転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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124話 一日目~問題発生

 

 技術発表会の後は、夕食まで各々自由に過ごすことになっている。

 リムルと俺は、ルミナスとの面会のため、迎えに来たアルノーとバッカスに連れられて迎賓館の一室へと向かった。護衛としてベニマルとシオンも一緒だ。

 

「久しぶりじゃな、リムル。そしてレトラよ」

 

 黒のストッキングに包まれた脚を組み、メイド服姿のルミナスが悠然とソファにふんぞり返っていた。聖騎士二人が緊張の面持ちでその後ろへ控える。部屋の外では聖騎士に付き従うメイド、という体を装っているが、ルミナスは唯一神としてルベリオスの頂点に立つ存在なのだ。

 

「今日の演奏会、見事であったぞ。期待以上に楽しめたわ」

「そうか、こっちとしても嬉しいよ」

 

 挨拶もそこそこに、ルミナスは早速オーケストラについて切り出すと、手放しに褒め千切った。お世辞なんて言う性格じゃないだろうし、特にシュナとシオンの演奏後、真っ先に拍手をしてくれたのはルミナスだからな。本当に心からの称賛だということがわかる。

 それからようやくリムルと俺にも椅子が勧められ、ルミナスの給仕達が紅茶を用意してくれる。確かこの人達も吸血鬼族(ヴァンパイア)……しかも、太陽光などのあらゆる弱点を克服した"超克者"という上位の吸血鬼だったはずだ。

 

「ところでレトラよ。随分と、小粋な装いをしておるようじゃな?」

「ええ。これには理由がありまして……」

 

 ルミナスは今初めて気付いたように俺に目を向けたが、歌劇場でテンション高くまくし立ててきた人とは思えない……! というか俺、姫様姿でこの部屋に入った瞬間から、『魔力感知』で四方八方からガン見されてるんだよなあ……気付いてますからね? 

 まあいいや、この格好は仕事中しかしないから、今のうちに好きなだけ見ればいい。俺も何食わぬ顔で、イメージアップ戦略であることを説明する。

 

「そのことなんだが、ルミナス。西側諸国でのレトラの立場を気遣って、手を回しておいてくれたんだってな? そのお陰で、ヒナタや枢機卿や大司教までレトラのために動くことになったって聞いてさ。一言礼を言っておきたかったんだ」

 

 レトラ=テンペストは人類の敵対者ではない、という印象操作にルミナス教まで参加してくれているのは本当に大きい。リムルに続き、俺もありがとうございますと感謝を述べる。

 しかし、ティーカップを持ち上げたルミナスは事も無げに言った。

 

「妾にも打算があってのことじゃ、礼には及ばぬ。まさか"暴風竜"に子がいようとは思わなんだからな……あのトカゲを敵に回しては割に合わぬ故、愛し子とやらに配慮せよと申し付けたまで。それに、実際に動いたのはヒナタ達であろう?」

 

 ルミナスは意外なほど謙虚だった。ルベリオスの利益のため命令を下しただけ、後は部下達がその意を汲んで上手くやってくれただけだ、と。でもそれって、リムルが目指しているトップの姿そのものだし、かなり好印象っぽいよな……? 

 ルミナスの対面に座るリムルが、柔らかく笑って返す。

 

「それでも有り難いよ。レトラへの悪評が世間に出回るのを防ぐために、ルベリオスの協力が得られるのは願ってもないことなんだ」

「今後の国交に憂いが残らぬのなら、妾にも不服はないぞ。ではリムルよ、まずは文化交流について提案があるのだが──」

 

 そこからは原作通りに交渉が進んだ。二国間で楽団同士の異文化交流を行う企画だったり。ルベリオスの研究員(やはり"超克者"だそうだ)を受け入れる見返りとして、ルミナスから俺達に"信仰と恩寵の秘奥"……<神聖魔法>の原理が伝授されたり。

 

 うんうん、和やか……良い空気だ! ルミナスは国交に積極的だし、リムルも快くそれを受け入れている。信頼関係が築かれてきた感じがするぞ! 

