転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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39話 カリュブディス~復活

 

「ちょっとぉ、違うでしょ!? そっちに引き付けないとダメよぅ!」

「わーってるよ! おら、こっちに来やがれ!」

 

 わーぎゃーと騒がしく、カバル達が森の中を走り回る。

 その後ろを土煙を巻き上げながら追い掛けるのが、大きな牙と角を持った猪のような数匹の野生獣。前世で言う猪よりも五倍近く大きい。

 その一方、突進してくる猪達を躱し続けるカバルやギドの体力もなかなかすごい。伊達にいつも魔物に追い掛けられてるわけじゃないんだな……と、呑気に見守っていたら、荒れた地面に躓いてカバルが転んだ。猪の一体がカバルへと牙を向け、走り出す。

 

「カバルの旦那!」

「うわっ、ちょ、タンマタンマ……!」

 

 その近辺には、打ち合わせ通りに撒いておいた俺の砂がある。待機状態の砂を『砂操作』でスルリと移動させ──『風化』を発動。

 突然発生した砂のプールに足を取られた猪の突進が止まった。他の猪の誘導はギドが終わらせていて、広い場所に誘い出された三体が砂の罠に嵌まったのを見計らい、俺は一帯の砂を岩盤へと変質させる。沈み込んだ四つ足はガッチリと捕らえられ、もう動くことは出来ない。

 

「今ですぜ、姐さん!」

「行くわよぅ! 土石大魔弾(ストーンショット)!」

 

 エレンの魔力で強化された無数の土石弾が、猪達を襲う。槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)だと魔法耐性が高くて効かなかったという話だが、猪を仕留めるには余りある威力だった。

 俺と一緒にランガに乗っているミリムが、ご機嫌で手を叩く。

 

「わははは、やるなお前達! 大猟なのだ!」

 

 今日の俺はミリムに引っ張られ、カバル達三人組と狩りに来ていた。ミリムが獲物を探知し、カバルとギドが追い込んで、俺が足止め、そしてエレンの攻撃魔法という連携だ。

 

 ヨウム一行の滞在中、俺がミリムの相手をする時間は少し減っていたのだが……どうやらリムルが、俺はヨウム達を英雄に育てるための修行監督官なので邪魔しないようにとミリムを止めていてくれたらしい。当然そんな任務に就いた覚えはないが、その間ずっとミリムの我侭が控えめだったのは我慢してくれていたということなんだろう。良い子すぎる。

 ヨウム達が旅立ってからは待ちかねたと言うように遠慮がなくなり、俺の庵に泊まるようにまでなったのは、まあ仕方ないのかな。いいよ、砂枕くらいならやってやるよ……

 

「た、助かったー……ありがとなレトラさん、助けて貰っちまって」

「ううん。無事で良かったよ」

「今日もたくさん獲れましたねぇ! さっ、カバル、ギド、血抜きをお願いねぇ!」

「少しは休ませろよ! あいつらを誘導すんのに散々走り回ったんだぜ!?」

「お肉が美味しくなくなっちゃうわよぅ! ミリムちゃんもレトラさんも楽しみにしてるのに!」

「くっ、それを言われちゃあ……」

「やるしかないでやすね……」

 

 息を切らせた男二人が渋々と作業に取り掛かる。

 やはり熟練の冒険者だ、手際良く血抜きを済ませエレンの魔法で冷却し、猪を処理していく。

 ミリムは「あのステーキとかいうやつが食べたいのだ!」とはしゃぎ、現代っ子の俺には狩りの経験なんてあるわけないので、作業の様子を恐々と眺めるのみだ。

 

「俺も何か手伝えたらいいんだけど……そういうのしたことなくて」

「ああいや、何の何の! レトラさんのとこでは毎日世話になってるからなあ」

「あっしらもこのくらい働かなきゃ、申し訳ないでやんすよ」

 

 町が居心地良いので、気兼ねなく堪能するためにも仕事させて下さい! 

 ……という、相変わらず気持ち良いくらい善良で真っ直ぐな人達だった。世の中こういう人ばっかりだったら、世界平和とか結構簡単に実現しそうなんだけどな……

 

 ところでカバル達はずいぶん前から俺達に馴染んでいるけど、今回三人と一緒に来たブルムンド王国のギルドマスター、フューズもすっかり似たようなことになっていた。俺達が本当に人間の味方かどうか見極めると言いながら、毎日町を見て回り、温泉に浸かっては浴衣姿で寛ぎ、美味しいもの食べてお酒飲んで、今では完全に観光地で休暇を満喫するオッサンだ。

 いやまあフューズは、魔物の国が人間の敵でないなら友好関係を結ぶ方が互いのためになるという柔軟な考えの出来る人で、例の"ヨウム英雄化計画"についても、ヨウム達がオークロードを討伐したという噂を、ブルムンド側から周辺諸国に流してくれる手筈になっていた。既に知り合いの大臣や貴族への根回しも済ませているというあたり、有能な人物だ。

