死者蘇生の秘術が終局し──
我とイフリートは、再び眠りに就いたリムルの中で、『
その甲斐あって、我もとうとう
秘術がどうなったかだと?
そんなもの、成功したに決まっておろう。
リムルとレトラが目を覚ましたことで、我らにも久方ぶりに外が見える。
そこでは、死した者達が全員無事に蘇生を果たし、二人の目覚めを待っていた。
シオンの元気な姿を目にしたレトラが、感激の余りシオンに抱き付きながら泣いておる。シオンの目にも同様に、涙が浮かんでいた。
「シオン、良かった……シオン……!」
「ああ、レトラ様……すみません、決してレトラ様を泣かせることはしないと誓ったのに……!」
そうであったか。常日頃からレトラを守ろうとするシオンの意気は、我も認めるところだが……今回のような事態は二度とあってはならぬのだ。シオンには、今後決して誓いを破ることのないよう、心して欲しいものだな。
その後、何やかんやあって、リムルがシオンの手料理を食べる流れとなった。
レトラもシオンの料理なのか何なのかよくわからない何かを知っているはずなのに、無謀にも食べたいなどと言い出し、あえなく撃沈しておってハラハラしたが……レトラの先生が、今日もレトラを助けてくれたようで喜ばしいことだ。
夜には、町を挙げての祝いの宴となった。歌い、踊り、楽しそうに騒ぐ魔物達を、リムルとレトラが二人掛けの椅子に並んで見守っている。
心配を掛けたことを謝るレトラに、リムルは告げる。
「レトラ、お前は悪くない……悪いのは、お前にそんな決意をさせる世界の方だ。そうだろ? 今回だって、あんなことが起こらなければお前は危険なことをしなくて済んだんだ……俺からお前を奪おうとする世界なら、そんなもの要らないんだよ。そんな世界は俺が滅ぼしてやるからな」
「待ってリムル病みすぎじゃない? 大丈夫?」
こちら側でも、イフリートが引いていた。
「リムル様は急にどうされたのでしょうか……もしや、本当に進化に不具合が……?」
「それは違うぞイフリート」
「と、言いますと?」
「いつだったか、我は言ったな。他者のためにみすみす己を犠牲にするなど有り得ぬことだと。だがレトラは……シオンもだな。二人は、簡単にそれをやってしまう者なのだ」
シオンは、レトラのために命を投げ出し……
レトラもまた、シオンや住民達の魂を守るために、依代を捨てた……
「シオンやレトラの働きがなければ、誰一人として蘇生は不可能だったであろう。結果だけを見れば、二人の行動は称賛されるべきものだが……本当にそう思うか?」
「……難しい問題です。自己犠牲を正しいと言うつもりはありません……しかし、主君や仲間を見捨てることが正しいとは、私には…………」
そうよな。我としては、レトラには命を粗末にして欲しくはない。シオンにもだ。
誰かがそれを一言言ってやるべきではないかと思っているのだが……仲間を見殺しにして生き延びろと説くのも、それも何かが違うのだ。
そこでリムルは、異なる方面からレトラに訴えたわけだな。どのような理由でも良い、それでレトラが己を犠牲にすることを少しでも躊躇ってくれればとの願いで。
シオンにも、いずれ我から伝えるとしよう。考え無しに無茶をするだけでは、またレトラを傷付けることになると……そう思い知らせておけば、心構えも変わるだろうて。
「あの、リムル様の意図は理解しましたが……いくら何でも、発言が過激ではないですか? レトラ様を奪うような世界は必要ないとか……」
「何故だ? 我も同意見だぞ?」
「……ああ、似た者同士でしたか」
《告。『無限牢獄』の『解析鑑定』が終了しました》
ついに、この日がやって来た。
我はワクワクしながら、リムルが解放してくれるのを待つ。
「おめでとうございます。嬉しそうですね、ヴェルドラ様」
「クアハハハ! わかるか、イフリートよ?」
ようやく、この忌々しい『無限牢獄』から解放される。
我はイフリートのことも復活させてやるつもりだったが、本人は『
「ヴェルドラ様、忠告しておきますが……外に出たらコッソリと魔王クレイマンをぶっ飛ばそう、とか考えていませんよね?」
「!? それはその……リムルは皆の前で、クレイマンを叩くと言っておったし……」
「いいですか? リムル様の友として立つならば、ヴェルドラ様が仕出かした責任も全てリムル様の所為にされる、ということを忘れないで下さい! レトラ様が培ってきた信用も、全てが台無しになってしまうのですよ!」
な、なるほど……?
