転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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※今話以降、漫画版30巻より先のネタバレを含みます注意


153話 日常のち葛藤

 

 ガイアを新メンバーに加え、"死を齎す迷宮の意思(ダンジョン・ドミネーター)"は更に強化された。

 俺の仔竜(ドラゴンパピー)や、ミリムのスライムとの連携も日に日に磨きが掛かり、俺達のパーティは一週間もしないうちに、五十階層のゴズールを撃破する快挙を成し遂げる。

 しかし──突然、平和な時間は終わりを告げた。

 ガイアが生まれるまでという約束だったのに一向に帰って来ないミリムに痺れを切らせたフレイが、とうとう魔国へやって来たのだ! 

 

「リムル様、レトラ様。ミリムの大切なお友達のガイアを、どうぞよろしくお願い致しますね」

「ワタシはまた戻ってくる! 戻ってくるのだー……!」

 

 というわけでミリムが家に連れ戻されてしまったため、フルメンバーで暴れ回ることは出来なくなって…………前にもあったなコレ。

 俺達もそろそろ仕事しようか、と仮魔体(アバター)自動行動(オートモード)にしてガイアと一緒に行動させ、リムルと俺は政務に、ヴェルドラとラミリスは研究に戻るのだった。

 

 

 

 アムリタでの事件から、既に一ヶ月以上が経っている。シルトロッゾとの交渉も済んだし、評議会では西方聖教会の後押しもあり、魔国連邦(テンペスト)派が最大派閥となった。

 そんな俺達が今抱えている問題は──……

 

「議員として誰を選出するか、だ」

 

 幹部会議でのリムルの発言に、皆がシン……と静まり返る。

 ウチは深刻な人手不足で、優秀な内政官のリグルドやシュナ、ゴブリンの長老達が議員になると国の業務が滞ってしまう。ソウエイ、ゲルド、ガビルも各部門の仕事で難しい。ベニマルは手が空いてそうだけど、腹の探り合いは苦手だと辞退してしまったし。

 うーん……と俺は考えた。もうすぐテスタロッサ(仮)という完璧な人材が来るから、解決する話ではある。でも交代することを前提に、それまで俺が担当するのはアリでは? 

 

「適任者が決まるまでなら、俺がやっても」

「駄目だ」

「駄目です」

「駄目ですよ」

 

 猛反対の嵐に遭った。

 リムルとシュナとベニマル──この前の評議会に出席した面々だ。

 

「もう忘れたのか? お前、人質に取られるところだったんだぞ?」

「そうですわ。レトラ様は忍耐強く献身的な御方ですから……もしも魔国のためにとそれを了承してしまうようなことがあったら……」

「その時は連中を灰にしてお迎えに上がりますが、それは良くないんですよね?」

「良くないけど、評議会ってそんな魔窟じゃないから!」

 

 あの非常識な要求は、議員達が精神操作されてた所為なのに……

 では私が! と立候補したシオンに、リムルは溜息を吐いた。

 

「シオン、問題だ。仮にお前が議員だったとして……スケベそうなオッサン議員がお前の肩に手を置きました。どうする?」

「決まっています! 有無を言わさず、打つべし、打つべし──!」

「却下だ! 打つべし、じゃねーよ!」

 

 シオンにダメ出ししたリムルは、じゃあ次レトラ、と。

 俺ならどうするか……まず、触られたくないな。ウィズの『未来予見』で備えといてもらって、害意を感知したら『夢現者(マドロムモノ)』で思考誘導して、触るのをやめさせるとか……? 

 

「問題。評議会場で、お前にセクハラした議員が死にました。どうする?」

「問題文で死人が出てる!」

 

 誰が殺した! リムルか! 何でついて来てんだ! ……とは言え、仮の話にケチを付けても仕方ないので対処法を考える。

 究極能力『真砂之王(クヌム・ヘケト)』の『生命駆動』では、"魂と器を結び付ける"……いわゆる死者蘇生(リザレクション)が可能となっていた。魂が拡散してしまえば蘇生不能なのは今まで通りだが、"魂を存続させる"という権能で、情報子の集合体である"心核"の保護が可能らしい。

 

