転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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38話 英雄化計画

 

「ヨウム君。英雄になる気はないかね?」

 

 ジュラの大森林の北西方面に接するファルムス王国の辺境領から、"豚頭帝(オークロード)"の情報収集のため派遣されてきたという調査団。会議室の椅子に座る団長ヨウムを前に、リムルはそう問い掛けた。

 そこだけ聞くと、怪しさプンプンの詐欺師の手口だ。

 

 魔王カリオンの使者フォビオ達が去った後、町には新たな来客があった。

 まずはお馴染みの三人組、カバル、エレン、ギド。彼らは西に位置するブルムンド王国の自由組合に所属していて、ギルドマスターであるフューズに雇われ、四人でこの町を目指してきたそうだ。フューズの目的は"魔国連邦(テンペスト)"の調査。ガゼル王と同じように、リムルや魔国の危険性を見極めるために。

 

 そしてカバル達と一緒に森の中で槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)に襲われ、ゴブタ達警備隊に助けられて町へ案内されてきたもう一つの集団が、団長ヨウムを始めとする三十名ほどの荒くれ風の男達だ。

 この辺境調査団を立ち上げたニドル伯爵というのがどうしようもないヤツで、国から与えられる防衛費を長年着服していた上、いざオークロード出現という有事において資金も人手も足りなくなり、町の収容所からゴロツキ達を駆り出し調査団としたわけだ。最悪情報だけ得られればいいと、命令に逆らえない契約魔法を施させて送り出すという捨て駒扱いは流石にひどい。

 

 リムルが思い付いたのは、"ヨウム英雄化計画"だった。

 オークロードを倒したのがリムル達であるという真実が人間側に広まっても、オークロードに代わる危険な魔物の集団が生まれただけと受け取られるだろう。そこで、オークロードを倒したのは英雄ヨウムとその仲間達であるという話をデッチ上げるのだ。テンペストはヨウム達を支援した魔物の国……そういう筋書きを作り上げ、俺達が人間の脅威ではないことをアピールするという作戦だった。

 

「何言ってんだアンタ……英雄になれだって……?」

「人間とも仲良くしたいウチとしては、それが望ましいんだ。無理強いするつもりはないから、考えてみて欲しい」

 

 いきなりの勧誘に思い切り戸惑うヨウムだったが、しばらく思案した後にリムルの言葉は信じられると判断したようで、リムルの計画に乗ってくれることになった。

 

 ヨウム達は英雄として人々から称賛を受け、俺達は人間達からの信用を得る。

 リムルはwin-winの関係と言っていたけど、人材育成には資金も時間も掛かるのに。将来の利益を見据えているからって惜しまず投資に踏み切れるのが、リムルのすごいところだよな。

 

 

 

 

「っだあああ! あのジジイは化物か!」

「そうだよ。でもハクロウに聞こえたらボッコボコにされるから気を付けて」

「あ……ああ? レトラさんか、悪りいな」

 

 俺の造形した回復薬で覚醒するなり、ヨウムが文句を喚き散らす。

 ハクロウの一撃を喰らって訓練場の外れに運ばれたヨウムの様子を見に来たんだけど、全快したようで良かった。目が覚めたならさあまた地獄へどうぞ……と言うほど俺も鬼ではないので、身体を起こしたヨウムの隣に腰を下ろした。ここらで少し休憩してから戻ろう。

 

 英雄としての体裁を整えるためヨウム達がハクロウに弟子入りしたのを機に、俺も交ざって一緒に剣の修行をしている。俺の日課と言えばミリムの相手だが、最近では町の皆もミリムに慣れてきて、前ほど俺が付きっきりでいなくても良くなった。リムルもミリムと遊んでくれるようになったし、俺は町の視察や報告整理の仕事に復帰しながら、自分の特訓にも打ち込む余裕が出来ていた。

 

「ヨウムは期待されてると思うよ。ハクロウは伸びしろのある相手には厳しいんだ」

「本当かよ? ゴブタさんなんか、いつもボロ雑巾みたいになってんじゃねえか……」

「ゴブタはハクロウの見込んだ有望株の筆頭だから」

「あんたもそうだろ。そんなナリしてあの剣撃を軽々と捌きやがって、ジジイも楽しそうだしよ」

「軽々じゃないんだけどね……」

 

 ハクロウが楽しそうっていうのは否定出来ないかもしれない。

 稽古を厳しくして欲しいという俺のリクエスト通り、あれからハクロウにはだんだん手加減が無くなってきて、途中からはもう『魔力感知』『思考加速』『身体強化』諸々のフル稼働が前提の、打たれて覚えろ技術(アーツ)は盗め、実力差は頭で補え、って感じの洒落にならないやつになってたもんな。

 

 俺は剣を習い始めた時期が遅いので、ヨウム達と一緒にやっていけばちょうどいいかな? と思っていたのだが……今までハクロウに個人指導を受け続けてきた俺は、既に世間の一般常識をぶっちぎった経験を積んでしまっていたらしい。ああうん、俺の師匠は剣鬼だったわ。

