転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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46話 報告会と会議

 

 使節団の滞在期間が過ぎ、アルビスやスフィアはユーラザニアへと帰っていった。

 その数日後には、テンペストから派遣していたベニマル達も帰ってきた。

 

 リムル達と一緒にテーブルに着き、報告を聞く。

 まずベニマルは軍事面での視察を重点的に行ってきたそうで、獣王戦士団や兵士達の能力は高く、ユーラザニアとの戦争を回避したのは正しい判断だったという結論に落ち着いていた。

 で、原作通りならカリオンに挑戦してコテンパンにされてきたんだよな……リムルが聞いたら顔を青くするだろうけど大丈夫だ。ユーラザニアでは一度拳を交えるのが正式な外交に違いないから、ベニマルはむしろ百点満点の働きをしたはず……そういうことにしておこう。

 

 リグルからは文化、技術面での視察報告がされた。

 テーブルにはユーラザニアからのお土産として、切り分けられた果物が並べられている。林檎甘っ! 前世でもそうそう食べたことのない甘さだ、甘味の少ないこの世界では高級な嗜好品だろう。人型になったリムルも果物を味見して、その質の高さに驚いている。

 

「これは美味いな。実はもう、ユーラザニアとの間では取引の話が進んでるんだ。特産の果物を回して貰い、それを原料に作ったブランデーを渡すという約束でな。品質を確かめながら細かいところを詰めていく予定だったが、この分なら良い取引が出来そうだ」

「そうでしたか、既にそこまで……流石はリムル様、ご慧眼です」

 

 宴会で振る舞ったテンペスト産の酒はアルビス達に絶賛され、そのまま酒の席で交渉が行われたくらいだった。コボルトの商人コビーが取引の責任者にされて慌てていたが、結局は大仕事を任されたと張り切っていたし、話はうまくまとまるだろう。

 あ、そういえば最近リムルが砂糖の精製に成功したので、少しずつ砂糖が食事の味付けに使われるようになっている。お菓子となるとまだまだ開発は進んでないんだけど……モドキでいいからそのうちアップルパイが食べたいな。夢が膨らむ。

 

「ユーラザニアには広大な田畑が広がり、様々な農作物の実りを維持管理する技術には目を見張るものがありました。我が国でもその技術を取り入れることが出来たらと」

「それなら、管理部門から次回の使節団に加わる者を選出させよう」

 

 使節団派遣は第二回以降の計画が進められていて、互いに技術を学び合おうという話も出ていた。この前来た使節団の魔人数名は早速テンペストに残り、リムルの許可の下、ドワーフ達やクロベエの工房、建設現場などで熱心に勉強中だ。

 フォビオの部下である猿の獣人エンリオや、狼の獣人グルーシスも町に滞在を続けている。特にグルーシスはリムルの役に立つようにとフォビオに言い付けられたらしく、警備隊に参加してくれていた。ゴブタやヨウム達と一緒にハクロウの修行を受けているので俺とも面識が増え、結構仲良く過ごしている。

 

「今回の視察は、双方にとって有意義なものになったようだな」

「はい、良い経験になりました」

 

 リムル達が真面目に話す横で、俺やシオンは果物を味わいながら静かに聞いていた。シオンはマンゴーの甘さに感激するのに忙しいようだけど……まあ、ぶっちゃけ話の内容については大体わかっているし、そこから大きく外れた事態になっていなければそれでいい。

 テンペストと獣王国ユーラザニアは、これからも友人として良好な関係を築いていけそうだな。

 

 ただしフォビオ、お前はダメだ。

 俺にまさかの姫様疑惑が掛かることになった発端の人物である。フォビオはリグルドをぶん殴ることなく終わったから、俺はフォビオに対しては何の恨みもなかったんだけど、こんなことになるとはなぁ……次に会ったら問い詰めてやるから、覚えとけよ……! 

 メロンを一切れモグモグしつつ(これも甘くて美味い)、遠い国のフォビオに物騒な思いを馳せていると、ふとベニマルが俺に顔を向けて笑った。

 

「そうだレトラ様、ユーラザニアへ行きたがっていましたよね。今はまだ色々とお忙しい時期でしょうが、リムル様のお許しがあれば問題ないと思いますよ」

「あ、本当? じゃあ俺もそのうち……」

 

 ──タァン! 

