転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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134話 仮魔体(アバター)

 

 迷宮の最下層に挑んできたヒナタを、ヴェルドラが返り討ちにした。

 観戦席と化していた会議室が沸き立つ。

 

「さっすが師匠、強かったー!」

「ヒナタさんもすごかったですけど、ヴェルドラさんって本当に伝説の竜なんですね……」

「いやはや、ヴェルドラ様はお強いですな。安心して迷宮をお任せ出来ますわい」

 

 各階層守護者(ボスモンスター)を倒した挑戦者には、報奨金が与えられる仕組みがある。

 迷宮の王(ラスボス)に至っては星金貨百枚──日本円にして十億円という破格の金額だが、ヴェルドラの強さを再認識したミョルマイルは、制覇者など出るわけがないとご満悦だ。

 

 俺もそう思う! こうして見るとヴェルドラってやっぱり頼もしいよな! 

 その意見はリムルとも一致したが、あまりヴェルドラを煽てないようにな、と注意された。別に煽てたりしないよ……本当のこと言ってるだけだろ……? 

 

「そうだリムル。俺も注意しとくけど、この件でヒナタを茶化したら、絶対睨まれるからな」

「わかってるよ。下手したら斬られるまであるな……」

 

 ヒナタはいつでも剣を抜く用意が出来ているだろう……触らぬ神に祟りなし。俺達はこの話題には触れず、ヒナタをそっとしておこうと決めたのだった。

 

 

 

 

 その数日後。

 問題が発生したと、俺達はラミリスに召集された。

 以前の報告にも出てきた精霊使役者(エレメンタラー)……その人物がリーダーを務めるチーム"緑乱"が、違反スレスレの方法で攻略を進めているらしい。

 

 まず十名構成のパーティが、ボス部屋手前で"事象の記録玉"を使用。セーブ後に全員が"帰還の呼子笛"を使って帰還し、パーティを解除。今度はその一人一人が十名ずつのパーティを結成し、百名規模の小部隊となってボス部屋の前に戻ってくる。ボスと戦えるのは一組ずつだが、十組のパーティが連続で挑めばいずれは押し勝てる……というわけだ。

 

「そうやって、三十階層の大鬼の狂王(オーガロード)と配下五人衆を倒したのか。ルール違反じゃないが、金にモノを言わせてるな……どこかの貴族に雇われてるのか?」

 

 "事象の記録玉"の価格は、金貨一枚。"帰還の呼子笛"は銀貨三十枚だが、個人用なので十人分なら銀貨三百枚だし、百人分の入場料だけでも銀貨三百枚……しめて金貨七枚分、七十万円を注ぎ込むという何ともリッチな攻略法である。

 

「ソーカ殿に調べて貰いましたところ、揃いの外套を纏ったその者達は"緑の使徒(ヴェルト)"という傭兵団だそうで。金の出所はイングラシア王国ではないか、とのことでした」

「"緑の使徒(ヴェルト)"……聞いたことないな」

 

 ああ、俺は知っている。"緑の使徒(ヴェルト)"──緑の悪魔を崇める会の人達だ。いやファンクラブじゃなくて……原初の緑(ヴェール)をこの世に召喚し、戦乱の中で生きたいとかそういう集団……信奉されているミザリー本人としては彼らは部下でも何でもなく、人間社会の情報源として使おう、くらいの関心しかないみたいだけど。

 

「我の見立てでは、奴らのリーダーは実力を隠しているな。四十階層の守護者は嵐蛇(テンペストサーペント)だが、"緑乱"に撃破されるであろう」

「うーん……もっと正確な『解析鑑定』が出来れば……」

 

 会議室のテーブルの上には、ラミリスが作り出した三十八階層の三次元映像が浮かんでいた。"緑乱"の現状を映し出したもので、透明な箱の中でミニチュアが動いている。

 リムルはラミリスに、『迷宮創造(チイサナセカイ)』への干渉を許可して欲しいと申し出た。そうすれば詳しく情報を集められるからと。正確には、ラファエル先生がやるんだけどね。

 そこへ、『思考加速』で俺に声が掛かる。

 

主様(マスター)主様(マスター)

(ん? どうしたウィズ?)

