転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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※鬼人達へのフォロー集
※シオン、ソウエイ、クロベエ、ハクロウ、シュナの順


(25.5話② おまけ集/鬼人達)

 

 どうやら俺は、鬼人達に大きな誤解を与えてしまっているらしい。

 俺が鬼人達に対して不信感を持ったため──要するに嫌いになったので、護衛任務を解除したのだという……違う違ーう! どうしてそうなった! 俺が皆を嫌いになるわけないだろ! 

 この誤解だけはアカン、と俺は即日、鬼人達へのフォローを開始した。

 

 

 

 

「シオン!」

 

 ビクッとシオンの肩が揺れて、振り向いた表情は強張ったものだった。

 俺の護衛は不要だといきなり言い渡され、わけもわからず落ち込んでいたようで、今度は俺に何を言われるのかと怯えているシオンが可哀想すぎる。

 

「あ……レトラ様……」

「シオン、昨日はごめん。俺の言葉が足りなかった」

 

 俺としてはね……あんまり俺を過保護に扱わなくていいって言いたくて、鬼人達の毎日の義務になってしまっている護衛任務を解いただけなんだ……まさか、ここまで深刻な事態になるとは思わなかったんだよ……

 

「──ってことだから、シオンは何も悪くないんだ。ごめんな」

「そ、それでは……レトラ様は、私のことが嫌になったわけでは……」

「ないない、ないから! 俺、シオン好きだよ」

「……レトラ様!」

 

 瞳を潤ませ、シオンががばっと抱き付いてきた。俺の背が低いため、足元に膝立ちとなったシオンがギュウギュウと腕を回してきているんだが……気になることがある。

 こんなに密着してるのに、なんか間に分厚い塊が挟まっててシオンに辿り着いてない感すごいんだけど……でかすぎない? いやこれは言っちゃいけないヤツだな…………

 

「あ、あの、出来ればもう一度……」

「え?」

 

 どうでもいい考え事で頭が飛んでいて、何かと思った。モジモジとしたシオンが、「私が嫌いなのではなく、その……」と口ごもり、ああと俺は気付く。

 

「うん、俺はシオン好きだよ」

「も、もう一度!」

「シオンのこと好きだよ」

「大きな声で!」

「す、好きだよ! シオン大好き!」

「ああっ……!」

 

 またもギュウウッと抱きしめられて、俺が呼吸の要らない砂で良かった。

 まあ今回悪いのは俺だからね? 俺に嫌われたと誤解を受けるのは我慢ならないし、大好きなのは本当だし、これでシオンの気が済むんだったらいくらでも言うけどね? 

 

「……おい、お前ら。イチャイチャするなら外でやってくれ」

 

 ここ、リムルの仕事部屋代わりの会議室なんだよな……ブーイングを喰らってしまった。同じく室内にいたリグルドが、微笑ましげな眼差しを送ってきてくれていることだけが救いだ。

 少しは場所を選ぶべきだったかな……? 

 

 

 

 

 

「あ、ソウエイ」

「レトラ様」

 

 次は廊下でソウエイを見掛けた。声を掛けると、会釈が返る。

 護衛任務クビ宣言の場にはソウエイはいなかったが、昨日のうちに鬼人全員に周知したとベニマルが言っていた。全員少なからず衝撃を受けた様子だったとも。

 全員と言うからにはソウエイもか? このクールフェイスを見る限り、そんな感じは全くしないんだけど……とにかく説明しておく。

 

「というわけで……毎日の護衛任務は解いたけど、皆が俺に何かしたとかじゃないから気にしなくていいよ」

「そうでしたか」

「……」

「……」

 

 ソウエイは反応が薄くてよくわからないんだよなあ……

 オークロード戦辺りではソウエイは忙しくあちこち飛び回ってたし、それほど話す機会もなくて、良い関係を築けているとは言えない気もする。

 ソウエイに護衛を担当してもらった時も、俺が言わなかったらずっと影に潜ってるつもりだったみたいだし……面倒な奴って思われてなきゃいいんだけど。

 

