転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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25話 誤解

 

 俺の目の前にベニマルが跪いている。

 深く下げられた頭に、腹を決めたような毅然とした声。

 

「俺の不用意な言動で、レトラ様に御不快な思いをさせたことをお詫び致します」

 

 ベニマルが言うにはそういうことらしい……が、俺にはさっぱりだ、どうしよう。謝罪の声が本気の本気過ぎて俺こそ不用意に返事出来ないんだけど、見当が付かなくて困る。

 

「レトラ様が戦いを好まれないことを知りながら……申し訳ございません」

「……んん?」

 

 あっ待って、それ、ちょっとピンと来た。

 あれは二日前、ベニマルが久しぶりの護衛に付いてくれた日のことだ。

 侍大将になったんだよなって話をした後、これからハイオークやゴブリン達が来て人が増えるなって話をして、リムルはまたゴブリン達にも名前を付けるんだろうなって話になって、それから…………

 

 

 

「そういえば、レトラ様は名付けをしないんですか?」

「え? 俺はしないよ」

「何故です?」

「何故って、名付けはリムルがするもんだよ」

「じゃあ今までにも、レトラ様が名付けた配下はいないんですか?」

「うん、いないけど」

「一人も?」

「一人も。ベニマル、そんなこと聞いてどうしたんだ?」

「あ、いえ。レトラ様に名を頂いた者がいるなら、どれほどの実力者かと思ったもので」

 

 明るくそんなことを言われて、いやそれどういうこと……と俺は首を捻った。

 つまり俺の名付けた部下がいれば、強さを競ってみたかったとでも? 俺の派閥を作らないという方針は、こういう意味でも正解だったらしい。ベニマルも結構、喧嘩っ早いタイプなんだよなあ……と改めて思って、そして。

 

「じゃあ、今日は護衛ありがとう」

「いえ。御用があればいつでもどうぞ」

 

 その日もベニマルは終始爽やかイケメンだった。

 何事もなく夕方までベニマルを連れ回して、夕食に集まってきたリムル達と合流して皆で食事をして……細かく決めてはいないけど、大体そこで護衛任務は終了となる。

 

「昼間に訓練場を通り掛かりましたけど、ゴブタ達は頑張ってるみたいですね」

「ああ、ハクロウが張り切ってたね」

 

 最近噂に聞いていた、訓練班の地獄の実情を見てしまったのだ。いくら何でも、剣圧? で人が空に吹き飛ばされていいものなんだろうか。

 

「何だかんだ言って見込みがあるんだろうな。実際にゴブタは強くなってるし」

「俺も、以前よりは格段に強くなりましたよ」

「知ってるよ。戦で大活躍してたよな、見てたよ!」

 

 ゴブタに張り合うのは可哀想だろと思うんだけど、それにしてもベニマルを始めとした鬼人達の戦いぶりは格好良かった。今思い返してみても……おっと、またテンションが上がってしまう。俺には浮かれてはしゃぎすぎる癖があるようで、少し気を付けようって決めたんだったな。

 なんてことを考えていると突然、ベニマルが自信ありげに口を開いた。

 

「レトラ様。気が向いたらでいいんで、今度俺と手合わせしてくれませんか?」

「…………えっ、何、俺と?」

「ええ。今の俺なら、結構いい線いくと思うんですが」

 

 いや、何でそこで俺が出てくるんだ。 

 今ならって……もしかして、オーガだった時に戦ったことと比べて言ってる? あの時俺はベニマルに燃やされただろ、あれは俺の負けなんじゃないのか? でも俺は復活したからな、ベニマルは完全勝利とは思ってないのかも……じゃあ、あのリベンジがしたいって意味? 何それ怖い。

 

「冗談だろ、俺はそんなのしないからな」

「そうですか……残念です」

 

 残念がられている……今度は勝てそうだって、そういう感じで見られてるのか俺……

 マジかよ無理だよ、"黒炎獄(ヘルフレア)"喰らいたくない。今度こそ俺の本体にダメージが届くかもしれないし……『熱変動無効』を持ってるからって、そういう人体実験はしたくない。

 

「俺、熱耐性付いたし、もう溶かされないと思うよ」

「へえ、ますます御手合わせ願いたいですね」

「いや……しないから……」

 

 炎効かないって言ってもお構いなしかよ! むしろワクワクしてきたって、戦闘種族すぎない? 自信家なのはベニマルの長所だけどさあ……怖いよベニマル?  

