ユニークスキル『変質者』と『
カリュブディスの魔核はちゃっかり捕食して、『大賢者』に解析して貰っているところだ。新たなスキルを手に入れたら、またレトラに分けてやらないとな。
そのレトラとミリムは、手術を行う俺の後ろでずっとうるさかったのだが…………まあいい、後でミリムに詳しく話を聞くとしようか。片手に蜂蜜でも用意しておけば、全て気前良く教えてくれるだろう。
ミリムの攻撃に巻き込まれないよう退避させていた皆が集まってきた。
回復薬で手当しておいたフォビオは、意識を取り戻して自分の仕出かした事態を把握すると、平身低頭の勢いで俺達に謝罪を始める。
事情を聞くうち、今回の黒幕と言える連中の存在が浮かび上がってきた。
中庸道化連という何でも屋の、仮面を被った道化達。ミリムへの報復を狙うフォビオに、そいつらがカリュブディスの封印を解く話を持ち掛けてきたのだそうだ。
その中のフットマンという怒った仮面の魔人はオーガの里襲撃の件に関わりがあり、他にも
「騒ぎも片付いたことだし、そろそろ帰るか。じゃあフォビオ、お前も気を付けて帰れよ」
「……はっ!? 待ってくれ、俺は許されないだろう!?」
駄目か。話は済んだと思ったんだけどな。
フォビオは利用されただけのようだし、こちらに被害は出なかったし、俺としてはもういい。今後は妙な奴らに騙されないよう慎重になってくれれば、フォビオに責任を取らせようという気はなかった。
「いいよな、ミリム?」
「うむ! 一発殴ってやろうと思っていたが、許してやるのだ」
……ほら、ミリムも快く水に流すと言っているし。
この話はこれで終わりということにして……
「カリオンもそれでいいだろう?」
「フン。やはり気付いていたか、ミリム」
ミリムが顔を向けた木陰から、大柄な男が姿を現した。
今まで全く気配を感じなかったが、そうか、こいつが。
「よう、俺様は魔王カリオン。そいつを殺さずに助けてくれたこと、礼を言うぜ」
魔王"
何とカリオンは自らの非を認め、俺達へ向けて謝罪を口にした。失態を犯した部下をわざわざ迎えに来たことといい、実直で器量の大きな人物であるようだ。
今回の件は一つ借りにしておくというカリオンの言葉に、俺は両国間での不可侵協定の締結を申し込む。カリオンはその場であっさり承諾し、魔国連邦と獣王国ユーラザニアの間で盟約が結ばれた。
詳しいことは今度使者を送ると言い、カリオンはケジメか何かの拳をフォビオに一撃見舞った後、瀕死の重傷に逆戻りしたフォビオを担いで転移魔法で去って行った。
カリュブディスとの戦いは終わった。
ドワルゴンから駆け付けてくれた
数日が経ち、フューズやカバル達もブルムンド王国へと帰って行った。
ウチとしてはブルムンド王国とも友誼を結びたいし、王国までの街道整備もこちらで請け負うつもりである。フューズとの間では既に関税や特産品の売買に関する人材の斡旋依頼まで話が進んでいて、少々気が早いかとも思ったが、フューズは王や貴族達の説得には自信があるようだ。あの悪い顔を見るに、任せておいて大丈夫だろう。
そして、獣王国ユーラザニアから改めてやって来たのはフォビオ。
自ら使者に志願したというフォビオは、今度は慇懃な物腰で任務を遂行した。
カリオンからの書状には、テンペストとユーラザニアの間で互いに使節団を派遣しようという内容が記されており、願ってもない提案に俺はすぐに同意の返事をする。
他国との交流が増え、どんどんと国家らしくなってきたな。
「わははは! リムルもレトラも、なかなかいいぞ! 掛かってくるがいい、返り討ちにしてやるのだ!」
「魔王の台詞が似合いすぎる……!」
ようやくレトラは俺達と一緒に稽古をするようになっていた。いや、俺は何も言っていないんだけどね。断られ続けて俺のメンタルが折れかけていたところ、ミリムがレトラを誘い出してくれたのだ。
以前からレトラは、俺より弱いということを引け目に感じている節があった。兄としては、そう簡単に弟に追い抜かれるわけにはいかないプライドがあるのだが……所詮は二人揃ってミリムにボコボコにされる程度の力量なのだし、そう気にするほどのことではないと思う。
