転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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ヴェルドラ日記Ⅱ
⑩ミリム~友達


 

 リムル達の国の名は、"ジュラ・テンペスト連邦国"と決まった。

 ジュラの大森林に住む魔物は多種多様で、以前にも増して多くの者が町を訪れるようになったが、その中には荒くれた者もいた。王がスライムと知ってリムルを侮る……そんな身の程知らずの末路がどうなるかと言えば──

 

「ソウエイ、何ですかこれは!」

 

 リムルを抱えて森を歩いていたシオンが、その現場を前にして声を張った。

 ふむ、血の海となっておるな。またも町に悪意を持つ魔物共が現れ、ソウエイが制裁を加えたようだ。殺しはしない、半日ほど晒すつもりだとの返答があったが……

 

「町の周りは綺麗に片付けておいてください! もしお散歩中のレトラ様が通り掛かってしまったら、どうするんです?」

「そうだな。本人達に清めさせよう」

 

 ソウエイはソーカ達を呼び、荒くれ共に回復薬を与えるよう命じた。満足そうなシオンの腕の中ではリムルも、「いやそういう問題……まあ、レトラに見せたいもんじゃないし、助けるならいいか……」と納得しておった。

 リムルはお人好しで温厚だが、乱暴者に無法を許すような性格ではない。配下達はそれ以上に厳しく、弱肉強食のこの世では、自分達の国は自分達の手で守らねばならぬと知っておるのだ。更にはレトラのことも大事にしてくれておるし、我に言うことはない。

 我も復活した暁には、レトラとこの国を守護する予定なのだよ。

 

 

 

 

 そうして穏やかな日々が流れ、我とイフリートは修行と遊びに明け暮れておったのだが──我はふと、懐かしい気配の接近を感じ取る。

 町から離れた場所でリムルの元へ降り立ったのは、確か……我が兄の一粒種ではないか? 

 

「初めまして! ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ」

 

 やはりそうだ。我と直接の面識はないが、ミリムであったわ。

 我がミリムを避けていたのは……昔の事なので記憶があやふやだが、兄上の命令があったから……だったかな? 一体どんな理由だったのやら……

 

《解。悪影響を与えると判断されたのでしょう》

 

 ふざけるなよ、貴様! 『大賢者』! 

 聞いてもないのに、勝手な予測をするでないわ! 

 

 そしてリムルは、蜂蜜という甘い食べ物でミリムを手懐け、場を収めおった。

 シオンやベニマル達が、リムルを逃がすためにとミリムに攻撃を仕掛けた時には終わったと思ったな……ミリムの魔素量は我に匹敵するほど膨大で、今のリムルでも痛痒を与えることさえ叶わぬほどの実力差があるのだ。

 いやあ、オークロードとの戦いではリムルの勝利を確信していた我でも、これはリムル共々消滅することになるかと覚悟したが、無事で良かった──

 

「何だアレは!? ……アレが欲しいぞ、欲しいのだ!」

 

 ちゃっかりリムル達と町へ向かおうとしていたミリムの、突然の叫び声。走り出したミリムの姿が見えなくなった先で、大量の砂塵を巻き上げる爆発が起きた。

 砂、ということは…………

 

 今度はレトラが消滅の危機だと!? 

 精神生命体と言えども、圧倒的な暴力に粉砕されれば魂すら砕ける。我も過去に体験した覚えがあるが、無造作にこう、ドパンと……恐らくあれが爆発四散というものだろうな。

 イヤ、そんなことはどうでもいい、レトラはどうなった……!? 

 

「何なのだお前は? 可愛いな! 可愛いぞ! そうだ、お前はワタシの部下になれ!」

「あの……何……」 

 

 リムルと配下達が慌てて駆け付けると──何とレトラが人型のまま、厚く積もった砂の上に倒され、ミリムに跨られているではないか! 

 

「見よ、イフリート! レトラの奴、しっかりと依代を保っておるぞ!」

「あの魔王ミリムの突撃を受け止めたと……? 私では存在が塵になっていたところです……」

「我の教えを守ったのだな! 偉いぞレトラ……!」

 

 レトラは依代を失った程度ならばビクともせぬが、どうせ平気だと高を括っていては大変なことになっていただろう。正確に危機を察知し身の守りを優先したのだな、素晴らしい! 

 レトラに馬乗りになっているミリムに、リムルが駆け寄る。

 

「ミリム! 俺達に手出しはしないって約束だろ!」

「む、何だ? ワタシは何もしていないのだ。コイツがあんまり可愛いから……」

 

 ほう、ミリムにはレトラの美しさが理解出来るようだな。

 クックック……どうだ、レトラは可愛いであろう! あの愛らしい砂に相応しい依代として、我の思い描く至上の美をこの世に顕現させたのだからな……! 