 

「なあレトラさん」

「俺のことはレトラでいいって」

「そうもいかねえよ、リムルの旦那の弟なんだろ。シオンさん方の目も怖えし」

 

 ヨウムは会議の最中にシオンにセクハラ発言をしてしまい、一度殴られて沈んでいる(あと、ガキという一言でミリムの地雷も踏み抜いて殴られていた)から、俺に無礼を働けば鉄拳が飛んでくると恐れてのことだろうけど……まあ、ハクロウを師匠とするからには俺の方が兄弟子だ。後は本人の好きにしてもらおう。

 

「あんた、砂妖魔(サンドマン)なんだよな?」

「そうだけど」

「その……あんたは知らないかもしれねぇから、人間側の立場で言っときたいことがあるんだが」

 

 ヨウムが何を言わんとしているか、察しが付いてしまった。

 俺は以前ガゼル王から、砂妖魔(サンドマン)樹妖精(ドライアド)達に嫌われているという衝撃的な事実を聞かされている。そしてその後、ガゼル王はこっそりと俺に更なる助言をくれていた。

 

『レトラよ、今後のためにもう一つ忠告しておくとだな……砂妖魔(サンドマン)は、砂で畑を荒らされるという恐れがあるために、農業従事者からもあまり好まれてはおらんのだ』

 

 これもまた衝撃的な事実だった。

 砂妖魔(サンドマン)は植物を覆い枯らす……とすれば、畑の作物もその対象だろう。森だけでなく農家からも嫌われているとなると、砂妖魔(サンドマン)って相当肩身の狭い魔物なのでは、と俺は少し落ち込んだ。

 

『通常の砂妖魔(サンドマン)は植物を枯らそうとする習性を持つからな。無論お前はそのようなことはせんだろうが、人々に誤解を与える可能性がある以上、頭に入れておいた方が良い』

『……ありがとうございます、ガゼル王』

『お前は堅苦しいのが抜けんな』

 

 ガゼル王は甥っ子にでも接するように笑い、俺の頭を撫でてくれた。

 俺が害ある魔物と言われていても、俺のことを理解してくれる人達は確かにいる。ヨウムも、人間達と友好的にやっていきたいという俺達のことを気遣ってくれているんだろう。

 

「それって、砂妖魔(サンドマン)は畑を枯らすから、人間に嫌われてるってやつ?」

「知ってたか……まあ、実際に畑を枯らされたなんて話は聞いたことねぇけどな」

「所詮は砂だからね」

 

 農業を担当する管理部門のリリナに確認したところ、砂妖魔(サンドマン)はジュラの森の気候では発生しにくいようだが、畑ではたまに見掛けるという証言が得られた。それは黒っぽくてザクザクとした荒い砂粒、あるいは乾いた土の集まりで、俺のように均一に細かいサラッサラの砂とはかなり違っているそうだ。砂妖魔(サンドマン)とは本来、生まれた場所の土壌に左右されるものなんだろう。

 

 砂の塊はのそりのそりと畑の作物に寄って行くが、普通の砂は『風化』なんて恐ろしい能力は持っていないので、することと言えば覆い被さるのみ。しかも大抵そこで砂に戻る。背の低い芽や苗が埋まったまま放置されると日光が届かず枯れてしまうこともあるが、気付いたら砂を払い除けてしまえば済むらしい。

 

 俺が他の砂妖魔(サンドマン)を見たことのない程度には発生頻度は低いし、雨が降っただけで自然に還るし、作物の生育に問題が出そうなら掬い上げて畑から遠ざけるとリリナは言う。

 俺と同種だからあまり危険視してないんだろうけど、やはり雑魚モンスターとされているだけあって大した脅威ではなさそうなのが唯一の安心材料だ。

 きっと人間達からも、そこまで目の敵にされてるわけでは…………

 

「それでな、砂妖魔(サンドマン)のあんたには気を付けといて欲しいことがあるんだよ」

 

 え? まだあるの? 

 実は……と言いにくそうにヨウムが口を開く。

 

「辺境のガキ共の間じゃ……砂妖魔(サンドマン)を見付けたら踏んどけ、みたいな習慣があってだな」

「!?」

 

 サーチ&デストロイ!? 

 思ったよりも砂妖魔(サンドマン)の扱いが悪かった……! 

 

砂妖魔(サンドマン)ってそんなに嫌われてるの!?」

「嫌ってるとかじゃなくて……何つーか、砂妖魔(サンドマン)に危険はねぇから、ガキにも出来る仕事として……畑に何かされる前に、砂を崩しとけって教えられる感じだな……」

 

 ヨウムが気まずそうに目を逸らす。

 きっとヨウムもやったことがあるんだろうけど、まあそれはいい。

 

「ってことは俺も、砂のままでいたら踏まれる……?」

「あんたのことを知ってるヤツならそんな真似はしねぇとは思うが、一応用心しといた方がいいぜ……それに、もしもの場合、あんたを踏んだヤツの命も危ねぇからな」

「…………」

 

 皆ブチ切れそうだな……それは怖い。

 人間への好感度が下がるのは避けられないだろうし、俺もショックで心が瀕死になりそうなので踏まれたくない。まずは俺が危害を加えられないようにするのが一番か……? 

