「何であんな無茶をした」
「…………ごめん」
リムルと俺のために用意されたテントへ引っ張り込まれ、ベッドに座らされ、目の前に仁王立ちしたリムルが冷たく俺を見下ろしている。怖い。
「謝れとは言ってない。何であんなことをしたと聞いてるんだ」
「リグル達が危なかったから……俺の方が耐久は高いだろうし」
「まともに攻撃もしなかったらしいじゃないか。話し合いが無理なら、やられる前にやれと教えたよな」
だって、ベニマル達を『風化』なんて出来るわけないだろ。もし致命傷になったらと思うと、他の攻撃スキルも使えなかった。
そして俺の思惑としては、リムルが使うはずのスキルは見せないままリムルと交代して、なるべく原作の展開通りに進めたかったんだよ……無駄だったけど。
「戦えないなら、すぐに俺を呼べば良かったんだ」
「それはランガに頼んだよ。リムルが来るまでの時間稼ぎが出来ればいいと思って……あ、でもほら、燃やされたお陰で、俺にも炎耐性が付いたし」
「じゃあお前は炎耐性を持ってないのに、炎に突っ込んで行ったわけだな?」
「……」
厳しい眼差しで射抜かれて、そっと顔を逸らす。すいません。
俺には『風化』があるから、耐性がなくても何とか出来るんじゃないかと思ったんだ……身体が壊されても、本体さえ守り切ればという考えもあったし……
「何でそんなにやることが無謀なんだ……お前はまだ自分の耐性もちゃんと把握してないんだろ?能力を過信しすぎて、何かあったらどうする気だ?だから身の安全を優先しろって……まったく、お前は……」
リムルは頭痛でも堪えるようなしかめっ面でブツブツと呟き、大きな溜息を吐くと、俺の隣に腰を下ろした。腕を取り、肩を触り、ペタペタと身体の様子を確かめてくる。
そんなことしても何もないのはわかってるはずなのに。
「本当に怪我はないんだな?」
「リムル……俺は砂だよ。身体はいくらでも新しく作れるし、心配しすぎだろ」
「……お前がやられたって聞けば、俺だってカッとなる」
『大賢者』に教えられて俺の魔力を感知出来たので、頭に上った血も抑えられたとリムルは言った。ああ、最初のキレ具合はやっぱり演技じゃなかったか……邪悪な魔人めと言われても、一切言い訳出来ない感じだったもんな。本当にオーガ全滅の瀬戸際だったとは、危なかった……
こつんと肩にリムルの頭が乗る。
「頼むから無茶しないでくれ……俺にはお前を守る義務があるんだ」
「……うん、ごめんリムル。ありがとう」
リムルは俺の兄貴だもんな。
俺の心配をするのは当たり前だろうし、俺も迂闊なことをしてしまった。反省しよう。
「……あー、ゴホン。それとな、話があるってのはそれだけじゃなくてだな」
俺の肩に頭を乗せてじっと動かずにいたリムルは、やがて顔を上げて照れ隠しのような咳払いをし、話題を変えてきた。
何だかしんみりした妙な空気になっていたことだし、どうしたんだ? と、俺も乗っかる。
「『大賢者』に相談したんだが、お前も味覚を持てるようになるかもしれないぞ」
「え! 何だそれ? どういうこと?」
予想以上に重大な内容だった。
乗っかるどころじゃなく、我ながら食い気味に反応していく。
「俺はシズさんを取り込んだだろ? 人間を構築するためのデータを解析したから、それをお前に渡せば、お前も正確に味覚の受容器官を作れるだろうってことだ」
「渡すって? どうやって?」
「イフリートから『分身体』を獲得した。俺が情報を持たせた分身体を作って、お前が取り込めばいいらしい」
リムルと見つめ合い、シーンとする。
取り込む……俺のやり方だと、砂にして吸収ってことになるけど、それって。
「……俺がリムルを喰う、みたいな?」
「まあそう……なるかな? 分身体だけど」
再び、シーン。
「何ていうか、無視出来ない倫理的な問題があるような……」
「俺達は人間じゃないから……セーフだろ、うん」
やってみろよ、とリムルは『分身体』を作り出した。
リムルと同じ格好をした分身体が、テントの真ん中に表情もなく立っている。
ちらりとリムルを見ると、これで解決だな! と言いたげなドヤ顔だった。
リムルは自分だけ味覚を獲得したことを負い目に思ってくれたんだろう。いや、俺だって味覚は欲しいけど、リムルを砂にして吸収するなんて物凄い抵抗が……いや、俺の方も策は尽きたし……うーん、リムルが俺のためにここまでしてくれるって言うんだからな。ありがたく、お言葉に甘えさせてもらおうか。
ベッドから立ち上がった俺は、『
それなら、と動かないリムルの身体を押した。分身体でもリムル相手に乱暴なことはしたくないので、床へと傾く身体を砂のクッションで受け止めることも忘れない。
横たわったリムルに跨ると、端から砂へと変わり始めた俺がリムルに降り掛かる。
ユニークスキル『
触れた対象を砂へと変えて飲み込む、『風化』の力。
砂に戻りつつある俺の身体は、くったりとリムルに重なるように覆い被さる。
近付いた金色の目が、無言で俺を見つめ返す。
俺は今、リムルを砂に変えている。
それを理解した瞬間、何かがぞくりと背筋を撫でた。
……何だ?
