転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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31話 剣術修行中

 

 ユニークスキル『独白者(ツブヤクモノ)』が『言承者(コタエルモノ)』に進化して、一ヶ月以上が経った。

 ウィズが俺を手伝ってくれるようになり、日々その有り難さを実感している。

 

 例えば名付け……ではなく、名付けの見学。

 この前やって来たガビルやソーカ達以外にも、町には移住希望の魔物達が続々と到着していた。俺の行動パターンにすっかり慣れてしまったリムルが『これから名付けをするんだが、お前も来るか?』という思念を送ってくる度に同席している。

 今までは、付けられていく名前を自力で覚えるしかなかったんだけど……

 

(ウィズ……皆の名前、全部覚えられるか?)

《解。可能です》

(やった! じゃあもしかして……リムルが名付けてきた魔物達の名前もわかる?)

《全ての名持ち個体を認識済みのため、判別可能です》

 

 俺の先生超有能! もう数字シリーズの名付けでも怖くない! 

 というかかなり最初の方から、俺の記憶力だけでは無理があったからね。これでもう、ヤバイ名前が出てこないってヒヤヒヤすることはなくなった。

 

 他にもウィズのお陰で楽になったことは多々あるが、特にでかいと感じたのは『魔力感知』とのリンク確立だ。補助ありだと本当に助かる。膨大な情報処理はウィズがやってくれるので、処理落ちで意識が遠のくこともなく常時全方位知覚が可能となり、俺は他のことに集中出来るのだ。

 

 

 

 

 木刀同士が打ち合わされ、乾いた音が鳴る。

 ハクロウに剣の特訓を頼んでいた俺は、リムルを喰う少し前から──つまりウィズが進化するよりも少し前から、木刀を使っての稽古に入っていた。"風化欲求"に苦しんでる間は俺に余裕がなかったので、稽古は一旦休みにしてもらっていたのだが……

 

「ふむ、レトラ様。修行を再開されてからは、日毎に動きが洗練されていきますな」

「だろ? 俺だってサボって遊んでたわけじゃないんだよ」

「以前と比べれば、魔素量も闘気の錬度も段違い……先日はお身体も成長されたことですし、これがリムル様との特訓の成果とは、凄まじいものですのう」

「ウン、ソウダネ!」

 

 休みの期間の言い訳としては、「ハクロウに秘密特訓を頼んでいたのがリムルにバレて、まずはリムルの特訓を受けることになった」……と誤魔化していた。あれで俺がパワーアップしたのは事実なんだし、嘘は言っていない。

 

 繰り出される攻撃を次々と打ち払っていく応酬の最中、何の前触れもなくハクロウが消えた。俺の『魔力感知』からも、人間の視界からも。目の前にあったはずの姿を見失い、次にどこから狙われるかわからない焦りに駆られるが、今日の俺は秘策を用意してきた。

 

 密かに張り巡らせていた()()で反応を察知した瞬間、俺は動いた。習得したての"気操法"と『身体強化』を上乗せした脚力で地面を抉り、人間には無茶な反応速度で身を翻す。

 一際高く打ち鳴らされる木刀の音。

 背後から迫る剣筋を、俺の木刀が完璧なタイミングで受け止めていた。

 

 "隠形法"破れたり。

 間近に見えるハクロウは驚きの表情をしていた。

 

「これはこれは……まさかこれほど早く"隠形法"を見破られるとは。腕を上げられましたのう」

「だって今日は、このために作戦立てて来たんだからな!」

「ほう? では、これはどうですかな?」

「あれ、そんなアッサリ次って……あいてっ!」

 

 一瞬の隙に木刀で頭を打たれ、痛覚はないけど衝撃に対して声が出る。

 待った、ストップ! そう何回もやったらタネがバレ……

 

「ほれ、どんどんいきますぞ。先程のように防いでみなされ」

「あっ、ま、待っ……!」

 

 息もつかせず襲い来る猛攻に、殴られたくなければ応戦するしかなかった。

 だけどこんな小細工でいつまでもハクロウを出し抜けるわけがなく、そう思っていたから今日のところは勝ち逃げする気だったのに、この爺さん、俺を逃がす気が全く無い……! 

 

 小一時間もすれば、俺は地に伏せたまま動けなくなっていた。

 砂の身体なので怪我はしていないが、俺の策は通じなくなっていて、もう打つ手がないので立ち上がりたくない。降参の意思表示として砂山に戻ろうかと思ったくらいだ。

 

「なるほど。つまりレトラ様は、ワシの"隠形法"を見抜いたのではなく……御自分の周囲に極々微細な不可視の砂を漂わせ、侵入物を()()()()()()()反応していたのですな」

「そ……そういうこと……」

 

 バレるの早えーよ! もうちょっと勝ち誇らせてくれても! 

