ぽよんぽよん、ふよんふよん、と洞窟を進む二匹のスライム。
ヴェルドラを喰ってしばらく経ったが、俺達はまだ洞窟内にいた。
俺は水を使った攻撃手段を獲得したものの、何しろスライムという頼りなさ。俺の弟となったレトラを守りながら進まねばならないので、慎重になるのも仕方がないことだ。
ヴェルドラの周りは魔素が濃すぎて魔物がいなかったそうだが、地上へ向かうならばやはり魔物の生息域を通ることになるだろう。レトラも魔物と戦ったことはないと言うし、危ない橋は渡れない。
地底湖の周りをこそこそと、魔物の気配がないか確認しながら進む。
徐々に活動範囲を広げて地上への道を探しつつ、薬草や鉱石を念入りに捕食していく。特に回復薬のストックを増やしておきたいからな。『自己再生』のある俺と、砂のレトラが果たして回復薬を必要とするのかは、疑問の残るところではあったが。
湖の淵、幅の狭い岩場を移動していると、後ろで声(念話)がした。
(あっ)
(レトラ?)
ポチャン、と何かが水に落ちた音。
って、間違いなくレトラが落ちたろ! あいつ砂だぞ、水はまずいんじゃないのか?
『大賢者』が応答した。
《解。通常、
おい! ダメじゃねーか!
誰だ、こんな足滑らせたら即死の危険地帯をレトラに歩かせたのは! 俺だよ!
スライムの俺なら水は平気ということは実証済みだし、急いで向かおう。水に落ちた砂をどうやって回収したものかと不安はあるが、見捨てるわけにはいかない。
(待ってろよレトラ、今助けに……)
ばしゅん!
目の前で起こったのは、信じ難い出来事だった。
洞窟に広がる地底湖の水が干上がった。全ての水が一滴残らず、消えるように無くなったのだ。岩肌には濡れた形跡すら残っていない。地底湖の水も魔素が濃いらしく生物は皆無で、今まで湖底であっただろう地面には、砂スライムがぽつんと一匹佇んでいた。
(レトラ? 大丈夫か……? どうなったんだ、これ)
(の……飲んだ……?)
疑問形が返ってきた。自分でやったことだろうに。
話を聞くと、どうやらユニークスキル『
『
レトラはさらりと砂に崩れて、何事もなく岩場をスルスル登ってきた。
水に落ちたというのにサラッサラにもほどがあるのも、持っているスキルのお陰だろうな。砂なのに水を弱点としないとは、俺の弟ながら、なかなかやるじゃないか。
レトラに湖の水を八割ほど戻させて、残りは体内に溜めておくように言った。
水を蓄えたからには『水刃』を教えてやろうと思う。俺も覚えたてのスキルではあるが、保護者としてはレトラにも自衛手段を持っていて欲しいからな。
地底湖を離れ、新たに見付けた道の先には扉があった。
三人の冒険者が入ってくるのと入れ違いに、レトラを連れて扉を潜る。
交渉してみようかとも思ったが、頼みの綱のレトラが人間形態を『造形』するには三十分ほど掛かるらしく、意思疎通手段も念話のみだそうで、今回は諦めた。俺もまだ喋ることさえ出来ないスライムなのだし、人前に出るには早すぎる。
バッタリ遭遇した初めての魔物、嵐蛇を『水刃』にて倒し、『大賢者』のアドバイスに従って捕食すると、俺は新たなスキルを獲得した。『熱源感知』と『毒霧吐息』だ。
『水刃』が思いの外強力で、魔物相手にそれを駆使しながら進む。
(レトラ、後ろ!)
(えっ? ──うわ!?)
不意打ちを仕掛けてきたムカデの牙が、身を躱したレトラのすぐ真横でガキンと噛み合う。
コロコロと地面を転がる砂スライムを追ったムカデの進路を遮るように、『水刃』を飛ばす。撃ち出した何発目かがムカデを捉え、倒すことに成功した。
ムカデを捕食するのに少し尻込みしたが、獲得したスキルは『麻痺吐息』。
(平気か? レトラ)
(ごめんリムル、気付かなかった……)
レトラの砂の身体は見た目通りクッション性が高いらしく、怪我もないようだ。
しかし、俺には『熱源感知』もあるとは言え、前を歩いていた俺が背後からの敵襲に気付いて、レトラが気付かなかったのはどういうわけだ?
(お前も、『魔力感知』は出来るんだろ? 後ろから近付いてくるヤツがいると、見えるよな?)
(後ろも見ようと思って見てないと、見えないよ。ずっと集中してると疲れる)
え? そういうもんか?