ところで、ミリムには約束通り武器をプレゼントした。竜の手と爪を模した、ドラゴンナックルだ。"減速"と"脱力"の〈刻印魔法〉を施した魔鋼を忍ばせていて、殴る威力を十分の一ほどに抑えてくれる。強力なパンチを放って拳を痛めないようにという名目の、攻撃力低下装備だった。
「どうだレトラ、リムルがくれたのだ! ドラゴンナックルだぞ!」
「おっ、いいな。似合ってるよ、可愛い」
ナックルの見た目が竜の着ぐるみ手袋のようなので、ミリムが着けると確かに可愛らしい。
ミリムは自分専用の武器に大いに喜び、それから片時も離さずに着用している。戦闘訓練でも着けてくれているので助かるが、それでも俺達はこのザマだ。最古の魔王の一柱だというミリムの実力がどれほどのものであるかを再認識させられる。敵じゃなくて良かった。
今日も町外れでミリムを相手に特訓を繰り広げた後、木陰で休憩する。
三人でシュナお手製の弁当を味わい、ご機嫌のミリムが「本当に魔王になる気はないのか?」と聞いてくるが、ならないって言ってるだろ。ミリムも毎度毎度、諦めないな。
「ミリムは何で魔王になったんだ?」
「そうだな、何でだろ? 何か嫌なことがあって……ムシャクシャしてなった?」
「俺に聞かれても……」
だが嫌な思い出があると言うなら、これ以上の詮索は野暮だろう。
その代わり、俺は気になっていたことをミリムに尋ねた。ミリムはずっとここに滞在しているが、誰かに連絡しなくていいのか、心配している人はいないのかと。ミリムはあっけらかんとして、自分の世話をする者達はいるが心配している者はいないと答える。
「ワタシはサイキョーなので、心配すら畏れ多いと思われているのだぞ」
「そういうこともあるんだ……俺は四六時中皆に心配されてるけど」
寝そべるランガに凭れ掛かって、レトラが呟く。
本当にな。レトラは俺に次いでこの国二番手の強者であり、レトラを弱いなどとは誰一人思っていないのに、皆がこぞってレトラを心配するのは何故なんだろう。かく言う俺も、レトラが強いのはわかっているんだが……やはり、どうしてもな……
「あ、それじゃ、俺がミリムの心配するよ」
「レトラはワタシが心配か? お前より強くてもか?」
「うん、俺より強くても。ミリムは大事な
な、とレトラが俺に顔を向けてきたので、頷いて返す。
……そうだな、最強の魔王だろうと何だろうと、危なっかしくて心配せずにはいられない。心配する理由なんてもんは、そいつが大事だからってだけで充分なんだろう。
きょとんとしたミリムに、レトラがにっと笑い掛けた。
「嬉しくない?」
「嬉しいな! ワタシの友はお前達だけなのだ!」
その様子が微笑ましくて、つい親戚の子供にするようにミリムの頭を撫でてしまったが、これからも宜しくなと言った俺に、勿論なのだ! とミリムは弾けるような笑顔で答えてくれたのだった。
そんなミリムが、仕事に行ってくるとテンペストを飛び出して行ったのは数日後のこと。他の魔王達との会談があるらしく、俺達に手出ししないよう言い聞かせておいてくれると言う。
騙されないように気を付けろという俺達の忠告に、ミリムは大丈夫だと笑いながら
あれだけ騒がしかった奴が急にいなくなって少しばかり寂しさもあるが、ミリムは仕事が終わったら帰ってくると言っていたし、しんみりしてはいられない。今後の国交準備の他にも、訓練、強化にも力を入れていかなければな。
「で、早速お前に分身体を喰って貰おうと呼んだわけなんだが」
「やっぱり来た! それ!」
俺の庵へ呼び出したレトラに、カリュブディスから得たスキルの解析結果を伝え、本題を切り出した途端にこれだよ。わっと顔を覆って嘆くポーズ。
「お前、本当に俺を喰うの嫌いだよな」
「リムルは何で俺に自分を喰わせるのが趣味なの……」
人聞きの悪いヤツめ。それが一番効率の良い手段なんだよ。
取り乱していたレトラだが、少ししてふうと気を落ち着けると、打って変わってニヤリと笑う。
「でも! 今回はリムルを喰う必要なんてないんだよ。俺もメガロドンを『吸収』したからな、『魔力妨害』と『重力操作』ならバッチリ獲得してるし」
ほう、そうきたか。メガロドンも『魔力妨害』の影響下で空を飛んでいたし、『重力操作』を持っていても不思議じゃないよな。
得意気な顔をしているレトラに、それじゃあと俺は切り込む。
