転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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129話 三日目~決勝戦と昼食会

 

 開国祭、三日目の朝。

 リムルはガゼル王との取り決め通り、ドワルゴンへ金貨を換金しに出掛けて行った。リムルには『空間支配』があるので、自分から出向いた方が早いのだ。

 で、俺は決勝戦を控えたゴブタに会いに行き、ちょっとした奮闘をしていた。

 

「ゴブタ! ついに勇者との決戦だな、ランガと一緒に頑張って! それで、あの……どんな風に戦うつもりなんだ? 作戦とかあったりする?」

 

 武闘大会は原作通りに進んでいるが、このまま最後まで同じだと、ゴブタは残念な結末を迎えてしまう……新たに獲得したユニークスキル『魔狼召喚(オレニチカラヲ)』を使い、ランガとの合体で超絶パワーアップするのに、その力をコントロール出来ず自爆するのだ。

 失敗もゴブタの糧になるので、余計な口出しはせずに見守っていよう──というのが開国祭前の俺のスタンスだったが、今は事情が違う。

 

 ガイの余計な一言のお陰で、ゴブタは俺のために優勝を目指してくれている。しかも、どの試合でも真剣に勝ちを狙っていて格好良いし……これはもう、ゴブタには普通に優勝してもらった方がいいんじゃないか? と、俺は考えを改めていた。

 原作のマサユキは合体ゴブタを見た瞬間に、おいィ!? と棄権を決意していたので、ゴブタが自爆さえしなければ棄権は成立するだろう。『英雄覇道(エラバレシモノ)』の補正があるので、勇者の名声が下がる心配もない。しかし──

 

「フッフッ……とっておきの作戦を考えてきたっす! レトラ様も好きそうなやつっすよ!」

 

 ああ好きだよ! ランガとの合体とかロマンの塊だからな! 

 だが、今の俺には「力の制御は慎重に! 急に走り出したら危ないから!」が言えない。昨日も言おうとしたけど隠蔽された。俺がどのくらい情報を集めれば隠蔽解除されるかわからないので、まずはゴブタから作戦を聞き出そうと思ったのに……! 

 

「だ、だからどんな? 俺、アドバイス出来るかも……」

「へへっ、レトラ様の頼みでも言えないっすね。見てのお楽しみっす!」

「教えろってぇ……!」

 

 粘ったんだけど、ゴブタは俺を驚かせたいらしくてダメだった。

 他に何か、何か手は……じゃあ、合体後ならアドバイス可能か? 『魔狼合一(ヘンシン)』を見てすぐ、加速させた思念で声を掛ければ……ワンチャンあるぞ……! 

 

 

 

『おおーっと!? 召喚獣と合体したゴブタ選手、姿が消えたかのように思われましたが──何と、場外! ゴブタ選手、舞台の外に倒れております! これは場外──ッ!』

 

 ワンチャンなかった。

 どうやら『ゴブタが力を制御出来ていない』という事象を認識するまで、隠蔽は解除されないようだった。要するに、ランガのスピードを得たゴブタがいつもの感覚で走り出し、止まろうと意識する前に舞台外の壁に激突し、気絶するまで。詰んでた。

 

 今日は決勝の大一番ということで、幹部達が総出でゴブタの応援に来ている。

 俺やリムルが座る貴賓席の周りに集まった皆は、ゴブタならやってくれる、必ず優勝してレトラ様をお守りするだろう、と期待しながら試合開始を待っていて──

 

 ゴブタが場外に飛び出した瞬間、全員の時が止まった。

 

 その表情は、唖然、呆然、愕然として……誰一人笑っていない。

 リムルを含めた全員が、目の前で起こった現実を受け入れられていないような、強張った顔で硬直している…………く、空気が重い…………! 

