転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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145話 相対と裏表

 

 人形のような表情で麗剣(ドレスソード)を操るレトラ。ただの悪夢でしかない。

 止まない不快感はレトラに対してではなく、この胸糞悪い光景を作った張本人──酷薄な笑みで見物を決め込むマリアベルに対しての感情だった。だが、マリアベルに構っている暇などない。まずはレトラを止めてから。お前は後でだ。

 

 

 連続で襲い来る剣先を、紙一重の所でひたすら避けていく。

 レトラの攻撃は刺突のため、その剣筋は俺から見てほとんど"点"だ。『未来攻撃予測』で視界に描かれる光によって到達地点がわかるだけマシである。

 

「レトラ……! おい! 何とか言えよ!」

 

 レトラに呼び掛けながら、俺は回避に専念した。決して、弟に攻撃したくないとかそういう話ではない。それも嘘偽りのない本音だが、れっきとした理由がある。

 再度、回避行動に移った俺の視界から──光が消えた。

 

「──ッ!」

 

『未来攻撃予測』は確定予測のはずだ。ということは……レトラは俺に『未来攻撃予測』を行わせた上で、確定していた攻撃をキャンセルしやがったのだ。こんなことが可能なのは、レトラの方も『未来攻撃予測』に匹敵するスキルを持っているから。恐らくは『先見之王(プロメテウス)』の『未来予見』の為せる業だろう。

 

 先読みを先読みしての、裏の取り合い。

 反応が少しでも遅れれば、それが命取りとなる。

 

 引いた一歩が浅かった。

 胴を狙って放たれる、神速の突き。

 

(ッ、避けられない……!)

 

 間一髪、滑り込ませた刀身で鋭い攻撃を受け止める。だが、恐ろしいのはここからだ。刀に衝撃を感じた瞬間、俺は即座に手を放して飛び退いた。

 

 ざらりと地面に崩れ落ちる、刀であったものの残骸。

 

 これが、あの華奢な麗剣(ドレスソード)が最強の矛たる所以。

 砂の剣から発動する『風化』による武器破壊……レトラの剣を受けたが最後、こちらの剣は防御不能の砂に喰われて消えるのだ。"剣を交える"ことが叶うのは、レトラが自らの意思で『風化』を使わなかった場合のみ。マジでこいつどうやって止めるんだ……? 

 

《解。個体名:レトラ=テンペストを行動不能にするには、究極能力『誓約之王(ウリエル)』の『無限牢獄』が有効です。ですが、完全に捕らえ切る前に究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』を発動されると、『無限牢獄』が破壊される恐れがあります》

 

 空いた手に再び刀──何度砂にされてもいいよう、以前使っていた刀を『複製』してある──を取り出し、『思考加速』を用いて智慧之王(ラファエル)の声を聞く。

 ヴェルドラさえも封印した『無限牢獄』。完璧に閉じ込めてしまえばレトラでも『旱魃之王(ヴリトラ)』を発動出来なくなるそうだが、その前だと壊されるって? あいつの『風化』の性能おかしくないか? 

 

《何らかの攻撃手段で、同個体を弱体化させる必要があります》

 

 本気でレトラを止める気ならそうだろう。レトラは物理、魔法への耐性を持ち、『万能結界』で守られ、『万象衰滅』と『創造再現』で攻防一体のほぼ不滅の砂だ。それらを上回るエネルギーをぶつけるくらいでなければ意味がない。だが────

 

(…………本当に、レトラは操られてると思うか?)

《解。確証に至る根拠が不足していますが、個体名:レトラ=テンペストは支配を受けていない可能性があります》

 

 智慧之王(ラファエル)さんも疑ってはいたようだ。俺の中でも、これはレトラの演技なんじゃないかという疑惑がずっと消えていない。レトラから返事が全く来ないのも、敵を欺くにはまず味方からってやつで……俺には打ち明けてくれてもいいだろと思うけど。思うけど。

 

《告。対処方法の検討に当たり、個体名:レトラ=テンペストからの情報共有が不足しています。演技である確率が高いと見込まれますが、万が一演技ではなかった場合──同個体の能力(スキル)主様(マスター)を害する威力を有しています》

 

 なるほどな。レトラを信じて予想を外せば、俺の安全を保証出来なくなる。だから智慧之王(ラファエル)さんとしては確実に、レトラを捕らえる方法を推奨したいと。

 俺としても、『風化』を喰らうわけにはいかなかった。迂闊に溶かされて『旱魃之王(ヴリトラ)』が刺激され、暴走を始めてしまえば目も当てられない。レトラもマズイとわかっているはずなのに、どうして何も説明してくれないのか──

