転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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44話 使節団交流①

 

 獣王国ユーラザニアへの使節団は、皆に見送られながら出発した。

 使節団は俺の片腕であるベニマルを団長に、補佐にはリグル、その他幹部候補となるホブゴブリン等で構成され、大いに見聞を広めて帰ってきてくれるだろう。何かあった時のためにランガをベニマルの影に潜ませているし、こちらから喧嘩を仕掛けたりしない限りは大丈夫のはずだ。

 

 次はユーラザニアからの使節団の受け入れ準備。

 先日、政治の中心部となる執務館が町の北側に建設された。町を作り始めた頃から計画されていたのだが、国が興ったり他国との交流が始まったりで、構想は何度も練り直された。そこは王宮という意味も持つことになるため、優美な造りの宮殿にしなければならない……というのが元ドワルゴン大臣ベスターや、王宮に仕えた経験のあるカイジン達の意見だったからだ。

 

 そんな声を取り入れながら、俺がイメージしていたホワイトハウス風の外観をベースに、ようやく建物が完成した。広々とした緑の庭の中に悠然と佇む白亜の城には、執務館としての落ち着いた威厳が感じられる。そして気品あるシルエットを作り出す塔と屋根、バルコニーの曲線、壁面や柱に施された彫刻などが、王宮としての美しさを引き立てていた。

 当初はあまり執務館の外見に拘っていなかった俺でも納得の、他国にも決して引けを取らないだろう瀟洒な建造物となったのだ。

 

 ちなみにその美しい中枢宮殿は、"宝宮レトラ"と名付けられた。会議ではレトラが一人だけ愕然としていたが知らん。町に"中央都市リムル"と名付けられた俺の気持ちを少しは味わうといい。

 

 高級ホテルのような迎賓館も新築したので、そちらで客人達を接待し宿泊して貰うことになる。接客の作法についても皆に学ばせているし、シュナの弟子達も料理の腕前を上げており、人材育成も順調だ。そうして準備を整えながら、俺達は使節団の到着に備えたのだった。

 

 

 

 

 使節団到着の日。

 青白い雷を纏った白雷虎(サンダータイガー)の引く虎車が、町の外で待っていた俺達の前で停まる。

 中からは二人の女性が降りてきた。ユーラザニアから使節団を率いてやって来たのは"黄蛇角(オウダカク)"のアルビスと"白虎爪(ビャッコソウ)"のスフィア。ここに、今回は来ていないが以前使者を務めた"黒豹牙(コクヒョウガ)"フォビオを加えた三人が、魔王カリオンの三獣士と呼ばれる最高幹部なのだ。

 

「弱小なるスライムが盟主だと? 馬鹿にしてんのか!?」

「控えなさいスフィア。カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」

「うるさいぞアルビス、オレに命令するな!」

 

 そして早速の喧嘩腰である。

 俺への暴言に、俺を抱えたシオンや配下達の気配がザワリと不穏なものへ変化する。くれぐれも揉め事を起こさないようにと言い聞かせてあるので暴走はしないと思うが……

 レトラだけはアルビスとスフィア、どちらに対してもキラキラとしていた。以前から俺が見くびられることがあっても、「リムルが強いって知らないうちは仕方ないだろ?」とケロリとしているレトラだが、この場面でもあのキラキラは健在らしい。こいつが人を見分ける基準は何なんだろう……本当に謎だ。

 

「矮小で小賢しく卑怯な人間共とつるむなど、魔物の風上にも置けねぇ」

 

 白髪に猫の瞳、虎のような獰猛な雰囲気を持つ魔人スフィアが、憎々しげに吐き捨てる。

 数日前に町へ帰って来たヨウム一行にも使節団の出迎えに参加して貰っていたのだが、それが裏目に出てしまったようだ。

 ヨウム達は俺達の国交に悪影響が出ないようにと、反応せず我慢してくれていた。喧嘩を吹っ掛けるなと忠告したのは俺なのだが、いかん、俺の方が我慢出来なくなってきた。

 

「なあヨウム、ちょっと実力を見せてやったらどうだ?」

「リムルの旦那……平和的にいくんじゃなかったのかよ?」

 

 向こうが仕掛けてくるなら話は別、ということにしておこう。少し気になることもあるしな。

 しょうがねえなあ、とヨウムはやる気充分に愛用の斬竜剛刀(ドラゴンスレイヤー)を抜いた。

 