《請。個体名:ラミリスの固有能力『迷宮創造(チイサナセカイ)』について、私も干渉権限の取得を希望します》

(…………)

 

 ウィズに……おねだりされた……? 

 え、嬉しいんだけど。迷宮内の情報は欲しかったのでラミリスに頼む予定だったとは言え、ウィズのお願いを俺が聞いてあげないわけないだろ!? 

 わかった待ってろ! と返事をすると、俺はすかさず行動に移す。

 

「ラミリス、俺にも干渉権限くれない? 俺とリムルは、魔国の情報を集めたデータベースを構築してるんだ。その要領で連携すれば、迷宮の情報解析も出来るんじゃないかな」

「そうなんだ? スゴいことやってるのね……いいよ、レトラにも権限あげる!」

 

 リムルと俺が差し出した手に、ちょいちょい、とラミリスが触れる。

 その途端、先生二人が『迷宮創造(チイサナセカイ)』に接続し、どこか嬉々とした雰囲気で膨大な情報を読み取り始め──空中の三次元映像の中にいる、"緑乱"の数名が光で囲まれる。パパパパ、と拡大映像が連続して表示された。

 

「このリーダーの女性だが、やはり実力詐称してるな。実際はAランクオーバーで、五十階層のゴズールやメズールと互角ってところだ」

「こっちの二人はAランク相当だね。皆Bランク程度に偽装してるみたいだけど、このチームなら五十階層も簡単に突破すると思う」

「それってマズイじゃん! ……っていうかアンタ達、ホントにあっさりアタシの能力(スキル)を使いこなしてくれてるわね!?」

 

 俺達の先生、こういうの大好きなんだよね……

 今も先生達が地下迷宮(ダンジョン)のあらゆるデータを精査し、積み上げ、猛烈な勢いで情報分析を進めている気配が感じられる……イキイキしてるな。

 

 さて、"緑乱"に先へ進まれると何がマズイかと言うと──六十階層以降のボス達は、大半がヒナタによって沈められたこともあり、ほぼ機能していない状態だ。

 倒された者は復活しているが、ラミリスのゴーレムは壊れたままで、ゼギオンは進化中……アピトは実戦不足だしクマラは子供、聖騎士達に負けたアダルマンも実力不足と思われてしまっている。

 

「これは早々に手を打つ必要があるな……ヴェルドラ、ラミリス、明日もう一度ここで集まろう。レトラは俺と来てくれ」

「あ……リムル様、お待ち下され!」

 

 立ち上がったリムルを、慌てたミョルマイルが引き止める。

 何でもヒナタから、各階層のボスを倒した褒賞金は出ないのか、との問い合わせがあったそうだ。聖騎士団からは入場料も休憩所の利用料も取ってないのに、たくましいなヒナタ! 

 対応はどのように……? と恐々聞いてくるミョルマイルに──お断りしなさい、とリムルはあっさり告げるのだった。

 

 

 

 俺達はまず、六十階層のアダルマンに会いに行った。スライムリムルを運んでいるのはいつも通りシオンだし、途中で厨房へ寄ってシュナも連れて来た。

 

「こ、これはリムル様、レトラ様……ッ! この度の聖騎士達との戦い! そして敗北! 無様な醜態を晒し、面目次第もございません……! 如何なる処罰も甘んじて受ける所存でございますればあああああッ!!」

 

 あっつい…………

 スライディング土下座を決めて俺達を出迎えたアダルマンだが、死霊(ワイト)の身では聖騎士との相性が最悪なんだから仕方ない。神ルミナスを信仰することで行使していた<神聖魔法>も、信仰対象がリムルに移った今では使えなくなっているしな。

 

 そこでリムルは、シュナとアダルマンに"信仰と恩寵の秘奥"を授けることにした。<神聖魔法>とは、契約した上位存在の演算能力を借りて霊子を操る魔法だ。俺がここにいるのも、俺も契約の対象となり、リムルと二人で演算を請け負うためである。

 

「おお、おおおっ……力が、力が漲っておりまする! これぞまさしく神の恩寵! おおリムル様、レトラ様! 偉大なる御二方に、我が信仰と感謝を……!」

 

 この爺ちゃん、ほんとエネルギッシュ…………

 久しぶりに神聖魔法:霊子聖砲(ホーリーカノン)が使えたことで、アダルマンは大興奮だ。

 引き気味のリムルは、じゃあ魔法のことはシュナと相談して……と、全てをシュナに押し付ける。笑顔のシュナ(怖い)に見送られつつ、俺達はそそくさと退散したのだった。

 アダルマン、また今度お茶しに来るから! 