 談笑の合間にはルミナスが何度もオーケストラの感想を述べ、魔国のことを見直したと褒めるので、リムルは気分が良いようだ。

 

「明日も明後日も定時に公演があるから、また歌劇場に来てくれよ。後は、そうだな……町の大通りに色んな屋台が出てるから、行ってみたらどうだ? 浴衣も貸し出してるから、部屋係に伝えれば用意してくれるぞ」

「ほう……楽しそうじゃな? のう、レトラよ」

「俺達も後で視察に行くんです。あ、ヴェルドラも店出してるんですよ!」

「それはどうでも良いわ」

 

 そして最後に、前回のルベリオスとの話し合いで出てきた、警戒すべき者達についての再確認を行って──俺達は秘密の会談を終えたのだった。

 

 

 

 

 夕食は、広間に並べられた円卓ごとに座る形式になっており、リムルはヒナタとユウキの所へ行った。疑惑の一人、ユウキの監視を兼ねてのことだ。

 俺は"姫様業務"を続け、ミュウランとブルムンド王妃と同じテーブルに着いた。エセ姫様の俺がボロを出さないよう、周りを知り合いで固めておこうという作戦である。

 

「レトラ様、昼間の研究発表はとても素晴らしかったです。私も植物学を少々学んでおりますが、まさか"精霊の恵み"と砂妖魔(サンドマン)にあのような関係があったなんて……」

「ありがとう。苦労したけど、面白い研究だったよ」

「わたくしから見てもとても画期的なものでしたわ。ところでレトラ様、魔国のお料理には"精霊の恵み"以外にも、ルビークラウンペッパーが豊富に使用されているのですね?」

「ああ、お分かりですか。美味しいでしょう?」

 

 ミュウランとは前から仲が良かったし、学者タイプな本質が変わっていないので安心するけど……ブルムンド王妃の舌が確かすぎるね。これが本物の王族か。

 その高級香辛料は、ギィの所から貰って来たものを俺が『創造再現』で増やしたやつだけど、出所を怪しまれないよう、栽培方法も研究しとこうかな……? 

 

 一日目の夕食は平和に済んだが、マリアベルは釣れず。リミットとなる最終日の晩餐会まで、まだ時間はある。マリアベルは魔国の掌握を目的に据え、あの手この手で揺さぶりを掛けてくるだろう……チャンスは必ず来る。俺は、その時を待つのみだ。

 

 

 

 

 

「──金貨が足りない? どういうことだ、ミョルマイル」

 

 夕食後の定例報告会にて。

 リムルに問われ、心なしか顔色の悪いミョルマイルが説明する。

 開国祭の運営に当たり、ミョルマイルは古い付き合いのある店主達と仕事を進めてきたが、その店主達と取引している新規の小売商達が一斉に、世界の共通通貨であるドワーフ金貨での支払いを求めて殺到してきたそうだ。

 

「いつもは古代金貨でも支払い出来てなかったか?」

「はい、普段なら商人達が各自で換金していたはずなのですが……」

 

 西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)の国際ルールでは、「支払いは共通通貨にて行う」と定められている。実際のところは各国の取り決めに応じて、その他の貨幣、証文、物々交換などでも取引が行われているが……その小売商達は評議会の加盟国に所属する正規の商人であるため、共通通貨での支払いを、という要求は正当なものとなる。

 現在、魔国の国庫の大部分を占めるのは、国家間の取引でしか出番がないような、価値の高すぎる星金貨だ。クレイマンの城から回収した財宝は古代王国の金貨や美術品などが多く、ドワーフ金貨が足りないため支払いが出来ないのだと言う。

 

「そうは言っても、金がないわけじゃないだろ。古代金貨や金塊、商品での支払いなら可能なんだから、事情を説明して交渉するのはどうだ?」

「それがですな、先方は共通通貨以外の支払いは一切認めぬとのことで……」

 

 原作通りだ。裏で糸を引いているのはマリアベル達、ロッゾ一族……魔国に難題を吹っ掛け、俺達の頭を押さえ付けて優位に立てるかどうか試しているんだろう。

 原作と少し違うのは、俺の存在によって魔国が金を稼ぎ過ぎていたこと。もしかして金貨足りるんじゃないかな……とも考えていたが、そう上手くはいかなかったらしい。

 

 というか、俺のドレス代が高すぎた。

 当初、シュナ達は俺の姫様衣装として洋風ドレスを製作したが、まずミョルマイルに依頼して他国からドレスを何点か購入し、流行や仕立てを勉強したそうなのだ。その費用が……ほんと高くて……後日、収支報告に載っていた桁数を見て机に倒れ込んだ記憶がある。

 

 最終的に俺の衣装は和装となったが、あの洋風ドレス群で培った経験はシュナやシオンのドレスに活かされたようだし、無駄遣いではなかったと思うことにしよう。そうしよう。

 それにしても俺の所為で増えたお金が、俺の所為で消えたんだから、世の中は上手く回ってるなあ……だ、大丈夫、俺はちゃんと経済に貢献したんだ……! 