 と、硬い音が鳴った。テーブルに湯飲みが叩き付けられ…………いや、置かれた音だ。

 お盆からお茶を配って回るシュナが、聖母のように微笑んでいる。

 

「あらお兄様、レトラ様はユーラザニアへはお行きになりませんよ?」

「は?」

「そうですよレトラ様! 行ってはダメです! 取って食われてしまいます!」

 

 隣の席から、シオンが俺に縋り付くように必死に訴えてくる。涙目にまでになって。

 更には反対側のリムルが、真剣な表情をしながら俺の肩をぽんと叩いた。

 

「レトラ……悪いことは言わん、ほとぼりが冷めるまではな……? ユーラザニアに遊びに行けるとしても当分先になるだろうから、しばらくは大人しくしてろ」

「…………」

 

 俺はテーブルに突っ伏して頭を抱えた。

 そうだった。ちょっと予想から外れた事態はもう起きていた……

 ユーラザニア使節団との腕試しを経て、俺はスフィアに気に入られてしまったらしく、今度ユーラザニアに遊びに来いと誘われたりしたんだが……どうやら皆はそれを不満に思っているようだ。え、俺そんなにスフィアにデレデレしてた?してないけど?

 

 あの時、宴の後半ではシオンがスフィアに飲み比べを申し込み、泥酔しながら笑い合っていたのを見たし、シュナやアルビスも一緒に女子会のような酒盛りが開かれていたから、良かった仲良くやってるなと俺は安心していたのに……しょうもないことに巻き込んでごめんなスフィア……

 

「じゃあ、俺の参加はひとまず未定で……ベニマル、リグル、今度ユーラザニアの話聞かせて」

「え、ええ……喜んで」

 

 ベニマルとリグルは一体何が起こったのかと唖然としていたが、聞かないでください。

 こっちからフォビオの所へ乗り込んで行った方が早い、とか考えてる場合じゃなかった。またフォビオがテンペストに来るまで待ってよう……いつ来るんだったかな? 

 

 

 

 

 リムルのドワルゴン行きの日もそろそろだ。

 秘書として付き添うシオン、シュナの他にも、ドワルゴンを故郷に持つカイジン、ガルム、ドルド、ミルドも行くことになっている。ベスターは、研究の成果が出ないままではガゼル王に顔向け出来ません! ということで町に残るそうだ。本人が納得出来ていないなら、里帰りは次の機会でもいいだろう。

 

 俺はリムルがいない間の国主代理に任命されたので、ここ最近はリムルから引き継ぎやアドバイスを受けてきたし、今日は留守番組の役割分担に関する会議が行われていた。

 集まった幹部の面々を見回しながら、リムルが俺に言う。

 

「シオンもシュナも、しばらくいなくなるからな。レトラ、誰かに秘書をやってもらうか?」

「事務連絡はリグルドに担当してもらおうと思ってるよ」

「は! 承りましたぞ、レトラ様」

 

 それにリムルに『大賢者』がいるように、俺には『言承者(コタエルモノ)』のウィズがいる。まさに頼れる秘書だ。リムルも知っていることなので、まあ大丈夫かと納得してくれた。

 

「だがシオンは護衛役も兼ねてる。代理だろうと国のトップを務めるなら、護衛を付けるのは義務だぞ?」

「なるほど……じゃあソウエイ」

「はっ」

「分身体を一体、俺の影に待機させておいてくれる? 勤務中は常に護衛を頼むよ」

「拝命致します」

 

 俺から護衛に張り付けと言うのは珍しいからか、ソウエイは言葉少なだが気合充分である。

 文句ありげなのはベニマルだった。

 

「俺がレトラ様の護衛をするつもりだったんですが……」

「ベニマルにも俺並みに働いてもらうからね。軍事、警備、諜報部門で連携して、町の治安維持は任せたよ。あ、もし側近の同行が必要になったらベニマルに頼むと思うからよろしく」

「側近……良い響きですね。了解しました」

 

