転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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魔物の町編
24話 戦いの後~相談


 

 三週間ぶりに、リムルと俺は町へ帰って来た。

 リグルドやシュナには無事を喜ばれ、町の皆も安心することが出来たみたいだ。

 

 配下となったハイオーク隊や、リザードマンに協力していたゴブリン達もこの町で働きたいとやって来る予定であることを知らせ、皆は受け入れ準備のために動き出す。

 リムルはカイジン達と町の建設計画の修正を行い、俺も新しい区画の土地造成を手伝った。指示された切り株を『渇望者(カワクモノ)』で砂にして、空いた穴を『砂工職人(サンドクラフター)』で作った土で埋めるだけの簡単なお仕事なので、一週間ほどミルドについて回っていれば手伝いも終わってしまい、俺にはまた自由時間が戻ってきた。

 

 活気に満ちた町の様子を、いつものように見て回る。

 ゲルド達が到着すれば人手が増えて、一気に建設ラッシュに入るだろう。そして町が出来上がり、ゆくゆくは国に……となると俺もそろそろ身の振り方を考えなければ、と後ろを振り返る。

 

「ベニマルってさあ」

「はい?」

「侍大将になったんだよな」

「ええ。リムル様に御役目を賜りました」

 

 俺の後をついてくるベニマルが、誇らしげに言う。

 オーク軍との戦いの後、鬼人達はリムルに仕えたいと申し出た。仇討ちを果たすまでの契約は終わり、今後は正式な配下にと。その願いはリムルに認められ、ベニマルには"侍大将"なんていう超格好良い肩書きが与えられた。軍事部門をまとめる役目だ。他の五人もそれぞれの役職に就いたことは、俺も大歓迎なんだけど。

 

「なのに、まだ俺の護衛やるの……?」

「当然ですよ。俺達は今後も御二方にお仕えするんですから」

 

 ベニマルが何言ってんだって顔をした。

 俺の方も、ミルドの手伝いが終わったと思ったらベニマルがやって来て、じゃあ今日からまた護衛しますと言い出した時、何言ってんだって顔になっていたはずだ。

 うーん。鬼人達はこれからも、まさか建国後でもこうやって俺を護衛し続けるつもりなんだろうか? 一国の幹部となる鬼人達を、いつまでも俺が拘束するわけには…………よし決めた。俺への過保護も、そろそろこのくらいにしといてもらおう! 

 

 

 

 

 翌朝、俺はお馴染みの会議室へやって来た。まだリムルの仕事部屋というか執務館自体の体裁が整っていないので、リムルはここで報告を聞いたり打ち合わせをしたりすることが多い。今朝会議室にいたのはリムルの他に、リグルド、シオン、ベニマル、シュナだ。

 

「あっ、レトラ様! 本日は私が護衛としてお付きします! これから伺おうと思っていたんですが、お待たせしてしまってすみません」

「うん、シオン……そのことなんだけど。今日から鬼人の皆は、俺の護衛しなくていいよ」

 

 部屋の中の時が止まった。

 一瞬、『時間停止』という言葉が脳裏を過ぎったが……いや俺そんな高等能力持ってないわ。

 ベニマルやシュナが硬直し、特に俺を見るなり盛大な笑顔を向けてくれていたシオンが、「えっ?」と口を開けたまま固まって、数秒置いてもう一回、「えっ?」と言った。そしてみるみるうちに泣き出しそうに表情を崩し、勢い良く俺に詰め寄ってきた。

 

「ご……護衛が不要とは、どういうことですかレトラ様! わ、私に何か至らぬところが……!?」

「えっいや、違うよ。皆忙しいのに、俺に付きっきりは悪いなーと思って……」

「そんな……! リムル様とレトラ様にお仕えすることは、私の使命と自負しております!」

 

 そこまで? いや本気だろうな、シオンだしな……だからこそ、俺の護衛っていうかお守りっていうか、皆の好意に甘えて面倒を見続けてもらうのは良くないと思う。これから町作りどころか国作りに向けて、やることは山積みになっていくって言うのに。

 

「待てレトラ、勝手に決めるな。シオン達には今後もお前の護衛を兼任して貰うぞ」

 

 ラスボス(リムル)が現れた。机に乗ったスライム姿で、俺に厳しい声を向けてくる。

 命令の優先順位は、皆の名付け親であるリムルが頂点なのは当然だ。リムルに反対されてしまうと、俺の一存で鬼人達の護衛任務を解くことは出来なくなる。

 シオンは救世主に縋るような眼差しをリムルへ送り、リグルドは俺達の間に流れる空気にオロオロしている。何でこんなに緊迫した場面になるんだ……? 