 

「ふーん……あれがお父様のお弟子さんなんだ……」

 

 あっモミジおはよう。

 愛娘の失望混じりの一言で、ハクロウの額にビキビキッと青筋が増えたけど。

 リムルの隣の椅子で観戦していたミリムも、「あ、アイツ……ワタシを舐めてるのか? せっかく格好良かったのに……!」とブチ切れている。ゴブタの命運は尽きたようだ。

 

 そして、舞台上のソーカが『リムル様、レトラ様。勇者にどのようにイチャモンを付けましょう?』とか、ディアブロが『観客全員の記憶を改竄してよろしいですか?』とか思念を送ってきた。一周回って冷徹な仕事人の声になっているのが怖い。

 こっち側でも、ベニマルやシオンやソウエイが──

 

『リムル様……乱入しても……?』

『勇者マサユキを討ち取っても……?』

『表彰式の前に勇者が行方を眩ますのは如何でしょう』

『いや今すぐ俺と戦うことにして叩き潰』

『──するな! 待って!』

 

 俺はリムルの言葉を遮り、武器を用意し始めた皆にストップを掛けておく。

 ゴブタのことは残念だったが、マサユキならやってくれる……たぶん、きっと……! 

 

『この勝負、僕の負けかな』

 

 よっしゃキタァァ! 

 マサユキはソーカからマイクを受け取ると、自分はゴブタの攻撃を見切れなかった、魔王に挑戦するのも時期尚早だった、と敗北を宣言したのだ。

 舞台を立ち去るマサユキを、リムル達は怪訝そうに見送っていたが……観客達はマサユキの行動を深読みし、「こんな大会はいつでも優勝出来るというメッセージだ」とか「自分を下に見せてまで魔王に猶予を与えた」とか、騒ぎ立てていた。

 

『思わぬハプニングの連続でしたが、マサユキ選手の辞退により、ゴブタ選手が優勝となりま──す! それでは表彰式を行いますので、もう少々お待ち下さい!』

 

 少しの協議の後、ソーカのアナウンスが高らかに響き渡る。

 結局、終わってみれば原作通りか……俺としても、身内が優勝してくれたので狙い通りの範疇だ。周囲の面々からも、ようやくホッとした空気が滲み出す。

 

「ふうー……もう俺が出るしかないかと思ったが、上手いこと終わったな。後は表彰式だけ……あ、じゃあレトラ、お前も舞台に上がらないと。"転移門"を作るから待ってろ」

 

 リムルのルンルンな笑顔を久しぶりに見た。

 冗談じゃないくらい心配させてしまったようだけど、一応、身内以外が優勝した場合のことも考えておいたんだよな……何せ俺には"砂呪縛(サンドカース)"がある。抵抗(レジスト)を『万象衰滅』で貫き、精神操作を行えるという強力な切り札だ。

 リムル達に黙っていたのは、最低の解決方法であると同時に、皆を信用してないって公言するようなもんだからだ。ゲルドやゴブタに「優勝して俺を守って!」と言ったその口で、「負けても優勝者を操るから大丈夫!」って言い出す奴は頭が大丈夫じゃないし……味方が全員敗退すれば言うしかなかったが、そうはならなかったし。

 

 それに、最後の手段の"砂呪縛(サンドカース)"は、なるべくマサユキには使いたくなかった。その魂の成り立ちを考えると……精神操作なんかやってみろ、俺、マサユキの未来の奥さんに焼き殺されない? 無駄な危険を背負い込む可能性は回避すべきだ。

 まあキスした方が死亡確定なので、もしもの時はマサユキに思念を送り、俺が男だとバラすつもりだった。健全な男子高校生のマサユキは、女装した男にキスされるのはゴメンだろう。そこへ、後で寿司を奢るから辞退して欲しい! という買収でケリがついたと思う。

 

 

 

 さて、表彰式の準備が整った。

 舞台には八名の選手達が並び(マサユキも呼び戻された)、リムルと俺も"転移門"を通って向かう。すると俺にも「姫様ー!」という声援が……嬉しくないよ! 

