転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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122話 前夜祭

 

 俺が子供達と模擬戦をしている間に、リムルも勇者マサユキとその仲間達との対面を果たしたそうだ。ここで魔王リムルと雌雄を決すると意気込む(仲間達の)様子に、リムルが提案したのは武闘大会への出場。マサユキが優勝した暁にはリムルが相手をするというもので、向こうも(仲間達が)やる気満々だったらしい。頑張れマサユキ。

 

 それと、"奴隷商会(オルトロス)"から助け出されたエルフ達は、護送役を務めたマサユキ一行から無事に引き渡されたと聞いた。リムルが直々に、地下迷宮の九十五階に移り住んだエルフ一族の所へ送り届けたとのこと。これで、リムルが夢見る高級クラブ運営の話もかなり進んだんじゃないかな? と俺は睨んでいる。

 

 

 

「いやーレトラさん、初めまして! 神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)と申します」

「初めまして。レトラ=テンペストです」

 

 夕方になり、晩餐会の行われる迎賓館に移動した俺は、リムルからユウキを紹介された。

 神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)──ヒナタと同じ"異世界人"であり、十年ほど前に転移してきた際に身体の成長が止まったそうで、外見は中学生くらい。人好きしそうな明るい笑顔の少年という印象だ。

 

「イングラシアではリムルがお世話になりまして、ありがとうございました」

「いえいえ! 自由組合総帥(グランドマスター)だの自由学園理事長だのと言っても、僕では子供達に何もしてあげられなくて……リムルさんには本当に感謝しているんですよ」

 

 その肩書きだけでも只者ではないが、俺はユウキの裏の顔を知っている。

 実はユウキは魔王カザリームと結託しており、カザリームを会長とする"中庸道化連"の面々からはボスと呼ばれる存在だ。クレイマンに指示を出していたのもユウキで、ヒナタ達との会議で話し合った"黒幕"やら"あの方"やらの正体は、ユウキだったということになる。

 

 そして更に、ユウキは秘密結社"三巨頭(ケルベロス)"の総帥でもあり、"奴隷商会(オルトロス)"はその中の一組織でしかない。十年ぽっちでいくつの顔持ってんだよ……とその有能ぶりに震えるが、カザリームのユニークスキル『企画者(クワダテルモノ)』も相当に猛威を振るったんだろう。

 で、リムルがジュラの森を統べる魔王になったことで、ユウキは魔物の売買がこれまでのようには行かなくなったとして、あっさり"奴隷商会(オルトロス)"を手放した。潰すついでにマサユキの手柄にしようと、勇者マサユキを派遣したという流れだったはずだ。

 

「先程レトラさんはいませんでしたけど、マサユキ君のチーム"閃光"が失礼をしてすみません……彼らはリムルさんを悪い魔王だと思い込んでいるみたいで。立場上、僕はマサユキ君の保護者みたいなもののはずなんですが、リムルさんもすみません」

「ま、気にすんなって。俺としてはあまり戦いたくはないが……勇者が参加してくれて大会に箔が付いたと思うことにするさ」

「そうですよ、ユウキさん。勇者と魔王が戦うなら、それはそれで王道展開ですし」

 

 ユウキは異世界人の保護も行っているため、マサユキがこの世界に来たばかりの頃に、イングラシアの組合本部で知り合ったそうだ。同郷でもあるし、色々と相談に乗ったり面倒を見たりしたので、マサユキからは信頼を得ているとのこと。

 ただしユウキは、リムルとマサユキがぶつかってもいいと考えているはず。そのためにマサユキに"奴隷商会(オルトロス)"壊滅の手柄を上げさせ、魔国へ向かうようお膳立てしたんだろうから。

 

「あ、レトラさんもリムルさんと同じく"異世界人"で"転生者"なんですよね? では、僕のことはどうぞユウキと。何しろ僕はリムルさんを師と仰ぐ身ですので、師匠の弟さんも当然──…………あの、今更ですけど、弟さんで合ってますか? もしかして」

「弟です!!」

 