 

《情報不足のままの決断は、主様(マスター)に不利益を生じさせる可能性があります》

(…………)

 

 これは忠告なのだろう。

 相手がレトラであっても、無条件で信用するのは危険だと。

 ほんの少し考えて、智慧之王(ラファエル)、と呼び掛ける。

 

(やっぱり、俺はレトラの演技だと思う。ユニークスキルは究極能力(アルティメットスキル)に通用しないっていうお前の見立ては間違ってないはずだ)

 

『解析』も済んでいるし、『強欲者(グリード)』はレトラに通じない。

 では、何故レトラが黙っているかだが……あいつは好き好んで俺達を騙すような奴じゃない。自分が囮になろうって作戦なら、共有すべき案件だってことくらい理解しているだろう。

 

(そりゃ俺は怒るけど、レトラは怒られるとわかっててもそういう大事なことは伝えてくるだろ……武闘大会の時みたいにな。それがないってことは、出来ない理由があるんだよ。支配されたフリの都合上、『思念伝達』もマリアベルに読まれそうだとか)

《依然として、情報不足のままでは適切な判断が下せません》

(ああ。だから、もう少し待ってくれ)

 

 レトラの性格上、『思念伝達』が出来ないからって責任を放棄するとは考えにくい。それならそれで、あいつは他のサインを出しているはずなのだ。俺にはわかるはずだって、そんな期待を込めての演技なら、俺は応えてやらないといけないだろう。

 頼む、もう少しだけ。

 

《──了。個体名:レトラ=テンペストとの戦闘継続を目的に、演算を開始します》

 

 智慧之王(ラファエル)の同意は得られた。

 さあ、行くぞレトラ。後はお前の演技を見破るだけだ。

 現実には一秒足らずの短いやり取りを終え、目の前に意識を集中させる。地面に積もった幾らかの砂を挟んで、俺とレトラが相対していた。

 ヒュ、と美しい所作で振り払われた麗剣が、再び構えの型を取る。

 

「──神へ祈りを捧げ奉る──」

 

 溶け入るような儚い囁き。

 静謐さに満ちた天上の声が、言葉を紡ぐ。

 

「──我は望み、聖霊の御力を欲する──」

 

 この詠唱、"霊子崩壊(ディスインティグレーション)"──

 いや違う、詠唱と共に、麗剣が光を纏い始めて…………

 

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)か……!)

 

 おい馬鹿やめろ! 何やってんだ! 

 お前の剣には『捕食無効』が付くから、『暴食之王(ベルゼビュート)』で相殺出来ないんだぞ……! 

 

《告。同じく聖剣技:崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)の使用を進言します。その他の手段では迎撃が不可能です》

(結局、真正面からかよ……!)

 

 せっかく格好付けたのが台無しなくらい脳内が大荒れだが、それほどの事態だ。

 ヒナタの時でさえ、『暴食之王(ベルゼビュート)』でも喰らい尽くせなかった浄化効果が周辺一帯の魔素を消し去ったってのに、今度は余波でどんな影響が出るか想像も付かない。

 本当に大丈夫なのか? レトラも俺も、無事で済むのか? 

 くそ、詠唱が終わってしまう──

 

 

(…………詠唱?)

 

 

 『創造再現』には、詠唱が必要ないのに? 

 

 魔法を使えないレトラが詠唱を行うことはなく、操られているならそんな無意味な行動を取ることもない。つまりは意図的な……俺への合図。

 考えてみれば『魔王覇気』も妙だった。背後を取っていながら妖気(オーラ)を剥き出しにしたら、不意打ちが成立しない。レトラは俺が避けられるよう、事前に知らせてくれていたのだ。

 

(『智慧之王(ラファエル)』、これだ! レトラは正気だ……!)

《了。個体名:レトラ=テンペストが支配を受けていないという想定で演算を行います。同個体の意図は、同威力の聖剣技:崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)の衝突による相殺──『万象衰滅』を使用しない安全な攻撃を選択したものと思われます》

(安全? 超絶聖剣技(オーバーブレイド)が?)