 分担は俺の好きなように割り振っていいと言われたのでそうしているが、話はスムーズにまとまっていき、トントン拍子で進む会議にリムルも満足そうだ。リムルは自分が口を挟まなくても周りがうまく動いてやってくれるという組織作りを目指してるしな。

 

「レトラ、俺の留守中は思念リンクを繋げられないから、情報群の管理はお前に一任することになる。一人で全て処理するのは大変かもしれないが……」

「ああ、任せて。問題ないよ」

 

 それはリムルと俺の頭の中にのみ存在し、思念リンクによって共有される、国家運営における全情報を網羅し常時稼働、更新されるデータベースだ。俺が国相としてリムルを手伝うようになってから、こういうのがあれば状況把握に便利だろうと二人で作ったものだった。

 

 仮想空間上に首都リムルの町並みから路地、建設中の建物、街路樹に至るまで、そして魔国だけでなくジュラの大森林の内外を含めた地理地形、集落、国家などが知り得る限りモデリングされ、それぞれの箇所には報告や視察で得た情報が過去分から全て蓄積されており、あらゆるデータを連携させて多角的視点から参照可能という、バーチャル3Dデータベース。

 

 これを頭の中だけで構築し記憶している、というのだから『大賢者』や『言承者(コタエルモノ)』の支え無しには成立しない、無茶苦茶な荒技である。情報量が多すぎて俺達にしか扱えないが、ここから適宜必要な情報を抜粋したり試算を行ったりそれらを会議資料に使ったりと、恐ろしく役に立つ画期的な情報運用だった。

 

「頼んだぞ。留守の間は俺の執務室を使っていいからな」

「国主代理、って机のプレート作ろうかな!」

「好きにしてくれ」

 

 執務館には俺の仕事部屋も用意されているが、リムルの部屋に移って仕事をする予定だ。何やかんやで俺も結構、リムルがいない間のことを任されるのが楽しみになっている。

 

「いいかレトラ、くれぐれも張り切り過ぎるなよ?」

 

 引き継ぎの間からずっと、リムルは頑張るな頑張るなとそればかり言っている。

 お前は手を抜くくらいでちょうどいいとか、お前なら少しくらいサボっても許されるとか、何でそう俺を甘やかす方向に話を持って行きたがるんだ……

 

「国主とは言うが一人で全てをやるのは無理だし、やってはいけないんだ。一時的にうまくいったとしても、そんなのはいつか必ず破綻する。ウチの幹部や住民達は優秀揃いだから皆が国のことを考えて動いてくれるし、一番上にどっしり構えてそれを見守るのも重要な役目の一つだぞ」

 

 うーん、リムルの今までを見てたら、何となくわかるよ……大きな存在がついていてくれるという安心感があるから、皆ものびのびと働けるんだよな。代理である俺の後ろにもリムルがいてくれることに変わりはないし、そう考えると余計な力が抜ける気がしてくるから不思議だ。

 

「まあ、二週間くらいで帰ってくる。皆も協力してレトラを支えてやってくれ」

「勿論ですリムル様。レトラ様のお力となれるよう、全力を尽くしますよ」

「御留守の間のことは我々にお任せ下さい」

「我ら一丸となり、御役目に励ませて頂きますぞ……!」

 

 いや皆、そこまで重大な覚悟が必要な話はしてないから落ち着け。リムルに優秀だと褒められたことで、全員のテンションが静かに爆上がりしてるな……無理もないけど。

 

「レトラ様。少しの間お傍を離れますが、どうか御身体にお気を付けて……」

「帰ってきたら、道中のお話をたくさんして差し上げますからね!」

 

 シュナ、それは俺のセリフなので気を付けて行ってきて。

 シオン、旅行じゃないんだからもう少し緊張感を……でも話は聞かせて欲しい。

 

「とにかくレトラ、お前は充実した日々を過ごせばいい。それで大体間違いないから」

「わかったよ。リムルも気を付けて、行ってらっしゃい」

 

 

 そして後日、リムル達は住民総出の見送りの中、ドワルゴンへ出発したのだった。

 

 

 




※留守番回を数話やります
※居残り組と仲良くしたり、内政やったり…………



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