「た、魂が消滅しないようにして蘇生する……国際問題になるから、本人と目撃者の記憶を消して…………何これ? 犯罪隠蔽ケーススタディ?」

「本当に万能な奴だな…………だけどな、お前にそんな面倒は掛けたくないんだよ」

「殺さなければ済む話だよね?」

 

 そしてこの『生命駆動』は、混沌竜(カオスドラゴン)の手術にも必須だった。魂の情報は全て"心核"に刻まれており、情報子に欠損が出てしまうと自我や記憶の喪失、あるいは魂の崩壊を招く危険性があったのだ。

 同化が進んだ俺と『旱魃之王(ヴリトラ)』と混沌竜(カオスドラゴン)の魂を、一片も損なわずに分離させ再構成を行う──なんてメチャクチャな手術を成功させられたのは、『生命駆動』による心核の保護があったから、というのがウィズの説明だった。すごいね。

 

 話が逸れたが、皆が心配するなら議員はやめておこう。やけにリムルが過激な気がするけど、いや、皆もこのくらい過激だったような気もするし…………

 まあ外交武官という格好良い役職は、テスタロッサの方が似合ってるからな! それからウルティマ(仮)の検事総長と、カレラ(仮)の最高裁判所長官! めっちゃ見たい! 

 ディアブロ、早く帰って来ないかな? まだかな? 

 まだだな。

 

 

 

 ある日はリムルに連れられて、クロベエの工房へ。

 そこでは魔法武具(マジックウェポン)の研究報告を受けた。魔鋼製の武器の孔に属性を持つ魔玉(コア)を嵌め込むと、ただの剣が魔法剣へ変わるという、マテリア的なシステムである。

 俺としては<刻印魔法>でもっと様々な効果を持たせた魔玉(コア)を用意すれば面白いんじゃないかと思ったが、組み合わせが複雑化すると危険も倍増するので保留となった。

 

「ところでクロベエ、俺の刀のことで相談なんだが……」

 

 リムルが『胃袋』から取り出した直刀を抜き、魔力を流す。すると、真っ黒で格好良かった刀身が、虹色に格好良く光り出したのだ! 

 

「こ、これは……伝説の神鋼、究極の金属(ヒヒイロカネ)だべ……!?」

「ヒヒイロカネ……!?」

 

 ゲームでたまに見るアレだよな、とリムルと目配せし合う。

 神輝金鋼(オリハルコン)を超える伝説の金属……ちょっと羨ましくなった俺は、ウィズに話を振ってみた。

 

(じゃあ、俺の剣だとどうなるかな?)

《解。主様(マスター)麗剣(ドレスソード)は『砂憑依』を併用して顕現するため、金属としては生体魔鋼(アダマンタイト)に当たります。仮称するならば砂幻魔鋼(サンディタイト)でしょう》

(オリジナル過ぎて価値がわからない)

 

 クロベエの見立てでは、リムルの刀は伝説級(レジェンド)の上位に位置するらしい。しかも今後は神話級(ゴッズ)にも至る見込みだと──刀工として興奮が抑え切れないようで、早口だった。

 俺も「格好良い……!」としか言わない生き物になっているので、お互い様だけど。

 

「神話に語られるヒヒイロカネは、永久不変の属性を持つ金属だべ……つまりは『破壊不能』……この刀は成長するとは言っただが、まさかここまで……!」

「『破壊不能』…………」

 

 美しい虹色に見惚れるようにボーッとしていたリムルが、俺を見た。

 

「レトラ。お前、ヒヒイロカネ要るか?」

「え?」

「要るなら『風化』で溶かしていいぞ」

「いや!? いいよ、リムルの大事な刀だろ!?」

 

 そんな貴重なものまでくれるとか、また俺を甘やかす気か! それに『破壊不能』って言ったじゃん……溶かせたら溶かせたで問題な気もするし……

 

「い、いくらレトラ様でも……そんなこと出来るんだべか?」

「これも実験だな。壊れても魔力で修復出来るって言うし、いざって時に慌てないよう試しておくのも悪くないだろ。それともレトラ、この刀を溶かすのは無理そうか?」

 

(……ウィズ、どう思う?)

