ミリムの
接射状態で"
加速させていた思考に割り込み、"世界の言葉"は告げた。
《──三つの条件が満たされ、
これだ、という直感が思考を埋めた。
箱を開けるかどうかの問いに答える、その前に一つだけ。
(『
《否。私は
じゃあイエスだ。理屈は色々あるが後でいい。この状況で俺の目の前に差し出される、プロメテウスの名の付いた何かが、俺にとって悪いものであるはずがないのだ。
俺の選択の結果を、"世界の言葉"が読み上げる。
《確認しました。
《──!!》
ウィズが反応した。
まさしく喉から手が出るほど欲しかった、スキル進化のための理論。
《告──
ウィズにとっては理解不能の現象が立て続けに起こっているだろうに、俺の意図を読み切っての流れるような完璧な対応……このテキパキ感、いつ見ても気持ち良いわ。
さて、ウィズの作業中、五ミリ秒くらいは考える時間がありそうだ。
今の"世界の言葉"自体は、マサユキ式のスキル獲得構文に似ていた。
でも、
そもそも種類が違う。
遺骸? 残骸? 残されたもの……それが箱? "世界の言葉"は、『
ああ、一つ心当たりがある。俺の魂に存在するという、ウィズでも読み取れない場所──認識不可領域。その箱は俺の魂に隠されて、開かれる時を待っていたのか?
その箱が一体いつどうやって俺に渡されたかは、まだわからない。だが、誰がやったのかはわかる。以前の俺とウィズで確定だろう。スキル進化用の理論なんて、今ここにそれが足りないことを知っていた奴が用意したものでなければ説明が付かない。
箱の中身はこれで全部? 完全解放とは言われなかったし、まだ何か入ってるかも……今回の件からすると、解除条件はかなりシビアな気がしなくもないけど…………
『……レトラ!』
不意に届いた思念。
『レトラ、聞こえるか……!?』
そうか、改変された出来事以外はフラッシュバックの通りなら──
『リムル!』
『っ……レトラ!? 聞こえるのか!? 大丈夫かお前!?』
あれ?
俺の思念がリムルに届いてる……?
さっき見た俺はもっと辛そうで、返事も出来なかったくらいなのに。確かに
『レトラ! おい……! まだ喰われてないんだな!? 状況は把握してるか!?』
『わかってる!
『言っとくがお前、わざと
『考エテナイヨ?』
もう、だけど。考えてないです。
冷えた視線を浴びたような錯覚は無視して、『
『ミリムの
その言い方で気付いた。これ、俺とガイアが混ざってると『捕食無効』が邪魔になるんだな……? だから前のリムルは原作と違って、ガイアの魂を守ってやることが出来なかったのか……俺、ちょっと疫病神すぎるだろ。
ミリムとリムルにとっては、最後の手段だったんだろう。圧倒的な破壊力で
『大丈夫! ちゃんとやる! ミリムに伝えてくれ、俺も
『……わかったよ! 絶対に消えるなよ! いいな!』
そう言い残し、リムルの気配が離れた。
俺の予定では、
大丈夫、大丈夫だ、俺が見た未来よりも条件は遥かに良い。俺に出来るのは、必ず成功すると信じてそれを貫き通すことだった。俺の知るリムルのように。
直後、頭に響いたのはウィズの声。
《告。
来た!
俺の期待を裏切らない完璧な成果。これは、執念の結晶だ。以前の俺達では届かなかった、あるべき未来へと託された、二人分以上の魂の重みを持つスキル。
(ウィズ! やれるな!?)
《是。
(それでもいい! 絶対に、子竜の魂を無事に蘇らせろ!)
《了。
ミリムの纏う妖気が、爆発的に膨れ上がる。
「
超新星の爆発。
全てを破壊する星の輝き。
《告。究極能力『
俺の身体も精神体も砕けて、魂を掴まれるような圧迫感があった。
これは、ウィズの手術が始まったという合図だ。『
ウィズを邪魔しちゃ悪いから、せめて静かにしていよう。
白い光に焼かれながら、そっと意識を閉じた。
俺は、奇妙な白い空間にいた。
ここは……どこだ?
俺は何して……、いた、い? 身体中が痛い……?
強烈な痛みに全身を縫い付けられたようで、伏せた身体は全く動かない。べちゃりと湿った頭。虫の息の呼吸。折れた腕と剥がれた爪。柔らかく潰れた腹。
そうだ、この痛み……俺はきっと、死んだ時のことを思い出しているのだ。周りは山でも崖でもなくただ真っ白な空間で、倒れた身体はレトラのまま。ここは俺の精神世界か何かで、最も印象に残っていた死ぬほどの痛みが再現されてしまっているのだろう。
痛いし、苦しい。
──キュイ
微かな鳴き声が聞こえた。
小さな竜が、倒れ伏す俺を覗き込んでいる。
……ガイア? なんで?
ガイアは俺に顔を寄せ、ぺろ、と頬を舐めた。
心配してくれるのか、優しいな。
大丈夫だよ。俺はこうやって死んだけど、痛いのも苦しいのもそんなに長くは続かなかった。あの時、もう死ぬんだとわかって、喉が渇いて渇いて、俺は──
ふと、記憶の底から浮かび上がってきたそれ。
思わず目だけ動かして、小首を傾げるつぶらな瞳を見返した。
(……もしかして、お前も同じだった?)