 はいはい姫様姫様。

 俺達は晩餐会へ向けて既に服装を整えているので致し方ない。説明タイムは省略。

 師匠とかいうのは、リムルが前世の記憶から漫画を復元しユウキに贈ったことによる結果だ。この世界に来てから久しぶりに、しかも続きが気になっていた漫画まで読ませてもらえて涙が出るほど感激した、と語るユウキの気持ちは超わかる。

 

「というわけでレトラさん、もし僕が知らない漫画など持っていましたらぜひ……!」

「レトラにタカるのが目的かよ!」

 

 俺なら今この瞬間にでもサラサラッといけるが、ユウキに『創造再現』を見せるのは何となく嫌だな。漫画を渡すとしてもリムル経由にしてもらおうっと。

 現在、マリアベルの手先という立ち位置でもあるユウキに与えた情報は、マリアベルにまで伝わると見て間違いない。『創造再現』はさておき、保身と国益のために姫様をやっている、という表向きの理由がマリアベルに伝わるのは織り込み済みだ。マリアベルを釣るために姫様をやっているとバレなければ、それでいい。

 

 

 

   ◇

 

 

 迎賓館の大広間では、晩餐会の用意が整っていた。

 広間の片側ではテーブルに並ぶ様々な料理を立食形式で楽しめるし、反対側では敷き詰められた畳の上で寛げるという、魔国ならではの空間となっている。

 宴の開始まではまだ余裕があるものの、既に各国の重鎮達が集まっており、思い思いに談笑などして過ごしているようだ。

 

 そこへ現れた俺とレトラは、会場中の視線を一気に集めることとなる。

 魔王という存在への警戒、あるいは好奇。こちらを値踏みしようとする思惑を感じるのは仕方ないが、中には決して悪い意味ではない反応も交ざっていた。

 

 言葉にするなら、感心、驚嘆──

 俺は晩餐会のため更に格式高い礼服に着替え、髪もセットし直している。一日に何度も衣装替えするのは疲れるが、外見の与える印象が重要なのはビジネスでは常識だ。

 レトラの方はアイボリーの着物の上に、裾の長い水色の着物を羽織っていた。昼間付けていたブローチもそうだが、シュナ達によるコーディネートにはそういうコンセプトが多いらしく、何となく照れる。とにかく、金の縁取りの刺繍は今まで見た中で最も豪華で、美しい着物の裾を引きながら歩くレトラの姿は、着飾った王侯貴族達にも全く引けを取らなかった。

 

『レトラ……それ、歩きにくそうな衣装なのに、様になっててすごいな』

『ああ、『砂憑依』してるから。先生が完全制御してくれてるし、楽なもんだよ』

 

 その上、レトラの着物は上等な魔法装備(マジックアイテム)でもあるので、多少引いて歩いたくらいでは傷みも汚れもしない。というか『砂憑依』のお陰で、何なら裾を地面から二ミリ浮かせて歩くことも可能だそうだ。器用な奴め。

 

 俺達は土足厳禁の"畳の間"へと踏み入った。この世界では靴を脱ぐ習慣が一般的ではないため、俺達が手本を見せればハードルが低くなるだろう。

 ここでもレトラの所作は完璧で、畳の上を優雅に歩き、しなやかに振り返って正座するまで、どこから見ても隙の無い美しさが保たれていた。布地の流れすら計算ずくでコントロールしているという、『先見之王(プロメテウス)』の仕事ぶりも天晴だな。

 

 畳の経験者であるガゼルやヨウムが寛ぐテーブルで少し言葉を交わした後、俺は周囲の貴族達に挨拶して回る。レトラにはミュウランが付いてくれていた。

 頃合いを見て上座に向かった俺は、簡単な口上を述べ、乾杯の音頭を取る。

 前夜祭の始まりだ。

 

 

 

 

 この場でまず気を付けるべきは、シルトロッゾの王族達である。あからさまに意識を向けないよう窺うと、王も王女も広間の隅で静かに食事をしていて、近付いて来ようという気はないようだ。ただ、やはり彼らからは不穏な気配を感じた。感知出来るほどの害意ではないが……何らかの思惑を隠そうとするような、不気味な静けさ。