 

 そんなことを考えていると、レトラ様、とシオンが話し掛けてきた。

 

「お金は信用、なのですよね? 古代金貨や金塊に信用がないとは思えないのですが……何故その商人達は、自分達のルールをこちらに押し付けてくるのでしょう? それでは、円滑な経済活動が進められないのではありませんか?」

 

 シオンがめっちゃ頭良さそうなこと言ってる!! 

 しかもそのフレーズ、聞いたことあるな……前に俺が、貨幣経済の勉強会で皆に教えたヤツだ。きっとシオンは俺の言葉をメモして、何度も繰り返し読んだんだろう。今日まで覚えていてくれたなんて、感無量としか言いようがない。

 

「うん、シオンの言う通りだ。代替案があるのに、交渉にも応じないなんて普通じゃない……目的は最初から、まともな取引をすることじゃないんだろうね」

「これだけ大掛かりに人を動かせるくらいだ、評議会の親玉──ロッゾ一族が裏にいる可能性が高いな。俺達の評判を地に落とそうとしてるってとこか」

 

 俺の告発により、ウチは既にロッゾに目を付けている。だが、息の掛かった小売商達を各地の商人の元へ潜り込ませている人物は、ロッゾの大物というよりもその部下だろう。今は迂闊に動かず、背後関係の調査は開国祭の後で、との方針が決まった。

 

「人というのは実に不思議な生き物です。協力しなければ生きていけぬ癖に、仲間内で上下関係を決めたがる。そして二つ以上の集団が隣接した場合、どちらが上に立つかでまた揉めるのです。弱くて憐れな者達は、自らの権益を損なうことを恐れているのでしょう」

「ふむ。リムル様の築く共栄圏が、評議会の立場を脅かすと心配しているのだな?いや、奴らはずっと以前から、魔国を脅威として見ていたということか」

 

 ディアブロとシオンの会話は、完全に切れ者同士のそれだった。今日のシオンは切れ者カテゴリに含めていいくらい冴え渡っている……言ってること普通に正しいし。

 

「実に滑稽。リムル様の慈愛を受け入れぬ愚かな支配層など、滅ぼしてしまえばいいでしょう」

「第二秘書もそう思うか? リムル様に楯突き、レトラ様に心労を負わせる大罪人共……断じて許さん。今度という今度は一人残らず」

 

 そういうのは却下で、とリムルに一蹴され、二人はスンッと大人しくなる。そういえばこの人達、魔国の危険人物代表だったな……我慢して。

 早急に取り組むべきは滞っている支払いだが、その期限は三日後。開国祭が終わった翌日だ。それまで金策に努めます、と言ったミョルマイルに、リムルが頼むぞと頷き──浴衣姿へと変化した。

 

「ってことで今日は解散、お疲れ! じゃあミョルマイル君、皆で祭りに行くとしようか」

「……え? リムル様? あ、遊ぶのですか?」

「今悩んでも仕方ないって! 気を張り過ぎて、君に倒れられる方が大問題だよ。さあ、君も浴衣に着替えた着替えた!」

「敵いませんな、旦那には……」

 

 リムルの態度はお気楽だが、俺もほぼ問題とは思っていない。

 大国ドワルゴンとサリオンが魔国と懇意にしている時点で、向こうに勝ち目ないんだよなー……その二国は評議会に加盟していないので、ロッゾの威光で圧力を掛けられない国だし。リムルの人脈チートで片が付いてしまうので、俺が出張ることもない。

 

 そうして俺達は、未だ賑わいを見せる夜の町へと繰り出したのだった。

 よしよし、予定には変更無し、っと。

 

 

 

 

 リムルと俺とミョルマイル、そして男性陣というメンツで夜店の並ぶ通りを歩く。

 全員浴衣に着替えており、ベニマルやソウエイなど報告会の前から浴衣姿で、遊ぶ気満々の構えだった。恰幅の良いミョルマイルは浴衣が似合うし、リムルだってシンプルな浴衣で決めているのに……俺は可愛い系の浴衣なのが納得行かない。

