転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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02話 砂スキル

 落ちている石を砂に変えて取り込み、ずりずりと戻ってくる。

『砂憑依』や『渇望者(カワクモノ)』といったスキルを使って得られる砂は、全て明るい色のサラサラ砂だ。元が黒やまだら模様の岩石であっても、南国のビーチかよって綺麗な砂に変わっている。

 

 動けないヴェルドラの前には砂山が出来ていて、集めてきた砂を『砂憑依』の『分離』で切り離すと、砂が追加された山はまた少し大きくなった。まあ俺の巣みたいなもんだな。

 身軽になった俺は砂山に登り、頂上に座って胸を張るようにヴェルドラを見上げた。

 

(どうだヴェルドラ! 今日も結構な収穫だろ)

(うむ、随分と集めたものだな。今にこの洞窟全てを砂にしてしまうのではないか?)

(言い過ぎだろ……これっぽっちの砂なんか、ヴェルドラが一吹きしたら飛んでくよ)

(何を言う、お前が必死に集めた砂を、我が消し飛ばしたりなどするものか!)

(うん、ごめん、でもヴェルドラは俺にデレすぎだと思うんだ……)

《呟。エクストラスキル『砂操作』が使用可能です》

(それはわかってるから)

 

 勝手に喋る俺の先生(らしきもの)は、恐らく周囲の状況把握は出来るが、声というか思念というか……何も聞こえていないんだと思う。喋り出すタイミングがおかしいのはその所為だろう。

 今言われた『砂操作』は、俺の魔素で砂を自由に動かすことが出来るスキルだ。砂の魔物っぽいスキルなので俺としては満足している。まだ砂山の形を綺麗にするくらいしか使えないけど、練習を続けてみようと思う。

 

《呟。ユニークスキル『渇望者(カワクモノ)』が使用可能です》

 

 ……ん? それは何、どういうこと? 

 ここにあるのはもう全部砂なんだけど、石を砂に変える以外にも何か出来ることがあるのか? 

 聞こえていないだろう相手に呼び掛けてしまうが、当然返事はない。

 

(おい、今は我と話しているのだぞ)

(あ、ごめんヴェルドラ。でも自分のスキルについて、よくわからないってのは不便だな)

(スキル獲得時に、"世界の言葉"を聞かなかったのか?)

 

 俺がまだ藤馬泉だった最期の時、崖から転げ落ちて死んだ時ってことだよな……

 朦朧としてたのか、あまりよく覚えていなかった。痛かったしもう嫌だと思ったし、何か声が聞こえたような記憶はあるんだけど……

 

(まあ、聞いていたならそのうち思い出すかもしれんぞ)

(そうだといいな。今はとりあえず、やれるだけやってみるよ)

 

 俺の先生的な何かは、この砂山に対して『渇望者(カワクモノ)』が使用可能、という感じで言っていたはずだ。どんな効果が出るかわからないけど……とにかく、スキルを使用…………

 ぼしゅん、と俺が座っていた砂山が消えた。

 椅子がなくなり、俺の身体はさしゃあああ……と地面へ零れ落ちる。

 

《呟。ユニークスキル『渇望者(カワクモノ)』を使用、『吸収』に成功しました》

 

 吸収って!? 説明が足りない、もっと詳しく教えて欲しい。

 待てよ、俺は砂妖魔(サンドマン)……砂の魔物なら、砂を溜め込んでおけるのか? リムルのような四次元ポケット的胃袋を持ってるとかで……誰か教えて。『大賢者』先生、俺にも来て。

 うーん、もしリムル方式だとすると、吸収した砂は出せるってことにならないか? 

 やってみるか、集中して……砂を出す感じ……? 

 どさどさっ、と真上あたりの空間から大量の砂が降ってきて、俺は埋まる。

 

《呟。ユニークスキル『渇望者(カワクモノ)』を使用、『放出』に成功しました》

 

(やった、またスキルの使い方覚えた! ヴェルドラ見てた!?)

(やはり我に似て探究心旺盛のようだな! 将来が実に楽しみだ!)

 

 俺の学習スピードはなかなかだと思うんだけど、ヴェルドラの親バカっぷりがその上を行く速度でエスカレートしている。今まで一人でよっぽど寂しかったんだな……

 というわけで、俺には砂の出し入れも出来ることがわかった。後の調べによると石のままでは『吸収』出来ず、一度『風化』で砂にする必要があるらしい。砂の魔物である以上、対象は砂なんだろうな。

 

 

 

 

(クァーッハッハッハ……!)