 警戒を怠るわけにはいかないが、怪しい人物はまだいる。配下達に油断せぬようにとの思念を送った俺は、もう一人の要注意人物へと視線を移す。

 

「うっわ、口の中で溶けた! いやあ、こっちでこんなに旨い寿司が食べられるなんてね」

「本当に最高だわ。魚介類の運搬は自由組合に依頼しても断られたし、諦めていたけど……これからは少し楽しみが増えたわね」

「何だよヒナタ、仕方ないだろう? 採算が全く合わないんだからさ」

 

 ハクロウが捌いて握ってくれた槍頭鎧魚(スピアトロ)の寿司を、ユウキとヒナタが絶賛しながら味わっている。シズさんの弟子である二人は、確かに気心の知れた仲なのだろうが──俺達は、ユウキが過去の一連の事件の黒幕であるという疑いを捨て切れていない。特に俺よりシビアなヒナタは、間近でユウキを見張ってくれているのかもしれないな。

 ロッゾもユウキも、こんな状況で軽率な行動を取るほど間抜けではないだろう。『智慧之王(ラファエル)』もその可能性は低いと予想しているし、開国祭が無事に成功すれば俺達の勝ちだ。

 

 前夜祭は概ね予定通りに進んだ。

 この世界では運搬事情により魚の生食という文化もないため、スピアトロの刺身や寿司には、初め多くの者が躊躇していたが……聖騎士団長ヒナタ、自由組合総帥(グランドマスター)ユウキ、という大物達の反応に、次第に寿司を注文する人数が増え、最終的には大好評を博したのだ。

 

 サリオンの皇帝エルメシアが到着した時は、ちょっとした騒ぎになった。俺がエラルド公爵宛てに送った招待状の返事には、何故か皇帝も来ると書いてあり……そのため、来ること自体は知っていたのだが、各国の護衛達が揃って慌てふためくので敵襲かと焦ったくらいだ。

 

「魔王リムル殿。招待、ありがたく頂戴した。朕は嬉しく思う。明日からの祭りとやらも期待しておる故、せいぜい朕を楽しませてたもれ」

 

 二千年以上も生きる大妖(オンナ)だとガゼルが教えてくれた通り、エルメシアの威圧感も美貌も、並大抵のものではなかった。自らを天帝と称するのも頷ける態度で振る舞ったエルメシアは、交わした挨拶の最後に、俺にしか聞こえないような小さな声で囁く。

 

「今日でなくてもいいので、時間を作って欲しいわ。堅苦しくない場で、本音で相談したいことがあるのよ。良ければ弟さんも一緒に」

 

 この思いっきり砕けた口調が、エルメシアの素らしい。

 何やら親近感を覚えてしまった俺は、エルメシアの護衛の一人にエラルド公爵の姿を見付け──これは苦労してるんだろうな、と内心で労っておいた。

 

 

 

 

 到着が遅れていたミリム一行もやって来た。

 ミリムに続く神官服の男二人は、ガビルから聞いた者達だろう。禿頭で大柄なのが神官長ミッドレイ、飄々とした風情なのがヘルメスだったか。

 そして元魔王の"獅子王(ビーストマスター)"カリオンと、"天空女王(スカイクイーン)"フレイ。それぞれ、部下である三獣士(アルビスとスフィアは、このために一度カリオンの元へ帰還していた)と、"双翼"と呼ばれる双子の有翼族(ハーピィ)を連れている。

 

 ミリム達を出迎えるため、俺とレトラも扉まで赴いた。

 先頭のミリムが着ているのは、胸元に大きなリボンをあしらった可愛らしいノースリーブワンピース。ドレスというよりは、よそ行きの服でめかし込んだ感じがして、それもまたミリムらしい。

 俺に気付いたミリムの顔が、ぱっと輝く。

 

「来たぞ、リムル! ようやくこの日が──」

 

 ミリムの言葉が途中で途切れ、視線がどこかへ釘付けになる。それはどこかと言えば案外近く、俺のすぐ隣に立つ──レトラヘ向けて。そういえば、ずっと地下迷宮に入り浸りだったミリムは、レトラの"姫様業務"を知らないんじゃなかったか……? 