だが、リムルやレトラのために、ちょっとくらい──
「リムル様に嫌われたらイヤですよね?」
「泣いちゃうよね」
「レトラ様にも嫌われたくないでしょう?」
「我死んじゃう。立ち直れない……」
ガクブルしながら答える。
想像するだに恐ろしい……考え無しに行動してはならぬ、とは我も例外ではないのだな。
「だったら迂闊な真似をせず、事前に是非を確認するよう徹底して下さい。慎重に、思慮深く、常に気を配るよう、約束ですよ!」
「うむ、わかったぞ! 約束しよう!」
──そうして、その瞬間が訪れた──
「いようヴェルドラ、久しぶり。元気だった?」
「……せっかく復活したのに、我の扱い軽くないか?」
我らの始まりの場所にて、我は『無限牢獄』から解放された。
二年ぶりだと言うのにリムルは平然としており、思っていたより感動的な再会にはならず残念だったが……それよりも、我には不満がある。
「ところでリムル。レトラが居らぬようだが……?」
洞窟へ向かう途中から、おかしいな? とは感じていたのだ。ついに我の封印が解かれる時が来たのに、レトラには声を掛けぬのかな? と……
リムルは、レトラなら元気にしてるぞ、と笑って答えた。
いや、そうではなくてだな。
「レトラが元気なのは知っ──イヤイヤ、そう聞いて安心したが! 何故レトラを連れて来なかったのだ? 普通、このような瞬間は、三人揃って迎えるものではないか?」
「それなんだけどさ、俺に考えがあって……」
リムルが言うには、解放されたばかりの我は肉体もなく不安定。完全復活を遂げ、
ふむ、素晴らしい考えだな。レトラが驚き、喜ぶ姿が目に浮かぶようだ…………しかし。
「リムルよ。レトラを連れて来なかった理由……それだけではあるまい?」
「え?」
「我は『無限牢獄』に封印されていたが、
「……そうか」
実は以前から覗き見をしていたことがバレぬよう、その辺は何となく誤魔化しながら。
リムルが魔王と成った理由やその顛末も知っていると、シオンや町の者達が蘇ったことを嬉しく思うと告げて──
「レトラも、相当危険な目に遭ったようだな」
「……すまん。レトラのことを託されてたのに、守り切れなかった」
声の調子を落とし、リムルはそう吐露する。やはり責任を感じていたのだな。だが我は、リムルの所為などとは微塵も思っておらぬ。我が言いたいのは…………
「責めているのではない。お前にとって、レトラは何より大事な弟なのだからな。我にはわかっているぞ……お前は、あの愚か者共を滅ぼす算段を付けているのだろう?」
「……ん?」
「報復などという下らぬことは、我も考えておらぬ。だが今後を見越した場合……二度と我らに手出し出来ぬよう、戦力を削ぎ落としておくべきという意見には賛成だ。二万の軍を滅ぼしたとは言え、ファルムス王国や西方聖教会には、余力があるかも知れんのだからな」
「え? いや……?」
「魔王クレイマンも一枚噛んでいるのだったな? 潰すのであれば、この我も手を貸すぞ。何なら、我がちょっと行って来て──」
「ま、待て待て! ヴェルドラ!」
リムルが慌てて声を上げる。
「俺の意見って何だよ!? そんなこと、一度も言ってないだろ!?」
「言ってはおらぬが、きっとそうに違いないと……」
「違うっての!」
リムルはファルムス王国、聖教会、クレイマンにはそれぞれ対応するつもりだが、協力が必要な時は相談するから、と必死な様子。
……ウム、またしても我の早合点だったようだな! 我が友イフリートの忠告を聞き入れておいて良かった……行動を起こす前に確認することで、事無きを得たぞ! ヨシ!
「それよりヴェルドラ、早く準備してレトラに会いに行かないか? レトラも辛いこと続きだったし、お前が余所の連中にかまけてるよりも、その方が心強いと思うぞ!」
「そうだな、その通りだ。まずはレトラが先であった……!」
そんなわけで我はリムルの『強化分身』を依代とし、人間形態を手に入れた。我らの間では魔素を流用することが多く、互いの魔素が似通っていて拒絶反応が出ぬのだろうな。
周囲に被害を出さないための妖気の制御は、我の妖気が膨大過ぎてコツを掴めず、三日も掛かってしまったが──その途中、『
ようやく、ようやくだ。
これでやっと、レトラに会えるぞ!