 "隠形法"は絶音、絶臭、絶温、絶気の極意であり『音波感知』、『超嗅覚』、『熱源感知』、『魔力感知』が全て役に立たなくなるという恐ろしい技術だが、何とか喰らい付く方法はないかとウィズに相談して考えたのがこの砂センサーだった。極限まで細かくした砂を『砂操作』で周囲に撒いて、接近してくるハクロウが砂にぶつかる感覚を頼りに反応すればいいというカラクリだ。

 

「ただ、侵入物の区別がついていないようですな? ですからワシが囮として放り込んだ石礫にも逐一反応し、大きな隙が生まれてしまう。これでは実戦で通用しますまい」

「その通りです……」

 

 砂を操る魔素はどうしても僅かに漏れ出てしまうので、俺が纏う妖気に紛れ込ませることで気付かれにくくしているが、その代わり砂センサーを張ることの出来る範囲がやや狭くなるという弱点があった。その上でハクロウのスピードについていくためには、砂との接触を感知したら脊髄反射以上の速度で動かないと間に合わないのだ。

 ハクロウを一回だけでも出し抜くことが目的だったので多少のアラには目を瞑って作戦実行したんだけど……内容を全て暴かれてダメ出しを食らうという結果に。つらい。

 

「ですが、己の力を最大限に活用し道を開こうとする姿勢に、それを実現させる緻密なスキル制御はお見事でしたぞ。まだまだ修練は必要でしょうが、使い所を見極め『魔力感知』と織り交ぜて使用すれば、相手にとっては大きな脅威となりましょうな」

 

 おお……? 褒められた? 

 正直ウィズのサポートがなければ、闘気を練り上げながらの各種スキルの同時使用なんて俺にはまだ難しいんだが、ウィズも俺のスキルなんだからどんどん活用するべきだろう。

 

「今日はここまでに致しましょう。ワシとしたことがムキになってしまい、いや面目次第も御座いませぬ」

 

 ハクロウは俺の策を暴くことを第一に仕掛けてきていたようで、申し訳なさそうな割には実に晴れ晴れとしたイイ笑顔だった。そんなにスッキリしたのか……そういえば、立ち上がりたくなくなるくらいにボッコボコにされたのは初めてかもしれない。

 そう考えた俺にピコンと閃きが生まれ、なあ、と勢い良くハクロウを見上げる。

 

「ハクロウって、今まで俺との稽古では手を抜いてただろ? それがついムキになってボコるくらいには、俺にも見込み出てきたってことでいい?」

「……な?」

 

 意気揚々とした俺の主張は、何故かハクロウに言葉を失わせたようだった。俺は成長を実感して喜んだつもりなんだけど、ハクロウには衝撃的な指摘だったらしい。

 

「レトラ様……何故そのように、ワシが手を抜いていたなどとお思いに……?」

「俺にはずっと甘々だっただろ。一本取る時もほとんど軽く打つか寸止めだったし、俺が言う前からよく休憩挟むし……ゴブタ達にはあんなに厳しいのに」

 

 ゴブタ達には手加減しないでぶっ飛ばすし痛め付けるし、休みたいって言う奴には一撃で意識持ってく打ち込み喰らわせるし……休みたいってそういう意味じゃないからな!

 あそこまでされたら俺も心が折れそうだが、あれと比べると、俺との稽古はお遊びでやってるんじゃないのかと思ってしまう。それで今日は少しでもハクロウの本気を引き出せるよう、作戦を考えてきたというのが本音だ。

 

 ハクロウは珍しく動揺しながら、それは違う、俺を軽んじたことはない、みたいなことを言いにくそうに色々並べて……そしてとうとう観念した様子で口を開いた。

 

「……レトラ様、申し訳御座いませぬ」

「え? 何が?」

「無礼とは存じながら……臣下たる身で恐れ多くも、レトラ様を我が孫のように愛しく思うておりましてな……ついつい手ぬるい振る舞いをしてしまいましたこと、お許し頂きたく存じまする」

 

 孫……! そういうアレか! 

 ハクロウは弟子には容赦ないけど、孫には甘いタイプだったと……

 そういえばハクロウは稽古が終わると時々、小腹は空きませんかなって果物や蒸しパン(シュナが研究中、砂糖未使用)なんかをくれることがあり、座って一緒に食べたりしてたな……ああいうのも、ただ孫におやつを与えたいお爺ちゃんの図だった……?

