転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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2025.7.28 後書きにスキルに関して追記


149話 混沌竜③

 

 ミリムの竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)が、混沌竜(カオスドラゴン)へと到達して。

 接射状態で"支配の呪弾(ドミニオンブレット)"が俺に着弾──するのを認識したかどうか、くらいの刹那。

 

 加速させていた思考に割り込み、"世界の言葉"は告げた。

 

《──三つの条件が満たされ、究極遺骸(アルティメットレリック)黄金之箱(プロメテウス)』の第三階層までが解放されます。発動させますか? YES/NO?》

 

 これだ、という直感が思考を埋めた。

 箱を開けるかどうかの問いに答える、その前に一つだけ。

 

(『先見之王(プロメテウス)』、お前、何か知ってる?)

《否。私は主様(マスター)の御意思に従います》

 

 じゃあイエスだ。理屈は色々あるが後でいい。この状況で俺の目の前に差し出される、プロメテウスの名の付いた何かが、俺にとって悪いものであるはずがないのだ。

 

 俺の選択の結果を、"世界の言葉"が読み上げる。

 

《確認しました。究極遺骸(アルティメットレリック)黄金之箱(プロメテウス)』の第三階層までをアンロック……成功しました。これにより、"法則理論"、"改変理論"、"生命理論"が解放されました》

 

《──!!》

 

 ウィズが反応した。

 まさしく喉から手が出るほど欲しかった、スキル進化のための理論。

 

《告──主様(マスター)の魂内部に"法則理論"、"改変理論"、"生命理論"の出現を確認──情報取得に成功しました。また、究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』の制御権奪還を確認──『天外空間』へ接続し、因果捕捉及び固定に成功しました。新たに獲得した理論と第一質料を消費し、ユニークスキル『砂創作家(サンドアーティスト)』を進化させます。『自然構想』を実行開始──》

 

 ウィズにとっては理解不能の現象が立て続けに起こっているだろうに、俺の意図を読み切っての流れるような完璧な対応……このテキパキ感、いつ見ても気持ち良いわ。

 

 

 

 さて、ウィズの作業中、五ミリ秒くらいは考える時間がありそうだ。

 今の"世界の言葉"自体は、マサユキ式のスキル獲得構文に似ていた。

 でも、究極遺骸(アルティメットレリック)黄金之箱(プロメテウス)』という謎の何か……原作では個有のスキルに関する考察がされていて、種族固有で遺伝するようなスキルを除き同一スキルは存在せず、同じ名前のスキルであっても性能や法則は別物という解釈だったな。その考えで行くと、究極能力(アルティメットスキル)先見之王(プロメテウス)』とは別物のはず。ウィズも知らなかったみたいだし。

 

 そもそも種類が違う。究極遺骸(アルティメットレリック)なんて原作にはなかった。

 遺骸? 残骸? 残されたもの……それが箱? "世界の言葉"は、『黄金之箱(プロメテウス)』を獲得したとは言わなかった……じゃあ、俺は元々その箱を持っていた? どこにって……魂に? 

 ああ、一つ心当たりがある。俺の魂に存在するという、ウィズでも読み取れない場所──認識不可領域。その箱は俺の魂に隠されて、開かれる時を待っていたのか? 

 

 その箱が一体いつどうやって俺に渡されたかは、まだわからない。だが、誰がやったのかはわかる。以前の俺とウィズで確定だろう。スキル進化用の理論なんて、今ここにそれが足りないことを知っていた奴が用意したものでなければ説明が付かない。

 箱の中身はこれで全部? 完全解放とは言われなかったし、まだ何か入ってるかも……今回の件からすると、解除条件はかなりシビアな気がしなくもないけど…………

 

『……レトラ!』

 

 不意に届いた思念。

 

『レトラ、聞こえるか……!?』

 

 そうか、改変された出来事以外はフラッシュバックの通りなら──

 

『リムル!』

『っ……レトラ!? 聞こえるのか!? 大丈夫かお前!?』

 

 あれ? 

 俺の思念がリムルに届いてる……? 

 さっき見た俺はもっと辛そうで、返事も出来なかったくらいなのに。確かに竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)混沌竜(カオスドラゴン)のぶつかり合いは凄まじく、俺にも押し潰されるような重圧が来てるけど……もしかしてさっきの俺って、俺より弱い? 今の俺より、色々足りない部分があったのか……? 