 

「お、教えてくれてありがとう! じゃあ俺は踏まれないように、なるべく人間の姿でいた方がいいってことだな……!」

「そりゃ人間の姿なら踏まれねぇだろうけど……あんたの場合は、その姿でも無駄に絡まれそうなんだよなぁ……」

 

 俺の人間形態(美少女)は、やはり人間にもウケが良いということらしい……ってどっちの姿でも揉め事を引き起こすリスクがあるって、何でこの世界は微妙に俺に厳しいんだよ! 

 

 

   ◇

 

 

「それじゃあリムルの旦那。行ってくるぜ」

 

 ヨウム達がテンペストを訪れてから、早くも数週間ほどが過ぎた。

 旅立ちの日、俺はレトラやシオン達と、町外れまでヨウム達を見送りに来ている。

 

 ハクロウの過酷な修行を潜り抜けたヨウム達は、英雄とその仲間達と呼ばれるに相応しい実力と風格を身に付けた。それに彼らの装備はどれもテンペスト産の上質な武具であり、特にヨウムのものはクロベエやガルムが製作した特質級(ユニーク)で、性能はもちろんのこと見た目も洗練された芸術品のようだ。

 

「おおお……ヨウム、すごく格好良い! どこから見ても英雄一行だ!」

 

 出発の準備を整えたヨウム達を前に、レトラが歓声を上げる。

 例のあの、目は口ほどに物を言うような、キラキラした視線を送りながら。

 

「おいおい、俺達を煽てて扱き使ってやろうって魂胆じゃねえだろうな?」

「本当だって! 皆、別人かってくらい格好良くなってるよ」

 

 レトラはずっとヨウム達の剣の修行に参加していて、彼らとはもうすっかり打ち解けていた。

 ヨウム達からすると、見た目子供のレトラが木刀片手にハクロウの扱きに平気で耐えて、ニコニコキラキラと自分達についてくるわけで、情けない所は見せられないと良い刺激になったはずだ。

 

 ただ、あまりにもレトラが日々ヨウム達にくっついていくため、一部ヤキモチを焼く者も出たほどだ。誰とは言わないが、「最近レトラがヤツらとばかり遊んでいるのだ!」と、俺に泣き付いてくるので機嫌を取るのが大変だった。自分も交ざりたいとか言っていたが、いやお前が加わったらヨウム達が死んでしまう。そこは俺が身体を張って、ミリムの相手を務めることにしていた。

 俺は大人なので、弟が新たな友人と付き合ってばかりいるからって文句を言ったりはしない。まあ少しは? いくら誘っても俺とは稽古したがらないくせに……とは、思わないこともなかったけどね? 

 

 ともかく、ヨウム達は見事に英雄一行として生まれ変わった。

 ヨウムはガラは悪いが話してみれば根は良いヤツだったし、元からなかなかのイケメンだったため、髪を切ってさっぱりとした今では英雄の出で立ちがよく似合っている。こうも劇的に成長してくれたのだから"英雄化計画"の発案者である俺も満足だった。

 

「いや本当に、見違えたな。これなら豚頭帝(オークロード)を倒したと言われても信じられるぞ」

「まあ……やってもいないことを盛りに盛って語られるのも気恥ずかしい話なんだが……」

 

 今ロンメルという若い魔法使いが、ヨウム達がオークロードを倒したという物語を報告するために、勇んでファルムスへ戻っている。ロンメルは強欲伯爵の所の下っ端魔法使いで調査団の監視役でもあったのだが、テンペストに来る前からヨウムの人柄に憧れて契約魔法を解いていて、ヨウムについていくことを決めていた。この辺にもヨウムのカリスマ性が表れていると言っていいだろう。

 

 これからヨウム達はテンペストを拠点として各地の村を回り、人々の安全を守りながら英雄としての名声を高めていく計画になっている。そして人間に協力的な魔物の国テンペストの宣伝をしてもらい、俺達と人間達の間で友好関係を結ぶための地盤を固めていこうというわけだ。

 

「よろしく頼むぞ、ヨウム君」

「これだけ世話になったからにはな。精々やってみるさ」

「英雄活動頑張って! 皆、気を付けて行ってらっしゃい!」

 

 そしてヨウム達は旅立って行った。まさかレトラが自分もついていきたいなんて言い出すわけないよな、と密かに心配していたのが、そんなことはなくて良かった。

 レトラがやけにヨウムに懐いていたのは、やっぱり人間だからだろうか? 

 シズさんやカバル達三人組に対しても、元人間だと名乗った俺にもレトラは最初から好意的だったし……いや、というかレトラがキラキラしない相手の方が珍しいんだよな……いやそれよりも、初対面からでもキラキラするのは一体何なんだ……よくわからないヤツだよな。

 

 

 




※弟には奇妙な習性がある


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