元々がわかりにくい表現だったため一部修正しました。
ドワルゴンとの同盟締結により、ジュラ・テンペスト連邦国は正式な国家となった。
これからは気軽に国名を口に出せる! ということも含めて、国の誕生自体は嬉しいんだけど……今の俺は、先の宴会で持ち上がった大問題について、早急な対応を迫られているのだった。
「ようこそおいで下さいました、レトラ様」
「お待たせしてすみません、トレイニーさん。お呼びしたのは俺なのに」
約束の場所には、既にトレイニーさん達三姉妹が揃い踏みだった。
ドライアドが三人もいるというのに、やんわりと辺りを包む森の魔素がその存在認識を邪魔している。内密にというのは俺だけでなくトレイニーさん側の希望でもあったらしく、白昼堂々、森の片隅に溶け込むように、ひっそりと密会の場が用意されていた。
「ここまでお一人でいらっしゃったのですか?」
「いえ、影の中に護衛が一人。俺が外へ出掛ける時には護衛を付ける決まりなので、気にしないでください」
今日の護衛はソウエイに頼んだ。俺が単独行動をする方が怪しまれるだろうし、警戒網の構築役を先に味方に引き入れておくに限る。ソウエイには、リムルに聞かれたら言っていいけどそうでなければ黙っていて欲しいと話を付けて、俺はリムルにも内緒でここへ来ていた。
「では、レトラ様。わたくし共にどのような御用でしょうか」
「先日のガゼル王の話です。俺は自分のことをよく知らなくて、
──呟。前例のない魔力を感知しました。
あの時。俺が食べられない実を噛んでいたのを見られたのも、偶然じゃなかった。
当時のウィズはまだ『
「どうか御無礼をお許し下さい。わたくし達は、貴方様がジュラの大森林にとってどのような存在であるのかを見極めねばなりませんでした」
「いえ。初めから俺を排除すべきと決め付けず、調査して頂いたことに感謝します」
というかトレイニーさん達は、森に突如現れたリムルと俺があんまり普通とは言えない魔物だったから、迂闊に手が出せなかったんだろう。そして
「だけどもし、
オーク軍が森への侵略を始め、トレイニーさんはリムル達に協力を仰ぐことにしたが──その中には俺もいた。森にとっての害である
「それは違います。わたくしは自身の目を以て、レトラ様を信頼に足る御方と判断致しました。貴方様はリムル様と同様、この大森林になくてはならない存在ですわ」
「ありがとうございます。でもそれは、トレイニーさん個人の意見ですよね」
ガゼル王の発言から、まさかと思った俺は、あの後ウィズに問い掛けた。
(ウィズ、もしかしてトレイニーさん達は……今でも、俺を見張ってる?)
《解。
(あの……何でそれは教えてくれなかったんだ?)
《個体名:トレイニーを始めとする三体の
これは俺の責任だった。知り合いだったり、特に害があるわけでもない存在について、そりゃウィズは警告しないだろう。いくらウィズが優秀だからって、最近少し頼りっ放しになってたな……俺のスキルを活かすも殺すも、俺次第だって言うのに。
俺は今の今まで森に監視されていて、つまり、俺を認めたと言う評価も暫定的なもの。
「トレイニーさん達が問題としているのは、俺の持つ『風化』の力ですか?」
「……!」
三姉妹の顔色が変わる。
やはりそうか。
「俺はユニークスキル『
「……そうでしたか。レトラ様の絶大なるお力の源は、やはり……レトラ様は『
トレイニーさんの表情は陰り、良くない事態であるのがわかる。
『
「これは、あの
「その通りです。『
スケールがデカい。それは今まで本当にそういう実行犯がいたんだろうか。それとも、大規模な砂漠化のような現象が伝説となって残っている感じだろうか。まあ、そんな災厄スキル『
「では、俺はどんな扱いになりますか? 俺は森や世界を枯らすつもりはないし、トレイニーさん達とも仲良くしていきたいと思っています。それでも俺は危険ですか? オークロードのように、存在するなら滅ぼさなければならない脅威だと、──っ!」
後方に控えていたトライアさんとドリスさんの周囲で、放電のように魔力が弾けた。
二人は俺に対して懐疑的な立場にいたようで、初めから強い警戒心を感じていた。俺の口から明らかにされた事実に緊張が張り詰め、とうとう決壊してしまったんだろうけど……
それよりも俺が反応したのは、こちら側で動いた気配にだ。
「──ソウエイ! 待て!」
俺の制止に、影から飛び出したソウエイがその場に踏み留まる。俺を背に庇うように立ちはだかり、物騒な妖気を隠そうともせずトレイニーさん達を見据えて身構えていた。
待って、頼むから、刀に掛けた手を戻せ……戦いにはならないから!
