朝目覚めると、俺は布団の中にいた。
砂スライム枕(俺)を抱えて眠っているのはリムル…………何でだっけ?
ウィズに聞いて思い出したが、昨夜の俺はルミナスとお茶会をして、膝枕までしてもらったんだった。それで、約束の時間までにエルフの店へ行けなかったから、リムルが様子を見に来たんだな? 砂スライムになっているのは、俺が寝やすいようにとウィズが…………俺、あれからずっと寝てたのか! 仕事をすっぽかして!
慌ててふよんふよんとリムルを起こして確認すると、金貨の件はガゼル王やエラルド公に相談済みで、今夜また話し合いの予定があるらしい。順調に進んでいた。
「で、リムル……俺、寝落ちしたみたいなんだけど、ルミナスに会った? 何か言ってた?」
「ああ。有意義な時間だったってさ」
リムルの話では、ルミナスは怒っていなかったようだ。でもなぁ、お客さんを招いておいて寝落ちとか最悪だろ……うう、申し訳ないことをしてしまった。
お詫び状でも書くべきかと悩んでいると、文机に置いてある宝石箱のようなメールボックスが視界に入った。飾りの石に淡い光が灯っている……交換日記が届いている合図だ。ルミナスは魔国に箱を持って来てたのか。
この転送装置は、登録した魔力の持ち主しか開けることが出来ない。他人が蓋を開けようとすれば、対になったもう一つの箱へ中身を送り返し、石が赤く光ってお知らせするんだとか。これがルミナスの言っていた、盗み見防止の仕掛けである。中身をムリヤリ取り出すことも不可能ではないだろうけど、俺の持ち物にそんなことする人はいないしな。
人化してメールボックスを開け、取り出したノートをめくる。
【おはようレトラ。昨夜はよく眠っておったな、疲れは取れたか? お前が気に病むと思い伝えておくが、妾は気にしておらぬ故に詫びは不要じゃ。まだ連日忙しかろうから、返事は祭りを終えた後で良い。楽しい一時を過ごせたこと、礼を言うぞ】
心を読まれてるレベルで完全無欠のフォローをされた…………
いや、だからルミナス優しすぎるんだって! 別の意味で申し訳なくなってきたんですけど! 一言だけでも、お礼を書いたメモを送ろう……
そこへ、コホンと聞こえた咳払い。リムルが布団の上でしかめっ面をしていた。
「それで……昨日はどうだったんだ?」
「リムルが心配してたようなことは何もなかったよ。お茶飲んで色々話して、すごく楽しかったし……先生にも聞いてみる? 『
《解。個体名:ルミナス・バレンタインから
リムルにも思念リンクを繋げ、その返答を聞かせる。
眉根を寄せて難しい顔をしたリムルが、そっとウィズに尋ねた。
「……害意以外は?」
《害意以外を感知する能力は所有しておりません》
「だよなぁ……ウチの先生もそういうのは持ってないしなぁぁ」
何が残念なのか、ガックリと項垂れるリムル。
思念リンクを切ったウィズが、俺に話し掛けてきた。
《──ですが、
脳内で再生される映像。あ、俺が膝枕されている……それは静かな暗い和室の中、呑気に眠っている俺をじっと見つめたルミナスが真剣な表情で、「まだだ、まだ早い……まだ早まってはならぬ……」と、己を戒めるように呟いている光景だった。
(……ん? どういう意味?)