「ヨウムの頭! やっちゃってくださいよ!」

「舐められたままじゃ格好つかねぇ、お願いしますぜ!」

「ヨウム! 頑張れー!」

「おう、まあ見てろお前ら。レトラさんもな」

 

 いきり立つヨウムの手下に交ざって、能天気な声援を上げるレトラだけ空気がおかしい。相変わらずヨウムに懐きまくっているようだが、もういいよ好きにやってろ。

 

「ほう? いいぞ人間、なかなかの気概だ。だが気に入らねぇな、周りの連中に任せて高みの見物とは良い御身分じゃねぇか。あんたはやらねぇのか──なあ、砂の姫様?」

 

 ……………………

 その場が静まり返った。今、スフィアは何て…………? 

 

「……え!? 俺!?」

 

 かなりの間が空いた後、レトラが叫んだ。

 俺も一瞬誰のことかわからなかったが、砂と言ったらレトラで間違いない。

 

「姫じゃないんですけど……」

「どっちでもいい。盟主の弟だか何だか知らねぇが、さっきから兄貴やお仲間が馬鹿にされてもヘラヘラとしやがって……誇りはねぇのか? 腰抜けじゃねえってんなら、オレに力を示してみせろ!」

 

 あーほら……あんまり一人だけ緊張感ないから、向こうさんに目を付けられたじゃないか。お前は気楽にしてればいいってレトラに言ったヤツがいたようだけど、それも時と場合によるだろうな、うん。

 しかしまずいことになってきた。恐らくだが、スフィアの攻撃的な態度は俺達を試してのものだ。どうもユーラザニアは体育会系揃いのようだし、ここまで言われても黙っているようなら国交を結ぶ価値なしとされてしまう可能性がある。この挑発は受けなければならない。

 

「冗談ではありません! レトラ様への無礼は、この私が断じて許さ──」

「いいよ。俺が相手だ」

 

 俺をシュナに渡して今にも飛び出さんばかりだったシオンを制し、レトラが進み出た。

 やはりレトラは冷静だ。挑発に乗せられるような性格はしていないし、本心では別に戦いたくもないだろう。だがレトラは、状況を正しく把握しやるべきことを見定める判断力を持っている。多少の浮かれ癖があっても、レトラは出来る奴なのだ。

 

「おい、レトラさん……大丈夫かよ?」

「本当はヨウムが戦うところを見たかったんだけど……御指名なら、俺が行くよ」

「で、ですがレトラ様……!」

「そういうことだ、大人しく見ていろ鬼人!」

 

 悔しそうな形相で、シオンが歯を食い縛る。

 ヨウムや、リグルドにシュナ……だけではなくヨウムの手下達もレトラを心配してか、皆一様に緊迫した面持ちだが、こうなってはもうレトラに出て貰うしかない。

 

「よし、レトラ。存分にやって来い」

「了解」

 

 動揺の一つも見せず、レトラはサラサラと砂を零し始めた。

 カッターシャツの首元にスカーフを巻いた軽装の腰に、剣帯で吊るされた麗剣(ドレスソード)が現れる。砂で形作られた、世にも美しい剣身が抜き放たれた。

 アルビスによって、ヨウムの戦いの相手にグルーシスという魔人が指名される傍ら──

 

「面白い! このオレ、"白虎爪(ビャッコソウ)"のスフィアを楽しませてみろ!」

 

 戦闘は始まっていた。

 二つ名からしてもそれが得意な武器なのだろう、スフィアの両手の爪が伸び、雷を帯びて放電しながらレトラに襲い掛かる。

 対するレトラは、強化した麗剣で爪の斬撃を次々と打ち払っていく。獣人の腕力、身のこなしから繰り出される攻撃にも、スキルと〈気闘法〉で身体能力を上げて渡り合い、『電流耐性』のお陰で雷ダメージも受けてはいない。

 

 手数ではスフィアが勝るはずだが、間合いならばレトラに分があった。

 レトラは鋭く攻撃を弾くと同時にスフィアの重心を僅かにずらして二爪の連携を抑え込みつつ、機動力を活かして優位な距離を保ち続ける。防御に回りながらも相手にペースを掴ませることなく、どんな斬り込みにも自在に対応するという堅い守りを展開していた。

 

 その度にスフィアは楽しそうに舌なめずりしては、地を蹴ってレトラを追う。

 レトラの剣捌きを掻い潜りたいのならもう少し慎重に攻めても良さそうなものだが、スフィアには全く気にした様子がない。まるで、この応酬そのものを楽しんでいるように……

 やがて、大きく飛び退いたスフィアが上機嫌に笑い出した。

 