 リムルが皆の戦いを順番に褒め称える。ジンライには約束通り装備一式をプレゼントしたし、「自分にも寄越せ」と言い出したガイのことは黙殺していた。

 

 準優勝となるマサユキの番では──先程、リムルがマサユキを昼食に誘うためソウエイに伝言を頼んでいたのだが、その返答があった。「招待に応じます」と、死を覚悟した顔で。いやその覚悟は要らないんだ……昼食には俺も行くし、後で話せばいいか。

 

「それから……あと一つだけ」

 

 何故か、マサユキから再びマイクの要求があった。

 マイクを手にしたマサユキは、客席を見上げながら口を開く。

 

『見ての通り、僕はこの大会で優勝することが出来なかった……己の未熟さを痛感しているよ。そんな僕に偉そうなことを言う資格はないんだけど、聞いて欲しい。どうしても、この場を借りて謝らなければいけないことがあるんだ』

 

 その不穏な前置きに、観客達がざわめいている。

 謝るって何を……? まさか、勇者じゃないとか、本当は実力がないとか、バラしてしまう気なのか? そこまでしなくてもっていうか、『英雄覇道(エラバレシモノ)』が強引に覇道を進ませてくるわけだから、やっぱり大衆には信じてもらえないと思うんだけど…………

 

 誰もが息を詰めて、勇者の言葉を待っていた。

 そして、マサユキは顔を真っ直ぐ俺に────え、俺? 何? 

 

『優勝を盾にして姫に見返りを求めるのは、やってはいけないことだと僕は思う。レトラ姫、無礼をお詫びします。どうか、僕ら人間のことを誤解しないで欲しい──』

 

 マ、マサユキ…………

 レトラ姫って呼ぶんじゃない! 定着したらどうすんだよ! 

 

 いやそれより、マサユキはガイの無茶振りについて言ってるんだよな? 反省の色が見えないガイの代わりにお詫びをって、ちょっと真人間すぎない? 

 邪推するなら、魔王への心証を少しでも良くしようという狙いがあるかもしれないが……返事をしないと。ウィズにマイクを作ってもらって…………

 

『"閃光"の勇者マサユキ殿──そのお心遣いに深く感謝を。何者にも分け隔てなく接する姿は、異なる種族同士が共に生きる未来を照らす光となるでしょう。我々は今後も変わらず、魔物と人間との末永い友好が実現することを望みます』

 

 本人も気にしている二つ名を呼んでやったのは報復である。

 でも、良い感じのことが言えただろう。人間側からすると、ガイにあんなことを言われた俺が人間全体に悪印象を持つ恐れがあったわけだが、これで遺恨も残らない。

 まさかマサユキに謝罪されるとは……リムルや配下達も意外そうにマサユキを見ているし、これで好感度が上がったんじゃないかな……!? 

 

 いよいよ最後はゴブタの番だ。リムルが優勝トロフィーを手渡しながら、『よくやった。お前を正式に"四天王"の一人に任命する!』と声を掛けると、ゴブタは嬉しそうに応える。

 そして、祝福の授与。前に進み出た俺に向かって、『せっかくの祝福っすけど、オイラは辞退させていただくっす!』とゴブタが胸を張って言い放った。

 

「おおっ……あのゴブリン、祝福の口付けを辞退したぞ!」

「そうだよな、祝福を受けられるような優勝とは言えないし……でも、試合ではあんなに性悪だったのに、意外と謙虚なヤツじゃないか?」

 

 観客達の反応も悪くない。どんなに微妙な空気になろうが、俺とソーカの口上で盛り上げようと心に決めていたけど、その必要もなさそうだ。まあ、こんな譲ってもらったような優勝じゃ、己の未熟さを痛感したって話になるのが自然…………ん? 

 あれ? ついさっき、誰かがそんなことを言ったような……? 

 

「アイツにも、マサユキ様のお言葉が響いたんだな……!」

『!?』

 

 あっ!? そうだ、マサユキが自分のことを未熟だって言ってた……! 先にあれを言われてしまうと、ゴブタがマサユキに感化されたように見えるのか! 