 

『レトラ! おい……! まだ喰われてないんだな!? 状況は把握してるか!?』

『わかってる! 混沌竜(カオスドラゴン)の魂を元に戻そうって──』

『言っとくがお前、わざと混沌竜(カオスドラゴン)に喰われようとか考えるんじゃないぞ?』

『考エテナイヨ?』

 

 もう、だけど。考えてないです。

 冷えた視線を浴びたような錯覚は無視して、『先見之王(プロメテウス)』が手術の準備に動いていることを手短に伝える。リムルの気配がホッと緩んで、そして、再び強張った。

 

『ミリムの竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)が来るぞ……! 頼む、耐えろよ……カリュブディスの時みたいに上手く行けばいいが、今回は『絶対防御』じゃ防げるかわからないし、俺の『捕食』も使えない──』

 

 その言い方で気付いた。これ、俺とガイアが混ざってると『捕食無効』が邪魔になるんだな……? だから前のリムルは原作と違って、ガイアの魂を守ってやることが出来なかったのか……俺、ちょっと疫病神すぎるだろ。

 ミリムとリムルにとっては、最後の手段だったんだろう。圧倒的な破壊力で混沌竜(カオスドラゴン)を滅ぼすしか、俺達を分離させる方法がなくて──それが、あの結果を招いた。あれは駄目だ。あんなもの望んでいない。だからこそ、俺はあのフラッシュバックを見たのだ。

 

『大丈夫! ちゃんとやる! ミリムに伝えてくれ、俺も混沌竜(カオスドラゴン)も助かるから……!』

『……わかったよ! 絶対に消えるなよ! いいな!』

 

 そう言い残し、リムルの気配が離れた。

 俺の予定では、竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)の両方で『能力殺封(アンチスキル)』を突破するつもりだった。最初のチャンスで『旱魃之王(ヴリトラ)』を奪い返し『砂創作家(サンドアーティスト)』を進化させ、次で進化させたそれを実行する。『能力殺封(アンチスキル)』は究極能力でも弾くからな……ミリムの魔法の威力を借りないことには安心出来ないし、一気に押し切ってしまいたい。

 

 大丈夫、大丈夫だ、俺が見た未来よりも条件は遥かに良い。俺に出来るのは、必ず成功すると信じてそれを貫き通すことだった。俺の知るリムルのように。

 直後、頭に響いたのはウィズの声。

 

《告。主様(マスター)、御待たせ致しました。ユニークスキル『砂創作家(サンドアーティスト)』は──究極能力『真砂之王(クヌム・ヘケト)』に進化しました》

 

 来た! 究極能力(アルティメットスキル)……! 

 俺の期待を裏切らない完璧な成果。これは、執念の結晶だ。以前の俺達では届かなかった、あるべき未来へと託された、二人分以上の魂の重みを持つスキル。

 

(ウィズ! やれるな!?)

《是。主様(マスター)の魂から混沌竜(カオスドラゴン)の魂を分離させ、魂の回帰を実行します。尚、究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』は混沌竜(カオスドラゴン)へと還元されるため、主様(マスター)の魂から消失しますがよろしいですか?》

(それでもいい! 絶対に、子竜の魂を無事に蘇らせろ!)

《了。主様(マスター)の御望みを確認しました》

 

 ミリムの纏う妖気が、爆発的に膨れ上がる。

 

竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)──ッッ!」

 

 超新星の爆発。

 全てを破壊する星の輝き。

 混沌竜(カオスドラゴン)の精神体が、星幽体が、砕け散る。

 

《告。究極能力『真砂之王(クヌム・ヘケト)』を起動──『万物創生』『原質操作』『真理奇想』『生命駆動』を実行開始します》

 

 俺の身体も精神体も砕けて、魂を掴まれるような圧迫感があった。

 これは、ウィズの手術が始まったという合図だ。『能力殺封(アンチスキル)』をブチ破ってくれたミリムの魔法が俺達を消し去ってしまうまでの短い時間が勝負だが、不安はない。

 

 ウィズを邪魔しちゃ悪いから、せめて静かにしていよう。

 白い光に焼かれながら、そっと意識を閉じた。

 

 

 

 

 

 俺は、奇妙な白い空間にいた。

 

 ここは……どこだ? 

 俺は何して……、いた、い? 身体中が痛い……? 

 強烈な痛みに全身を縫い付けられたようで、伏せた身体は全く動かない。べちゃりと湿った頭。虫の息の呼吸。折れた腕と剥がれた爪。柔らかく潰れた腹。

 そうだ、この痛み……俺はきっと、死んだ時のことを思い出しているのだ。周りは山でも崖でもなくただ真っ白な空間で、倒れた身体はレトラのまま。ここは俺の精神世界か何かで、最も印象に残っていた死ぬほどの痛みが再現されてしまっているのだろう。

 痛いし、苦しい。

 

 ──キュイ

 

 微かな鳴き声が聞こえた。

 小さな竜が、倒れ伏す俺を覗き込んでいる。

 ……ガイア? なんで? 