 

 しかし、レトラがいつも通りとわかった以上は些細なことだ。

 レトラの詠唱が終わり、"霊子崩壊(ディスインティグレーション)"が込められた聖なる麗剣が完成した。こちらも『詠唱破棄』で刀に破邪の光を纏わせる。

 

《告。実験的に"霊子崩壊(ディスインティグレーション)"のエネルギーを僅かに弱めたところ、究極能力『先見之王(プロメテウス)』が追随し出力を下げました。現在、両者の崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)の威力は均等です》

 

 合わせてくれるとか、確定だろこれ! 

 傍目には、神聖な光を拮抗させた者同士の対立。どちらが相手を上回るかわからない緊張感が場を満たしていたが──後の完璧な調整は先生方にお任せしよう。

 

(……なあ、『智慧之王(ラファエル)』)

 

 こんな時にどうかとは思うが、『思考加速』の隙間で問い掛ける。

 何となく、何となく気になったので。

 

(お前ってさ……レトラのことはどう思ってるんだ?)

《──…………》

 

 今まで気にしたこともなかったが、先程の言動から何となく。

 レトラは俺の大事な弟だが、能力が反則気味なのもあって強すぎる。本当に支配されていたら、本当に暴走したとしたら止めることさえ難しい。そんなレトラに対して智慧之王(ラファエル)さんは、何か危機感を覚えることがあるのだろうかと…………

 

 少しの間を置き、智慧之王(ラファエル)は答えた。

 好悪の響きが感じられない、普段通りの静かな口調で──

 

《解。個体名:レトラ=テンペストは、外向的な秘密主義者であり、独善的な利他主義者であり、自罰的な楽観主義者であると認識しています》

 

 …………うん? 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 何で? 

 変だ、どうして、何が起こってる? 

 これはおかしい、っていうかマズイ……どうなってるんだ? 

 

 リムルに『思念伝達』が届かないんだけど……!? 

 

 マリアベルが現れてリムルと戦い始めた時は、原作通りだなと思った。やってることは無謀だけど『強欲者(グリード)』が魔王に通じたら最強を証明出来るし、保険の手駒を用意してるなら自分の力を試しておきたいと考えるのはわかる。

 

『──レトラ。今よ、今なの。魔王リムルを不意打ちするのよ』

 

 結果として『強欲者(グリード)』はリムルに効かず、マリアベルは次の手に移る。

 俺の擬似人格(プログラム)を支配させている『強欲者(グリード)』を通じて思念が届いた時、走り出せば剣が届く間合いにリムルの背中があった。これは不意打ち出来てしまう……と考えながら『魔王覇気』でリムルに危険を知らせたお陰で、俺の初手はしっかりと回避された。

 

「レトラ……!?」

『リムル! グレンダの言ってた通りだ、たった今、マリアベルが『強欲者(グリード)』で俺を操ろうとしてきたから操られたフリするよ。ちょっと一戦付き合って!』

 

 マリアベルには今操られそうになったことにする。他に俺を操る機会なんてなかったので、無茶な言い分でも通るだろう。後はマリアベルに従順なフリをして、俺がリムルと渡り合えるのを見せて……と。

 

 飛び退いたリムルを追って間合いを詰め、再び刺突を繰り出した。

 リムルが身を翻す。だが俺に反撃するでもなく、刀を取り出すでもなく──強張った表情で距離を取ろうとするリムルに、あれ、と思う。

 

『……リムル? どうしたの? 怒ってる?』

 

 変だ。リムルから返事が来ない。

 武闘大会の時みたいに、何考えてんだって怒られるのは覚悟してたのに──

 

「おい……嘘だろレトラ!? お前が操られるわけないよな……!?」

『え、リムル……リムル!?』

 

 聞こえてない……!? 

 まさか隠蔽──とは思えない。マリアベルに『強欲者(グリード)』を仕掛けられ支配されたフリをしているという、ウィズも認識済みの事実を隠蔽される理由がない……! 

 

(ウィズ! 『智慧之王(ラファエル)』には連絡取れるか!?)

《告。究極能力『智慧之王(ラファエル)』へ思念を送信──応答がありません》

(ええ……!?)

 

 そして、現在に至る。

 無表情は継続中。視線は揺らさず焦点も合わせず、口元は引き結んだまま。俺が呼吸をしない砂だから出来ることだった。でも、リムルの協力なしで操られたフリは無理がある! 俺が本当にマリアベルの餌食になったと思われたらダメだろ……!? 

 

 な、何でこんなことに? 思念が届かない理由は何だ? 