 沸き立つ観客達に、ゴブタが焦った声を上げる。

 

『ち……違うっすよ!? オイラは初めから……!』

「それに、姫に見返りを求めるのは無礼……マサユキ様の言う通りだよ。面白がって騒いでいた俺達に比べて、何て立派なお方なんだ……」

「これじゃあ、姫もマサユキ様に惚れちまったに違いねえ……!」

 

 いやそれはない。

 チラッと見てくるリムルがうっとうしいです。

 

『だ、だからオイラは──』

「人間も魔物も導く清らかなお心……マサユキ様こそ、真の勇者様だわ!」

「流石はマサユキ様! マ~サッユキ! マ~サッユキ!」

「マ~サッユキ! マ~サッユキ~~ッ!」

 

 何かに取り憑かれたように始まったマサユキコールは収まる気配を見せず、結局、優勝者のゴブタをそっちのけにして表彰式が幕を閉じるという異例の事態となった。マサユキに全部持って行かれてしまったゴブタが不憫で、俺達は慌てて『思念伝達』を送る。

 

『ゴブタ……! 大丈夫だよ、ゴブタが一番格好良かったから! 俺のために戦ってくれてありがとう……!』

『そ、そうだぞゴブタ、お前は大活躍したよ。後で、俺の特製釣り竿をやるからさ!』

『ううー……レトラ様がそう言ってくれるんなら……リムル様、約束っすよ……!』

 

 必死にゴブタを慰めていると、マサユキがおずおずとゴブタに歩み寄った。

 熱狂的なコールの雨霰の中、「ヤバイ」って真っ青な顔をしていたのは見えていたので、マサユキが意図した状況じゃないのはわかってるけど……

 

「あの……すいません、僕はこんなつもりじゃ……」

「……アンタはレトラ様に謝ったっすから! 許してやるっす!」

「あ……ありがとう」

 

 マサユキも良い奴だが、ゴブタも心が広い! マジ良い奴! 

 皆で精一杯ゴブタを労ってやらなくては、という思いで俺はリムルと頷き合ったのだが、控室に戻ったゴブタを待っていたのは──笑顔のミリムとハクロウ。あっ。

 

「優勝おめでとうゴブタ。だが、あんな無様な試合を、ワタシはとても許せそうにないのだ……よって、ワタシがお前を鍛え直してやるのだぞ!」

「ゴブタよ。良い機会じゃからミリム様に殺……ゴホン、鍛えて頂くのじゃぞ」

「なあに。特訓は迷宮でするから、死んでもラミリスの力で生き返るのだ」

「ヒッ……い、嫌っすよ──!」

「そうだ、忘れるところだったのだ。ランガと言ったな? お前がいなければゴブタの修行が完成しないのだ。では行くぞ!」

「わ、我が主……我が主──!」

 

 ゴブタとランガを引っ掴んだミリムが、ズルズルと二人を引き摺りながら出口へ向かう。リムルにさえどうしようもなく、ただその後ろ姿を見送るしかない。

 ミリムに鍛えられれば間違いなく強くなれるし、絶対に二人のためになるんだけど……せ、せめて防御力の足しに、"砂の加護"をくっつけて行ってくれ……! 

 

「む? レトラよ、コイツらの修行に砂は必要ないのだ!」

「ああああー!」

 

 不可視にしたはずの『強化分身』は、ぺいっとミリムに引き剥がされてしまいましたとさ。

 ほんと無力でごめん。

 

 

 

 

 そして昼食会。

 室内には、リムルと俺とマサユキのみ。

 マサユキの仲間達が「魔王リムル、卑怯な真似は考えないことですね」「マサユキ様に何かしたら許さない」と睨みを利かせて来たのが怖かった。しかし、マサユキに宥められたからとは言え、よく敵地での会食に護衛対象を一人で送り出してくれたものだと思う。

 

「は……ハジメマシテで、いいのかな? 閃光とか勇者とか呼ばれたりしている、本城正幸(マサユキ・ホンジョウ)です……」

 

 テーブルに向かい合って座るマサユキが、緊張と羞恥の入り混じった面持ちで切り出した。うん、現代っ子の感覚で勇者を名乗るには勇気が要るよね。

 とにかくここには三人しかいないので、俺達は気兼ねなくぶっちゃける。

 

「会ったのは初めてじゃないけど、初めましてかな? 俺が魔王リムル。本名、三上悟です。元サラリーマンなんだよ、俺」

「俺はリムルの弟のレトラ。本名は藤馬泉、元々大学一年生やってました」

「えっ……? に、日本人……?」

 

 混乱していたマサユキは、まあ食べながら話そう、とリムルに促されて箸を取り──目の前の寿司と天麩羅という和のラインナップに、ごくりと喉を鳴らした。

 

「これ、最後の晩餐とか……?」

「違うから。話の通じる同郷の君とは、仲良くなりたいと思ってるんだよ」

 

 はい俺も! 俺もマサユキと仲良くなりたい! 