 

 ガイアは俺に顔を寄せ、ぺろ、と頬を舐めた。

 心配してくれるのか、優しいな。

 大丈夫だよ。俺はこうやって死んだけど、痛いのも苦しいのもそんなに長くは続かなかった。あの時、もう死ぬんだとわかって、喉が渇いて渇いて、俺は──

 

 ふと、記憶の底から浮かび上がってきたそれ。

 思わず目だけ動かして、小首を傾げるつぶらな瞳を見返した。

 

(……もしかして、お前も同じだった?)

 

 キュイ、と声が答えた。

 

 ああ、何だ、そうか。

 そうだったのか。俺達は──

 

 

 

 

 

 気付けば、砂漠の中に倒れていた。

 混沌竜(カオスドラゴン)の体内にいたとは言え、竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)の直撃を喰らったのだ。俺の精神体も引き裂かれ──たのは確かだが、依代は全身綺麗に作り直されていた。心核は完璧に守られていて負ったダメージも修復済みで、俺が見たやつとかなり違うな…………

 

「……レトラ! ……レトラ……!」

 

 俺を呼ぶ声。ミリムだった。

 目を開けると、ぼんやりした視界の中に、傍らに蹲ったミリムの泣き笑いの顔が映る。五体満足の身体を起こすと、ミリムが勢い良く抱き付いてきた。

 

「レトラ……! 良かったのだ……!」

 

 そこに含まれた感情は、決して、手放しの安堵や喜びだけではなかった。

 当たり前だ。まだガイアの無事を確認出来てないんだから。

 

「ミリム、ほら……子竜の魂だ」

「"擬似魂(ギジコン)"なのだ……!」

 

 俺の手には"擬似魂(ギジコン)"が握られていた。

 以前リムルを手伝って『創造再現』したことがあるとは言え、何も指示してないのにガイアの魂をきちんと器に保護してくれたウィズの仕事が完璧すぎる。

 

 しんとして、何の反応も見せない魂の器。

 傍に立っていたリムルが、子竜に名前はないのかとミリムに問い掛けて──

 

「ガイアだ! いつか、そう呼んでやろうと思っていた……この者の名は、ガイアなのだ!」

 

 呼応するように"擬似魂(ギジコン)"に淡い光が灯った。成功だ。

 それを見届け、俺はガイアの宿った"擬似魂(ギジコン)"をリムルに差し出す。リムルはしっかりと頷き、続く作業を引き受けてくれた。

 

「レトラ、ありがとう……ありがとうなのだ……」

 

 ミリムは安堵してすっかり力が抜けてしまったようだ。

 今度こそ心から笑ってくれていることを確認し、俺も安心する。

 

 あ、そうそう。ついでに。

 両手を持ち上げ、ミリムの頬を包み込んだ。

 えっ、と動きを止めたミリムに顔を近付けて──じっと見つめる。

 

「良かった、綺麗だな」

「な……何がだ……?」

 

 目だよ、と言ってみたけどわからないよな。笑って手を離す。

 赤い頬を膨らませたミリムが何のことだと俺に詰め寄ろうとして……そこでリムルに呼ばれたため、慌てて立ち上がって行ってしまった。

 

 "擬似魂(ギジコン)"を"魔精核(マスターコア)"で包み込む作業が終わったようだ。卵に姿を変えたガイアを抱え、涙目になって喜んだミリムがリムルに抱き付いている。

 俺は砂の上に座り込んだまま、その微笑ましい光景を眺める。良い気分だった。

 そして、少し後ろに立っていたもう一人に声を掛ける。

 

「……ギィさん」

「あ?」

「俺の……俺達の願いを、思い出しましたよ」

「何だ?」

 

 殺害され、魂の欠片となって零れ落ちた子竜と。

 山中で息を引き取った、前世の俺。

 

「"まだ生きていたかった"──」

 

 生への渇望。

 死の淵で俺達が願ったのは、破壊じゃなかった。

 もう助からないとわかっても、元に戻れないことを理解しても、まだ生きていたかった。俺達は、決して叶うことのない願いに手を伸ばした者同士だったのだ。

 

 届かない願いを求め、渇いて、渇いて──気の狂いそうな渇望の中、欠けた魂は憎悪に汚染され、破壊衝動が『渇望者(カワクモノ)』の権能として発現した。満たされない望みのためにこの世を憎み、宿主の精神を侵しては、全ての存在を破壊し続ける者として。