 

「それじゃ、ハクロウが俺の爺ちゃんだ。それはいいけど……この歳で甘やかされるのは……いやまあ、ダメとは言わないけどさ。でも強くなりたいし、特訓は厳しい方がいいな」

「ほっほっ、善処致しましょう」

 

 

 

 

 

《警告。前例のない魔力を感知しました》

 

 近場の森での特訓を終えて町に戻ろうとしていると、ウィズからお知らせが入った。

 以前の『独白者(ツブヤクモノ)』だとここで終わりだが、『言承者(コタエルモノ)』となった今では、何があった? と尋ねるだけで詳細を教えてくれる。本当にもう俺の先生、すっかり立派になって……

 

《解。北の空より武装集団が接近中。ペガサス及び騎士の組み合わせが約五百騎、一騎の総合能力はAランクに相当します》

 

 ああ、ガゼル王が来たか。今日の出来事だったんだな。

 とうとう俺達の町が国としての第一歩を踏み出すのかと思うと、ワクワクする。

 

「あれは、もしや……?」

 

 森の上空に姿を現した天翔騎士団(ペガサスナイツ)を見上げ、ハクロウが呟く。

 騎士団は森の中の開けた場所へ降りるつもりのようで、俺達が今いる場所からそう遠くはなさそうだ。

 

「レトラ様。御身は必ずワシがお護りします故、もう少々あちらへ近付いてもよろしいですかな?」

「うん、俺も行こうと思ってた。こっそり行けばバレないよな」

 

 ハクロウは昔、ガゼル王の剣の師匠をしていた。かつての弟子の存在に気付いたなら、俺を連れて近付いたとしても危ないことにはならないという予想もあるんだろう。

 というわけで俺達はこそこそと、リムルとガゼル王の対峙する現場へ向かうのだった。

 

 

 ドワルゴン国王、ガゼル・ドワルゴ。

 俺はドワルゴンへ行ったことがないので実際に本人を見たのは初めてだが、精悍な顔付きで貫禄のある渋いオジサマだった。賢王と呼ばれるくらいの統治者で、剣の腕も一流なんだろ……かっこいいな。

 

「久しいなカイジン、それにスライム」

「お久しぶりでございます、王よ。本日は何か御用があるのでしょうか……?」

「なに、そこのスライムの本性を見極めてやろうと思ってな」

 

 国王本人の来訪なんてお忍びだとしても考えられない事態らしく、カイジンが及び腰だ。

 しかし何故ベニマルやソウエイ、シオン、シュナがもれなく怒りの妖気をぶちまけているんだ……今のやり取りのどこにキレる要素が? 

 

「ハクロウ……皆ちょっと反応が過剰すぎない? 話し合いにならないよあれ」

「修行が足りぬようですな。お恥ずかしい限りですじゃ」

 

 ドワーフ王や騎士団と向き合うリムル達を、俺とハクロウが木陰から窺っていた。

 俺にはまだ"隠形法"は出来ないが、魔素を体内に収納するのはそれなりに得意だ。大きな力を使わず隠れているだけなら、これで充分やり過ごせるはず。鬼人達が撒き散らしてる妖気のお陰で、俺は尚更目立たなくなっていることだろうし。

 

「貴様を見極めるに言葉など不要、俺の剣で貴様の本性を見抜いてくれるわ。この森の盟主などという法螺吹きには、分というものを教えてやらねばなるまいしな」

 

 さあ剣を抜け、というガゼル王の提案で、話し合いはリムルとガゼル王の一騎打ちに委ねられることになった。果たしてこれは外交と呼べるのか……本人達がいいならいいんだけど。

 

「剣勝負か。こうして見るとガゼル王は本当に強そうだな、自分で剣聖って言ってるくらいだし」

「レトラ様は冷静ですな……あやつは、リムル様を法螺吹き呼ばわりしたのですぞ?」

 

 あっ、ハクロウがイラッとしてる。

 名付け親のリムルをそこまではっきりバカにされると、流石のハクロウでもムッとくるんだ? 

 まあこれは、リムルがガゼル王に認められるための大事な一戦だからな。リムルなら実力差に屈することなく正々堂々と、ガゼル王の信頼を勝ち取ってくれるよ。

 

 そこへ森の管理者である樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんが現れてリムルの立場を証明してくれたことで、ガゼル王はリムルへの暴言についてはキッチリと謝罪していた。出来た人だ。

 そして、トレイニーさんを立会人として始まった勝負の行方は──

 

 剣技では圧倒的な力量を持つガゼル王が放った大迫力の連撃を、ハクロウとの特訓経験を活かして見事に受け止めたリムルの勝利で終わったのだった。

 

 

 




※リムルの必須イベントだと思うので、ハクロウと仲良くする方向にしました


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