《同個体に敵意はありませんでしたが、何らかの時機を伺っているものと推測されます》
早まってはいけない……? 何かするつもりってことか……? ていうかルミナスも、ウィズが見てることまでは知らないんだな。そりゃそうか。
ようやく顔を上げたリムルが、とても気まずそうに言う。
「レトラ、毎回こんなこと言われて鬱陶しいと思うが……お前にそんなつもりがなくても相手は違うかもしれないっていうか……その、自分の言動の責任は自分に返ってくるんだから、あんまり軽はずみなことはするなよ……?」
「うん、わかってる。ちゃんと考えて行動するから!」
「お前、返事だけはいいんだよなぁ……」
失礼な。でも自覚はあるので黙っておこう。
俺は昨夜のお茶会で、ルミナスは信用出来るという印象を持った。しかし、俺という存在にまつわるイレギュラーが起きている可能性があるからには、リムルの言うことは尤もなのだ。
「まあ、気を取り直して朝メシにするか。今日の仕事は──」
「あ、そうそう、武闘大会の観戦だ!」
◇
身支度を整え、レトラを連れて闘技場へ赴く。
五万人を収容出来るローマ風の
娯楽の少ないこの世界では、こういう催しは大人気となる。イングラシアでも、毎年開催されるという武闘大会の時期には、大勢の見物客で街が活気付いていたしな。
貴賓席に座り、すり鉢状に並ぶ客席に囲まれた中央の舞台を見下ろす。
そこには、武闘大会本戦に出場する八名の選手達が並んでいた。勇者マサユキを含めて昨日の予選を勝ち抜いた六名と、残りの二名は魔国幹部勢からのシード出場となる──
時を遡ること二日前。
前夜祭が終わった深夜、俺は幹部達を招集し、相談を持ち掛けた。
「……というわけでさ。勇者マサユキが大会に参加することになったんで、その実力を見定めるためにも、幹部の中からも誰か参戦して欲しいって話なんだ」
幹部達は、魔王討伐を謳う勇者一行に対してやはり良い顔をしていなかったが、俺の提案を聞くと一斉に目の色を変えた。予想通りの反応だ。誰が大会に出るかで今にも揉め出しそうな空気の中、俺は先んじて告げる。
「じゃあまず、ベニマル、シオン、ディアブロ、ソウエイ──君達の出場は禁止します」
「なっ……!?」
名指しされた四名が動揺を見せるが、理由はちゃんとある。
ソウエイは"隠密"なので、衆人環視の中で戦うなど以ての外だ。その代わり、正式に御庭番の頭領に任命し、諜報部門から精鋭を厳選し"
他の三名は、対外向けに新設する役職──"四天王"に任ずると宣言。最もリーダー適性のあるベニマルを筆頭とし、あとシオンとディアブロで三枠。大会にはそれ以外の幹部から出て貰い、優勝したら最後の一枠の座を与えようと考えている、と。
実際のところは、問題児を大会に出さないための方便なのだが……具体的には、シオンとかディアブロとかシオンとかディアブロとか。どう考えても問題ばかりだからな。
褒賞代わりに役職も与えたし、四人は概ね納得してくれている様子。だが、我慢を強いられて不満が残るようではマズイので、更なる手を打っておく。
「では、新たな役目に就く諸君。レトラから一言あるので聞くように」
レトラに激励されれば文句も出ないだろう、という打算的な考えによるものだった。
打ち合わせ通り、俺の横で椅子に腰掛けていたレトラ(普段着)が立ち上がる。案の定と言うべきか、レトラは輝かんばかりにキラッキラしながら、まずソウエイに向けて──
「すごい格好良い! 好き!」
「恐縮です」
誰が告白しろと言った。いや、レトラは中二センスに理解のある奴なので、"
ソウエイが冷静に流してくれたお陰で騒ぎにもならず、テンションを維持したレトラは、ベニマルやシオンにも向き直る。
「"四天王"って響きも好き! 最高にカッコイイと思う……!」
そうそう、それな。レトラは"四天王"や"
そして分かり切っていたことだが、レトラの期待に満ちた瞳でキラキラと見つめられて、その気にならない者はこの国に存在しない。
「お任せ下さい。"四天王"筆頭の御役目、謹んで拝命しますよ」
「ベニマルが筆頭というのは少し納得行きませんが、私も喜んで"四天王"を名乗らせて頂きます! 見ていてくださいレトラ様、リムル様!」
「クフフフ、"四天王"ですか……私は常に御二方の一番を目指しておりますが、新参の身で欲張り過ぎはいけませんね。今は少しでも尊き主に近付けるよう、精進致しましょう」