 落ち着け、物事には必ず原因があるはず……いくら俺達の接続が不完全だろうと、"魂の回廊"経由でやり取りしてるんだから、外部から妨害を受けるなんてことは──

 

 そこまで考えて、妨害可能な存在に思い当たった。

 外部じゃなく、内部だったら? 俺達の中にいる先生なら? ウィズかラファエルのどちらかが『思念伝達』に干渉してる……? 

 

(……『先見之王(プロメテウス)』。お前って、俺に嘘吐ける?)

《解。虚偽の申告自体に制限はありません》

(出来るって言っちゃう正直者……じゃあさ、俺とリムルの『思念伝達』邪魔してる?)

《否。していません。それは主様(マスター)の御望みとも、私の存在意義とも相反します》

(わかってるよ。ありがとな)

 

 ウィズだけ贔屓は出来ないので聞いてみたが、気分を害した様子もなくて有り難い。うん、ウィズには俺を邪魔する理由がないからな……リムルに種明かしをしないと俺の計画が頓挫するどころか、リムルが本気を出せば俺に危険が及ぶかもしれないからだ。

 すると、妨害しているのは……もう一人の方。

 

『──『智慧之王(ラファエル)』。聞こえてるよな?』

 

 直接、ラファエルに呼び掛ける。

 恐らくリムルへの『思念伝達』がラファエルの所で堰き止められ、リムルまで届いてないんだろう。俺も以前、ウィズに思念をシャットアウトしてもらったことがある。

 ちなみに、俺の身体はウィズの自動戦闘(オートバトル)モードに任せた。リムルは『未来攻撃予測』を使うだろうから、攻撃しまくって全部避けてもらってと指示してある。

 

『何で思念を妨害して……ってのは大体わかるよ。俺が敵かもしれないからだろ』

 

 原作知識を持つ俺は知っている。ラファエルは、少しでもリムルを害する可能性がある相手には警戒を緩めない。『風化』を持つ俺なんて、危険人物の筆頭だろう。

 開国祭の夜、リムルを喰いたいって認めてしまったのも悪かったかな……俺が本当にリムルを喰うかもしれないなら、ラファエルには俺を疑う義務がある。

 

『それでいいよ。『先見之王(プロメテウス)』が言ってたけど、スキルは主のために存在するんだろ? ラファエルもそうだよな? だったらお前は何も悪くないし、間違ってない。リムルのことを一番に考えてくれてありがとう。これからも、ずっとリムルを守ってあげて』

 

《…………了。御協力に、感謝致します》

 

 あ、ラファエル。やっぱり聞こえてた。

 そんな申し訳なさそうにしなくていいって。リムルの弟だからって野放しに出来ないほど俺は怪しかっただろうに、よく今までそっとしておいてくれたもんだ。

 

『ラファエル、俺を信用しなくていい。俺は信用してもらえる程のことはしてない……でも今回の目的は、俺を支配したと思い込んで油断したマリアベルを倒すことなんだ。リムルや魔国には悪い話じゃないだろ? 俺の作戦に価値があると判断したら、力を貸して欲しいんだ』

 

 提供出来るのは、利用価値。ここは利害の一致で折れてくれないだろうか。

 ……案、とラファエルの声がした。珍しい。

 

《個体名:レトラ=テンペストへ提案します。現状における最大の問題点は、主様(マスター)への情報共有の不足です》

『いや、妨害したのラファエルだからね』

《……以前より度々、情報共有の不足が認められます。両者に不利益を生じさせる可能性があるため、今後はより密な情報連携を行って頂けますか?》

 

 あの『智慧之王(ラファエル)』が、俺に歩み寄ってくれている。リムル第一でリムル最優先で、主のために存在するスキルとして正しい生き方をしているラファエルが。これがどれだけ奇跡的で革新的なことか、俺にはわかるのに。

 

『…………うん。出来るだけ、そうするよ』

《…………》

 

 嘘を吐かずにいられる、精一杯の返答だった。

 本当に俺には、信用してもらえる要素がないなぁ…………

 

 

 

 

 

智慧之王(ラファエル)』との対話を終え、ウィズとバトンタッチする。

 

(ありがとうウィズ、交代だ! リムルはどう?)