《解。『風化』可能です》

(『破壊不能』はどうしたんだよ!?)

《解。神鋼:究極の金属(ヒヒイロカネ)の『破壊不能』は耐性として機能しますが、主様(マスター)の『風化』は特殊法則による強制的な存在変換であり、完全抵抗(フルレジスト)には不充分です。捕捉及び発動に対して妨害を受けると『風化』が不発に終わる可能性がありますが、この場合には該当しません》

 

 ウィズによれば、溶かす前にこっちが壊されるような──例えばミリムの魔剣"天魔"は無理だろうとのこと。もしかして素材がどうこうじゃなくて、存在値が関係してる……? 

 ああ、竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)を『風化』出来たのも同じ理屈かな? 俺単体なら『風化』する前に消し飛んでたけど、混沌竜(カオスドラゴン)が俺の『風化』を使ったことで叶った奇跡というか。

 

 で、やってみろとリムルが退かないので、虹色に輝く刀の腹にそっと手を当てて『万象衰滅』。少し硬めだったけど、刃先が砂になったのでそれだけ貰ってシュッと手を引っ込めた。

 リムルは欠けた刀を見つめて呟く。

 

「…………これも溶かせるんだな」

 

 あ、最近よく見るドン引きの顔。

 だったら溶かしていいとか言わないで欲しい! ヒヒイロカネありがとう! 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 うん、レトラは駄目だ。封印は無理だな。

 あいつの砂は尽きないし、超絶的な大魔法もあり、俺の刀まで溶かせる。打つ手無しもいいとこだ。

 レトラにヒヒイロカネをやったことは後悔していない。俺の都合でレトラの強化を妨げて、あいつに何かあった日には俺は死んでも死に切れない……兄としての矜持である。

 

《告。個体名:レトラ=テンペストの封印を見送る場合──現状における最大の問題点である、両者間の情報共有の不足を解決すべきと考えます》

(……ちゃんと伝えろ、ってやつか)

 

 レトラとガイアのやり取りは、見事に俺の精神を抉った。痛かった。

 いや、しかし、言えるわけないだろ……「お前を失いたくないから俺の胃袋に入ってくれ」? これで承諾するヤツがいたら俺がお目に掛かりたいし、そいつは気が狂っている。

 

《否。そうではありません。個体名:レトラ=テンペストの封印方法は今後も検討を続けますので、我々の意図には気付かれないよう留意して下さい》

(そこは隠すんだな……じゃあ、どうしろって言うんだ?)

《同個体は『思念伝達』の妨害が私によるものと気付いた上で、私の意思を許容しました。そうすることが当然のように》

 

 それは聞いた。レトラは、智慧之王(ラファエル)から妨害を受けたことを俺に言わなかった。ラファエルが罪を告白してくれなければ、俺は知らないままだっただろう。

 レトラに許されてしまったことは、ラファエルにも予想外だったそうだ。

 

《告。個体名:レトラ=テンペストは、障害となった私にさえ対話を望み、許容し、協力を求めるほど外向的でありながら、己の内を晒さず単独行動を好む秘密主義者です。矛盾を孕んだ思考の理解は困難と判断し、隔離を最善の手段としましたが──》

 

 一応、わかりにくいが一応、智慧之王(ラファエル)はレトラを心配しているのだろう。

 レトラは万能型の優等生だが、時々とんでもないことをやらかすし、いざって時の思い切りが良すぎてこっちの寿命が縮まるし……問題児じゃねーか。大人しくしててくれと切実に願ったことなら、ラファエルにも数多くあったのかもしれない。

 

《どうか、充分な意思疎通を。同個体は主様(マスター)との対話を拒むことはないでしょう》

 

 もうレトラが無茶をせずに済むように。あいつの考えを理解してやれるように。だが、意思疎通のためには互いを知る必要があると、俺は人生経験から学んでいる。

 だったら、あいつに言えないことがある俺には荷が重いんじゃないかな、先生。

 

 

 

 