 

 そして俺が藤馬泉だった頃。崖から落ちて、重傷を負って、助からないことを悟ったあの時。俺は途中だったのだ。生きて行くつもりだった。いつか、よくやったって思える日が来るだけで良かったのに、それも出来ずに終わってしまうことが辛かった。

 

 まだ生きていたかった、と。

 同じ渇望を抱えながら息絶えた魂が、願いに引かれてやって来て──そうして『渇望者(カワクモノ)』は俺に宿ったのだろう。

 

 そうか、とギィが言う。

 穏やかな声で、静かに、笑むように。

 

「疑って悪かった」

 

 いえ、と俺も笑った。

 ガイアの願いはようやく叶う。またミリムと一緒に生きられる。

 完全な魂がガイアに戻って、本当に良かった。

 

「これで、『渇望者(カワクモノ)』は消えちまったんだな」

「そうですね……なくなったと思うと寂しいです」

 

 俺の中にいた『渇望者(カワクモノ)』──『旱魃之王(ヴリトラ)』は、もういなくなっていた。ガイアの欠片を返したことで、スキルとして存在することが出来なくなってしまったのだ。

 困った奴だったけど、最初からずっと俺の中にいてくれたし、『風化』は俺の象徴のようなものでもあった。付き合いが長かっただけに、親しみもあったというか…………

 

《告。報告します》

(ん、ウィズ?)

主様(マスター)の魂から究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』を分離させる際、混沌竜(カオスドラゴン)──個体名:ガイアの魂の回帰において障害となる要素も、同様に分離させました》

(分けたって何を?)

《解。欠けた魂を汚染していた憎悪及び破壊衝動です。これらの負荷と共に個体名:ガイアの魂が再構築された場合、意思の制御を失う恐れがあります。それは主様の御望みではありません》

(ああ、それは困るわ……じゃあ、ヤバイもんを抜き取ってからガイアに返してくれたってことか、ありがとな。で、抜き取ったやつは?)

主様(マスター)の魂に残してあります》

(何やってんの??)

 

 それを俺にどうしろって言うんだ……? 

 

《解。今後は正真正銘、主様(マスター)自身が当該のスキルの所有者となります。取得済みの『旱魃之王(ヴリトラ)』の構成情報を元に、スキルの再構築を行います。因果捕捉及び固定済みの『天外空間』の第一質料を消費し、究極能力『真砂之王(クヌム・ヘケト)』を実行開始──》

 

 え、えぇぇ……? 

 ガイアを蘇らせるためにと納得していたけど、出来れば、失いたくないに決まっていた。俺がポカンとしているうちに、俺の願いを叶える者はサクサクと作業を進める。

 今、ウィズに究極能力『真砂之王(クヌム・ヘケト)』の実行権限を全て譲渡してるからこうなってるんだけど、それにしたって自由な先生だな…………

 

《告。成功しました。新たに究極能力『暴嵐之王(ベルセテク)』を獲得しました》

 

 ま、また何か来た……! 

 これ大丈夫? 災厄のスキルのヤバイ部分が残った感じになってない? 

 

《問題ありません。これまでは個体名:ガイアの残滓が主体となっていたため、究極能力『旱魃之王(ヴリトラ)』にはその性質が色濃く出ていましたが、究極能力『暴嵐之王(ベルセテク)』は『旱魃之王(ヴリトラ)』の構成情報を引き継いだ上、主様(マスター)の魂が反映されたスキルなのですから》

(見た目は凶悪なままだな……)

 

暴嵐之王(ベルセテク)』……? これは俺っぽいのか……? 

 あっでも、字面が『暴風之王(ヴェルドラ)』や『暴食之王(ベルゼビュート)』に似てるかもしれない。俺を反映したってそういうこと……? 

 

 急に黙ってしまった俺に気付き、ギィが俺を呼ぶ。

 

「おい、どうしたレトラ?」

「……消えてませんでした」

「……あぁ?」

 

 

「まだまだ、俺は『風化』の砂らしいですね」

 

 

 

 

 




※エジプト神話の……
※決着したため、更新を一時停止します。ここまでありがとうございました。

※7/28追記
暴嵐之王(ベルセテク)
・エジプト神話の砂嵐の神セト(古代名セテク)
・セトと同一視された異教の神バアル(ベル)

真砂之王(クヌム・ヘケト)
・エジプト神話の造物神クヌム
・クヌムの妻で誕生の女神ヘケト


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