(うぐ……ヴェルドラ、そんなに笑わなくても)

(これが笑わずにいられるか!)

 

 何度か『砂操作』のスキル練習をしているうちに、砂を固めて形を作り出す『造形』が行えることに気付いた俺は、ふと物凄いアイディアを閃いた。

 砂で人間の姿を作るのはどうだろう!? スライムじゃない俺は、リムルのように『擬態』は出来ないけど、『造形』を極めればもしかして人間形態になれるんじゃ……!? 

 

 まずは試しに人間の手を作ってみよう……と俺は頑張った。俺の砂はやたらと細かくサラサラで、だが集中して固めればしっとりと滑らかになる。案外人肌に近いものが作れるかも……と何日も掛けてようやく完成し、出来た! と喜んでから冷静になってみれば、そういえば俺が作ったのは手だけだった。地面から生える人間の手。リアルマドハンド状態。

 小さな子供の手なあたりがホラーにしか見えない……こんなグロテスクな光景で爆笑してくれるヴェルドラに少しだけ救われた。諦めずに練習を続けよう……! 

 

(人間の姿に拘るのだな。前世が人間だからか?)

(そうかもな)

(竜はどうだ、我のように堂々たる姿が羨ましくはないか?)

(ヴェルドラは格好良いと思うよ、でも)

(そうかそうか! 格好良いか! ならばお前もこの姿を真似るが良いぞ、お前であれば許してやろう!)

(聞いて。でもやっぱり俺は人間だったからさ)

 

 シュンとしてしまったヴェルドラには申し訳なく思ったけど、俺は人間の姿を目指したい。

 しかし、砂だけで人間そっくりの人形を作ってみろというのは、考えなくてもわかる無理ゲーだ。砂を固めれば人体のようなものは再現出来そうだが、他の部位は? 顔は? 目は? 髪はどうやって作る? 人型を手に入れられるなら最悪ハゲでも……いや、ナシだな。髪も欲しいわ。

 

 せめて砂の色を変えられれば……

 魔素を込めたりする加減でどうにかならないかな……

 と、試行錯誤を繰り返すうち、俺はこんな"世界の言葉"を聞いた。

 

《確認しました。エクストラスキル『砂操作』は、ユニークスキル『砂工職人(サンドクラフター)』へ進化しました》

 

 なんと、自力でスキルを進化させたのだ! 

 俺の努力が世界に認められた瞬間である。ユニークスキルってこんなに簡単に獲得するものじゃなかったような気もするが、砂の俺と砂のスキルの相性も良かったんだろうな。

 

 新たに得た『砂工職人(サンドクラフター)』の『変質化』により、砂の色や質感の調整が自在となった。俺が思い浮かべた通りの物体を、そのまま砂で『造形』出来るようになったのだ。かなり緻密にイメージしながら作業しなければならず集中が必要だが、この場合で言えば人間そっくりの外見を持つ砂人形を作り出せるということ。俺は俄然やる気を出して日々の作業に取り組んだ。

 

 ところで、身体を作り手足を作り、頭部の作成に取り掛かった頃、ヴェルドラが何やらあれこれと口を出してくるようになった。やれもう少し頬をふっくらとだとかやれ鼻筋はすらりとだとか、お前は竜なのに何で人間の顔に好みがあるの? って聞きたいくらい細かく。

 まあ前世の自分の顔を再現するにも記憶だけでは頼りなく、上手く行かずにどうしようかと困っていたのは事実だ。俺はありがたくヴェルドラの助言を受け入れることにして、途中まで作りかけていた前世の顔をベースに、言われるまま調整を繰り返すのだった。

 

 

 そして、二ヶ月以上もの作成期間の果てに、ようやく人間形態が完成する。

 

 岩陰に広げた砂のクッションの上に、脚を折り畳んでくったり座る砂の人形。

 今まで憑依していた砂から抜け出して、砂人形に乗り移る。『砂憑依』により新たな依代の獲得に成功すると、俺そのものとなった砂の身体は何不自由なく動かせた。

 再び二本の足で立てたことに正直感動しながら、俺は岩陰からひょいと姿を現す。

 

(ヴェルドラ! やったぞ、成功した! どうかな、俺人間に見える?)

