転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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17話 鬼人族

 

 リムルのお陰で、俺はとうとう味覚を手に入れた。

 宴会でゴブイチが焼いてくれた牛鹿串は、本当に至福の味がした。炭火焼きのこんがりとした焦げ目と、煙で燻された美味そうな香り。歯を当てるとじゅわっと染み出す熱い肉汁に脂、適度な厚みの肉をがぶっと噛み千切って咀嚼する心地良さ、口内に広がる旨味とタレ代わりの果汁の爽やかさ! 

 ああ、生きてるって素晴らしい。

 次はやっぱり炊き立てご飯が恋しいな、早く開発されないかなー……

 

 それはさておき、俺の『造形』による砂の人間形態は、リムルの『擬態』によるものとほぼ変わらないほどにグレードアップした。デフォルトで五感が揃い(人間レベルの感覚なので、『魔力感知』や『超嗅覚』を使った方が性能は高い)、表情や動作が精巧になり、造形速度も以前とは比べ物にならない上、俺の魔素まで増えたので、砂の操作量や精度も格段に上がっている。いいことずくめだ。リムルには感謝してもしきれないな。

 更に、あの時聞こえた声によると、プレゼントはそれだけじゃなかったようだ。

 

《呟。熱変動無効、電流耐性、麻痺耐性を獲得しました》

《確認しました。上位耐性の獲得により、対熱耐性、炎熱攻撃耐性を消失しました》

 

 なんとリムルは、自分の耐性を全部分けてくれたらしい。マジかよ。

 獲得しなかった『痛覚無効』と『物理攻撃耐性』は俺が元々持っていたということだし、手に入れたばかりの『対熱耐性』と『炎熱攻撃耐性』は、早くも上位版に入れ替わった。リムルも確実に、ヴェルドラ並みかそれ以上の過保護だよなぁ……

 

 ただちょっと、リムルの分身体を砂にして取り込む時に、変な気分になったのは何だったんだろう。今まで何を『風化』させてもあんなことは起こらなかったし、焼肉も味を楽しんだ後は体内で砂にしたけど、あんな風に気持ち良くは……まあ、過ぎたことだ、あまり考えないようにしよう。俺はそんなにヤバイ奴じゃない……はず……だよな?

 

 

 

「レトラ様。我らオーガ一同、鬼人族への進化を果たしました」

 

 テントの中、ベニマルが跪く。ベニマル(仮)じゃなくて、正真正銘のベニマルだ。

 豚頭族(オーク)の軍勢に里を滅ぼされた大鬼族(オーガ)六人は、リムルの配下となることを決め、名前を授けられた。そして進化して、イケメンや美少女や普通のおっさんなど、俺のよく知っている鬼人(キジン)の姿形になったわけだ。

 

「……それを、俺に言いに?」

「リムル様が寝込んでしまわれましたので……」

「リムル様と同格の主であるレトラ様に御報告させて頂きたく、参上した次第です」

 

 後ろでシュナが心配そうに顔を曇らせ、ソウエイが淡々と言う。

 やっぱり俺はリムルの"同格兄弟"として、リムルが名付けた魔物からは主と敬われることになるらしい。ああ……将来の幹部決定なエリート鬼人達からもそういう扱いされんの俺……

 

 恐れていた事態が起こりつつあった。

 オーガとの戦闘では、俺はリムルのように事態を収拾することは出来なかった。いや、あんなのに対応し切れるリムルがおかしいんだけど! ほんと掟破りの反則スライム過ぎて……! 

 

 確かに俺はリムルの弟的な存在で、耐性とか貰って可愛がられてるし、ゴブリンや狼の皆も俺を慕ってくれてはいるけど、それはいつまで続くんだろう。そのうち皆、俺がリムルほどすごくないって気付くはずだ。そして新たに仲間になったベニマル達の方が優秀だってことが知れ渡ると、俺の立場が無くなるな……

 

「うん、皆見違えたな。力が増したようで良かった。同胞達の仇討ちのためとは聞いてるよ、それまでの間になるかもしれないけど、配下に加わってくれて頼もしく思う。よろしく頼むよ」

「はっ!」

 

 だが、そんなことを顔に出す必要はない。

 たとえそうなったとしても、問題なんて何もないのだ。

 

 何故なら俺は──鬼人達が大好きだから! 

 ベニマル達が幹部じゃないリムル軍なんて認めない! 