 

「レトラよ、ワタシのものにならないか?」

「どうして初対面からこんなことに……」

「部下ではイヤか? ならばワタシの弟がいいか? どっちがいいのだ?」

 

 ミリムはレトラをすっかり気に入ったようで、部下になれだの弟になれだのと迫っておる。今度はレトラも応とは言わぬな……リムルの弟になるのは良くても、ミリムの弟になる気はないのか? 

 結局、ミリムとレトラは友達として仲良くなったようだ。そういえば先程ミリムは、リムルとも友達となって嬉しそうに笑っておったな。

 

 友達、か。

 良かったな、ミリム──と思うのと同時に、何とも言えぬもどかしさを感じる。

 言っておくが、我とリムルは盟友だからな! 我の方が、リムルの一番なのだ。そこを勘違いせぬように、復活したらミリムと話し合う必要がありそうだ。

 

「大人げないですよ、ヴェルドラ様」

「やかましい!」

 

 見透かしたような態度のイフリートを一喝する。

 しかしイフリートは全く気にせず、思い出したように口にした。

 

「リムル様がヴェルドラ様の友達ならば、レトラ様はどうなのですか?」

「ム?」

「私に語って下さった思い出の中には、レトラ様と友達になった話がなかったような……では、レトラ様とはどのようなご関係なのかと思いまして」

「だから、レトラを我が伴侶にだな」

「断られたんですよね?」

「断られてはおらん! 男だからどうこうと言われただけだ!」

「どうこうとは?」

「イヤ、わからぬ。そもそも"竜種"には性別の概念などないしな」

「精霊である私にもよくわかりませんね……」

 

 まったく、当てにならぬヤツめ……

 レトラが何を渋っているかわからぬうちは、説得のしようがないではないか。

 

 しかし、イフリートの言うことも気になった。

 リムルは我の盟友だが、ではレトラは何なのだ? レトラとは、友達になろうというやり取りを交わしてはおらぬ……つまり、我らは友達ではない? 

 伴侶に迎える話は保留として、共通の名を持つ同格体であることは確かだが……それだけか? 我らの間には、何もないのか……? 

 ウムムム、気になる。リムルの『胃袋』の中からでは、レトラに呼び掛けられぬし……こんなことなら、もっと早くにハッキリさせておくのだった……! 

 

 レトラの件は、我の封印が解けるまで待つしかないが、とりあえず今は──

 

「イフリートよ。貴様は我と友達だよな?」

「え?」

 

 イフリートが驚愕したように我を見る。

 以前、リムルに『俺と友達にならないか?』と問われた時は気にもならなかったが、問う側に回るとこれほどまでに緊張するものだとは思わなんだ。断られたらどうしようと、そんな不安で心が埋め尽くされる。

 

「…………宜しいのですか?」

「! クァ──ッハッハッハ! 遠慮は無用だぞ。まあ、今更な話だったかな!」

 

 最近のイフリートは、我に対して遠慮がなくなっておる。だからこそ、今ならば良い返事が聞けると思って賭けに出たのだが……我は見事、イフリートと友になることに成功したのだ! これからはもっとずっと、イフリートが優しくなってくれるに違いあるまい──

 

「そういうことでしたら改めまして、宜しくお願いします。これからはもう少し厳しく、ヴェルドラ様のワガママを指摘していく所存です」

「どうしてそうなる!?」

 

 

 

 我とイフリートは以前よりも打ち解け、仲良くなった。故に、遠慮など無用! 我は極限までイフリートを鍛え上げようと、これまでになく張り切っていた。

 

「いや、ちょっと待って下さい。その考え方はおかしい。ヴェルドラ様はただでさえ加減を知らないのですから、少しは加減して頂かないと……!」

「むう……」

 

 イフリートにも"ヴェルドラ流闘殺法"を極めさせてやろうと思ったのだが……どうやら我は、性急に事を進め過ぎたらしい。失敗失敗。

 

「大きな気持ちで我を許すが良いぞ、イフリート!」

「はいはい。どうせ気にしても無駄でしょうし、いつものことですからね。許しますとも」

 

 イフリートは諦めた顔で肩を竦める。

 しかし、友となった今でも、その口調は丁寧なままだ。

 

「仲良くなったのだから、もっと砕けた態度で良いのだぞ?」

「ダメに決まっています。ハクロウという鬼人が、"親しき仲にも礼儀あり"と言っていたではないですか。この辞書にも記載されておりますよ」

 

 あの真理か。親しい間柄であっても、礼儀を欠いては不和の元となるため気を付けよと──つまりは、相手の嫌がることをしてはならぬという教訓だったな。

 我、別に嫌ではないのだが……レトラやリムルが柔軟であったことと比べると、イフリートの頭はカッチカチ故に、仕方のないことなのだろう。

 