 前もってシュナに着付けてもらった格好を『創造再現』したやつで、髪もゆるっと編んで片側に寄せ、肩から垂らしたアレンジになっている。"姫様業務"の延長だと考えて、もう気にしないことにしよう……

 

「レトラ、あれ、ヴェルドラの屋台じゃないか?」

「あったあった! 食べに行くって約束してたしね」

 

 露店をいくつか覗きながら歩いていた俺達は、目当ての店を見付けた。

 "ギメイのたこ焼き屋"と書かれた屋台に近付くと、中から威勢の良い大声が俺達を出迎える。

 

「おお、リムル、レトラ! よく来たな二人とも!」

 

 うわっヴェルドラ、屋台の兄ちゃんスタイルがメチャクチャ似合うー! 金髪に褐色肌という風貌に、ねじり鉢巻き、黒Tシャツに怪しいグラサン……完璧だな……? 

 あ、こちらは"ギメイ"さんというたこ焼き職人である。ヴェルドラを知っている人にはモロバレだが、"暴風竜"であることを隠すため偽名を名乗っているのだ。俺達との関係を隠す気はあまりないようだけど、ヴェルドラなのでそんなもんだろう。

 

「じゃあ早速……あれ? たこ焼きだけかと思ったら、メニューは色々あるんだ?」

「クァーッハッハ、当然だ! 何でも好きなものを喰って行け!」

 

 屋台は結構広く、何種類もの鉄板が並び、ミョルマイルが手配してくれた店員達が忙しく働いている。きっと、ヴェルドラがアレもコレもやりたいって我侭を言ったんだろうな……

 まずはたこ焼きから注文し、ハフハフと食べる。俺やリムルは、『熱変動無効』を持っていた頃から、アツアツを楽しめる感覚はあるけど火傷はしないという便利な身体だ。

 前世ぶりのたこ焼き、最高にウマい……! マヨネーズとかいう魔の調味料も既に開発されているので、お好み焼きも前世の味そのもの。焼きそばのソースが焦げる匂いもお祭りならではだし、麺を炒めるヴェルドラのヘラ捌きもお見事! 

 

「あー幸せ……どれもすっごく美味しい!」

「クァハハハ、そうだろうとも! それとだな、"大判焼き"も作りたくて鉄板を特注したのだが……」

「この"レトラ様焼き"って書いてるやつがそれか?」

 

 ヴェルドラは普通の大判焼き用の鉄板を頼んだつもりだったが、クロベエが作ってくれたのは"レトラ様焼き"用のものだったそうだ。まん丸ではなくやや楕円形、いわゆるスライムの形でちょっとした顔も付いてる。まあ……魔国で大判焼きが作られたら俺になるよね……モグモグ、おいしい。問題なし。

 

「──そのたこ焼きとやらを貰うとしよう」

 

 その時、銀髪をまとめた浴衣美少女が屋台に近付いて来て、ヴェルドラに声を掛けた。ルミナスだ。たこ焼きを注文しただけなのに、雰囲気が尊大なのは何なんだろうか……

 ヴェルドラは一瞬ウッという顔をしたものの、大人しく紙パック入りのたこ焼きをルミナスに渡す。相手が誰でもちゃんと接客してて偉いぞ! 

 ルミナスは添えられた爪楊枝で、たこ焼きを一つ口に入れた。たこ焼きを食べているだけなのに、雰囲気が優雅なのは……略。

 

「ふむ、なかなか……しかし、熱すぎて火傷したのだが? 訴訟するか」

「ウソを吐くでないわ、吸血鬼がこの程度で火傷などするものか。あと訴訟はやめて欲しい」

 

 クレーマーだ。頑張れヴェルドラ。

 店先で静かにバトルを始めた二人を横目に、リムルがそっと耳打ちしてきた。

 

「もう行くか……巻き込まれたら面倒だからな」

「うん」

 

 リムルに従い、食べかけの大判焼きを片手にそこを離れる。

 その間際、ふっと俺を追い掛けてくる視線を感じたので、俺も目配せしておいた。

 じゃあ約束通りに、という意味を込めて。

 

 

 

 

 

「さて、レトラ君。この後のことで大事な話がある」

 