 日々仕事に打ち込みながら、俺はレトラの様子を観察した。

 ゲルドが働いているユーラザニア跡地への視察に誘うと、レトラは喜んでついて来た。そこでは早くも天空都市の基礎工事が完了しており、聳え立つ支柱が凄まじい威容を誇っている。ゲルドの顔は晴れやかで、反抗的な捕虜達との関係も改善したようだ。

 

「以前リムル様にお言葉を賜ってから、オレなりに考え……相手の考えを知ることから始めようと、不平不満を聞いて回ったのです。彼らは自分達の処遇に怯えていたようで」

「それでちゃんと話し合って、打ち解けられたんだ? 話すのって大事だよね」

「よくやってくれたゲルド。自分の言葉でぶつかったお陰で、信用して貰えたんだな」

 

 俺自身はどうなるかわからなくて辛いが、正直な気持ちでゲルドを称賛する。

 レトラはいつものように、キラキラと笑っていた。

 

 

 迷宮の九十五階層には、重要な研究所をいくつか移している。特にカイジンとベスターの"精霊魔導核"の研究チームには、ドワルゴン、サリオン、ルベリオスから各分野のエキスパート達、そしてラミリスとヴェルドラも加わり、ついに"魔導列車"の試作機が完成した。

 

「一つ目列車カッコイイな……カリュブディスみたい」

「なあレトラ。町外れにあるお前の畑、こっちに移さないか? ガビル達の研究所も封印の洞窟から移ったし、作物の成長比較なら迷宮の方がやりやすいと思うんだが」

「そうかも……九十三階の花畑のとこだよね? じゃ、研究棟も全部移して欲しい!」

「おう、ラミリスに言っとくよ」

 

 町に誘拐スポットは不要なので撲滅しておくに限る。

 レトラは気付かず、キラキラと笑っていた。

 

 

 ある日は八星魔王(オクタグラム)の一柱、"眠る支配者(スリーピング・ルーラー)"ディーノがやって来た。

 ギィからの紹介状だというソレには「面倒を見てやってくれ」と書かれており、働かないニートを押し付けられたわけだ。いいやダメだね、働いて貰う。ラミリスが助手を欲しがっていたし、確かコイツと仲が良かったはずなので、研究所へ連れて行こう。

 

「魔王ディーノ様、お久しぶりです。レトラ=テンペストです」

「おーレトラか。ギィからお前の様子も見るよう言われててさあ……これからここで世話になるんだし、もっと気楽にしてくれよ」

「わかった、ディーノがそう言うなら! よろしく!」

「変わり身早ッ……え、待ち構えてた? 俺騙された? なあ?」

 

 どうやら奴はギィが寄越したスパイのようだ。要注意だな。

 レトラは気にせず、キラキラと笑っていた。

 

 

 更にある日はヴェルドラの頼みで、俺の『胃袋』にいたイフリート(知らなかった)を復活させた。いつの間にか友情を育んでいたらしい。シズさんを苦しめた存在への複雑な思いはあったが──イフリートは以前と違って自我も芽生え、過去を悔いていた。

 

「私とシズは互いに相反する気持ちを持ち、決して交じり合うことが出来なかった……もっと違った道もあったのではないかと、そう悔やまずにはいられないのです」

 

 そして今では魔王レオンよりも、ヴェルドラに忠誠を誓いたいとのこと。どこか苦労人の気配もするが、振り回されているうちに変化があったに違いない。ところで変化と言えば、何故かイフリートにバイーンとした……大きな胸が付いて……何で女性型なんだ?? 

 どうやら、受肉の際にヴェルドラがそう誘導したらしい。まあ、改めてヴェルドラから"カリス"と名付けられたイフリートは、炎の精魔霊王(フレイムロード)に進化して男性型へと戻ったのだが。

 

「せっかく我がよかれと思って美しくしてやったのに……つまらんな」

「ヴェルドラ様よりも私の願望が勝り、安堵しております」

「あっ、前に見たイフリートだ! 俺、こっちの方が好き!」

「レトラ様、それは……恐縮です…………」

 

 カリスが戸惑うのも当然の、俺から見ても異様な懐き方である。

 レトラはやはり、キラキラと笑っていた。

 

 

 

 

 いやあいつ、本当にいつでも幸せそうだな? 