キュイ、と声が答えた。
ああ、何だ、そうか。
そうだったのか。俺達は──
気付けば、砂漠の中に倒れていた。
「……レトラ! ……レトラ……!」
俺を呼ぶ声。ミリムだった。
目を開けると、ぼんやりした視界の中に、傍らに蹲ったミリムの泣き笑いの顔が映る。五体満足の身体を起こすと、ミリムが勢い良く抱き付いてきた。
「レトラ……! 良かったのだ……!」
そこに含まれた感情は、決して、手放しの安堵や喜びだけではなかった。
当たり前だ。まだガイアの無事を確認出来てないんだから。
「ミリム、ほら……子竜の魂だ」
「"
俺の手には"
以前リムルを手伝って『創造再現』したことがあるとは言え、何も指示してないのにガイアの魂をきちんと器に保護してくれたウィズの仕事が完璧すぎる。
しんとして、何の反応も見せない魂の器。
傍に立っていたリムルが、子竜に名前はないのかとミリムに問い掛けて──
「ガイアだ! いつか、そう呼んでやろうと思っていた……この者の名は、ガイアなのだ!」
呼応するように"
それを見届け、俺はガイアの宿った"
「レトラ、ありがとう……ありがとうなのだ……」
ミリムは安堵してすっかり力が抜けてしまったようだ。
今度こそ心から笑ってくれていることを確認し、俺も安心する。
あ、そうそう。ついでに。
両手を持ち上げ、ミリムの頬を包み込んだ。
えっ、と動きを止めたミリムに顔を近付けて──じっと見つめる。
「良かった、綺麗だな」
「な……何がだ……?」
目だよ、と言ってみたけどわからないよな。笑って手を離す。
赤い頬を膨らませたミリムが何のことだと俺に詰め寄ろうとして……そこでリムルに呼ばれたため、慌てて立ち上がって行ってしまった。
"
俺は砂の上に座り込んだまま、その微笑ましい光景を眺める。良い気分だった。
そして、少し後ろに立っていたもう一人に声を掛ける。
「……ギィさん」
「あ?」
「俺の……俺達の願いを、思い出しましたよ」
「何だ?」
殺害され、魂の欠片となって零れ落ちた子竜と。
山中で息を引き取った、前世の俺。
「"まだ生きていたかった"──」
生への渇望。
死の淵で俺達が願ったのは、破壊じゃなかった。
もう助からないとわかっても、元に戻れないことを理解しても、まだ生きていたかった。俺達は、決して叶うことのない願いに手を伸ばした者同士だったのだ。
届かない願いを求め、渇いて、渇いて──気の狂いそうな渇望の中、欠けた魂は憎悪に汚染され、破壊衝動が『
そして俺が藤馬泉だった頃。崖から落ちて、重傷を負って、助からないことを悟ったあの時。俺は途中だったのだ。生きて行くつもりだった。いつか、よくやったって思える日が来るだけで良かったのに、それも出来ずに終わってしまうことが辛かった。
まだ生きていたかった、と。
同じ渇望を抱えながら息絶えた魂が、願いに引かれてやって来て──そうして『
そうか、とギィが言う。
穏やかな声で、静かに、笑むように。
「疑って悪かった」
いえ、と俺も笑った。
ガイアの願いはようやく叶う。またミリムと一緒に生きられる。
完全な魂がガイアに戻って、本当に良かった。
「これで、『
「そうですね……なくなったと思うと寂しいです」
俺の中にいた『
困った奴だったけど、最初からずっと俺の中にいてくれたし、『風化』は俺の象徴のようなものでもあった。付き合いが長かっただけに、親しみもあったというか…………
《告。報告します》
(ん、ウィズ?)
《
(分けたって何を?)
《解。欠けた魂を汚染していた憎悪及び破壊衝動です。これらの負荷と共に個体名:ガイアの魂が再構築された場合、意思の制御を失う恐れがあります。それは主様の御望みではありません》
(ああ、それは困るわ……じゃあ、ヤバイもんを抜き取ってからガイアに返してくれたってことか、ありがとな。で、抜き取ったやつは?)
《
(何やってんの??)
それを俺にどうしろって言うんだ……?
《解。今後は正真正銘、
え、えぇぇ……?
ガイアを蘇らせるためにと納得していたけど、出来れば、失いたくないに決まっていた。俺がポカンとしているうちに、俺の願いを叶える者はサクサクと作業を進める。
今、ウィズに究極能力『
《告。成功しました。新たに究極能力『
ま、また何か来た……!
これ大丈夫? 災厄のスキルのヤバイ部分が残った感じになってない?
《問題ありません。これまでは個体名:ガイアの残滓が主体となっていたため、究極能力『
(見た目は凶悪なままだな……)
『
あっでも、字面が『
急に黙ってしまった俺に気付き、ギィが俺を呼ぶ。
「おい、どうしたレトラ?」
「……消えてませんでした」
「……あぁ?」
「まだまだ、俺は『風化』の砂らしいですね」
※エジプト神話の……
※決着したため、更新を一時停止します。ここまでありがとうございました。
※7/28追記
『
・エジプト神話の砂嵐の神セト(古代名セテク)
・セトと同一視された異教の神バアル(ベル)
『
・エジプト神話の造物神クヌム
・クヌムの妻で誕生の女神ヘケト