転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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35話 新たな仲間

 

 建国以来、テンペストの首都リムルは千客万来だ。

 行商を生業とする犬頭族(コボルト)の部族や、小人族(ハーフリング)魚人族(マーマン)など、様々な種族の魔物達を受け入れて、町は今なお発展を続けている。

 今日は息抜きも兼ねて、レトラと二人で森の散策に来ていた。

 

「リムルと出掛けるのって久しぶりだよな」

「ちょうどお互い時間が取れたしな。今日は俺がお前の護衛をしてやるよ」

「最強かよ……」

 

 俺の補佐として国相の役職を与えたレトラも、日々忙しく働いてくれている。

 レトラにのんびりとした暮らしをさせてやるだけの甲斐性が俺にあれば良かったのだが──いやそういう話じゃないな。何しろ、仕事をさせないとレトラ本人が拗ねるのだから。

 

 散歩中、森で体長五十センチほどの蟲型魔獣(インセクト)と遭遇した。

 傍らで死んでいる孤刃虎(ブレードタイガー)と戦ったのだろう、Bランクの魔獣を倒したとは驚くべき実力の持ち主だ。そいつは俺達を敵だと思ったのか、有無を言わさず襲い掛かってきた。

 レトラの前に踏み出して魔蟲へ手を翳す俺に、声が掛かる。

 

「待ってリムル」

 

 どしゃあと魔蟲を埋める勢いで降り注いだ砂が、そのまま地面を砂に変え、その場をすり鉢状に陥没させた。斜面へ引きずり込まれた魔蟲は身体半分ほどまでが砂に埋まり、いくらもがいても流れ込む砂に脱出を阻まれ、飛び立つことさえ許されない。アリジゴクだこれ。元々手負いだったらしい魔蟲が地面の底で動きを止めると、意思を持つかのようだった砂の流れもピタリと止まった。

 

「どうしたレトラ?」

「見てアレ、超かっこいい!」

 

 その魔蟲はカブトムシの角とクワガタの鋏を持ち合わせた姿をしており、レトラの瞳はキラキラと輝いていた。襲われたという認識もないようだ。まあ、相手にもなってなかったしな……かく言う俺も、そのハイブリッドな姿には心くすぐられるものを感じた。素直に格好良いと思う。レトラも前世では、野山を駆け回る少年時代を過ごしてきたクチなのだろうか? 

 

 さて、その魔蟲が俺達に襲い掛かってきたのには理由があり、そいつの後ろにはもう一体の瀕死のハチ型魔蟲がいた。孤刃虎(ブレードタイガー)の攻撃を受けたのか酷い損傷を負っている。こいつはハチ型魔蟲を逃がすため、自分も死に掛けているというのに立ち向かってきたのだ。なかなかの心意気だ。

 

 魔蟲達は知能が高く、思念会話によって事情を知った俺は、スライム細胞を与えて二体の身体を補ってやることにした。レトラには欠けた外骨格の修復を頼む。俺の指示の下でなら、その超絶すぎる能力を使っても構わないだろう。

 

「俺がやっていいの? 本当に?」

「ああ。お前の方が上手いだろうしな」

「オッケー大丈夫! ちゃんとリムルの魔鋼を再現して治すから!」

 

 レトラは非常にウキウキと、格好良い魔蟲の傍で作業を始めた。随分テンションが上がっているが、勝手に角を増やしたりするなよ? 元通りにしてやるんだぞ? まあ良識的なヤツだし大丈夫か。

 そして俺の回復薬を与えると、魔蟲達は元気になった。

 レトラがこの二体をすっかり気に入っているようだったので、町に連れ帰っても良かったのだが、こいつらとしてもただ施しを受けるだけでは気が済まないだろう。

 俺は二体に"ゼギオン"、"アピト"と名付けて配下(ペット)とし、トレイニーさんの許可を得てトレントの集落へ向かわせることにした。ゼギオンには集落の守護、アピトには希少花からの蜜集めを任務として与えてある。

 

『じゃあ頼んだぞ。今後はあまり無茶しないようにな』

『ゼギオン、アピト! よろしく!』

『お任せ下さい。この命は、リムル様とレトラ様のために』

『救っテ頂イタ御恩は、決して忘れまセン』

 