《解。主様(マスター)に応答を求め続けています》

(あー聞こえてた……『智慧之王(ラファエル)』が協力してくれるかはまだわからないんだけど、最悪「操られてないよ」って言えば解決するよな)

 

 最後までリムルに伝わらなかったら、それで行こう。

 俺の計画はかなり狂うが、仲間を騙して押し切るほどの価値はない。

 

《問。究極能力『智慧之王(ラファエル)』によって主様(マスター)の御望みが妨げられるのであれば、容認出来ません。抵抗しますか? YES/NO?》

(いや! しない! ラファエルと対立したいわけじゃないんだ……ほら、リムルとカガリさんが話してただろ? 相手の立場を尊重して、意見を交わして、どっちかが折れれば敵対しなくてもやっていけるって。ラファエルも検討中みたいだし、もう少し待ってみよう)

《了。主様(マスター)の御意思に従います》

 

 リムルには『智慧之王(ラファエル)』が、俺には『先見之王(プロメテウス)』が。

 それって物凄く公平だし、こうして味方がいてくれるのは頼もしいことだ。

 

 俺達はそのまま、リムルと互角以上に戦えるぞというデモンストレーションを続行した。

 リムルが複製品の刀を握っているのを見て、あれは『風化』で壊されることを前提にしてるな……と気付く。あの刀は溶かしていいんだから、砂にしよう。

 

《了。『未来予見』を実行開始──個体名:リムル=テンペストの『未来攻撃予測』を誘導します。視界に表示される指示に従って下さい》

(うーん即答)

 

 そして俺は俺で、操られていないことをリムルに伝える努力をした方がいい。

 そういうわけで捻り出した"霊子崩壊(ディスインティグレーション)"の詠唱。俺が魔法を使えないと知っているリムルは、その違和感に気付いてくれた。

 どうやらラファエルも協力してくれる気になったらしい。二人の崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)の出力がピッタリ同じという、先生達の神業的な調整により──見事、俺達は相討ちとなったのだ。

 

 

 

「くっ……!」

 

 ぶつかり合った白い閃光が、互いを滅ぼしながら消滅する。

 リムルとヒナタの時とは違って、"霊子崩壊(ディスインティグレーション)"同士が完璧に打ち消し合ったため、逆に何も起こらなかったかのように空間が凪いでいた。

 交えた剣を引いて距離を取った俺達に──いや俺に、マリアベルの命令が飛んだ。

 

「来なさい、レトラ」

 

 数歩のバックステップでマリアベルの元へと下がる。リムル、怖い顔しないで欲しい……まあ俺が操られてないのは伝わってるわけだし、大丈夫大丈夫。

 

「どうしたの魔王リムル? 最愛の弟とは戦いにくいのかしら」

 

 含み笑いを見せたマリアベルは、俺より少し低い位置から手を伸ばす。

 そっと、頬に触れる感触。添えられた手が輪郭をなぞり、肌を確かめながらゆっくりと伝う指先が顎へと辿り着く。そして、顎下が優しく擽られて──

 いやこれ、ペットの撫で方。犬猫扱いは流石に気分が悪…………

 

「手を、離せ。殺すぞ」

 

 うお…………っと。

 俺がビビってどうするとは思ったが、俺より不快だったらしいリムルの殺気まみれの声も、瞳孔の開き加減も本気だった。ついでに俺を睨むのやめて。マリアベルも挑発やめて……ウィズ、手を溶かそうとしないで。いいから。どうどう。

 

「ふふ、ふふふ……ああ可笑しい。弟を返して欲しければ、追って来るのね」

「おい! どこへ──」

 

 マリアベルは踵を返し、俺を伴って奥へと続く通路へ向かう。

 俺達を追い掛けようとしたリムルは、シオンに勝利したユウキに阻まれた。ユウキには『強欲者(グリード)』を経由してマリアベルの力が譲渡されたため、戦闘力が跳ね上がっている。

 

 マリアベルが遺跡の最奥に用があることも、ユウキにリムルの足止めをさせることも、俺は知っていた。そして俺をリムルと戦わせて力量に満足したなら、リムルを仕留める最後の仕上げのために俺を連れて最深部に向かうだろう、という読みも当たった。

 

『──『智慧之王(ラファエル)』、リムルに伝えてくれ。マリアベルの相手は俺一人で充分だ。リムルは早く、ミリムを助けに行ってあげてって』

 

 返事はなかったが、きっと従ってくれるだろうと思った。

 リムルに手を汚させたくないラファエルにとって、俺の存在には価値があるはずだから。

 

 

 

 

 




※まとめ
ラファエル:犯人
リムル:ブラコン
レトラ:いつも通り
ウィズ:主が良ければ良し

※漫画版29巻の範囲が終わりました。次話以降は原作展開のネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。



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