「はーっはっは、オレの動きについてこられるとはな! それなら今度はお前の番だ、最大の一撃を叩き込んでこい! オレが凌ぎ切ってやる!」

 

 んぐ、とレトラが言葉を詰まらせた、ような気配を感じた。

 うん……そうだな。何たって、レトラの最大の一撃と言えば『風化』だ。

 本当は、あの砂の剣での攻撃には『風化』効果を乗せられるのだが……まさか客人相手にそんな真似は出来ない。砂にするわけにはいかないとすれば、決め手に欠けてしまう。

 …………頑張れレトラ。何とか面目の立ちそうな、派手なやつを頼む! 

 

「じゃあ……これを受けてみる?」

 

 レトラが微笑んだ。掲げた麗剣(ドレスソード)が、燃え上がる炎に包まれる。

 あれは俺が……というか『大賢者』がオークロード戦で使用した、『黒炎』を纏わせた剣か? 

 しかしその炎は黒くなく、麗剣は煌々とした琥珀色の炎を迸らせ、白く灼けつくような輝きを放っている。ちょっと格好良いなと思ってしまった。

 元々『黒炎』は複数のスキル効果が統合されて生まれたもので、『炎化』で魔素を直接炎へと変換し『分子操作』で温度や範囲を調節する、という制御が行われている。その仕組みを理解していれば、炎の発生過程でアレンジを加えることは不可能ではないはずだが、器用な奴だな。

 

「はは……ははは! こいつはいい、予想以上だ! 来い、本能を解き放て!」

 

 周りの獣人達からどよめきが漏れる中、スフィアは瞳をギラつかせ、全身に妖気を漲らせながら構えを取った。本当に戦闘狂であるらしい。それはいいんだが、あの炎の剣は手加減しないと危険だろう……って、レトラはあれをどうやって手加減するつもりなんだ……? 

 

「それまで!」

 

 響き渡ったのは、戦いの終わりを告げる声。

 三獣士が一人、"黄蛇角(オウダカク)"のアルビス。金と黒のまだら髪の美女が、美しい女性の上半身はそのままに下半身が大蛇という『獣身化』した姿で錫杖を構え、戦いに割って入ったのだった。

 

 

 

 アルビスの制止に、ヨウムの斬竜剛刀(ドラゴンスレイヤー)に両手のナイフで応戦していたグルーシスが動きを止める。ヨウムは突然の中断に困惑していたが、俺がもういいと合図したことで剣を下ろした。

 スフィアも正気に戻ったようで、意気揚々と拳を突き上げると、配下の獣人達へ向けて力強く宣言する。

 

「見たかお前ら! 彼らは強く、度胸もある。我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ!」

 

 やはり俺達は試されていた。

 獣人達と見事な戦いを繰り広げたレトラやヨウムの活躍で、俺達は認められたのだ。

 

「スフィア様の言われる通りだ。獣人とこれだけやり合える人間は滅多にいない」

「嬉しいね」

 

 グルーシスとヨウムが握手を交わす。

 レトラはもう何の未練もなさそうにあっさりと剣を消していて、これ以上の戦闘は御免だと言わんばかりだ。すまんなレトラ、成り行きとは言え腕試しに駆り出してしまって……

 これで一件落着──とはならなかった。

 

「す、すみませんリムル様……コレどうしましょう?」

「シオン?」

 

 シオンの周りにバチバチと生み出された力場。

 俺やレトラを馬鹿にされた上、黙って見ていろとまで言われた屈辱の余り、怒りを募らせ過ぎてしまったようだ。もう引っ込めることも出来ない規模まで膨れ上がった妖気は暴発寸前だった。

 慄いたアルビスやスフィアがその場から遠ざかり、ソウエイも冷静に避難を促してくる。いやいや、このままにしてはおけないだろ……

 

「しょうがねーなシオンは……魔力弾にして撃ってこい」

「リ、リムル様……」

「大丈夫。俺を信じろ」

 

 スライムから人型になり、俺はシオンの前へ立つ。

 はい! と安堵した顔で答えたシオンが極大の魔力弾を解き放ち、それは俺のユニークスキル『暴食者(グラトニー)』によって喰われ、跡形もなく消滅した。世話の焼ける秘書だよ、まったく。

 

 

 




※年内最後の更新です。どうぞ良いお年を。


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