 

 

 

 シオンとも別れ、二人でリムルの真新しい研究室にやって来た。

 俺に用というのは、恐らくこっちが本題だろう。

 

「レトラ。"緑乱"対策の件で、少しだけ手伝って欲しいんだが……いいか?」

「いいよ!」

 

 状況からして話には予想が付いていたので、即答してしまった。内容くらい聞いてから返事しろ、とリムルに呆れられたのも無理はない。失敗失敗。

 人化したリムルが『胃袋』から取り出したのは、二種類の玉のようなものだった。

 

「この二つを、お前の能力(スキル)で複製して欲しいんだ」

 

 ほら来た"擬似魂(ギジコン)"! "魔精核(マスターコア)"! 

 俺がリムルを夕飯に呼んだり、ヒナタ戦に呼んだりしたから、研究室に籠る時間が減ってまだ数が揃ってないんだと思う……そこは俺が責任を取るべきだ。

 

「これがどんな対策になるの?」

「詳しいことは明日話すが、これで魔物を生み出して、操って戦うイメージかな? 俺は魔法職の魔物を育ててみようかと思ってるんだ」

「ゲームみたいで楽しそう……!」

 

 知っていた俺としても、そう説明されるとワクワクする……! 

 こういう特殊なアイテムでも構成情報を取得出来るかどうか、一応ウィズに尋ねる。『解析』を終えたウィズから問題ないと返事が来たので、俺は早速実行した。

 

《告。究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』を使用……『万象衰滅』に成功しました。取得した構成情報を元にユニークスキル『砂創作家(サンドアーティスト)』の『創造再現』を実行します──成功しました》

 

 サラサラと、注文通りに十個ずつ。

 早いな、と笑ったリムルにお礼を言われた。

 

「また何か作る時は呼んでよ。手伝うからさ」

「本当なら、完成品を出してビックリさせたかったんだが……」

「わかる。でも、誘ってくれた方が嬉しいな。リムルと一緒に何かやるのって楽しいし」

「…………お前は」

 

 リムルは何か言い掛けて止め、代わりにそっと片手を持ち上げる。

 ポフ、と頭に乗った手にナデナデされること十数秒。急に何だろう……という意味合いでリムルを呼ぶと、いや……と、しみじみとした声が吐き出された。

 

「尊くて…………」

「何が……?」

 

 

 

 

 そして翌日の会議室──メンバーが一人増えていた。

 ゴブタとランガを連れて迷宮に潜っていたミリムだ。ラミリスに別室を用意してもらって特訓に明け暮れていたため、ヒナタ達とも鉢合わせることはなかったらしい。

 

「聞いたぞリムル、ワタシのドラゴン達がやられたそうではないか! 新たな挑戦者が調子に乗って攻略を進めていると言うし、どうするのだ!?」

「まあまあ、落ち着けよ。奴らを何とかするために、こんなものを用意してきたんだ」

 

 不機嫌なミリムを宥め、リムルが皆に"擬似魂(ギジコン)"を一つずつ手渡した。

 魂の器に似ているな、というヴェルドラの表現が的を射ている。トレイニーさん達の"聖魔核"の器となった空の宝珠を少し整えたものが、この"擬似魂(ギジコン)"だ。

 もう一つの"魔精核(マスターコア)"も配られた。こっちはカリュブディスの魔核を元にしていて、魔素を纏って使用者が想像した通りの魔物を発生させる。

 

「まずはその"魔精核(マスターコア)"……黒い玉を手にして、好きな魔物を思い浮かべてくれ」

 

 それぞれが、リムルの指示通りに黙り込む。

 しばらくすると"魔精核(マスターコア)"が魔素を帯び始め──俺の思い描いた姿を取った魔物が、ポンッと宙に出現した。受け止めると俺の胸元で丸まってしまったので、そいつを落とさないように抱えながら周りを見る。

 ヴェルドラが生み出したのは骸骨剣士(スケルトン)。ラミリスはガタイの良い動く鎧(リビングアーマー)。そしてミリムは、可愛らしい雰囲気の赤いスライムだった。これは……ベスかな? 