 これにより、俺は蜂蜜の入手が可能になった。

 甘味が貴重なこの世界では、蜂蜜はきっと役に立つに違いない──と思っていたところ、その蜂蜜は本当に、国の危機を救うという重大な役割を果たすことになったのだ。

 

 

 

 

 

「初めまして! ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ」

 

 その強大な力の持ち主は、桜金色(プラチナピンク)のツインテールを揺らして告げた。

 平穏が続いていたある日のこと、『魔力感知』で余りにも桁違いな存在の接近を察知し、大急ぎで町の外に移動した俺の元へ、大地にクレーターを作りながら飛来した少女。いきなり魔王が来るのかよ! と嘆いてみても仕方ない。

 

 魔王ミリムは、ゲルミュッドが死んだことや、豚頭帝(オークロード)が魔王に進化したことも知っていた。

 オーク達との戦いが魔王によって監視されていた。それが何を意味するのか……ミリムは戦いの勝者、つまり俺達に挨拶に来たということだったが、慎重に相手の出方を探らなければならない。

 

 …………のに。

 シオンの先制攻撃に始まり、ソウエイの糸による捕縛、ベニマルの"黒炎獄(ヘルフレア)"。

 相手は『大賢者』にも測定不能のデタラメな魔素量(エネルギー)を誇る魔王だ。皆は俺を逃がすために死を覚悟して攻撃を仕掛けたのだろうが……ミリムが笑いながら自身の妖気を開放しただけで周囲の地形が変わり、鬼人達は戦闘不能状態に陥った。格が違うとはこのことだろう。

 その場から俺を連れ出そうとするランガを制し、魔王ミリムに相対する。

 仲間を見捨てては逃げられない。あとは俺がやるしかない──

 

「な、何なのだこれは!? こんな美味しいもの、今まで食べたことがないのだ!」

 

 勝った。魔王だろうと所詮は子供。

 俺が最後の手段としてミリムの口に放り込んだのは、蜂蜜だった。

 アピトの集めてくれた、"特級万能薬"に値する最高級の蜂蜜。少量ずつしか採れないためその存在はまだ皆にも内緒で、俺とレトラのオヤツとしてこっそり隠し持っていたのだ。

 

 蜂蜜の虜となったミリムと交渉し、引き分けで手を打った。

 魔王ミリムは今回の件を全て不問とし、今後俺達に手出ししない……という約束を取り付けて蜂蜜入りの瓶を渡すと、ミリムはご機嫌になった。こうして危機は去ったのだ。

 

 

 

 ……と思ったら、町に戻ろうとする俺達に、ミリムがついてくる。

 穏便にお帰り願いたかったのに、何故か町を案内することになってしまっていた。

 

「ミリム、町では勝手にウロチョロするなよ? 俺の許可無く暴れるのも禁止だぞ」

「わかっているのだ! さっき上から町を見たのだ、楽しそうな…………」

 

竜眼(ミリムアイ)』とやらを凝らして町の方を見ていたミリムが、不意に歩みを止める。

 突然動かなくなってしまったので、どうした? と声を掛けようとした瞬間。

 ミリムが叫んだ。

 

「何だアレは!? ……アレが欲しいぞ、欲しいのだ!」

「はあ? 何を……って、え!?」

 

 ミリムは地を蹴り砕く勢いでその場から消えていた。

 その数秒後、前方で起こった爆発。

 もうもうと立ち込める煙──ではなかった。あれは。

 まるで爆発したかのように四方八方へ盛大にぶちまけられたのは──砂だ。

 砂って…………

 

「レトラ……!?」

 

 砂ってことは、レトラか? レトラなのか? あの飛び散ったやつが全部? 

 ミリムの襲来を感知した際、レトラには住人達の避難指揮を任せたから町に残っているはずだが……それが、ミリムにやられて粉微塵に吹き飛んだってのか!? 勘弁してくれよ……! 