 

「リムル、流石にそこまでしなくていいだろ? 町は平和だし、何の護衛が必要なんだよ」

「お前こそ今更どうした? 何か気に入らないことでもあるのか?」

「それは……」

 

 気に入らないことって言うなら、それはリムルに対してだ。

 元はと言えば、リムルが俺の護衛を鬼人達に頼んだりするから! 心配性にも限度があるだろっての……と込み上げる苛立ちはあるけど、交渉事で熱くなってはお話にならないと知っているので、ぐっと堪えた。

 

「俺の護衛に皆を一日中駆り出すのは、やり過ぎだと思うんだ。町中に危険はないから護衛は要らない、外に出るなら俺から声を掛けるから、手の空いてる誰かがついて来てくれればいいよ」

「まあ……そういうことならそれでもいいか」

 

 頷いているのか、ぽよぽよとスライムボディを揺らしながら、リムル。

 リムルさえ説得出来れば計画通り……! 初めに高い要求を突き付けてから段階を下げ、お互いに妥協し合う構図を作って真の要求を通すのが交渉術というものらしいからな。

 

「それで今日はどうするんだ? 言っとくけど、護衛をされたくないからって引き籠るなよ?」

「今日は、ハクロウに頼む。文句ないだろ」

「まあな。ちゃんと都合は確かめるんだぞ?」

「ま……待って下さい! レトラ様、私は……!」

「シオン、今日のところはごめん。また今度頼むから」

 

 食い下がって来ようとするシオンにそう言って、俺は会議室を出た。

 ちょっとシオンが可哀想だったかな……俺だって鬼人達と過ごせるなら楽しいし、時々だったら俺も邪魔にはならないだろうし、たまには護衛してもらおうかな? 

 

 

 

 

「ハクロウ、急に頼んでごめんな」

「ほっほっ、お供致しますぞレトラ様」

 

 "指南役"に任命され、皆に剣術の稽古を付けているハクロウだけど、この前ゴブタがうっかりとハクロウの師匠魂を刺激してしまった所為で、最近の訓練班は毎日が地獄と聞いている。昨日見掛けたら、誇張じゃなかったどころか噂以上にヤバかった。皆には今日くらいゆっくり休んで欲しい。明日からはまた地獄かもしれないけどな……

 

 町を出て、近場の森を歩く。

 ハクロウは物静かに微笑みながらついて来てくれた。

 俺がわざわざハクロウを指名したのは──この前から、俺の胸の中をモヤモヤと渦巻くそれを何とかするため、ハクロウに相談してみようと考えたからだった。

 

「あのさ、ハクロウ。剣って俺にも使える?」

「ほう? レトラ様も、剣に興味がお有りですかな」

「興味っていうか……もっと、強くなりたいんだ」

 

 あの時のリムルの意図が、ようやくわかった。

 リムルはオークロードとの戦いで起こる全ての可能性を考え、最悪の展開のために切り札を用意していた。それが俺。俺の砂。最悪とは退却戦のことじゃなく、リムルが負けた時のこと。自分が喰われてしまったら、俺の砂でオークロードを滅ぼせと指示するために。

 

 さらさらと流れる小川に沿うように歩いていた俺は、その流れに目をやって立ち止まった。緩い斜面になった草むらを降りて、川辺に腰を下ろす。ハクロウも隣に座る。

 

 リムルがそんな覚悟をしていたなんて知らなかった。俺はリムルが負けるとは一瞬たりとも思わなかったし、実際に目の当たりにした魔王ゲルドと比べてみても、リムルに負ける要素はなかった。でも慎重なリムルは、もしもの状況になれば自分ごと殺せと俺に命令する想定すらして、いたはずなのに──俺にそれを言わなかった。