 

 閑話休題。

 狩りの成果を見せびらかすため、ミリムがリムルを呼びに行こうと言い出した辺りから、予感はしていた。その予感は当たり、森に現れた樹妖精(ドライアド)のトライアさんがリムルに告げる。

 

「盟主様、ご報告申し上げます──……暴風大妖渦(カリュブディス)が復活致しました」

 

 

 

 

 会議室にはすぐに幹部達が集められた。

 暴風大妖渦(カリュブディス)。過去に勇者により封印されたはずの災厄級魔物(カラミティモンスター)

『天空の支配者』という二つ名の通り、空を自在に泳ぎ回る巨大な鮫のようなヤツで、本能のまま殺戮を繰り返す暴君。知性がないため災厄級(カラミティ)とされているが、本来はその上の災禍級(ディザスター)、魔王にも匹敵する脅威だそうだ。

 

「彼の大妖はこの地を目指しております。我が姉トレイニーが足止めを行っておりますが、あまり長くは保ちません……至急、防衛態勢を整えて頂くべくお伝えに参りました」

 

 トライアさんは、トレイニーさんの妹の一人だ。砂妖魔(サンドマン)である上に『渇望者(カワクモノ)』を持つ俺は、トレイニーさんはともかく他の樹妖精(ドライアド)からは警戒される微妙な関係だったんだけど、最近はそれが少し改善されていた。

 ゼギオンとアピトが樹人族(トレント)の里で働くようになって少し経った頃、ゼギオン達に会いに行きたいとお願いした俺に、トレイニーさんは本当に里に話を付けて来てくれた。仲間達を説得してみせると言った通りの有言実行なお姉さん格好良い……そしてトライアさんやドリスさんに案内されて遊びに行ったし、少なくとも俺と三姉妹との間にはもうわだかまりなんてないのだ。たぶん。

 

暴風大妖渦(カリュブディス)は、ヴェルドラ様から漏れ出た魔素溜まりから発生した魔物であり、ヴェルドラ様の因子を持つ申し子と言えるでしょう。精神生命体であるため、肉体が滅びても屍などを依代に一定期間で復活するという性質を備えています」

 

 俺の依代は砂で良かったと思う。世間では砂妖魔(サンドマン)の扱いが多少悪かろうが、もし身体を得るために屍が必要なんて条件だったらと考えると……砂で良かった。

 他にもトライアさんは、カリュブディスが『超速再生』のスキルを持っていて、半端な攻撃ではすぐに回復してしまうこと、従えている空泳巨大鮫(メガロドン)という鮫型魔物の群れを含めた全ての個体が『魔力妨害』を持つという情報も教えてくれた。相手は空を飛んでいるのに、こちらの飛行魔法は妨害される。更に魔法や魔素媒体のスキルを用いた遠距離攻撃も、威力が減少してしまうというわけだ。

 

「厄介な相手だが、この国を目指してるって言うなら倒すしかないな」

 

 リムルの言葉で、暴風大妖渦(カリュブディス)の迎撃戦が決定した。

 町の住人達にはリムルが状況と方針の説明をし、森へ避難してもらうことになる。

 戦闘部隊としては侍大将のベニマルが総指揮官となり、翼で空を飛べるガビル隊、鉄壁のゲルド隊、ゴブタ達ゴブリンライダー隊。ソウエイの隠密部隊や、ハクロウ、シオン、ランガも戦力として心強い。

 

 …………

 国の危機に浮かれてちゃ駄目とはわかってるんだけど、皆の活躍は楽しみだよなぁ……俺は皆が格好良く戦ってるのを見るのが好きなんだ、それは仕方ないんだ…………

 人の疎らになっていく会議室で葛藤していると、ポヨンポヨンとリムルが机の上を寄ってきた。

 

「どうしたレトラ。不安なのか?」

「いやそれは全然」

「全然かよ」

 

 即答した俺に、リムルの呆れたツッコミが入る。

 スライムボディが思案がちにぷるんと揺れた。

 

「そういえばお前、オーク軍との戦いでも、余裕でキャッキャしてたもんな……」

 

 グサリと心に刺さるダメージ。

 ああ、俺やっぱりキャッキャしてましたか。そうですか。

 俺は今回のカリュブディス戦も勝てると思ってるし、皆の勇姿を見たいというのが本音だけど、それを表に出すのは不謹慎だよな……リムルからすると、俺はただ楽天的に勝利を信じ切ってるお花畑に見えるんだろう……これは頼る気になれませんわ……

 

「ごめんリムル、違うんだ……気を付ける。真面目にやるよ」

 

 今度こそ心を入れ替えてシリアスに……と奥歯を噛み締め、表情を固定させようと努力する俺に、変な顔になってるぞとリムルが噴き出す。ひどくない? 