 

 

 

 

 

 

 

 智慧之王(ラファエル)は"封印"や"隔離"と表現するが、俺にしてみれば"捕食"だ。きっとこれが、捕食者(クラウモノ)である俺の本性なのだろう。

 レトラを喰って閉じ込めてしまいたい。誰にも触れられないよう、俺の中にずっと。

 それが無理なら、せめて魔国から出さずに閉じ込めておきたい。

 それも確実ではないなら、もう少しマシな。俺が安心出来るような、擬似的にでもこの欲求を満たせるような、レトラを閉じ込める方法が──……

 

「リムルさあ……なんか、疲れてる?」

 

 とある夜、執務館の俺の部屋で。

 今日も多少の業務を交えて雑談した後、部屋を出ようとしていたレトラが振り返る。俺を見つめる琥珀の瞳には、確信めいた色が見えた。

 

「もしかして俺の所為?」

「……何言ってんだよ。そんなわけないだろ」

 

 レトラが原因なのは確かだが、決してレトラの所為ではない。

 お前は本当に誰でも好きなんだなとか、俺にじゃなくてもキラキラするんだよなとか、どうすれば俺から離れて行かないんだろうとか、そんなことばかり考えている俺の所為だ。

 

「うーん……じゃあさ、俺に手伝えることある?」

「いや……いいよ、大丈夫だ」

 

 お前が居てくれればそれでいいよ。出来ればずっと。一生なら尚更嬉しい。

 やはり言えない。これでレトラに引かれたり、避けられるようになったら俺は死ぬぞ。

 ただ、何でも手伝いたがるお子様はお気に召さなかったようで、ムッと眉が寄せられる。機嫌を損ねるつもりではなかった俺は、まずい、と取り繕うように口を開くと、

 

「……じゃ、少しだけハグさせてくれ」

 

 言ってしまった。ここ最近、何かマシな方法はないかと悩みに悩んで、やっと思い付いた代替案で、いやレトラにどう頼む気なんだ? と廃案にしたはずの。

 一度は「何だそれ」的な顔をしたレトラが、持ち前の心の広さで「いいよ」と頷いてしまったことに頭が痛くなる。拒否を知らないのかお前は? 

 

「おい、何も考えないでOKするんじゃない」

「誰にでもしないよ……リムルなんだからいいだろ別に」

 

 嘘吐け、断る相手の方が少ない癖に。俺は知ってるんだからな。

 リムルだからという魔性の言葉が嬉しくもあるし、恨めしくもある。レトラに許容されていることがむず痒くて、だが同時に申し訳なくて、心の置き場がわからない。

 

 お前が許すから悪いんだぞと、内心で言い掛かりを付けながら腕を引く。

 苦肉の策の代替案だ。体格差がほぼないので、閉じ込める──とまではいかないが、レトラは大人しく俺に抱きしめられてくれた。そっと回された手が、背を撫でる。

 

「リムル、苦しい時は、ふ──……って息吐くといいよ」

 

 俺達は呼吸を必要としないが、レトラを真似て長く息を吐き出し、繰り返す。

 少しの間無言が続き、確実に一分は経った後。

 

「楽になった?」

「ああ……まあな。ありがとう」

 

 頬に触れるレトラの髪から、ふんわりと熱を感じる。

 温められた砂のぬくもり。太陽のような香りに心が落ち着く。これが砂セラピーか。

 そうだな、俺の心をグチャグチャに乱すのも、それを鎮めてくれるのもどうせお前なんだから……そう思えば、これはこれで悪くないのかもしれない。

 抵抗しないレトラを抱きしめたまましばらく経って、ようやく腕の中の細身がもぞもぞ動く。どうした? と尋ねると、レトラは俺を押してぎこちなく身体を離し。

 

「これ、ちょっと照れる……」

 

 困ったように首を傾げ、少しはにかんだ顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

「俺の弟が……尊くて死ぬ…………」

「いつものリムルっぽい」

 

 お前が可愛すぎるのが悪いんだろうが! 

 とは言えず、俺は無事に死んだ。

 

 

 

 

 

 

 




※"捕食欲求"は一旦解決し、次回は三人娘です
※ディーノやカリスはまたいずれ



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