 

「おい、何でスライムなんだよ! 俺への嫌がらせか!?」

「お、お前が好きな魔物とか言うからだ!」

 

 照れ隠しにワーワー騒ぐリムルとミリムが微笑ましい。特にミリムが語るに落ちてる……何だこれ、自然とニヤけてしまうぞ。

 ツインテールを揺らしながら、ミリムが慌てて俺を振り向く。

 

「ち、違うのだレトラ! これは……お前はいつも人型だし……!」

「わかってる、わかってるってミリム」

「本当にわかっているのか!? ワタシは砂妖魔(サンドマン)も好きなのだー!」

「うんうん、ありがとな!」

 

 あまりニヤニヤしていては悪いな、ミリムが恥ずか死んでしまうかもしれない。

 リムルの魔物は幽霊(ゴースト)で、確か<神聖魔法>の実験をするつもりなんだっけ……魔法が使える魔物っていうのは魅力的だけど……

 

「それで、レトラ。お前は何の魔物にしたんだ?」

「あ、俺のは」

 

 腕の中で丸まっていた魔物が、ちょこんと首を持ち上げる。

 くあ、と開いた口から覗く小さなキバ。短い手足にツノ、しっぽ、本当に飛べるのかってサイズのかわいい翼。ちんまりボディを覆うのは変温動物系のひんやりした鱗──

 それを見たリムルが、ポツリと呟く。

 

「ドラ、ゴン…………」

 

 その通り! まだぬいぐるみにしか見えない幼竜、ベビードラゴンである! 

 …………っていうか、リムル? その虚無みたいな顔は……? 

 

「クァーッハッハッハッ! そうかそうか、レトラよ! お前は竜が好きなのだな!」

 

 おおおお? 

 伸びてきた腕に引き寄せられた俺は、ペッカァァとした笑顔のヴェルドラに忙しく撫で回された。頭が揺れる揺れる…………ん? 竜が好き……? 

 あれ? まさか、俺がドラゴンを選んだからリムルがこうなってんの!? スライムじゃなかったから!? ミリムがスライムを選んでくれたんだから、それでいいだろ……!? 

 

「あの、リムル! 好きな魔物ってそういう意味じゃないから! 俺、ブレス攻撃に憧れてて!」

「ブレスならスライムにもあるだろ! レベル99まで育てろよ!」

「しゃくねつの炎はちょっと……」

 

 挑戦者達が融けるわ。

 まあ、ミリムがスライムを選ぶことを知らなかったら、俺もスライムにしてただろうな……だが原作知識のある俺は、今後のことを考えている。

 

「わあぁ……可愛いのだ! なあなあ、レトラは竜が好きか? 好きじゃないのか?」

「そう聞かれるとさー……うん、好きだよ」

 

 赤いスライムにムギュッと抱き付きながら、ミリムはエヘヘと笑う。

 近い将来、このパーティにミニドラゴンが加わることを俺は知っている。そのためにも、今からフォーメーション研究を進められるようにしておこうと思ったのだ。新メンバーが来たら俺と入れ替わりでもいいし、ダブルドラゴンでもいいよな。

 

「じゃ、じゃあ次が本番だ……皆、椅子に座って寛ぐ姿勢になってくれ……今度は"擬似魂(ギジコン)"を持って──『憑依』と言うんだ」

 

 まだ少しダメージを引き摺っているリムルに従い、それを実行する。

 すると自分の魂が入った"擬似魂(ギジコン)"が魔物の中に吸い込まれ、"魔精核(マスターコア)"と合体し──"魔魂核(アバターコア)"となった。もちろん意識も各々の魔物へと入り込んでおり、憑依は成功したのだ! 

