムルをも唸らせた五人中最強の能力だが──依代はヌイグルミ。やっぱりイングラシアの学園では、魔鋼製の人形なんて用意するのは難しいよな。

 そんなわけで人形(ゴーレム)達はもふもふしているのだが、使役する数がやたらと多いし、アリスの私物には攻撃しづらい……これはリムルのように避けに徹するしかないかと距離を取り、全ての人形を相手取るためのルートを割り出す。そんな最中。

 

 ──警告、とウィズの声が響いた。

 何だ? 警告? 穏やかでない語感に、隙なく注意を向ける。

 

《個体名:アリス・ロンドが、二・八秒後に左足を滑らせます》

(マジかよ……!)

 

 ルート変更。視界に重なるように現れた光の誘導ラインに従って駆け出す。ヌイグルミの間をすり抜け、跳び越え、ザザッと草地に片膝を突きながら滑り込んだ俺は、ウィズの予見通りに転び掛けたアリスをその上に受け止めた。

 ウィズのお陰で事なきを得たが、危うくカスリ傷を負わせるところだった……アリスの顔を覗き込んで大丈夫? と尋ねると、強張った表情で小さな頷き。良かった。

 

「あと、こんな風に捕まると」

 

 パチン、と指を鳴らしてみせる。

 アリスに接近して魔力供給を妨害したことで、人形との接続が途切れる。使役されていたヌイグルミ達は、ぽてん、ぽてん、と次々草むらに倒れて動かなくなった。勝負あり。

 

 

 

 そして、真打ちが登場する。

 五番手はクロエ・オベール、十歳。宿した精霊は……"時"って言えばいいのかなアレ。五人の中で最も魔素量が高い、未来の勇者だ。

 

「リムル先生の弟さんでも、負けないから!」

「ああ、よろしく」

 

 っていうか、クロエが剣を手に取っているんですが……え? この時期のクロエって、もう剣を使うんだっけ? どうだっけ? 聞いてないよ……? 

 

 という俺の冷や汗に反して、クロエの剣はまだまだ初心者の域を出ていなかった。剣速はかなりのものだが、ケンヤよりも荒削り。そうだよな、いくらクロエが剣の天才でも、まだ剣を持ったばかりで、ヒナタにもハクロウにも師事していないなら仕方ない。これからメッキメキ伸びるんだろうけど……いや、それよりも気になるのは。

 

《告。個体名:クロエ・オベールの魔力反応が継続中です》

 

 剣を振り回すクロエが、巧妙な魔力調整を行っていることには気付いていた。身体強化ではない、恐らく魔法の発動を狙っているはずだが……これは? 

 

「あっ!」

 

 クロエの手から模擬剣がすっぽ抜ける。

 間合いを詰めようとしていた俺は足を止めて──頭上を仰いだ。

 結界の天井から勢い良く降り注ぐ、水の斬撃。それは読んでいたから、避けずに『法則操作』で魔法を分解して片付ける。クロエに目を向けると、笑顔が返ってきた。

 

「バレちゃった」

 

 てへっ、じゃないんですわ。今のは演技か? わざと隙を見せて俺を足止めし、容赦なく魔法をブチ当てようとしたよね? 一般人だったら死んでない? 

 末恐ろしいものを感じたが、クロエは負けを認めてくれたのだった。

 

 

 

 模擬戦は終了した。

 結界を消して子供達の元へ戻ると、ケンヤやリョウタが肩を落としていた。

 

「ちくしょう……そりゃ、先生の弟だもんな、強いよなあ……」

「ボク達、あれから全然変わってないのかな……」

 

 俺が弱くないことは主張出来たみたいだけど……複雑な気分だ。

 やっぱり俺では、この子達に認めてはもらえないんだろうか。

 

「いや、皆強くなってたよ。リムルに言われたことをちゃんと克服してただろ?」

「え……?」

 

 子供達が呆気に取られた表情になった。

 戦いながら俺が感じたことを、具体的に説明する。

 

 ケンヤは無理してシズさんの炎を真似せず、魔力弾を使うようになった。速度と威力が高いので、剣技との組み合わせが特に引き立っていた。

 リョウタは身体強化で意識を失うという弱点を、精霊との連携でカバーしていたし、ゲイルはリムルに魔力弾を消されたことがあるから、その対策としての<精霊魔法>だったんだろう。

 アリスは人形任せじゃなく、己の立ち回りで俺を撹乱しようとしたし(転んだけど)、クロエは水魔法を切り札にするために、剣に注意を引き付ける工夫があった。

 

 まだ驚き顔のケンヤが、少し元気が戻った瞳の色で、小さく口を開く。

 