 

 

 さて、町に着いてすぐリムルとレトラとの親友(マブダチ)宣言を行ったミリムは、たった半日しか経っておらぬと言うのに、もう当たり前のような顔でリムル達と過ごしておる。特にレトラにベッタリで、夕食の時も、風呂の時も、就寝の時も…………

 

「ミリム様、お部屋の用意が整いましたわ。どうぞこちらへ」

「あ、ミリム。まだ髪濡れてるだろ、乾かしてやるよ──はい、『風化』」

「ありがとうなのだ! では、レトラも一緒に寝よう!」

「えっ」

「ミリム。俺達はまだやることがあるから、レトラと寝るといい。また明日な」

「うむ! おやすみなのだ、リムル!」

「一緒に……寝るの……? マジか……?」

 

 ミリムときたら、何をするにもレトラを傍に伴いたがった。レトラは困惑しておったが、それをにこやかに見送るリムル達の中に止める者はいない。ミリムに大変気に入られているという理由から、レトラがミリムの面倒を見ることになったのだ。

 それは良いとして、二人がとても仲良さそうで羨ましいぞ……我も、復活したらやってみたいことリストに項目を追加しておく。

 

 近頃、リムル達の町には美味そうな食べ物が増えた。ミリムも感激していた"カレー"というものは、食欲をそそる香りと癖になる辛さが絶妙と聞く。あの蜂蜜とやらも極上の甘味であるそうだし、砂糖が開発されれば甘い菓子も作ることが出来るという……復活の時が楽しみだな。

 そして明日は、リムルがポーション研究所を訪れる間、レトラはミリムを連れてシュナの工房へ向かう予定らしい。ミリムの衣服を見繕うのだとか言っていた。

 

「決めたぞ、イフリートよ」

「今度は何ですか?」

「復活した後の話だがな、我も人の姿を取ろうと思うのだ」

「そうですかーー」

 

 棒読み? 

 イフリートの返事が段々と雑になっているような……いや、我の気のせいか。

 

「うむ。そうすれば、どうなると思う?」

 

 暫し沈黙したイフリートは、何かに気付いたのか目を見開いた。

 そして、熱を帯びた口調で我に答える。

 

「なるほど! 竜の姿であれば、リムル様やレトラ様はともかく、配下の魔物方からヴェルドラ様の威容を恐れられたでしょうね。ですが、人の姿であれば町を壊したりもしない。ヴェルドラ様を見直しましたよ! 弱者にも配慮した、とても素晴らしい御考えかと!」

「えっ!?」

 

 久々に、イフリートから尊敬の念を感じたぞ。

 いや、我にそんなつもりはなかったのだ……人の姿であれば、ミリムのように食事や着替えを楽しめるし、ミリムのようにレトラにくっついて過ごせると思ってだな…………

 しかし、せっかくのこの空気、断じて壊すわけには行かぬ。

 

「まあな。そこに気付くとは、流石は我が友よ」

「ハハッ! やはりヴェルドラ様は、本当は凄く優しい御方なのですね!」

 

 "本当は"って、わざわざつける必要あった? 普段から、ねえ? 

 まあ良い、イフリートが勘違い──ではなく、我の真実に気付いてくれたのだから、ここは黙っておくとしよう。

 

「私はてっきり、人の姿を取って衣服を強請ろうというワガママかと……そして、リムル様に怒られて終わる結果になるのではないかと勘繰っておりました」

「ば、馬鹿なことを! この我が、そんな戯けた真似をするハズがなかろうが!」

 

 内心ギクリとしながらも、我はイフリートを叱り付けた。

 実は「裸で飛び出せば、リムルも服を用意してくれるに違いない!」などと考えていたことは、厳重に封印して口に出すまいと固く誓う。

 

「大変申し訳御座いません……! 思えば、レトラ様もとても良識的な御方ですし、ヴェルドラ様が御二人の前でそのような振る舞いをされるわけがありませんでしたね」

「…………」

 

 それはなかなか……聞くべき意見のように思う。

 確かにレトラは、真面目で素直な良いヤツだ。生まれたてのところを保護してやった後も、すぐに我を信用し気を許してくれておったはず……そのレトラにみっともない姿を見せてガッカリされるのは、何というか凄く……物凄くイヤであるような…………

 

 既に我は、威張って相手を脅すよりも、助け合って感謝される方が嬉しいものだということをよく理解しておる。我の目の前で生まれ、共に過ごしてくれたレトラには感謝しておるのだから……アヤツの信頼を裏切ることはしたくないものだな。

 

 

 

 




※まだ親だと自覚してない頃の話




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