 おっと落ち着け。満を持して登場した貴重な後輩枠だからな……俺の周りには年上が多い分、マサユキには大人の態度で接しよう、とは前から決めていたことだ。

 

 そっと料理を口にしたマサユキは、それから一言も発することなく食事に没頭した。

 わかるわかる、日本食は久しぶりだろうし、ゆっくり味わうといい。夢中で食べるマサユキを微笑ましく見守りながら、俺達も美味しい料理を楽しむことにする。

 そして食事を終えたマサユキは、開口一番。

 

「わかりました! 僕は三上──いや、リムルさんとレトラさんの手下でいいです!」

 

 わかるわかる。普通の暮らしをしていた高校生が、いきなり異世界に迷い込むことになったのだ。衣食住の全てが変わってしまって、さぞ日本の文化が恋しかったことだろう。中でも特にメンタルを左右する"食"……この国では元の世界と変わらない日本食が食べられるとなったら、もう手下でも何でもいいよね。ご飯は大事。

 

「手下ってお前ね……」

「いえ、大丈夫です! 僕は勇者になんて未練がありませんから! 本当、どうやって逃げ出そうか悩んでいたくらいなんですよ……僕の力、ユニークスキル『英雄覇道(エラバレシモノ)』とか言うんですよ? ふざけてますよ、まったく……!」

 

 警戒を解いてくれたマサユキから、色々と話が聞けた。

 マサユキのスキルに関しては、ラファエルやウィズも分析を進めてくれている。洗脳に近い思考誘導を周囲の者に対して自然に行う常時発動型(パッシブスキル)。究極能力持ちのリムルや俺には効かないが、今大会の結果を見ればその効果は絶大だ。

 

「凄い能力だよな……あのまま辞退しなければ、お前が優勝だったぞ?」

「イングラシアの大会でもそうでした……何もしなくても周囲が勘違いしてくれて結果がついてくるから、楽と言えば楽だったんですけど……流されてたら死ぬな、って実感しまして」

 

 正しい判断すぎる。もし今日優勝していたら、俺がマサユキに説得を試みる前に、リムルが潰しに出て行くところだったんだからな……! 

 マサユキの境遇も聞いた。元は進学校に通う高校一年生で、金髪は高校デビューの一環。この世界に来てからは勇者と持て囃され、仲間からも崇められるばかりで、愚痴を言える相手はユウキくらい。多忙なユウキと会える機会も少なく、ストレスが溜まっていたようだ。

 お互いの話をしているうちに、マサユキが俺に目を向ける。

 

「ところでレトラさん……あの、さっきから気になってたんですけど、リムルさんの弟……って言いました? 弟ってことは、もしかして」

「そうそう! 俺、男なんだよ……! 仕事でこの格好してるだけで、本当は姫じゃないんだ」

 

 おお……流石はマサユキ、そこに気付くとは常識人だな! 

 マサユキは目を見開きながら「姫じゃなかったんですか……!?」と狼狽えた。無理もないのでそれは許す。姫にしか見えない姿に扮しているのは俺なんだから。

 

「し、仕事で姫って……どんな事情があったらそうなるんですか?」

「ざっくり言うとリムルがやれって」

「ちゃんと説明しろ人聞きの悪い!」

 

 政治的意図の"姫様業務"……という退屈な説明タイムを終える。

 あ、そういえば俺、姫様の件でマサユキに言いたいことがあるんだった。

 

「さっきはわざわざ謝ってくれてありがとう。謝罪する必要なんてなかったのに」

「いやー実は……僕は魔王に喧嘩を売った身だし、もう命がないんじゃないかと不安で不安で……あそこで謝っておけば、少しは印象が良くなるかもって考えただけなんですよね!」

