転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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※誤解するあたりまでのベニマル視点


(25.5話① 別視点/ベニマル)

 

「名付けはリムルがするもんだよ」

 

 最初からそう決まっていることのように、レトラ様は言う。

 レトラ様ほどの方であれば、リムル様に倣って多少の名付けをしていても何もおかしくはないと俺は思っているが、これまでレトラ様に名付けられた魔物はいないようだ。

 魔素が回復しなくなる恐れのある名付けをレトラ様にさせないよう、リムル様が禁止している可能性も考えたことがある。だがレトラ様はあくまで自分の意志で名付けをしないと決めているようで、これもリムル様を立てるための徹底ぶりだろうか。

 

「ベニマル、そんなこと聞いてどうしたんだ?」

「あ、いえ。レトラ様に名を頂いた者がいるなら、どれほどの実力者かと思ったもので」

 

 リムル様に"ベニマル"の名を頂戴したことは俺の曇りなき誇りだが、レトラ様に名付けられた者がいるのかどうか考えると、それはそれで気になった。そうか、いないのか。

 少し残念に思うような、安心したような。……安心? って何だ? 

 

「…………」

「レトラ様?」

 

 ふと気付けば、レトラ様の表情が心なしか固まっている。

 どうしましたと尋ねるが、何でもないと返事があっただけだった。

 

 

 

 

 今日は久しぶりに、オーク軍との戦以来初めてとなるレトラ様の護衛に付いた。

 相変わらず控えめなレトラ様は、今回の護衛付きにもあまり乗り気ではなかったが……主君の護衛は俺達にとって大変誉れある役目なのだと、そろそろわかって頂きたいものだ。

 

 レトラ様の日課である町の散策に同行し、通り掛かった町外れの訓練場では、ホブゴブリン達がハクロウに扱かれているのを見掛けた。最近のハクロウは特に指導に熱が入り、あれはもう痛め付けているんじゃないかと思うような容赦の無さだ。

 

 聞いたところによれば、ゴブタがレトラ様のために強くなりたいと申し上げているのを耳にして、ハクロウはいたく感動したそうだ。少しサボリ癖のあるゴブタだがレトラ様へ寄せる忠誠心は相当で、ゴブタにそこまで言わせるレトラ様の存在は大きい。

 レトラ様もゴブタには期待しているらしく、正直羨ましい限りだ。俺としてもオーガだった頃よりは強くなったという意識はあるが、少しはレトラ様の御目に留まっているだろうか? 

 

「俺も、以前よりは格段に強くなりましたよ」

「知ってるよ。戦で大活躍してたよな、見てたよ!」

 

 そう言ってレトラ様は笑った。

 素直な称賛に輝いた瞳に見上げられ、気分が浮き立つ。

 もっとレトラ様の期待に応え、力を認めて頂きたい。そうすれば、その瞳にもっと俺を映して頂けるだろうかと──そう思ってしまった俺が大した考えも無しに口を開いたのは、ある意味では必然だった。

 

「レトラ様。気が向いたらでいいんで、今度俺と手合わせしてくれませんか?」

「…………えっ、何、俺と?」

「ええ。今の俺なら、結構いい線いくと思うんですが」

「冗談だろ、俺はそんなのしないからな」

 

 俺の申し出は、レトラ様には想定外のものだったようだ。模擬戦だろうとそう易々と相手をして貰えるわけがないとは予想していたが、やはり断られてしまったか。

 

「俺、熱耐性付いたし、もう溶かされないと思うよ」

 

 以前、俺の炎でレトラ様の砂を焼いたことはあった。だが砂でいくらでも器を作り出せるレトラ様にとっては一時の足止めにしかならない。そんな些細な弱点も既に克服し、レトラ様は日々着実に力を付けているようだ。炎も通じないとなると、俺にはどんな手が残されているだろう。

 

「へえ、ますます御手合わせ願いたいですね」

「いや……しないから……」

 

 呆れたような視線が寄越され、レトラ様はそれ以上は興味を失ったかのように顔を逸らす。俺を歯牙にも掛けないご様子だがそれも仕方ない。俺にはまだ力が足りない。

 そこへシュナが現れて俺を連れ出し、俺はようやく失態に気付くことになる。

 

 

 

 

 初めは、シュナが何を言っているのか理解出来なかった。

 レトラ様を怖がらせた? 俺が? 

 

「シュナ……レトラ様が俺に怯える理由がないだろ。レトラ様は俺より強いぞ」

 

 レトラ様が手合わせを好まないのはわかる。本来ならば荒事には向かない、穏やかな性格をした方だ。恐らくは里にいた頃のシュナと同じように箱入りで、リムル様に大事に護られてきたのだろう。無理に頼み込んだつもりはないし、これ以上食い下がる気もない。

 合点のいかない俺に対して、シュナは怒りか嘆きを抑えるように袖で顔を覆い、そして眼光鋭く俺を見上げた。

 

「いいですかお兄様、あの態度では、レトラ様に対して叛意があるように捉えられかねません!」

「な……に!?」

 

 思いも寄らない指摘だった。

 冷静になって、自分の言動とレトラ様の反応を思い返してみる。

 俺は何を言った? レトラ様の心情も考えず、身勝手な欲のために分不相応な手合わせを申し込み……その上、今度はレトラ様に敵うかもしれないと無礼まで口走った。

 

「いや俺は、そんなつもりじゃ……」

「お兄様にそのつもりがなくとも、レトラ様が怯えていらしたでしょう!」

 

 そうだ、レトラ様は戸惑っていなかったか? 

 強さに固執し自己顕示ばかり望む俺に、レトラ様は不信感を抱いたのでは? 

 それに今までの護衛任務についても……レトラ様が遠慮がちなだけだと思っていたが、まさか本当に俺を嫌がって……? 

 

 考えれば考えるほど、思考は悪い方向へ落ち込んだ。

 事の重大さに気付いた俺に、シュナも俺を責めることなく必死に訴えてくる。

 

「まだ遅くはありません。真摯に忠義を尽くせば、レトラ様はきっとわかってくださいます」

「ああ、そうだな……誤解を解いて頂かなければ……」

 

 俺の忠義とは……俺が目指すのは、主の剣となることのみ。こうなれば、俺の決意を包み隠さず申し上げる他はないだろう。やはりレトラ様には怯えられてしまうかもしれないが、主君の前に体裁の良い誤魔化しを並べることなどあってはならない。

 大丈夫だ、レトラ様は配下の真剣な訴えを蔑ろにするような御方ではない。認められたいなどという自分本位な願望は後回しでいい、何としてでもレトラ様へ忠誠を示し、自業自得の疑惑を晴らさなければ──

 

 

 

 その翌朝のことだった。

 リムル様の元で本日の予定確認を行う面々に向け、レトラ様が「今日から鬼人の皆は俺の護衛しなくていいよ」と言い放ったことにより、俺とシュナは揃って顔を青くせざるを得なかった。

 

 これはまさか……

 俺の軽率さが、鬼人全体の不信を招いてしまったということなのか…………? 

 

 

 




※違います


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