 

「この仮魔体(アバター)を使って、俺達で"緑乱"の邪魔をしてやろうじゃないか」

「すっごーい! やっぱリムルよね、アンタは凄いヤツだと思ってたワケ!」

「ワタシは最初から信じていたのだぞ!」

 

 ギシギシ歩く動く鎧(リビングアーマー)や、高速で動き回るスライム。

 ついさっきまで「リムルが作ったゴーレムじゃ動かない」とか「スライムは可愛いが戦闘には向かないのだ」とか言っていた人達の、手の平クルックルタイムが始まっている。

 

 俺の幼竜(ベビードラゴン)は……ちょっとベビー過ぎたかな……短い手足は意外と頑丈だが、小さな翼が頼りなく、宙には浮けるがフラフラとしか飛べない。もう少し、キッズくらいまで育ってても良かったかも……いやいい、これでいい、成長させる楽しみがある! 

 屈伸運動をしていた骸骨剣士(スケルトン)が立ち上がり、勇ましく言う。

 

「では行こうぞ! 挑戦者──いや、侵入者共を駆逐しに!」

 

 

 

 最初のうちは、俺達の連携は笑えるくらいボロボロだった。

 仮魔体(アバター)に慣れる練習のつもりが、初心者パーティにも負けるし、罠にも掛かりたい放題だったし。数日掛けて戦闘訓練を行い、クロベエ達に依頼していた装備も届いて、俺達はようやく一つのパーティとして仕上がった。

 

 リムルは幽霊(ゴースト)職業(クラス)法術師(ソーサラー)死神の鎌(デスサイズ)冥府の衣(ヘルクロース)を装備した、見た目は完全な死神だ。かっこいい。魔法と精神攻撃に特化した、パーティの司令塔である。

 

 ヴェルドラは骸骨剣士(スケルトン)重戦士(ファイター)で、装備は死神の片手剣(デスバスタード)冥府の全身鎧(ヘルメイル)獄門の大盾(ゲートシールド)。"ヴェルドラ流闘殺法"の剣技を使う万能型で、剣の腕も良いとかズルい……かっこいい……

 

 ラミリスは、重厚な全身鎧(ヘヴィフルプレート)を装備しようとしたら、身体が新品の鎧と入れ替わり、動く重鎧(ヘヴィリビングアーマー)へと変化した。死神の大斧(デスアックス)を振り回して突っ込んで行く狂戦士(バーサーカー)で、ロマン強めなところが潔くてかっこいい。

 

 ミリムはスライム。死神の一撃(デスピックル)を飲み込み、高速移動での一撃必殺を狙う暗殺者(アサシン)だ。紅の羽衣(クリムゾンケープ)を羽織ったら身体と一体化して、真紅の羽が生えたスライムに進化を遂げた。かわいい。

 

 俺は幼竜(ベビードラゴン)職業(クラス)襲撃者(ラプター)。一説によれば、ドラゴンはそれそのものが職業と言われるくらい一線を画した存在ではあるのだが、まあ別世界の話だ。

 アクセサリの暴風の翼飾(テンペストウイング)を小さな翼に重ねると、素材である極薄の鱗がスッと吸い込まれ、竜の翼が進化して飛びやすくなった! このやり方なら角や爪も強化出来そうだし、範囲攻撃の火炎息(ファイアブレス)も鍛えていきたい。

 

 こうして強くなった俺達は、リムル作のスライム階である四十九階層で、チーム"緑乱"を全滅させたのだった──あー楽しかった! 

 

 

 

 

 夕方、執務館を歩いていると、廊下でウロウロしているミョルマイルを見付けた。何故か思い詰めた様子だったので、寄って行って声を掛ける。

 

「ミョルマイル……こんな所でどうかした?」

「お、おおこれは、レトラ様……実はですな、ヒナタ様の褒賞金要求を、どのように断れば角が立たぬものかと悩んでおりまして」

 

 まだ断ってなかったの!? 

 ミョルマイルほどの大商人でも、ヒナタを相手にするのは怖いんだな……? 

 

「じゃ、俺が行って来ようか?」

「い、いえ! それではレトラ様が危険ですぞ……!」

「(危険とは)いいよ、ミョルマイルには財務部門で頑張ってもらってるからさ」

 

 開国祭の後、ミョルマイルは正式に幹部に就任した。

 そしてニコニコしながら、「レトラ様、今後はワシに敬語など使わずとも結構ですぞ」と持ち掛けてきてくれたので、俺達は以前よりも気安い感じで接するようになっている。リムルの真似してお腹も突つかせてもらったが、プニプニしていた。メタボ注意。

 

 財務総括部門の長となったミョルマイルのお陰で、俺達は本当に助かっている。毎日の売り上げが適切に管理され、迷宮運営の要であるラミリスやヴェルドラだけでなく、リムルや俺にまで給料が出るようになったんだから画期的なことだよな……

 よし、困ってるなら俺に任せて! ヒナタは話せばわかってくれる! 