何だこれ、これは恐怖、いや──……快感?
まるで理由のわからない痺れが背を這い上がり、ゾクゾクと芯を揺さぶる。
え、これは、一体どういう……
もしかして、
それとも、『
獲物を捕らえ、全て砂にして、飲み干したい、そんな欲求が俺にはあるのか?
俺の砂と、リムルの砂が混じり合う。
そう考えるだけで、頭の奥がジリジリと焼けるようにもどかしい。
一体になる。一つになれる。
早く、もっと、混ざり合いたい。
もうすぐ、お互いの全てが砂になる。
何もかもが形を無くして一つに溶け合う、その瞬間を焦がれるように待ち侘びた。
崩れる身体に力が入らず、俺の頭が、リムルの顔へ傾いて、
ただ人の形をしただけの唇が──触れ合ったような気が、した。
◇
俺の分身体が、レトラに溶かされ、喰われた。
床に溜まった大量の砂。テント内に一人取り残された俺(本体)。
何というか……大変なものを見てしまった。
まさかこんなことになるとは全く思っていなかったのだが、俺を喰うレトラが、何だかすごく……すごかった。横で見ているのも躊躇われるような、非常に妖しい雰囲気だった。
どうしてああなった? あれがレトラにとっての捕食を意味するからだろうか? 食事とナントカは紙一重だと聞いたことはあるが、それにしたって……いや、あれが
ふと、レトラに砂にされるのはどんな感じだろうと興味が湧いた。
分身体とは感覚共有も出来るはずだから、感覚を繋いでおけば俺も味わえたのか。少しだけ……いやいや、早まるな俺。好奇心がスライムを殺したらどうするつもりだ。弟相手にそんなことを考えるのは保護者としてよろしくない、気にしないでおこう。
しかし、なかなかレトラが元に戻らないな……
どうすべきか見守っていると、ざあ、とようやく砂が動いた。広がる砂のベッドの上に人間が形作られる。前より随分と『造形』の速度が上がってるな。日頃から練習を頑張ってるみたいだし、その成果が出ているんだろう。
現れたレトラは、砂の上に体育座りで項垂れていた。見るからに落ち込んでいる。
何か失敗したのか? うまく情報を取り込めなかったのか? それならもう一度分身体を作ってやるだけだ。その分俺が魔素を消費しようと問題ない、俺はレトラと一緒に飯が喰いたい。
「レトラ? レトラさん? 大丈夫か……?」
黙っていても仕方ないので、恐る恐る声を掛けた。
ピクリと反応したレトラが顔を上げて、俺と目が合い……ぼっ、とその顔を赤く染めた。
おお……? 何だ何だ?
「は……背徳感がすごくて……」
そうだろうな、確かにすごかった。俺も気まずくなりそうだった。
それにしても、耳まで赤くして抱えた膝にへなへなと顔を埋めるレトラが可愛い。前から外見は美少女で可愛かったが、こんな人間らしい表情は見たことが──待てよ?
今までレトラは『
「上手くいったんだなレトラ。良かったな、これできっと味もわかるぞ」
「あ……うん。ありがとう、リムル……」
「よし行くか。宴会だ!」
砂のベッドを片付けたレトラの手を引いて、宴会の用意が整った広場へ向かう。
日の落ちた広場には明かりが灯され、食欲をそそる良い匂いも漂って、この世界で初めてとなる食事への期待は弥が上にも膨らむのだった。
……そういえばレトラ、俺は思うんだが。
そこは、罪悪感、くらいに言っておいた方がいいんじゃないかな?
※R-15とBLのタグ付けてるので大丈夫だと思うんですが、問題があれば教えてください
※以降の更新は、もう少し緩やかペースになります