 小一時間ほど皆で縁日巡りをした後、俺はリムルに腕を引かれて大通りから路地に逸れた薄暗い道に入り、コソコソと話をしていた。

 

「ミョルマイルが言ってた資金の件だが……ガゼルに相談してみようと思うんだ。ガゼルなら力になってくれるはずだからな」

「そうだね。俺も何か手伝うことある?」

「いや、俺はミョルマイルを連れて相談に行くけど、お前は自由時間でいいぞ。それでだ、もし皆に俺がどこへ行ったか聞かれたら……仕事だって言っといて欲しいんだ」

 

 俺を"君"付けしてきた時点で何か企んでいるのはバレバレだったが……ははーん、アレだな? 迷宮に作ったエルフのお店で飲むつもりなんだな? そして、シュナ達の耳には入らないようにしたいんだな? 更に、俺に口止め工作をするのは……俺を連れて行く気はないってことだ。

 まあ、こうなるだろうと思っていた。リムルがこのタイミングで飲みに行くのは原作知識で知っていたし、俺を置いて行くだろうことも予想していたので──

 

「わかった。俺も用事あるし、悪いけど金策はリムルに任せるよ」

「ああ、任せとけ……ん? 用事って? これからか?」

「うん、ルミナスと会うんだ」

 

 だから俺は、この時間に予定を入れておいたのだ。

 

「…………は?」

 

 リムルにものすごい顔された。

 

「……これから、会うのか?」

「そうだよ。もうすぐ待ち合わせの時間」

「……もう夜だぞ?」

「だって夜くらいしか暇ないし」

 

 開国祭では、忙しすぎる俺達に自由時間はほぼない。ルミナスとの約束も夜にしておいたけど、変更があれば追って知らせますと伝えてあった。そして予定は大体知識通りに進んでくれたので、リスケの必要はなくなったわけだ。

 

「それでさ、リムルのことは皆に黙ってるから、リムルも俺のこと黙っててくれる?」

「いや、ちょ、笑顔で話を進めるな……な、何でルミナスと会うのは秘密なんだ?」

「またついてくるって言われても困るから」

 

 ルミナス達ルベリオス勢とは和解済みなので、わざわざ護衛に人手を割くことはないだろう。警戒するならもっと別方面にして欲しい。リムルには仕事を押し付けて遊びに行く罪悪感が多少あるので、流石に言っておこうという判断だった。ちょうどリムルが人払いをしてくれたし、俺に口止めを頼んだんだから、俺の頼みも聞いてくれるはず! 

 リムルはダラダラと冷や汗を掻くような顔で硬直していたが、やがてそろり……と口を開く。

 

「レトラ、あのな……真面目に答えて欲しいんだが……」

「何?」

「も、しかして、それは……デートなのか……?」

 

 リムルの顔色は真っ青で、何でそんなに息も絶え絶えなんだ……と思ったけど、真面目に答えろってことなので、違う違う、と俺は首を振る。

 この前、リムルとデートしたことをルミナスに零してしまって、事細かに詳細を聞かれた。あれは尋問だった。一時間くらい掛けてたっぷり話をした後、ルミナスから出てきた言葉は、『妾ともデートせよ』。その提案をよーく吟味した俺は…………丁重にお断りした。

 

「開国祭中だよ? こんなに人が集まってるのに、魔国王弟として悪目立ちする俺が、正体隠してる魔王ルミナスと出歩くなんて、危なくて出来るわけないだろ?」

「お前らしい考えだが……じゃあ、会うってのは何なんだ」

「だから俺、ルミナスを説得したんだよ」

「……何て?」

「外には行けないけど、俺の庵で会いましょうって!」

 

 もう一度、リムルの瞳が零れ落ちんばかりに見開かれる。

 半開きで固まっていた口元が震えて、それから。

 

「ふざけんなよお前! 家デートになってんじゃねーか!」

「怒られた!?」

 

 

 いや、だってさ? 

 リムルは知らないことだけど……ルミナスって好きな人いるじゃん? 

 だから俺達はそういう意味で会うわけじゃない。ルミナスにそんなつもりがないのに、俺が勘違いしていたら申し訳ないし、笑い者になるだけだ。リムルに説明しようとしても隠蔽されるから無理なんだけど、これから始まるのはデートじゃなくて、ただのお茶会なんだよなあ…………

 

 

 

 




※こういうところで原作知識が仕事する(残念)
※次回はおうちデート



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