 俺が内心ガクブルしていると、夕飯の片付けを終えたらしいシュナがそこを通り掛かった。シュナはにこやかに笑って、俺達に声を掛けてくる。

 

「レトラ様。すみません、少々兄に用事がありまして……兄をお借りしてよろしいでしょうか?」

「あ、いいよ。立ち話してただけだし、どうぞ」

「どうした? シュナ」

「ええ少々……それではレトラ様、失礼致します」

 

 にこりと微笑んで、シュナがベニマルを促して歩き出す。

 ふう、ナイスタイミングでシュナが来てくれたな。反応に困る会話が終わったし、いい助け舟だった。ただ少し気になるのは、さっきシュナがベニマルに向けた笑顔には、どことなく「いいから早くこっち来い」系の圧力が含まれていた気が……したような……? 

 どうしても気になった俺はその場で『魔力感知』を弄り、限定的に知覚機能を強める。二人はいくつか廊下を曲がった先の角で立ち止まり、やっぱりというか何と言うか、俺のことを話していた。

 

「お兄様、何ということを……! レトラ様が怯えていらっしゃったではありませんか」

「は……?」

「レトラ様は、お兄様のように武勇を誉れとする御方ではないのです!」

「それはまあ、わかるが」

「戦いを望まぬ方を怖がらせてどうするのです、お可哀想に……」

 

 おお……! シュナは本当に俺を助けに来てくれたのか! 

 うん、俺は今ちょうど強くなりたいと考えているところだし、明日はハクロウに相談しに行くつもりもあるけど……あんなにやる気満々のベニマルと一戦交えたいわけじゃないんだよ。ベニマルが強いのなんてもう充分わかってるので、俺と戦いたいとか思わないで欲しい、怖いから。

 

 シュナに怒られたらベニマルも懲りてくれるだろう、と一安心した俺は、盗み聞きはそこまでにして、能天気に自室へ向かったのだった。

 

 

 

 

 …………ってことが、二日前にあった。確かにあった。

 超好戦的な侍大将に戦いを挑まれてるヤバイ、と焦ったことは認めよう。

 でもシュナが来てくれたから、俺はもうすっかり、ベニマルは反省してくれたはずと思ってたんだけど……反省を通り越して思い詰めた結果がこれか!? 

 

 そういえばタイミングも悪かった。俺を怯えさせた(?)翌日には、俺に護衛を首に(?)されて……しかも鬼人全員が。それでベニマルは、自分の責任だと思ってしまった……? 

 そ、それは悪いことをしたかもしれない。というか俺が鬼人達を怖がって遠ざけたとか、嫌ってるとか思われるのは辛いぞ、誤解を解く余地はまだあるかな……

 

「ああ……あの手合わせしてくれってやつだよな? あれは驚いただけで、不快になんてなってないよ。俺と戦いたいって張り切るのをやめてくれれば」

「──お約束出来ません」

「へっ?」

 

 話が違う。ベニマルは謝りに来たんじゃないの? ここは普通、もうしませんって言うとこなんじゃないのか? じゃあ何しに来たんだ……? 

 

「無礼を承知で本心を申し上げます。俺は今も、レトラ様に御手合わせ頂くことを望んでいます。そして出来ることならば、レトラ様に勝ちたい」

「えっ……えええ……?」

 

 こ、これは、宣戦布告……!? 