三人とも快く、"四天王"という何をするかも謎の役職を引き受けてくれた。
で、本題の武闘大会への出場者だが──当てにしていたハクロウは、娘のモミジとデートの約束があるそうで、難色を示した。
「あー、それはダメだね。デートのドタキャンは許されないよ」
「ああ。俺の先輩も娘さんとの約束を破って、二週間無視されたって聞いたし」
「恐ろしいことですのう……」
ハクロウが出られないとなると……ガビルも技術発表会で忙しいし、他の者も仕事がある……残るはゲルドだけか。ゲルドなら実力も申し分なく、マサユキを試すには適任だろう。
「休暇中なのに悪いが、頼めるかゲルド?」
「承知しましたリムル様。マサユキとやらの実力、しかと見極めて参ります」
「うわー見たい見たい……ゲルド、頑張って! 俺も席で応援してるから!」
「レトラ様にご観覧頂けるとあらば、何にも勝る励みとなりましょう」
うーん、渋い。ゲルドの安定感は頼りになるな。
これで出場者が決まったと思いきや、リムル様、と挙手したのはリグルだった。大会に思わぬ強者が参加していた場合、ゲルドが負傷したまま勇者と当たる可能性もあるので、念のため幹部からもう一人参戦させてはどうか、という意見だった。
「そう言うってことはリグル、お前も出てくれるのか?」
「いえ、そうしたいのは山々ですが、俺には警備の仕事がありますので……その代わり、俺に次ぐ実力者であるゴブタを推薦します!」
皆の視線が部屋の後方へと向けられる。そこには、晩餐会で使われた畳に寝そべり、スピースピーと居眠りをぶっこいているゴブタがいた。幹部達は、なるほど、ゴブタならば……と何故か好感触で、反対意見はナシ。それじゃあ、まあ、いいか。
「ゴブタ君、ゴブタ君」
「んがっ……あれ? 何すか、皆してオイラ見て……」
「君、武闘大会に出場決定ね」
「へっ?」
「ゴブタよ。ワシの弟子であるからには、腑抜けた試合は許さぬからの」
「我らの代表として、勇者にも引けを取らぬ戦いをするのだぞ!」
「た、大会? 勇者って? 何すか? えっ?」
ハクロウやリグルドからも声を掛けられ、ゴブタは目を白黒させている。うむ、突然の大役に驚いているようだが、やる気は充分に違いない。もう一押しだな。
俺はすかさず『思念伝達』でレトラ、と呼び掛ける。俺のゴーサインを受け、キラキラとした満面の笑みをゴブタに向けたレトラは、最後のダメ押しを言い放った。
「ゴブタ! 俺、楽しみにしてるから、頑張ってね!」
「は…………はいっす!!」
よし決まり。本人の意思確認も完了だ。
こうして我が国の幹部から、ゲルドとゴブタの出場が決定したのだった。
◇
今日は、待ちに待った武闘大会本戦の日!
リムルと貴賓席に着いた俺は、出場者八名の紹介に耳を傾ける。
舞台でマイクを握るのはソーカ。龍の角かわいい。ソーカもソウエイの隠密部隊の一員だが、表に立つ役目の者も必要なので、顔を知られることは問題ないそうだ。
『まずは言わずと知れたこの人! 昨日の第一試合の覇者、その名は勇者マ~サ~ユ~キ~ッ! 甘いマスクに見惚れる者が後を絶たず、その目で見つめられて落ちない者はいないという! 今日その勇姿を見られる者は幸運を噛み締めろ──ッ!』
ワアアアァ──ッ!! と会場中から歓声が沸き起こる。
これだ! 俺はソーカの『マ~サ~ユ~キ~ッ!』が聞きたかったのだ! 幸せ……!
《告。精神状態の興奮を確認しました。状態:キラキラの発現が予測されます。抑制のため、ユニークスキル『
(お願いします!)
普段ならこんな注意は入らないが、あのハイテンションは"姫様業務"に相応しくないので、ウィズにメンタルチェックを頼んでおいた。抑える努力はしておこう。
リムルが、昨日のマサユキの様子をソウエイに尋ねる。予選は一組五十名ほどのバトルロイヤルだったが、マサユキの組には勇者一行の仲間もいて、そいつが全員を倒した上でマサユキに勝ちを譲ったのだそうだ。
「じゃあ実力は不明、か……どうもハッタリ小僧臭いんだが、レトラ、どう思う?」
「いや、まだまだわかんないって。それを確かめるためにも、じっくり観戦しようよ」
舞台上に立つマサユキはと言うと、ソーカによる過剰な褒め殺しと、観客達からの大声援を浴びて、顔面が固まっているように見える……プレッシャーで胃がペシャンコになってそうだけど、明日まで頑張って!