 鬼とか……めっちゃ強いし格好良いと思うんだ……本来はレアなはずの進化に全員が成功して、リムルへの忠誠心が高くて、もうずっと前から、前世から超好きだった。ベニマル達は原作通りにどんどん強くなって出世してくれればいいんだよ、俺は全面的に応援するから……! 

 

「あの、レトラ様。リムル様のお加減はどのようでしょうか……?」

 

 安定のリムル大好きシオンが、眉を下げてそろりと聞いてくる。

 名付けの反動でまたスリープ状態になったリムルは、ベッドに座る俺の膝の上にいた。スライムに戻っていてぷるんともせず静かだけど、少しは意識があるんだっけ、ないんだっけ? 

 

「大丈夫だよ、リムルはいつもこうだから。眠ればちゃんと元気になるよ」

「そうですか、良かった……!」

「この町の者は皆、リムル様に名付けられたと聞いておりますが、いやはやとてつもない御方ですな」

「そんならリムル様へは、後でまた挨拶に来ますだよ」

 

 シオンがホッと胸を撫で下ろす横では、ハクロウやクロベエも安堵の表情だ。

 ところでハクロウからは、俺へ攻撃したことを改めて謝罪されていた。首を刎ねて申し訳なかったってツッコミ所がありすぎるけど、俺は実質ノーダメージだったので、気にすることじゃないのだ。

 

「レトラ様、俺達はお二方の配下となった身。御命令を賜りたい」

 

 あ、オーガの里の若様が張り切っている……

 そんなに気合入れて待ち構えてなくても、鬼人達が有能なのは知ってるから……

 

「今日のところは町を案内するよ。仕事を割り振る前に、町で行ってる作業や訓練を見ておいて欲しいんだ。何か興味があったり、得意なことがあったら教えてくれ」

「まあ……レトラ様が自ら御案内をして下さるのですか?」

「え、うん。俺は毎日あちこち歩いてるから、町のことは詳しいよ」

 

 ゴブリナ達を呼び、リムルの世話をしてくれるよう頼む。

 ランガを呼んでも良かったんだけど、リムルはきっと女の子達にお世話された方が嬉しいだろうなっていう俺の気遣いでもある。我ながら出来た弟だ。よしよし。

 

「細かいことはリムルが起きてからにしよう。わかってると思うけど、ここの主はリムルだからな。リムルがいない時に俺が代わりをすることはあっても、あくまで代理だ」

 

 俺は弟、リムルの代理。あんまり偉そうにしないでおこう。

 歴史的に見ても、権力者の兄弟って争いの火種になったりしてロクなことがないからな。俺は立場を弁えた、手の掛からない、安全な人物! そういうポジションでやっていく! 

 

 

   ◇

 

 

 主君であるリムル様に名を頂戴し、俺は"ベニマル"となった。

 名付けの直後、リムル様が溶けるように意識を失くした時には焦った。主に対して俺達が失態を犯したことになるかと危惧したが、レトラ様はよくあることだと慌てた様子はなく、リグルド殿にも心配はないと言われ更に戸惑った。

 名付けによって失った魔素は完全に消失してしまう可能性すらあるのに、何故周りは悠長に構えているんだ? ……という疑問については、リムル様は町の住人全員にたった一人で名付けをし、その度に意識を失っては魔素を回復させて目覚めるという、非常識なことを繰り返していると後で聞いた。末恐ろしいな。

 

 そして名を授かったことによる進化が始まり、オーガであった俺達全員が上位種族の鬼人となったことには驚くばかりだ。名付け主の格によって進化にも幅がある。里を滅ぼしたオーク共への復讐を目的とする俺達にとって、リムル様の配下となる機会を得たことは僥倖だった。

 

 

「レトラ様。我らオーガ一同、鬼人族への進化を果たしました」

 

 砂妖魔(サンドマン)のレトラ様は、リムル様と共通の名を持つ"同格兄弟"だ。

 リムル様に名を頂いた俺達は、リムル様の同格体であるレトラ様の存在をはっきりと理解出来るようになった。そしてリムル様の意向によって、レトラ様をもう一人の主とすることも許されている。

 

 小さな頭を柔らかに覆う砂色の髪に、こちらを見つめる琥珀の目。

 レトラ様はリムル様と同様に幼い外見の子供で、また同様に類稀なる強者でもあった。

 初めて相対した時は砂妖魔(サンドマン)と侮ってしまったが、鬼人に進化した今ならわかる。レトラ様が内に秘めた魔素量は膨大で、その隔たりは信じ難いほどに大きなものだ。