 唖然とする俺に、ベニマルは怒涛のように言葉を告げる。

 

「それはレトラ様だけではなく、リムル様に対してもです。身の程知らずの戯言と捉えて下さって構いません、今の俺にそれだけの実力が伴っていないことは理解しています。強者に仕えるのは武人としての本懐ですが、己が弱いままでは主を護る剣にはなれない……主を超えることこそ俺の目指す高み。俺はレトラ様の剣で在りたい、それだけが望みです。誓って叛意など御座いません」

 

 伏せられた表情は窺えないが、声は間違いなく真剣そのものだった。この命さえ懸けると言わんばかりの、ベニマルにとってはそれに値するほどの重大な決意。

 

「俺は戦うしか能の無い男です。戦いを嫌うレトラ様の御心には添えぬでしょうが、これが嘘偽りのない俺の本心です。決して……決して、背きは致しません。どうかこの忠義をお受け取り下さい」

 

 地に拳を押し付け、殊更深くベニマルは頭を下げた。

 

「どうか、レトラ様の御傍に仕えることをお許し下さい」

 

 …………

 えーと……うん、言いたいことは大体わかった。本気なのもわかった。

 何ていうかすごく殊勝な感じは伝わったんだけど……

 ……結局、俺をぶっ倒したいですっていうのは、撤回する気がないんだな?俺やリムルすら超えて強くなりたいのは本気なので、自重しないけど許してください……? 

 

「──あはははっ……!」

 

 つい、声を出して笑ってしまった。

 ベニマルが顔を上げ、不可解そうに俺を見る。

 

「すごいな、どうしても自分は曲げないんだな。誤魔化さないのが格好良いわ」

「……許して頂けるんですか。主君に対して余りの不敬、処罰も覚悟しています」

 

 じゃあ言うなよ! とツッコミたくなって我慢した。

 適当を言ったり煙に巻いたりは、ベニマルの頭にはないんだな……俺への忠義は嘘じゃないけど、俺に勝ちたいって思ってるのも本当だから、そのままを言ったってことだ。俺は嫌だろうけど許してくれって。馬鹿正直に。すごくない?

 

「これだけは言っておくけど、俺はベニマルを疑ったことはないよ。鬼人達は皆、リムルや俺に充分過ぎるくらいの忠誠を捧げてくれてる。ちゃんと知ってるからな」

 

 俺は何も、反逆だとかを疑って護衛をやめさせたわけじゃない。申し訳ないことに誤解をさせてしまったようなので、そこはきちんと告げておく。

 

「俺もベニマルと同じかな? 俺はリムルより弱いから、それが悔しくて……強くなりたいと思ってるんだ。だから気持ちはわかるし、俺に勝ちたいってのは……正直怖いんだけど、いいよ、許すよ。どんどん強くなってくれ、俺もベニマルが強いと嬉しいな」

「……! 有り難き幸せ」

 

 相当思い切った上での直談判だったんだろう、ベニマルの目に僅かにあった戸惑いや不安の色が消え、炎のような力強い光が宿る。

 そうだな、俺はベニマルには堂々としていて欲しい。テンペストの侍大将、強くて格好良いベニマルが好きなんだった。そのためだ、俺も覚悟を決めようか。

 

「そういうことなら、手合わせしてもいいけど」

「本当ですか!」

「いや、今すぐじゃなくて。俺も特訓中だから今度でよければ」

「わかりました、楽しみにしています。俺もそれまでには、レトラ様を超えるほど強くなってみせますよ」

「うわあ怖い……まあいいや。早く俺より強くなって、俺を守ってくれよ」

「はい……!」

 

 うんうん、誤解も解けたし、話し合いって大事だな。

 もしかすると他の鬼人達も、何か俺の不興を買ったせいで護衛をクビにされたって誤解してるのかもしれない……大変だ。後で皆の所を回ってみた方が良さそうだな。

 

 というか、ベニマルは自分よりも俺の方が強いって思い込んでるみたいなんだけど、それはどうだろう。魔素量が多いって点では俺が有利でも、俺の一撃必殺『風化』は間違ってもベニマル相手には使えないから、『風化』抜きで勝負したら俺はどうなるんだ……ヒエエ怖すぎる……これだけ期待されててボロ負けしたら格好悪いし、主としてのプライドもあるし、そう簡単に負けないように真面目に特訓しよう……! 

 

 よーし、俺も、打倒リムルで頑張るぞ! 

 

 

 




※次回の更新は25.5話です
※誤解したあたりまでのベニマル視点と、レトラによる鬼人達へのフォロー集


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