「影の中にいてくれって言っただろ……」
「相手が敵対しなければの話です。レトラ様に害意を向ける輩は捨て置けません」
輩言うな。相手はドライアドだぞ……三人いても立ち向かう気なのか、すごいなソウエイ。
何とかソウエイを引っ張って俺の後ろに下がらせた。うわあ、臨戦態勢の気配をビシビシ感じる。
トライアさんとドリスさんに戦闘の意志がないことはわかってるけど、このままだと引っ込みが付かなくなってしまうんじゃ……
「おやめなさい。レトラ様はわたくし達との対話を望んで下さったのですよ」
「はい……申し訳ありません、お姉様」
「どうかお許し下さい、レトラ様」
トレイニーさんが厳しい声で妹達を嗜め、三人は揃って俺に頭を下げる。冷静な態度を保ち続けるトレイニーさんにはものすごく俺の味方感があり、非常に心強かった。
「ですがレトラ様、ユニークスキル『
そこが唯一、俺にとって幸か不幸かという微妙な点だ。
俺は世界の破滅を望んでいない。何もかも滅ぼしたいという欲求がない。
それは何故か──何度かウィズと問答をして、辿り着いた結論があった。
「俺の意見ではありますが、『
「それでは……レトラ様は『
「えーとですね……」
これはちょっと言い辛い。感情につられて顔が熱くなってくる。こんなことまで言う必要はあるんだろうかと思うものの、まあこのくらいは……説明責任として……!
「その、言葉にするのは、恥ずかしいんですけど……俺は幸せなんですよ」
「え……?」
「俺は、リムルやテンペストの皆が大好きで……俺も一緒にいられるようにと、ずっと、強く望んできました。皆がいればそれでいい。それさえ叶えば、俺は幸せなので……」
本当だ。俺の望みは、俺もリムル達の仲間としてそこにいること。
俺がこの世界に求めるものは、前世から知っていて大好きだったテンペストの皆。本来なら自分が部外者だと理解している俺にとっては、何よりも渇望する願いであって間違いない。
目覚めた瞬間からヴェルドラがいて、リムルと出会って、どんどん仲間が増えて……だとすると、俺の求める最も強い望みは、常に満たされてきたことになる。
「そ、そのために……レトラ様には『
「……俺の考えですけど」
俺は最初からこれ以上ないほど幸せな境遇に恵まれていて、その魂の充足は、同時に『
私見ではあるが、恐らく間違ってはいない。
概ね間違っていないのだろうが、俺に言えるのはここまでだった。
その『
皆のことが好きすぎて、
…………変態すぎるわ! 言えねーよ! たぶん向こうも聞きたくないと思う!
トレイニーさん達は呆然と俺を見ていた。
この場に漂っていた緊張感が消えている。予想外の展開だったようだ。あ、後ろのソウエイからも殺気がなくなってる……まさか引かれてないよな? 俺大丈夫?
そして我に返った様子のトレイニーさんが、白い顔をうっすらと染めながら微笑み、安堵のような……感嘆のような大きな溜息を吐く。
「ああ、レトラ様……貴方様は、何と素晴らしい御方なのでしょう。世界を滅ぼしかねないという恐ろしい災厄の力を、無垢なる願いで浄化されてしまうとは」
「すいませんやめてください本当にそういうんじゃないんで」
お願いしますやめてください。
俺は結構大変な変態なので、そんな綺麗な目で見ないで。
ちなみにトレイニーさんは、俺の"風化欲求"を知らない。"リムル喰い"や、それによって俺に起こった欲求、その解消をソウエイに手伝ってもらったことなど、あの一連の出来事をトレイニーさん達が知っている可能性はあるかと、それはもう念入りに念入りに、俺はウィズに尋ねた。
否。ウィズは答えた。
いずれの時も監視者はいなかったと、ウィズはハッキリ言った。
ウィズにしてみればドライアドに接近されれば気付かない方が難しく、日頃感知していた精霊達の魔力どころか、草木の僅かな魔素さえ感じられなかったと。町中の屋内、それも夜だったことが功を奏していたらしい。
だからもう隠すことにした。言いたくない。何が何でも言いたくない。
「えっと、まあ……
「レトラ様。貴方様はもう充分、誠実な御心で我々に向き合って下さいました。応えねばならないのはわたくし共ですわ」
やはり俺はまだドライアドやトレントの多くに恐れられているらしく、トレイニーさんは再度仲間を説得してみると言ってくれた。俺が今まで『風化』の力を操り町を守護してきたことや、森を害する行動をしなかったことは、俺の推論を裏付ける材料になるだろうということだ。
トレイニーさんはすっかり俺に騙されて……いや騙してないよ?
大体にして俺に『
よく考えれば、欲望なんて誰でも持っているものだ。
そして抑制だってそれぞれがやっていること。
前世から引き継がれた俺の理性は、何があろうとリムル達を滅ぼすことを許さないだろう。
この自我がある限り、俺が破滅の化物に堕ちることはない──
そうして、俺とトレイニーさんの密会は終わったのだった。
※独自設定の説明は大体終わり、原作沿いに戻ります
おまけ、帰り道にソウエイと思念会話
『あーそのー、ソウエイ……また俺の問題に付き合わせてごめんな』
『レトラ様が我々と共にと望んで下さったこと、恐悦至極に存じます』
『俺が皆のこと大好きなのは本当だけどさ、それだけじゃないの知ってるだろ?砂にして飲みたいくらい好きなのは病気だろって……ひどすぎる……』
『レトラ様にそうまで思って頂けるのであれば、光栄以外の何物でもないかと』
『俺に判定甘過ぎるからな?もっと危機意識を持とう?』
『今後一層気を引き締め、全霊を以てレトラ様の御望みをお守り致します』
『あ、うん……(テンション高いな……?)』
※感激したらしい