その他の顔触れも原作通りだった。
マサユキの仲間、"狂狼"のジンライ。モヒカン。
"流麗なる剣闘士"ガイ。曲者なのだが、それは後で。
謁見式に来ていた
「何でアイツらまで参加してるんだ……?」
「どうやら、優勝者を四天王に任ずるという噂が広まったようでして」
「それでまた競い合ってるのか……まあ、どっちかが勇者と当たってくれてもいいわけだし……」
『続いては、昨日凄まじい強さを見せた謎の覆面男の登場だあーッ! 正体不明の
ブッ、とリムルがジュースを噴き出しかける。
獅子を模した覆面を被り、がっしりとした体躯で腕組みしながら悠然と立つ男……
『あーっと、ここで匿名の人物より
答え合わせをするまでもないが、差出人はミリムだ。ミリムは現在、ヴェルドラとラミリスと共に迷宮の最終調整中なので、代理を送り込んできたんだろう。
伝言を聞いた
『さてここからは、魔国連邦の幹部からの参戦です! 優勝すれば、魔王リムル陛下の"四天王"としての地位が約束されている! まず最初の一人は、ゴ~ブ~タァ~ッ! ニヒルなマスクに憧れる者も多いエリート戦士! 天才の名をほしいままにする若き戦士長! 今回はどのような戦いぶりを魅せてくれるのでしょう!?』
大変な人がまだいた。
ゴブタの青褪めた顔が、やめるっすよーッ! という悲痛な叫びを物語っている。
何でソーカは、マサユキにやったような褒め殺しの嫌がらせをゴブタにもしてるのかな? 発破を掛けてるのかな? きっとそうだ、対応には期待が表れるものだし……
『さあさあ、最後に紹介するのはこちら! 真打ち登場!
ヒュ──ッ! ゲルドだ──ッ!
席から身を乗り出して大きく手を振りたいが、我慢我慢。仕事中だ。
そうして八名の紹介が終わると、次はリムルからの挨拶。
リムルが『空間支配』で貴賓席と舞台を繋ぐ"転移門"を作り出し、行ってくる、とシオンを従えて扉を潜って行った。魔物だけでなく人間からも「魔王様ー!」「リムル様ー!」と歓声が上がっており、魔王人気はなかなか高いみたいだな。
『さて諸君、よくここまで勝ち残った。今日の試合に勝ち抜き、明日の決勝で勝利すれば、その武勇は我が国のみならず、西側諸国全域で語り継がれることになる』
リムルはマイクを手に、魔王らしい口調で述べた。
そしてマサユキに、『約束通り、君が優勝すれば俺への挑戦権を授けよう』と話し掛ける。コメントは一人一人にすることになっているので、次は隣のジンライへ。
ソーカがジンライにもマイクを渡す。
『君は、"狂狼"ジンライだったな。君には何か望みがあるかな?』
『ヘッ、俺の望みはただ一つ、マサユキさんの助けになることさ。俺が優勝することは絶対にないが、俺様の代わりにマサユキさんがアンタを倒してくれるだろうぜ!』
見た目は荒っぽいジンライだが、その言葉からはマサユキへの信頼が感じ取れる。
それにはリムルも感心し、勝っても負けてもジンライに魔国産の武具を贈ると約束していた。あと、太っ腹なところを見せて好印象を与えたい、って意図もあったかな?
次は"流麗なる剣闘士"ガイ……名の知れた冒険者とのことで、観客からの声援も大きい。俺の記憶では、確かAランク冒険者だったような。
ガイは、「俺が優勝したら俺とも勝負するんだろうな?」とリムルに絡み、舞台脇に控える審判役のディアブロから注意を受けていた。マイクを通さないやり取りは観客には届かないが、俺には『万能感知』で全て聞こえるからな。
『勇者の他にも俺との戦いを望む者がいるならば、まずは"四天王"を倒して力を証明してみせるがいい。その時は、俺への挑戦を認めようじゃないか』
あ、リムルがさりげなく"四天王"に丸投げした! 大らかな態度で振る舞ってはいるが、内心ではかなり面倒臭がってるぞアレ。
ここでようやく、ガイがソーカからマイクを受け取る。
『フッ、上手く逃げたものだ。まあ良い、"勇者"も"悪魔"も、そして"魔王"も、いずれはこの俺の前にひれ伏すと知れ。ならば……そうだな、俺が優勝した暁には──お前達の自慢の姫君でも貰い受けるとしよう!』
ん?
なんか、聞き慣れないセリフだったな…………
姫君を……貰う…………?
姫を…………
あっ、俺のこと!?
いやいや、何を血迷ってるんだ!? 俺に構うんじゃない……!
と、本来ならそう焦るところだが──発言者がガイとなると、話が変わってくる。
(マリアベルが、仕掛けてきた)
後に、ガイはマリアベル・ロッゾの駒であることが判明する。その欲望に目を付けられ、『
ガイが武闘大会へ参加したのも、魔王に対して非常識な煽りをしたのも、マリアベルの計画の内だったとしたら、その目的は──
『…………あぁ?』
あーダメ! 待って! リムルがキレかかってる! ブルムンドで見たやつだ!
リムルって、俺に良くない感情を持つ人には容赦が無くなるんだよな……でも観客の前でそれはダメだ、取り返しが付かない。リムルならわかってると思うけど……もしもの時は、近くにいるディアブロかシオンに何とかしてもらって……!