 

「レトラ、お前はあんまり細かいこと気にしなくていいから、いつも通りにしてろよ」

「それ戦力外通告みたいで嫌なんだけど」

「違う違う。あー、つまりお前は、カリュブディスより俺達の方が強いって思ってるんだろ」

「思ってるよ」

 

 やはり即答する。そりゃ思ってるよ、実際にリムルや皆は強い。いくらカリュブディスが強敵でしぶとい相手でも、俺達が奴らと互角にやり合うだけの力を持っているのは間違いないのだ。それにちゃんとミリムもいるしな……俺が不安になる要素なんて一つもなかった。

 

「ほら、それだそれ」

「どれ?」

「魔物には感情が伝わりやすいらしいが、お前のキラキラしたのは特にそのまま伝わるんだ。無理して深刻そうにしてなくても、思ってることを素直に言った方が皆のためになると思うぞ?」

 

 と、そういうことらしいんだけど。

 リムルが時々言う、キラキラって何だろう……

 砂……の話はしてなかったし、何ていうか俺の……感情? いや、素直だってこと? 人間、真っ直ぐが美点だっていうのは俺も思ったよ? でもこの場合だと、俺が子供っぽいって意味になるんじゃ……? 

 

 

 

 

 カリュブディス迎撃戦の舞台に選ばれたのは、森の中を一直線に伸びる幅の広い街道。ゲルド達が工事中の、テンペストとドワルゴンを結ぶ交易路となる予定の道だ。

 リムルと俺が到着する頃には、戦闘参加する各部隊が集結していた。

 ミリムもついてきて、非常にやる気満々だったが……シュナやシオンの「友達だからと何でも頼ろうとするのは間違いです」という、反論の余地のない意見に負け、ミリムはしょんぼりと隅の方へ行ってしまった。少し可哀想だった。

 

 今回も、俺は出撃組に含まれている。

 リムルとこっそり話し合い、カリュブディスがヴェルドラの申し子なら、リムルの中にいるヴェルドラを目指しているのかも? そこまでではなくとも、ヴェルドラと所縁のあるリムルや俺が奴を呼び寄せているのでは? という疑念を否定する材料がなかったため、下手に分散しては危ないと俺も行くことになっていた。

 

 封印されていたカリュブディスを復活させたのは、あの"黒豹牙(コクヒョウガ)"フォビオだ。ミリムに圧倒され醜態を晒したことで恨みを募らせ、カリュブディスと同化して魔王級の力を手にし、フォビオはミリムに復讐しようとしている。

 もしかすると俺も多少はフォビオに恨まれているかもしれないが、フォビオはミリムをスルーして弱い方の俺に報復を考える臆病者ではない、やはり狙いはミリムだろう。

 

 それを暴き出すためには、カリュブディスにダメージを蓄積させることだ。そうすれば同化に歪みが生じ、リムルやミリムがカリュブディスの素体となったフォビオに気付く……つまり、原作通りの展開が必要だった。

 

 俺はまず、テンペストの一戦力として役立てるように頑張ろう。

 恐らくカリュブディス達の『魔力妨害』は俺にも影響を与えるはずで、対抗策は考えてきた。シュナお手製の戦闘衣装、あの白いローブも既に装備済み。ウィズに『造形再現』可能とお墨付きを頂いたので砂にして取り込んであり、いつでも着替えられるようになっていた。

 

 準備は万端。

 後は、もうすぐ上空に姿を現すだろう敵を待つだけだ。

 青いコート姿のリムルが皆へ向けて、「焦ることはない。落ち着いて、気楽にな」と声を掛けたので、空気がピリピリしているということもなかった。トップに余裕があるのって大事だな。

 隣に立って見ていた俺を、リムルがつつく。

 

「レトラ、お前も何か言え」

「何かって?」

「頑張れとか、皆のやる気が出そうなやつだ。お前が思ってることなら何でもいいよ」

 

 そんな急に振られても……そういうのは前もって言っといて欲しい。うーん、思ってることを素直にって……リムルにアドバイスされたしな……

 

「じゃあ一言だけ──俺は、皆が強くて頼りになるって知ってるし、カリュブディスにだって負けないと思ってる。くれぐれも無茶はしないで、勝って皆で町に帰ろう! 期待してるぞ!」

 

 なるべく士気を上げられるよう勢いを付け、俺はそう高らかに言い切った。

 一瞬の静けさの後、オオオオ……! と各部隊から上がる歓声。

 

 ほらな、と横でリムルが苦笑している。

 ちょっと気合入り過ぎだと思うけど……俺も役に立ったってことかな? 

 

 

 




※記録的な鼓舞効果を叩き出せるのが強み


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