 

 ぺた、と裸足で岩肌を歩き、ヴェルドラに近付く。

 人間形態への憑依が失敗すると格好悪いので、先に一人で試してからのお披露目だ。

 そういえば、やってみたら布らしきものまで『造形』出来てしまったので、今は適当にTシャツをダボッと被ったような格好にしている。どの程度の服装ならこの世界に馴染むんだろうな……まさかジャージ姿になるわけにはいかないし、うまく作れる気もしない。

 

(クァハハ……ハハハハ! 素晴らしい出来栄えではないか! 紛うことなき人間だ!)

(そ、そうか? 手伝ってくれてありがとう)

(礼には及ばぬ、実に見事だ!)

 

 ベタ褒めだった。ヴェルドラは俺に激甘なので贔屓目ありかもしれないが、俺から見てもこれは間違いなく人間そのもの。大傑作と言える完成度のはずだ。

 ただちょっと、『砂工職人(サンドクラフター)』では外側しか造形出来ず、発声器官がないため未だに念話に頼るしかない。今度リムルみたいに洞窟の蝙蝠を何とかして……何とか出来るもんなのか? 

 

(よくもまあ、ここまで我好みの人間を生み出せたものよ)

(うん?)

(お前が成長した暁には、この我が娶ってやろうぞ、クァーハハハ……!)

(あ、いや俺男なんで……)

 

 これはきっと、大きくなったらパパと結婚しようねーと子供にデレデレな新米パパのアレだろう。ヴェルドラは本当に親バカが過ぎるなあ……残念な竜だ。砂に性別も何もないのでこの身体は無性だが、前世に引き続いて心は男なので、お断りします。

 

 完成した俺の顔は、とてつもない美少女顔となっていた。

 ヴェルドラ好みと言えば勇者なあの子が思い出されるが、一応は俺の顔からスタートしたためか、似ているわけではないと思う。ただし、もう俺の面影を見付けるのも難しいほどに魔改造されており、何でこんな美少女になるんだよって……どういう監督力だヴェルドラ。

 

 せっかく作り上げたこの人間形態、たとえヴェルドラの好みが思い切り反映されているとしても廃棄は出来ない。他の顔を作る自信もないので、このまま使う気でいる。

 人形を作る合間に『砂工職人(サンドクラフター)』についても色々と実験したところ、造形物を作品として記憶出来るようなので、砂に戻ってまたゼロから作っても造形速度は上がるはず。その練習もしていこう。

 

(おい)

(何? ヴェルドラ)

(いつまでも名を呼べぬのも味気無い。ここはひとつ、我がお前に名を授けてやろう!)

 

 俺は本当にヴェルドラに気に入られているらしい。

 名付けて貰えば、事実上ヴェルドラの子供のようになれるのかもしれないと思ったが、ただ目の前で生まれたってだけの俺が、そんなことしていいんだろうか。

 

(いらないよ)

(そうだろう、実はずっと考え──ん!? おい待て今、いらぬと言ったのか!?)

(ああ、俺にはいいよ)

(何故だ。名無しの魔物が名付けを拒む理由はなかろう!)

(いやでも)

(人間の名があるのか? しかし、前世の名はこの世では意味を持たんぞ)

(それはそうだろうけど)

(我に名付けられるのが嫌か。我の何が不満だと言うのだ!)

(なんか痴話喧嘩みたいだな……嫌なわけじゃないよ、落ち着けヴェルドラ。うーん、俺に名前は……やっぱりいいや)

(それが何故と聞いている)

(ヴェルドラが名付けるなら、もっと相応しい人が他にいると思うんだ)

(意味がわからん!)

 

 きっと、きっと来るはずだ。

 本来ここにいるべき存在を差し置いて、俺が名前を貰うことは出来ない。

 その時俺がどうしたいかなんて自分でもわかってないけど、とにかく、リムルに会いたい。

 

 

 




ステータス
名前:藤馬(トウマ) (イズミ)
種族:砂妖魔(サンドマン)
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:『渇望者(カワクモノ)』『砂工職人(サンドクラフター)』『独白者(ツブヤクモノ)
エクストラスキル:『砂憑依』『魔力感知』
コモンスキル:『念話』
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、捕食無効

※ユニークスキルに進化したのは、彼の作り出す砂が規格外物質過ぎて、その砂を使っているうちに『砂操作』がエクストラの枠に留まれなくなったため



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