 激しい衝撃が駆け抜けた顔で止まっていたミリムが、やがてわあっと歓喜の声を上げ、一直線にレトラへと走り寄ってきた。

 

「レトラか!? レトラだな!?」

「ミリム、ようこそ開国」

「す、すごいのだ! とっても綺麗だぞ、レトラ!」

「あのミリム今日」

「綺麗なのだ、すごいのだ! 知らなかったぞ、レトラはお姫様なのだな!」

「ミ……」

 

 あーあ…………

 興奮してまくし立てるミリムを止められる者などいない。

 レトラですら怒るに怒れず、業務中のため否定も出来ず、しゅるしゅると消沈しながら黙ってしまった。傍目には、友達の少女に褒めそやされて恥ずかしげに俯いてしまった初心な姫君のようでもあるので、周囲からの視線は温かなものだ。レトラ、ドンマイ。

 そしてカリオンの後ろでは、三獣士が素早く視線を交わし、何事か頷き合っているのが目に付いた。いや、君達は何目線で何をドヤっているんだよ? 

 

 

 

   ◇

 

 

 やられた。貴族達の目の前で、しかも大声で俺を姫呼ばわりしたミリムェ……今ので確実に大勢から姫様のレッテルを貼られた。いや元々そういう計画だったんだし、ミリムを止められなかった俺が悪いんだけど、俺の尊厳的なものが取り返しの付かない大ダメージを喰らったような……ダメだ、考えるな、冷静になったら負けだ。いくらマリアベルを釣るためでも、姫になるって身体張りすぎじゃね? とか考えちゃダメだ。だってこれは、考えても考えても、本当にここでやるしかない最善策なんだから! あと三日、絶対にやり切ってやる……! 

 

 …………はっ。

 ヤバイヤバイ、思考の海に埋没していた。

 

 気付くと俺は別室で、リムル、ミリム、ミッドレイ、ヘルメスと共にテーブルクロスの掛けられた席に着いていた。自己メンタルケアをしている間に、リムルがフレイに失言を犯し、素直に謝罪してミリムの良い手本となり、カリオンが犠牲になるシーンを見逃してしまったようだ。

 

 さてこれは……ああ、神官長ミッドレイに、料理という存在を教えてあげて欲しいというのがミリムからの依頼だったな。

 "竜を祀る民"は、食材をそのまま頂くことを至高とする文化を持つ。料理を嫌っているのではなく知らないだけなので、シュナが腕によりを掛けてくれた料理を一口でも食べれば考えが変わることは間違いないんだけど……ミッドレイは運ばれてきた特製野菜スープを見て、つるりとした頭に血管を浮かび上がらせる。

 

「感心しませんな、魔王リムル様。せっかくの野菜に手を加え、こうして液体に漬けるなど食材への冒涜ですぞ! しかも、我らがミリム様まで巻き込むとは!」

「──黙りなさいっ!」

 

 ミッドレイがスープを食する価値なしと断言したことに、シュナの一喝が入る。「この料理こそが、リムル様の理想とする"調和"の姿なのです!」と力説するシュナに押されて、思わずスプーンを口に運んだミッドレイは──涙を流した。

 

「う、美味いです……ワシが今まで食べたどのような野菜よりも……このひと匙の方が味わい深い……!」

 

 そりゃそうだよ。

 俺とリムルの心の声は完全に一致である。

 生野菜と、野菜のダシが効いたスープでは旨味が違いすぎるからな……

 

「それだけではありませんよ。一品だけでも味わい深い料理は、組み合わさることによってより真価を発揮します。国家も同じ……広く深く繋がることで、より豊かな満足を得られるように……それこそが、リムル様の望む世界なのです!」

「そうか、そしてそれはミリム様の望む世界でもあると……ワシが間違っておったのですね……あのようなミリム様の笑顔など、野菜の盛り合わせでは見たことがなかった……っ!」

「そらそうっすよ」

 

 ボソリとツッコミを入れたヘルメスとは仲良くなれそうだ。彼は諸国を旅した経験から料理の存在を知っていたが、他の神官達を説得出来なかった苦労人でもある。

 まあ、固定観念って厄介だからな。そのミッドレイも、パンやテリーヌ、ステーキを美味しそうにパクパク食べているミリムの姿に、己の過ちに気付くことが出来たようだ。

 