 

「今日のところは町を案内するよ。仕事を割り振る前に、町で行ってる作業や訓練を見ておいて欲しいんだ。何か興味があったり、得意なことがあったら教えてくれ」

 

 采配はリムル様に任せると言いながら、面倒事を押し付けようという思惑は感じられない。リムル様が最適な判断を下せるよう、自分でも俺達の見極めを行うつもりであるようだ。

 

 案内された町は未だ開発途中だが、その建築物や生産物の出来栄えはどれも見事で、近い将来、ここは魔物の集落としては他に類を見ないほど文化的な町となるに違いない。

 立ち寄った衣服製作の建物ではシュナが、鍛冶場ではクロベエが、作業に参加したいと願い出た。それぞれ適したスキルや経験を持っているため、充分お役に立てるだろう。レトラ様はすぐに許可を出し、自らその場のドワーフやゴブリナ達に言付けて下さった。

 

 

「ベニマル、ソウエイ、ハクロウ、シオンは剣客と考えていいのか? 皆とも早く馴染めるように、警備か狩猟か、訓練関係に参加してもらうのが主になると思うけど……」

「レトラ様! 私は、リムル様とレトラ様のお手伝いがしたいです!」

 

 シオンが勢い良く手を挙げた。

 手伝い?と首を傾げるレトラ様へ、シオンはこれを好機とばかりに主張する。

 

「はい、先ほどのゴブリナ殿達のようにリムル様のお身体を拭いたり、抱きかかえて移動の足となったり……御二人のお世話と護衛の役目を、私にお任せください!」

「えーとそれはつまり、いつも一緒に行動して、毎日の予定を管理したり……合間にお茶を淹れたりするような役職だよな……」

 

 主の傍で役に立ちたいのはわかるが、シオンは欲望に忠実すぎる。レトラ様はシオンの申し出を肯定的に考えて下さるようだが、あまりシオンの勢いに流されないで欲しいと思う。

 ……というか護衛はともかくとして、今レトラ様が言ったような仕事はシオンには務まる気がしないんだが、大丈夫か?

 

「では今日からは、レトラ様のお傍に置いて頂きたく……!」

「あーいや、俺のことは気にしなくていいよ。シオンはリムルの傍で働きたいんだよな? 本人に頼んでみるといいよ、やる気が伝われば採用されるから」

「あ……はい……」

「じゃあ次は、町の周辺を回ろうかな。町の位置や地形を把握しておいてくれ」

 

 遠慮、あるいはさりげない拒絶だった。

 レトラ様には常にリムル様を長として立て、自分が下位の立場にあることを主張するような物言いが目立つ。町の者達からの信頼や忠誠に関しては、リムル様とレトラ様に寄せられるそれは全く差異の無いものに感じられると言うのに。

 上に立つ者の成熟した雰囲気を纏うリムル様よりも、幾分いとけない印象を受けるレトラ様だが……頭領の弟として、和を乱さぬよう心を砕かれているのかもしれないな。

 

 

 後日、リムル様が無事に目覚め、俺達は本格的に配下としての活動を始めた。

 シュナとクロベエは引き続き作業場で働き、シオンは熱望していたリムル様の世話役兼護衛を許された。秘書という役職らしい。ソウエイは独自に町周辺の見回りを務め、ハクロウは訓練班でゴブリン達やリムル様にまで剣技の稽古を付けている。俺は町の警備や、訓練にも参加する日々だ。

 そしてもう一つ、リムル様より特別に下された命令。

 

「実はな、お前達にやって欲しいことがあるんだ」

「何ですか?」

 

 それは俺達に、持ち回りでレトラ様の護衛をして欲しい、というものだった。

 

 

 




名前:レトラ=テンペスト
種族:砂妖魔(サンドマン)
加護:暴風の紋章
称号:"魔物達の守護者"
魔法:なし
ユニークスキル:『渇望者(カワクモノ)』『砂工職人(サンドクラフター)』『独白者(ツブヤクモノ)
エクストラスキル:『砂憑依』『魔力感知』『水操作』
獲得スキル:『粘糸、鋼糸』『麻痺吐息』『超音波』『身体装甲』『超嗅覚、思念伝達、威圧』
耐性:痛覚無効、熱変動無効、捕食無効、物理攻撃耐性、電流耐性、麻痺耐性

※原作を進める前に、少し鬼人達と交流します


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