 

 うーん、正直者。言わなくて良いやつだよそれ。

 まあ、今まで勘違いされまくってモヤモヤしてたんだろうし、本音をぶちまけられるのが相当嬉しいんだな。あれは打算だったと暴露するマサユキの表情が素晴らしく晴れ晴れしているので、ツッコミを入れられない……

 

「でも、あのガイって人に無茶なこと言われてて、レトラさんが気の毒だなとは思ってたんですよ。あの時、リムルさんや部下の人達も怒ってたように見えたし……」

「そう思ってくれたんなら充分だよ。勇者が謝罪してくれたことは魔物にも人間にもプラスになったし、やっぱりありがとう」

「集団心理にまで影響を与えるとはなぁ……そこでだ、マサユキ君。君が良ければなんだが、俺と手を組む気はないか?」

「え?」

 

 そうすれば世界の半分をやろう──

 とまでは言わなかったが、リムルはそんなセリフが似合いそうな魔王らしい笑みをニヤリと浮かべ、マサユキに話を持ち掛ける。

 午後からお披露目予定の地下迷宮(ダンジョン)について、まずは機能や安全性を詳しく説明。そのデモンストレーションにチーム"閃光"で挑戦し、今後多くの冒険者を迷宮に呼び込むための広告塔になって欲しい、と。

 

「へえ、地下迷宮(ダンジョン)ってそんなに凄い施設だったんですか……死なないんだったら安心ですし、何だかゲームのテスターみたいですね!」

 

 マサユキの返事は、即OKだった。

 ゴズールとの再戦の約束を思い出した途端に絶望していたが、今日は三時間ほどの公開のため、ゴズールのいる五十階層まで進む時間はないと知って安堵したようだ。

 

 こうしてマサユキは俺達の仲間になり、町に滞在することになった。裏から俺達のサポートを受けつつ勇者として活動し、魔国の事業に協力するという約束で。

 この国には食事以外にも、風呂やトイレなど快適な設備が揃っているし、娯楽や芸術も成長させていく予定だ。あと、今はまだリムルや俺の個人的なコレクションでしかないが……

 

「もしかして、漫画とかも……?」

「フッフッフ、当然だろマサユキ君? 諦めたらそこで試合終了だからね!」

「俺もリムルも秘密の書斎を持ってるんだけど、今度見せてあげるよ」

「うおおぉ! リムルさん、レトラさん! 僕、ずっとついて行きます……!」

 

 

 

 マサユキはリムルから迷宮五階層までの地図を受け取り、仲間達の元へ戻って行った。魔王とは話が合って仲良くなった、と伝えてもらうことになっている。

 解決して良かった……と食後のお茶に口を付けていたリムルが、ふと首を傾げた。

 

「だけど、レトラ……お前、案外キラキラしてなかったな?」

「!」

「もっとこう、勇者と会うのを楽しみにしてるかと……どうかしたのか?」

「だって、マサユキは高校生って言ってただろ。年下相手なら、俺もあんまり子供っぽいところは見せられないからさ。どう? 俺、落ち着いてた?」

「何だ、背伸びしてただけか」

「背伸びじゃない! 俺は元大学生! マサユキより年上!」

 

 隙あらばからかってくるリムルに言い返しながら、俺達も部屋を出る。

 リムルの指摘は正しい。キラキラチェックの精度が高すぎるのは考えものだが、確かに俺はウィズに『夢現者(マドロムモノ)』を頼んでいる。そして、今日は昨日よりも厳重な感情制御を命じてあった。この後に起きる出来事のため、俺には必要になってくるからだ。

 

「ま、落ち着いた態度が悪いとは言わないけどな……お前の場合、キラキラは我慢しない方がいいと思うぞ?」

 

 いいや、我慢するよ。今日だけは。

 キラキラもイライラも全て抑え付けて、完璧な姫様を演じてみせる。

 開国祭は今日で終わる……俺の目的を達成するまで、あと少し、あと少しだ。

 

 

 

 




※今回で開国祭編を終わらせる予定です


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