 

 

 

「──気に入らないわね」

 

 怖っ…………

 聖騎士達の宿泊所を訪ねた俺は、今日の訓練監督から戻っていたヒナタに会い、褒賞金請求への回答をした。ごめんなさいと。

 それをクールに聞いていた、ヒナタの反応がコレだ。

 

「言い分はわかるわよ。私達は訓練場として無償で迷宮を借りているんだし、正式な挑戦者じゃないものね。だから、あまり期待はしていなかったんだけど……弟に断らせようっていう態度が気に入らないわ。貴方が来れば、私が強く出られないと思ったのかしら?」

 

 おっと……? リムルが悪者になってるな? 

 あと俺を見下ろす眼光は、恫喝の威力が出てるから安心して欲しい。言わないけど。

 しかし困った、これじゃリムルの株が下がってしまうぞ……余計なことしたかな? ミョルマイルに対応を押し付けたのは確かにリムルなんだけど…………あ、閃いた。

 

「あのさ、違うんだよ。リムルは」

「何よ?」

「ヒナタに嫌われたくないって言ってたよ」

「──……」

 

 間違いなく言ってた。ヒナタへの支払いを拒むにしてもリムルから伝えて欲しい──と懇願したミョルマイルに、『嫌だよ、嫌われたくないし』って。

 面食らったヒナタだが、眉間の皺は刻まれたままだ。

 

「じゃあ何? 私はそんなことで恨みを持つような人間だと思われているの?」

「いやそのまんまの意味で……ヒナタ、リムルのこと、嫌いになった?」

 

 見上げると、ヒナタがムッと押し黙る。

 少しの沈黙。

 

「……この程度のことで、嫌いになるわけないでしょう」

「そっか。良かった!」

 

 結局ヒナタは優しいので、俺のような子供……いや、年下の期待を裏切れないのだ。

 ふう、とヒナタが諦観のため息を吐いたことで、この件は手打ちとなる。

 

「君と話していると、気が緩んでしまうわね……」

「ちょうど良くない? ヒナタはいつもピシッとして格好良いし、たまには俺といればいいよ」

「まったく、そこまで素直に言えるって感心するわ」

 

 ヒナタの口調に棘はない。

 聖騎士団長の凛とした姿からは想像も付かないほど柔らかく、ヒナタは微笑んだ。

 シズさんのように。

 

「きっと君は──優しい家族に囲まれて育ったんでしょうね」

 

 細められた目元に滲む、穏やかな羨望。

 ヒナタの過去を知ってしまっていることを、申し訳なく思った。

 

 

 

 でも、そうか。

 ヒナタには、俺がそう見えるんだな。

 それなら良かった。

 

 それなら俺の十九年も、そんなに悪くはなかったと思えるから。

 

 

 

 




※地雷踏まれたけど大丈夫
※次回から少し趣味回です。10/17(木)予定。

おまけ、四十九階層のレトラとリムル
「リムルが作ったスライム階って、悪意の塊みたいな階層だよな」
「極秘だが、抜け道も用意してるぞ。この階層には一匹だけ、砂スライムが紛れてるんだよ」
「え? ここって砂スライムも発生するの?」
「いや、ラミリスに作って貰ったギミックで、特殊アイテム扱いなんだ。砂スライムに遭遇出来るかは運次第だが、そいつを保護して階段まで連れて行くとその間はスライムが襲って来ないし、スライム罠も発動しなくなる特典がある」
「ふーん……?」
「逆に砂スライムを攻撃すると、全スライムが一斉に押し寄せてきて潰される。武具や獲得アイテムも、スライムに溶かされてロストだ」
「そんなオーバーキルして大丈夫!?」
「この国を理解してるかどうかのテストってわけだな」
「どういうことなの……」



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