 

 そりゃそうだよな、言えないよな。リムルが負けるのは有り得ないからって、安心し切って遠足気分ではしゃいでる俺に、リムルがそんなこと言えるわけがない。俺、戦場でもキャーキャーやってた……協力するなんて意気込んでおいて、あああ恥ずかしい埋まりたい砂になりたい。

 

「……リムルの力になりたい」

 

 この世界ではリムルさえ生きていれば大抵のことには片が付くのだと、俺は知っている。多くの出来事と思惑が絡み合い、リムルを死なせる未来を許さないことも。だからと言って、それを知らずに模索しながら生きているリムルを黙って放置するのは、残酷すぎるんじゃないのか? 

 知っているだなんて荒唐無稽なことは言えなくても、せめてリムルを安心させてやりたい。リムルがどんな決断をするにしろ、俺がいることでその覚悟を支えられるんだったら、少しは俺にも意味がある。

 

「俺が強くなったら……もう少し頼ってもらえるんじゃないかなって」

 

 リムルに認められるためには、今のままでは駄目だった。

 抱えた膝に額を押し付けながら呟いた俺の頭に、そっと何かが乗る。確かめる必要もなくわかるそれはハクロウの手だ。隣から伸ばされたかさついた手が、静かに頭を撫でる。

 

「ハクロウ……?」

「おお、いや、これは御無礼を。どうかお許しくだされ」

「別にいいけど……」

 

 とは言ったものの、ハクロウが手を引かないぞ? 

 ナデナデが続く。いいんだけどさ。

 

「レトラ様、何も焦ることはございませぬぞ」

「……俺に出来ることがないか、探してるだけだよ」

「御立派ですじゃ」

 

 何だかハクロウ相手だと、諭されてる感しかないな。傾けた視界からジト目で睨み付けると、ハクロウが困ったように笑った。

 

「そうですな……何事も、まずは健全な心身を整えることから。よろしい、この年寄りでお役に立てるのであれば、少々の手解きを致しましょうぞ」

「本当!?」

 

 剣術と言うより、ハクロウはまず俺の身体能力の底上げを目標とした。

 砂の身体でも技術(アーツ)を用いることで強化出来るという理論の説明に始まり、それらに適用可能なスキルの熟練度を色々と細かく見てくれて、俺は魔素の操作は器用だとか、『魔力感知』はまだ甘いとか、〈気闘法〉を習得するために必要な課題を出してくれた。

 

「リムル様のように、訓練班にも参加されますかな?」

「うーん……まだ剣は持てないだろうし、基礎を固めるかな。こっそり頑張る」

「心得ましたぞ。レトラ様とワシとの秘密に致しましょう」

「それがいいな。ハクロウ、また教えてよ」

「ほっほっ」

 

 とりあえずは身体を鍛えるという目標を得て、案外気分がすっきりとした。

 筋肉は全てを解決する! という格言もあるくらいだし、やっぱり強くならないと自分に自信が持てないってことはあるよな。特にこういう、実力主義社会で生きる場合は。

 

 

 

 

 翌日、町の隅にある人気の少ない草地。

 ハクロウに出された宿題をクリアするため魔素を練る訓練をしていると、ベニマルがやって来た。見るからに深刻そうな顔をしたベニマルは、お話がありますと言って跪き、顔を伏せる。

 

「レトラ様」

「うん」

 

 そして発せられたのは、予想だにしない一言。

 

「これまでの無礼の数々をお許し下さい」

「……うん?」

 

 いきなり何の話だ。

 無礼って……これまでの? 数々の? さっぱり意味がわからない。

 もしかして昨日俺が鬼人達の護衛を解いたことに対して、意見に来たのかもしれないと思ったけど……俺がベニマルに何かされたような心当たりは、全くないぞ? 

 

 え、俺の知らない所で、俺の知らない何かが起こっている……? 

 

 

 




※自分の問題が片付いたと思ったら、すかさず別の問題が


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