『シュナはすごいな……料理で調和とか国家とか、俺はそんなこと全然考えてなかったから恥ずかしいんだが』

『大丈夫だよリムル、俺も考えてなかったから』

 

 とは言え、美味しい料理はそれこそ人々との調和、ひいては国家の繋がりをも生み出すので、決してハッタリというわけではなかった。

 シュナはすごい。全てはこの一言に尽きるのだ。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

(想像以上に、とんでもない国なのよ)

 

 マリアベルはグラスを傾けながら、豪奢な大広間を一瞥する。

 城でも目にすることがなかった料理や飲物、会場の一部に敷かれたラグや給仕の纏う民族衣装──前世では欧州の支配者として生きた"異世界人"であり"転生者"でもあるマリアベルには馴染み深いものではなかったが、オリエンタルとでも言うべき異文化の香りは、この世界の人々には新鮮だろう。

 

(やはり、危険過ぎるわ。ジュラの森を中心とした経済圏の誕生は、必ずロッゾの障害となる。早々に滅ぼすべきだったのよ。世界がこの国に気付いてしまう前に──)

 

 だが、魔国連邦(テンペスト)を滅ぼす計画は二度に渡り失敗。しかも二度目の失敗で受けた反撃は、シルトロッゾの領土に巨大な穴を穿つほどの災害だった。

 

(少なくとも今は"暴風竜"に手を出すべきではないの。それに、魔王リムルは魔王ミリムとも懇意にしているみたい……まったく、ふざけないで欲しいのよ)

 

 最早、武力による殲滅は現実的ではない。

 ならば最も手っ取り早いのは、マリアベルの『強欲者(グリード)』でこの国を乗っ取ること──それが実現可能かどうか判断することを目的として、マリアベルは開国祭にやって来た。

 

 魔国から招待状が届いた時には罠かと訝しんだが、マリアベルは一つの結論に辿り着く。魔王リムルは、シルトロッゾの関与を示す決定的な証拠を掴んでいないのだ、と。

 "暴風竜"はこちらの"術式転送(スペルトランス)"を利用し破壊のエネルギーを送り込んでは来たが、それだけだ。魔王リムルがロッゾを疑っていたとしても、儀式魔法の行われた地下祭殿と、術者の"血影狂乱(ブラッドシャドウ)"数十名は綺麗に消し去られ、証拠など残ってはいない。

 

 この千載一遇の好機に、マリアベルは自ら出向くことを決めた。警戒する祖父グランベルを説得し、何もしないという約束の下で。魔国の警備は厳重だったが、同行させた父王を隠れ蓑に、マリアベルは出席した晩餐会でゆっくりと観察に徹する。

 

(遠目に見た限りでは、魔王リムルからも、王弟レトラからも……それほど強い欲望は感じられないようね。これだけの国を作り上げておきながら、よく平然としていられるのよ)

 

 人の形を取る二体の魔物──集まった王侯貴族達の中には、その麗しい姿に絆されて警戒を解いた者も多いようだが、マリアベルに言わせれば危機感の欠如でしかない。

 マリアベルは外見に惑わされることなく、その本質をじっと見据える。

 

(魔王リムルには揺らぎが少ない……聖人ヒナタと同じように、やはり支配するのは難しいかもしれないの。王弟レトラは……見てくれだけは上手く化けているけど、精神の浮き沈みが激しいみたい。見極めるにはもう少し掛かりそうなのよ)

 

 開国祭は三日間。今回は身の安全のためにもマリアベル自身が動くことはないが、数名の手駒を使って魔国の反応を窺うつもりだ。『強欲者(グリード)』で支配済みのユウキから、何か有益な情報が得られるかもしれないという期待もあった。

 

 マリアベルの勘が正しければ、必ずどこかに綻びがある。

 その瞬間を見逃すまいと、"強欲(マリアベル)"は沈黙を守りながら牙を研ぐ──

 

 

 

 




※乱高下の主な原因は"姫様業務"


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