「…………今、何と? 不相応にもリムル様に挑もうとしただけでなく、レトラ様を貰い受けると言ったのですか? 貴方程度の存在が、ですか?」
「私の目の前で、よくもレトラ様にそのような……この恥知らずの下劣漢め! 試合の前に、私が貴様を斬り捨ててやる……!」
無理そう! 知ってた! ディアブロの見開かれた真っ黒な目と、シオンの鬼の形相が怖い……更に不安になったので、俺はこの場に残っていたソウエイに思念を送る。
『ソウエイ……! 人目のある所じゃマズイ、万一の場合は止めに入ってくれ』
『御意。あの罪人は、人目に付かない場所にて処分します』
『ゴメン間違えた! 人目がなくてもダメ!』
ソウエイの中では、ガイはもう罪人だった。
そういえばこれって、王族への不敬罪で罰せられる案件なんじゃ……? と頭を掠めたが、いや、王の討伐という殺害予告みたいなものが大して問題になっていないんだから、姫を貰うぞって言い出すのも大した罪にはならないか。
『手下共が喧しいな。どうだ魔王? 俺が優勝したら姫を渡すか?』
『……そんなことは約束出来ない。俺と戦いたいって言うなら了承しよう』
『無理するなよ、俺が怖いんだろう? 姫を差し出すなら、しばらくの間は見逃しておいてやると言ってるんだ。願ってもない話だと思うがな』
もうどっちが悪者だよ……という会話だが、先に手を出すわけにはいかない。それを理解しているリムルは、さっきから『魔王覇気』として溢れそうな怒りを抑えている。俺達は暴力に訴えることなく、この場を収めなくてはならないのだ。
そしてガイは振り返り、俺のいる貴賓席を見上げると──
『では、姫に問おうじゃないか。さあどうする? 魔物の国の姫君よ……!』
…………
…………
…………
…………
五万人の前で姫って呼ばれた…………
ガイ許すまじ──という私怨は後にして、舞台上のガイを見つめ返す。
さて、どう対応すべきか。やはりマリアベルは、俺が魔国でどの程度の存在なのかを確認したいはず……もしこれがガイの素による事故だったとしても、この騒動で俺達がどんな反応をするか、マリアベルが高みの見物をしていることだけは確実だ。
(……ウィズ、マイクを)
《了。ユニークスキル『
片手に現れたマイクは、かつてカイジン達が作ってくれた拡声機能のある魔道具。データベース上に情報があるので、ウィズに頼めば瞬間造形で作ってくれる。
何事にも動じない態度に見えるよう、俺は微笑みながら言葉を紡いだ。
『ガイ殿。高名な冒険者らしく自信に溢れたお言葉、頼もしく思います。貴殿のような実力者の参加によって、武闘大会は大いに盛り上がることでしょう』
マリアベルが操り人形にしたいのは、魔国を動かせるほどの重要人物。
ちょうど良い、俺を売り込んでおくチャンスだ。
『大会の度にこの身を捧げるわけには参りませんが……今回に限っては、テンペスト開国祭の初年度開催という記念すべき大会です。その栄えある優勝者には特別に──』
この場をただやり過ごすだけのお姫様に用は無い。リムルや配下達に守られるばかりでなく、俺自身に発言力と求心力が備わっていることが不可欠となる。
まずは、主導権を握ること。リムル達の怒りをガイに向けさせず、ガイの言いなりになることもなく、これを利用して大会を盛り上げる……!
『この私、レトラ=テンペストが、祝福の口付けを授けることを御約束しましょう──!』
『レトラあああああああ──ッ!!』
来た来た来たあー! リムルの怒りがこっち向いたぞ!
ちなみにリムルの絶叫は『思念伝達』で、俺にしか聞こえていないやつだ。そういうとこ冷静なのは助かるけど、思念が強烈すぎてビリビリ来る。
『この……お前っ……馬鹿野郎!! 何考えてんだ!?』
『リムル! 『思考加速』でサポートして!』
俺のマイクパフォーマンスにより、会場ではワアアアッと熱に浮かされた大歓声が爆発し、この場にいる幹部全員の意識は俺に釘付けとなっていた。これなら多人数での思念リンク構築も含め、〇・一秒あれば話し合いには充分だ。
リムル、大丈夫だから! 怒んないで!
反対されるのがわかってたから先にやったけど、説明するから!
俺も皆も損しないように、ちゃんと考えてるから……!
※姫様は景品にもなれる