俺は特に何も意識しなくとも、周りの情報が入ってくるんだけど……
《解。『魔力感知』には膨大な情報処理が必要のため、『大賢者』とリンクさせることで常時全方位の感知が可能となっています》
なるほど、俺には『大賢者』の補助があるからオートで済むが、レトラはマニュアル操作が必要なわけか。反則技で楽をしている以上、俺に偉そうなことは言えない。
……あ、そういえば、レトラも喋るスキルを持ってるんだったな。そいつは『大賢者』と似たようなものなんじゃないか? 会話が出来なくても、同じようにリンクさせることで働いてくれるのでは?
《解。個体名:レトラ=テンペストの所有スキルが概念知性である場合、演算能力を持つと推測されます。なお、各スキルとのリンクは手動設定が必要です》
ふむふむ……
『大賢者』の見立てをレトラに伝え、『魔力感知』とのリンクを試してみるように言う。
(もう『大賢者』先生に、俺のスキル運用もお願いしたいんだけど)
(出来るか? 『大賢者』)
《解。個体名:レトラ=テンペストとの接続手段がないため、不可能です》
(無理だってよ)
(無理かー……手動でリンクって、念じるだけで良いのかな……任せる感じ……?)
スキルをリンクさせてみろとか意味不明な無茶振りをされたら、俺だって困惑必至だ。
ブツブツ言いながら集中し始めたレトラを見守っていると、レトラは突然うわっと慌てた声を上げ、砂の身体をふよんと揺らして、やがて落ち着いた。どうなったんだ?
(どうだ? 成功したのか?)
(一瞬だけ成功して、物凄く周りが見やすくなったんだけどすぐ切れた……リンクし続けるのは難しいかも……あ、でも朗報! 俺の喋るスキルの名前がわかった!)
(え、何だって?)
(ユニークスキル『
(…………)
(…………)
(呟く能力を持つスキルか……)
(あーそれで会話出来ないっていう……いやせめて話くらいさせて欲しかった……)
ぺしょりと平べったくなって落ち込むレトラを慰める。
俺の『大賢者』がチートスキルだということが、ますますよく分かった。俺ばかりこんな有能なスキルを持っていて申し訳なくなってきたな、何か手助けしてやれないものか……待てよ?
(そうだレトラ、何なら一度俺に捕食されてみるか? 『大賢者』がお前のスキルを解析できたら、使い方を教えてやれるかもしれないし)
(なるほど、その手が……あれ? もしかして、リムルの胃袋に入ったらヴェルドラに会える?)
その発想はなかった。
え、胃袋でこんにちはってアリなのか?
《解。捕食対象は個別に隔離されますが、同一空間に収納することも可能です》
ふーむ。ヴェルドラの名前が出たらレトラがちょっとやる気になったし、やっぱり会いたいんだろう。たまには里帰りさせてやった方がいいんだろうか? 俺の胃袋だけど。
レトラの了承を取り付けて、早速『捕食者』を使う。
《ユニークスキル『捕食者』にて、個体名:レトラ=テンペストを捕食します……失敗しました》
(あっ? 今……『捕食無効』により、無効化に成功しましたって言われた)
まさかの失敗。すまんレトラ、里帰りさせてやれなかった。
それにしても『捕食無効』とは……レトラは自分の持つ耐性も知らないようだが、何だってそんなピンポイントに俺を狙ったような耐性を持ってるんだか……
しかしレトラのスキルを解析してやるという案も、これでダメになってしまった。難しいだろうが、やはり自分で色々と試しながら確かめてもらうしかなさそうだな。
ステータス
名前:レトラ=テンペスト
種族:
加護:暴風の紋章
称号:なし
魔法:なし
ユニークスキル:『
エクストラスキル:『砂憑依』『魔力感知』『水操作』
コモンスキル:『念話』
耐性:物理攻撃耐性、痛覚無効、捕食無効
※山中で死亡した主人公ですが、転生時のことを覚えていません
※思い出しそうにないので資料として載せておきます
(身体が……動かない……痛い、身体いらない……)
(野晒しか……動物に喰われんの嫌だな……このまま砂になりたい……)
(全身痛い、絶対折れてる……もういい……痛いの嫌だ……)
(助からないだろうな……俺が死んだら……誰か、俺のこと呟いてくれるかな)
(……ああ……喉が、渇いた…………)
《確認しました。物質体の生成を放棄……成功しました》
《確認しました。精神体の生成に成功しました。付随して『魔力感知』を獲得しました》
《確認しました。『捕食無効』を獲得……成功しました》
《確認しました。物質体の生成を放棄済みのため、代替案としてエクストラスキル『砂憑依』を獲得……成功しました。付随して『砂操作』を獲得しました》
《確認しました。『物理攻撃耐性』、『痛覚無効』を獲得……成功しました》
《確認しました。ユニークスキル『
《確認しました。ユニークスキル『