洞窟の外に集まっていた大勢の魔物達に、リムルが我を紹介する。レトラがゲルド達と『空間移動』で現れたのは、その直後のことだ。
レトラの機嫌はすこぶる悪かった。どうやら、リムルが一人で我を解放しに行ったことに腹を立てているらしいな。レトラも早く我に会いたかったのかと思うと感慨深い。我に怒っているわけではないのだから、リムルがレトラを宥めてくれるまで待って……
「大体、封印が解けて気付かないわけないだろ!? ヴェルドラが──」
「レトラよ!」
あっさり我慢出来なくなったのは、已むを得ぬことである。
レトラはこちらを向き、暫しキョトンとあどけない表情を見せて……それまでの機嫌の悪さはどこへやら、太陽の如く笑顔を輝かせ、我に飛び付いてきおったわ!
「ヴェルドラだあああー! 会いたかったー!」
「我もだぞ、レトラ! 今まで元気にしていたか!?」
これだ! 我はこういう再会がしたかったのだよ!
誰かを抱き留めてやるのも、腕に抱えてやるのも初めてだが、リムルのお陰で人型となっていた我には容易いことだ。やはりリムルの言う通りにしておいて間違いはないな……どこかで舌打ちが聞こえた気もしたが、気のせいであろう!
全身で喜びを表現しているレトラに、我も嬉しくなる。
いつ見ても可愛いレトラと戯れていたところ、トレイニーが声を掛けてきた。
「不躾にお伺いしますが、ヴェルドラ様……リムル様とは御友達で、すると、レトラ様とも……?」
そうであった。封印が解けた暁には、レトラに
もしダメでも、友達になれば良いのだから。
「あ、ヴェルドラ。前から聞こうと思ってたんだけど」
腕の中から、レトラが我を見上げてくる。
ああやはり、その琥珀に我が映っているのは、とても気分が良い──
「俺は、ヴェルドラのことは親代わりだと思ってていいの?」
…………
親?
親、親、親…………
親…………
子…………?
──それだ!
と、意識を占領した閃きがあった。
確かに以前、我は考えた。我の魔素溜まりから生まれただけで子と呼ぶのは、道理に反していると。伴侶を得ないことには、子は生まれぬものだと。決して間違いではないのだろうが、我はその理屈に固執しすぎていたようだ。
相手と何らかの間柄になるために必要なのは、互いに同じ思いであること。
ならば、我らは──
「クァーッハッハッハッ……! 親だと! この我が親か! ついに我も、兄上のように子を持つまでになったと言うのか! そうかそうか、お前が可愛くてたまらぬのは我が子であるからなのだな……! いいぞ、実に良い気分だ! そうだレトラよ、お前は我が愛し子だ!」
この上なく愉快な心持ちで、我は高らかに宣言した。
薄々ながら、我にも違和感があったのだよ……兄姉への感情とも、盟友への感情とも違う、レトラただ一人にしか感じたことのないそれ。
言葉にするなら、存在そのものが愛おしく、見守っているだけで満ち足りて、悠久の安寧を願わずにはいられず、我に叶えられる全ての幸福を与えてやりたいような……
今こそはっきりとわかった。
我は出会った頃から、レトラを我が子と思っていたのだな……!
そして、互いを親子と認める者達が親子であることに、一体何の問題があろうか?
流石は我のレトラよ。これほどしっくりくる答えに辿り着き、それを我に気付かせてくれるとは……我はまた一つ、レトラとの意思疎通に成功したのだ……!
レトラを抱える腕に力を込める。
小さく驚きの声が上がるも、レトラも嬉しそうに笑っていた。
ついでに、このまま我の伴侶になってくれぬかと思ったが──リムルが割り込んできたため、話は中断された。レトラを伴侶に迎えたからと言って、盟友のリムルを仲間外れにする気などないのだが……まあ、それはまた次で良い。
我とレトラが親子と判明しただけで、我はとても幸せだからな!
※こうして、"暴風竜"は
※今回の更新期間は終了です。ありがとうございました!