「『魔力操作』は?」
「え?」
「ウチの『大賢者』先生がな、『魔力妨害』と『分子操作』を統合して『魔力操作』にしてくれたんだ。このスキルは便利だぞ、お前の方ではどうだ? 出来たか?」
「そ、それはまだ……」
フッ、そうだろうな。これはシズさんから受け継いだ『変質者』あっての『統合』だ。レトラに『
「でも、だったら、『魔力妨害』と『分子操作』を併用すれば同じ効果が出るんだろ? 使っていけばそのうち『魔力操作』も獲得出来るんじゃないかな……」
「そのうちじゃ駄目だ。というか俺は、ガビル達が
「……『受容』と『供給』」
「ん?」
「前に教えてくれた『
「良い指摘だな、だが惜しい。『大賢者』……レトラの言ったことは可能か?」
《解。個体名:レトラ=テンペストとの魂の接続は、解析が不充分のため不完全な状態です。よって、『受容』及び『供給』は実行不可能です》
「な……!?」
思念リンクで、レトラに『大賢者』の回答を聞かせてやった。
「えっ待って? 俺とリムルって、魂の繋がりが不完全なの? それ何気にショックなんだけど」
「俺もだよ。まあ細かく言うと、繋がり自体はあっても、スキルの行き来をさせられるほどの接続が出来てないらしいな。ヴェルドラも封印されたままだし、そんなもんなんだろ」
「そうだったのか……」
「だから諦めて喰え。というかお前の魔素も増やしてやりたいし、絶対喰わせるからな」
「っぐううう……!」
舌戦は俺の勝利に終わった。
レトラだって強くなりたいのだし、俺もレトラを強くしたい。決してズルではない。強くなれなければ命に関わる世界でその方法を取らず、後で取り返しの付かない事態になる方が間違っている。
「わかったよ、喰いますよ……喰えばいいんだろ……」
「やさぐれるな。で、お前、言ってたよな? 俺の渡す魔素が多過ぎて消滅しかけたとか」
「ああ、魔素が急に増えるのは危険らしくて……ほら、どの世界でもドーピングは良くないんだよ」
「あーあー聞こえない。前は一週間くらいだったよな……じゃあ今度は二週間……いや、大事を取って一ヶ月くらい掛けてゆっくりやるか?」
「ごめん俺そんな長期間耐えられない発狂する」
「また大袈裟な」
「ほんとむり俺しぬ、やだ」
青褪めた顔でめちゃくちゃに嫌がられた。
まあ、前回レトラは本当に調子を崩していたようだし、また同じことが起こっては困る。一週間を目安として、魔素を少なめにした分身体を与えてレトラの様子を見ることにした。
その夜、薄暗い寝室にて。
足を崩して座る分身体に近付いたレトラが、壊れ物でも扱うような柔らかな動作でその肩に手を添え、敷かれた布団の上にゆっくりと横たえる。砂を零しながら覆い被さった細い身体は、全てを飲み込もうとするように、分身体にするり、するりと寄り添って…………
俺の分身体を喰うレトラは相変わらず──いや、気のせい気のせい。すべらかなレトラの感触を想起して、こっちまで罪の意識に襲われそうになんてなっていない。
分身体を布団の上に待機させたのは失敗だったかもしれないとか、今まで何となく作り続けてきた人型の分身体がマズイのではとか、反省点は色々とあるのだが……
肝心のレトラは俺を喰うこと自体の後ろめたさで頭がいっぱいらしく、事に及ぶ前に思い詰めた顔をして「集中……集中……速攻……」と呟くのみだった。この光景のそこはかとない妖しさをレトラが気にしていないなら、敢えて突っ込むべきではない。
これはレトラに必要な強化なのだから、深く考えたら負けだ。
※ミリムで良い感じに終われば良かったのに、後半で台無し
※今回の欲求問題は控えめです。42.5話でサラッと、ソウエイと話し合い。
名前:レトラ=テンペスト
種族:
加護:暴風の紋章
称号:"魔物達の守護者"
魔法:なし
ユニークスキル:
『
エクストラスキル:
『砂憑依』『魔力感知』『多重結界』
『影移動』『分身体』『黒雷』『黒炎』
『魔力操作』『重力操作』『粘鋼糸』
『剛力』『身体強化』『音波感知』
『超嗅覚』『熱源感知』
コモンスキル:
『威圧』『思念伝達』『身体装甲』
『毒霧吐息』『麻痺吐息』
耐性:
痛覚無効、熱変動無効、腐食無効、捕食無効
物理攻撃耐性、魔法耐性、電流耐性、麻痺耐性