「まあ、これからも護衛を頼む時はあると思うから、手が空いてたらよろしくな」

 

 今日は誤解を解くことが目的だ。あまりしつこくしないで切り上げよう。

 背を向けようとした俺は、レトラ様、と呼び止められた。

 

「今後の護衛は、レトラ様が御入用の場合のみと聞いております」

「え? うん」

「他の者達は各々役目もあるでしょうが、俺はリムル様より頂いた『分身体』を扱えますので如何なる場合であっても護衛任務を拝命することが可能です。俺をお呼び頂けるのであれば即座に御傍へ参上致しますので、どうぞお気遣いなくお命じ下さい」

「……」

「御心にお留め置き頂ければ幸いです」

「あっ、ああ! ありがとうソウエイ」

 

 そしてスッと一礼したソウエイは、音もなくその場を去った。

 

 ……心配いらなかった! すごいやる気だ! 

 これは俺、結構好かれてるんじゃないだろうか……顔面クールでわかりにくいけど……うん、ソウエイとも仲良くやっていけそうで良かったな。

 

 

 

 

 

「クロベエ、いる?」

「レトラ様……!」

 

 鍛冶工房に顔を出した俺に、クロベエは大慌てですっ飛んできた。思い切り狼狽した様子で、俺が何も言わないうちから身体を縮こまらせて頭を下げようとする。

 

「この度は……知らねえうちにとは言え、レトラ様にご迷惑を……」

「いや! 待って! クロベエは何もしてないから、謝らなくていいよ!」

 

 やはり自分達が俺に何かしてしまったと誤解しているようで、俺は鬼人達を振り回し過ぎだな。護衛をクビにされたくらいでここまで動揺してくれるってことは、俺がそのくらい好かれているということだから……それはまあ、ちょっと嬉しいんだけど、本当に悪いことをした。

 俺が事情を説明するにつれ、オドオドとしていた表情は、ッパアア……と明るくなる。クロベエは癒し系だな。

 

「そんなら良かったですだ。だけども、オラは武力ではベニマル様やハクロウ様には遠く及ばねぇし……レトラ様の護衛としては、オラじゃ満足にお役に立てねえのが情けねぇですだよ」

「クロベエ……」

 

 以前クロベエが護衛を担当した時には、町散歩について来てもらった後、工房で鍛冶見学ツアーだったよな。鍛造や開発中の武具について何時間か話をされた。確かにあれはほぼ護衛ではなかったわけだが、俺の知らない分野の話が聞けたのは楽しかったので問題ない。

 

「俺はクロベエにも護衛して欲しいよ。早速だけど、近いうちに空いてる日ある?」

「お供させて頂けるんなら、精一杯お努めしますだ! いやあ、レトラ様から直々にお声が掛かるのは嬉しいだなあ」

 

 ニッコニコのクロベエがとても眩しい。浄化される。

 張り切ってくれているお礼に、俺の護衛に付く時には俺が全力で守るからな! ……と言おうとしたけど、護衛の概念が崩壊することになりそうだったので黙った。

 正直な話、何のために俺に護衛が必要なんだろう。俺には結構耐久力がありそうだし、リムルの次くらいに死にそうにない存在なんだけどなあ……

 

 

 

 

 

「ハクロウは、俺に嫌われたなんて思ってないよな?」

「幸いにも、ワシは早速のお声掛けを頂きましたからな」

 

 念のため、訓練場のハクロウにも会いに来た。

 俺は昨日の朝に鬼人達の護衛任務解除宣言を出して、その日のうちにハクロウに剣の特訓の相談をした。俺は大した問題だと思ってなかったからハクロウには何の説明もしなかったが、ハクロウは後でベニマルから護衛任務クビのお知らせを聞かされて、別の意味で驚いたそうだ。

 

「ベニマル様やシュナ様が、レトラ様に不信を抱かせてしまったと思い込んでおられましてな……」

「酷いよな。俺がベニマル達を疑うわけないのに」

 