 その場の全員が戦慄し、一斉に走り出す。

 

 俺達が駆け付けた地点は町ではなく、町からこちらへ向かう直線上にある草地だった。

 草地だった、はずのそこには、小さな砂漠が発生していた。

 

「何なのだお前は? 可愛いな! 可愛いぞ! そうだ、お前はワタシの部下になれ!」

「あの……何……」

 

 見たところ、レトラは無事だった。

 砂の上に押し倒されマウントを奪われ、何やら迫られている状態ではあったが。

 恐らくは、俺達の方で事態が落ち着いたのを感じて様子を見に来たところをミリムに突撃され、防御のために全力で砂を放出したという経緯なのだろう。

 

「レトラ様! 御無事ですか……!?」

「レトラ様に何と無礼な……!」

 

 ベニマルが焦って叫び、シオンがギリリと大太刀を握り締める。

 いや待てシオン、ミリムに敵わないのはさっき思い知っただろう。

 

「ミリム! 俺達に手出しはしないって約束だろ!」

「む、何だ? ワタシは何もしていないのだ。コイツがあんまり可愛いから……」

「俺の弟だ。紹介するから、放してやってくれよ」

「弟なのか! コイツをワタシにくれ、可愛がるから!」

「駄目だ」

 

 レトラをくれだと? 天地が引っくり返っても許さんぞ。

 問題は、俺にもミリムを止められないということなのだが……どうしたものか。

 俺がミリムと話しているうちに、レトラは人間形態をその場に残し、本体のみ抜け出していた。忘れがちだがレトラは精神体であり砂に憑依しているだけなので、こういう芸当も可能だ。そして周囲に大量に積もった砂の一部に乗り移りスルスルと離脱しようとしていたが、ミリムが無造作に砂の流動体を掴み上げ、レトラを宙吊りにする。

 

「面白いことをするな? お前は砂を依代とするのだな!」

「わー」

 

 魔王からは逃げられない、か。

 重力に従って垂れ下がりながらも輪郭を保つ不思議な砂の塊は、やがて諦めたようにミリムの手からさらさらと零れ落ち、もう一度人の形を作り上げた。ミリムが跨っていた方の人間形態は砂へ変わった。

 

「初めまして、レトラ=テンペストです」

「魔王ミリム・ナーヴァだ! レトラよ、ワタシのものにならないか?」

「どうして初対面からこんなことに……」

「部下ではイヤか? ならばワタシの弟がいいか? どっちがいいのだ?」

「そ……その二択だけ? 他にも何かないかな?」

「勝負するのだ! ワタシが勝ったら、お前はワタシの弟になるのだ!」

「ち、力ずくで弟とか言わせても楽しくないと思うんで……もっと平和的に行こう……?」

 

 ミリムの発言一つ一つに場が凍り付くような危機感を覚えるが、レトラが必死に躱している。

 レトラもミリムとの絶望的な実力差は理解しているはずで、恭順も拒絶も明言を避けミリムの反応を見ているようだ。何故かレトラを気に入ってしまったらしいミリムの態度は今のところ好意的と言っていいが、それもいつまで保つか……

 

「ではどうすればいいのだ!」

 

 あ、マズイ。見た目通りの幼さで、焦れたように地団駄を始めるミリム。

 キレさせては俺達の手には負えなくなる、これはきついか? 

 

「えー、あー……リムルとは知り合いで?」

「そうだぞ。リムルは友達なのだ!」

 

 エヘンと小さな胸を張り、自慢げに宣言するミリム。

 そういえばさっきも俺が友達だと言った時、ミリムはやけに嬉しそうにしていたような……そして、レトラはその隙を見逃さなかった。

 

「……じゃあ俺も!」

「む?」

「リムルとはもう友達なんだろ? だったら、俺達も友達だよ」

「おお……そうか! そうだな! レトラもワタシの友達だ!」

「うぐっ」

 

 ミリムがパアッと破顔してレトラに抱き付く。

 レトラが冷や汗を流すような緊張感抜け切らない面持ちで、やったぜ、とでも言いたげなアイコンタクトをミリムの肩越しに送ってきたので、よくやったと俺も頷いておいた。ナイスだレトラ。

 

「よ、よろしくな、ミリム」

「エヘヘ……よろしくなのだ!」

 

 それからミリムは町に戻る間も、町の広場で皆にミリムの紹介をする間も、ずっとレトラの片腕を抱き締めたままくっついて離れなかった。しかも俺の知らないうちに、ミリムはテンペストへ滞在することを勝手に決めてしまっていて、俺とレトラは親友(マブダチ)に格上げされていた。

 

 "天災級(カタストロフ)"の魔王、"破壊の暴君(デストロイ)"ミリムが、テンペストへの仲間入りを果たしたのだった。

 

 

 




※次回から更新は五日おきくらいになります


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