「あのさ、なんで、俺達のこと知って……?」

「何でって……皆のことは聞いてるよ。リムルが話してくれたから」

 

 あの時期、襲撃事件に備えて神経をゴリゴリ削っていた俺には、癒しが必要だった。イングラシアのリムルから連絡が来る度に、子供達の話を聞かせてとせがみまくったものだ。

 だから俺は原作知識があるからというだけじゃなく、まだ会ったこともない子供達のことをメチャクチャ知っていたし、親近感も湧いていた。勝手にだけど。

 

「リムル先生が、ボク達のこと……」

「ね、ねえ! 先生は、私のことなんて言ってた?」

「アリスは、お転婆で可愛い女の子だって」

「アリスちゃんずるい……ねえレトラさん、私は? 私は?」

「なあなあ、俺のことは!?」

 

 そうか、皆は寂しかったんだな。リムルがずっと会いに来てくれなかったから、もう自分達のことを忘れて弟にかまけてるとでも思ってしまったんだろう。罪作りな先生である。

 そして俺も、有効な一手を見付けた。リムルのことが大好きな子供達と仲良くなるには、俺達はリムルの話題で盛り上がれば良い! 

 

 イングラシアでのことを聞かせて欲しいと話題を振ると、皆は大喜びで乗ってきてくれて、俺の知ってる話も知らない話も沢山あり、楽しかった。

 しかも警戒心を解いた子供達は、俺にも興味を持ってくれたようだ。あの砂は魔法か何かですか? とゲイルに尋ねられたので、砂スキルだよと返す。

 

「砂スキル?」

「え? リムルから聞いてない? 俺は砂妖魔(サンドマン)だよ、砂を操るんだ」

「さ、砂妖魔(サンドマン)? リムル先生からは、とにかく砂、砂、砂で何でも出来る弟さんだって聞いたんですが……珍しい魔法を使うんだなって思ってました……」

 

 リムルの説明が適当! でもまあ合ってるか……俺は砂で何でもやる砂だ。

 そして、ちょっと不安になったので確認しておく。

 

「あの、ここが魔物の国で、リムルがスライムだってことは……もちろん知ってるよな?」

「うん。ユウキお兄ちゃんに教えてもらったわ」

「え、先生がスライムって、ユウキ兄ちゃんの冗談だろーなって思ってた……」

「バカね、ちゃんと聞いてなさいよ」

 

 アリスとケンヤの掛け合いに和みつつ、胸を撫で下ろす。

 原作だと、リムルがいつカミングアウトしたのか曖昧だった気がしたけど……素性も明かさず、魔物の国とも知らせずに連れて来ていたら、流石に誘拐みたいなもんだからな。

 

「僕も冗談だと思って……じゃあ、レトラさんが砂妖魔(サンドマン)っていうのも?」

「本当だよ。砂に戻ったらこんな感じだから」

「わっ! ホントに砂になったぞ!?」

「もしかして砂スライム……? ボク、初めて見た……!」

「えっ、まるーい! かわいい!」

 

 この丸いフォルム、危険性がなさすぎてウケがいいんだろうか。

 砂スライムになった俺はアリスに抱き上げられ、リョウタに撫でられ、次々と伸びてくる手に揉みくちゃにされ……クロエの腕にも収まった。

 

「リムル先生に弟がいるって聞いて、びっくりしちゃったよね」

「ホントだよな! 先生、ちょっと暇になるとすぐその話ばっかりでさー」

 

 その節はリムルがすみません、と内心謝りながら考える。

 クロエの言葉に裏を感じてしまうのは、俺に前世の記憶があるからだろうか。

 

 本当は、リムルに弟はいない。

 この世界には俺が存在するが、じゃあ他の、過去の世界では? 

 クロエが繰り返してきた時の中に──果たして、俺は居たのだろうか。

 

 五人の中で一人だけ、クロエにだけ僅かな違和感があった。俺の知っているクロエと少し違う、というか……もう剣を使っていたこともそうだし、普通の人間なら死んでいる攻撃を警告なしで俺に仕掛けたことも、他の子と比べてやけに俺に笑顔を向けることも。

 

 精霊の棲家で"彼女"を宿してから、クロエには断片的に過去の記憶が戻ってきていたはずだ……それはどこまで? 

 

 もしも、その記憶の中に、俺が居たなら、居なかったなら。

 クロエから見た俺は、一体どういう存在なんだ? 

 

 

 

 




※漫画版24巻の範囲が終わりました
※前夜祭までやるかヴェルドラ日記の続きをやるか、考え中です



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