 昨晩ハクロウは、俺の様子についてベニマルとシュナに尋ねられたらしい。俺との特訓は秘密と約束していたものの、二人がかなり切羽詰まっていたため、俺がリムルの力になれるように強くなりたいと思っている事情だけは伏せて話したそうだが……

 

「レトラ様は何か重大な心配事を抱えておいでのようで、その憂いを晴らすためにも、秘密裏に稽古を付けるようワシにお命じに……という内容でお伝えしましたぞ」

「それさあ、状況を悪化させてない?」

 

 ベニマル側からするとアレだ、俺に手合わせを申し込んだら、俺が怯えて鬼人達の護衛をクビにして、ハクロウに稽古を頼んだことになり……そりゃ焦るわ。いきなりハクロウに師事するほど、配下に逆心の疑いを持って対策を取り始めたように見えるわ。

 

「こんなにややこしくなるなら、ハクロウが説明しといてくれても良かったよ……」

「ほっほっ、ベニマル様は何か誤解されている様子でしたからのう。これは直ぐにでもレトラ様と話し合って頂くべきと思い、危機感を少し……」

「煽りすぎだからね?」

 

 なるほど、老獪な爺を持ったもんだ。

 ベニマルはずいぶん当たって砕けろな勢いで直訴に来たよなあと思ったけど、直球勝負だったお陰で問題はすんなり解決したんだし、後押ししてくれたハクロウにも感謝しないとな。

 

 

 

 

 

「レトラ様……」

「あれ、シュナ? どうしたんだ?」

「あの……昼間のお話なのですが……」

 

 夕食後、寛いでいた俺のところへシュナが訪ねてきた。

 昼間の話と言うと、鬼人達全員にフォローを済ませた例の件だと思うけど、シュナにもちゃんと説明して誤解は解いたはずだ。まだ何かあったっけ? 

 

「わ、わたくしからこのようなことを申し上げますのは、大変恐れ多く……厚かましいこととは重々承知しておりますが……シオンから話を聞きまして、その、どうしても……」

「シオンから? 何?」

「…………なく」

「え?」

「レトラ様は、わたくしのことが嫌なのではなく……」

 

 このやり取り……? 

 シオンともやったような…………あっ! まさか、好きって言えって!? 

 マジかよ! シオンの奴、シュナに自慢でもしたのか!?

 

「シ、シオンばかり狡いです……レトラ様さえよろしければ、どうかわたくしにも……」

 

 いくら何でも恥ずかしいらしく、口元で合わせた袖の向こうに覗く頬が赤い。

 えー……シュナが可愛い。でもなあ、日頃から俺やリムルへ大好き大好きを撒き散らしているシオンに好きって言うのと、分別のあるお姫様なシュナに好きって言うのとでは、必要とされるノリが違わないですかね? ていうかキャラ的に考えても、シュナがわざわざリクエストしに現れるとは思わなかった……! 

 

「レトラ様……」

 

 羞恥のあまり泣きそうに潤んだ目で、心許無さそうに見つめられ……

 はいはい可愛い! 俺の負けです! こんなおねだりをされては聞いてあげきゃならないだろう……シオンには言えて、シュナには言えないってのも酷い話だしな。

 

「じゃあ、シュナ……耳貸して」

「は、はい……」

 

 下手すると幼稚園児サイズの俺に合わせてシュナが身を屈めてくれる。

 背伸びをしてシュナの耳元を両手で覆い、口を近付けて、囁く。

 

「シュナ、好きだよ」

「……っ!」

 

 ぼふんと顔を真っ赤にしたシュナが、何度か舌をもつれさせながら「ありがとうございます」と「おやすみなさいませ」を俺に告げ、ふらふらとその場を去って行った。

 ふう、ミッションコンプリート……流石の俺も恥ずかしかったので、内緒話のように告げたのだが、それが却って気恥ずかしさを爆上げしてしまったような気もするな……?

 

 

 




※まだ外見が子供(6)なので迂闊に好きって言っても許される
※残る鬼人シリーズはあと二人



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