転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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47話 国主代理①

 

 リムル一行は、ランガや星狼族(スターウルフ)の引く狼車に乗ってドワルゴンへと向かった。

 狼車は三台、護衛のゴブタ達ゴブリンライダーも六名ほどという、一国の主の行列としてはかなり小規模なものだった。テンペストの守りが手薄になってしまうという理由で、多くの人数を割けなかったのだが……樹立後間もない国だからこそ、第一印象重視の見栄をここで張っとくべきだったのかもしれない。国交って難しいな。

 

 

 まあ、今俺が心配すべきは自分のことだ。

 俺がドワルゴンに行けなくなった主な理由、揉め事の相談依頼。まずは政治部門のリグルド達が対応するが、なかなか解決せずトラブルになりそうな案件だと、上まで依頼がやってくる。

 

 例えば、まんじゅう屋台──おかず系の焼きまんじゅう屋からの相談だが、しばらく前から客の入りが悪くなり、調理の腕を磨いたり新しい具材を試しても改善しなかったと。少し離れた区画の屋台はどこも繁盛していることから、出店場所をそちらに移したいという内容だった。

 

 何でも希望を聞いてやれるわけではないので、状況を調べる。

 聞き取りで得た証言、各屋台の出店時期や立地条件など、データベースに格納された情報を照らし合わせてみると、客足の低下は通りの混雑問題と絡んでいることがわかった。

 

 とある串揚げ屋の人気が出たことでその周辺の人通りが増え、人混みを避けようとルートを変えた物資運搬の荷車が道を塞いでしまうという要因も重なって、時間帯によっては人の行き来が減ってしまう区域が発生していたのだ。俺は様々な条件下での混雑状況を示す資料をウィズに作ってもらい、関係のある屋台の代表者を集め、思念リンクを繋げて説明する。

 

「噂の串揚げ食べたよ、美味しかった。評判になるわけだな」

「レトラ様にそう仰って頂けるとは……感激でございます」

「ほら、地図上で言うと、こことここで人の流れが止まってるんだ。食事時には、屋台の傍に列の待機場所を設けようと思う。搬入係とも道順の見直しをしたから、まんじゅう屋の一帯にもまたお客さんが来るようになるはずだよ。これで頑張ってみて欲しいんだけど、どうかな?」

「以前のように働けるのであれば、私共に異論などございません……!」

 

 これ、皆が気にしているのは売上ではないんだよな。テンペストでは店舗や道具や食材などの全てが国から支給されるもので、屋台を訪れる住民への食事は無償提供だ。

 重要なのは、任された仕事をどれだけやり遂げられたかということ。国から……要するにリムルから与えられた食材を余らせたりすると、皆めっちゃ落ち込むのだ。かと言って仕入れを少なくするのは、国のために……リムルのために満足に働けていないという意識が募り、冗談では済まないらしい。

 

「新しいまんじゅうの試作品も美味かったし、完成したら俺も食べに行くよ」

「心よりお待ちしております、レトラ様!」

 

 常に努力を忘れない町の皆はとても勤勉だ。渋滞事情が解消すれば煽りを受ける店は減るだろうし、混み具合にはブームの波もあると思うので、しっかり様子を見ておこう。

 そんな感じで、俺はリムルの代理として依頼を片付けていくのだった。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 今日もいくつかの相談案件と視察の仕事を終えて、夕食を取った。今まで朝だけはリムルの庵で食べていたが、現在そのリムルがいないので、毎食全て食堂に来ている。

 俺の両側にいるのはベニマルとソウエイ。いつものメンバーからリムル、シュナ、シオンが抜けているため、俺に構ってくれているのはこの二人だ。場合によってはリグルドやハクロウやクロベエも来てくれるけど、俺そこまで寂しいわけじゃないですから……! 

 さて後はのんびり風呂に入って、冷たいものでも飲んでゴロゴロして、明日に備えて休もう。

 

「じゃあレトラ様、風呂行きましょうか」

「うん、行こう」

「では俺も」

 

 行き先はもちろん男湯である。シュナやシオン、ミリムやエレンなどと一緒に女湯に入ることしか許されていなかった俺だが、今だけは好きなように男湯に入れる! と気付いたのだ。

 そしてベニマル達が俺の背中を流したいと言うので、じゃあ交代でと頼んでいる。町で風呂文化が始まった頃、風呂では目上の者の背中を流すという風習があることをリムルから聞き、やってみたいと思っていたらしい。しかしリムルや俺は毎日毎日女湯に連れ込まれるので、そのチャンスがなかったと。

 

 それにしても、シュナ達ときたら困ったもんだ。平気で一緒に風呂に入るとか、俺やリムルを全く異性として見てないよね? そりゃ俺達は無性だけど、精神的には男だって何回も言ったのに……! せめてタオルで身体を隠す素振りくらいはして欲しい……恥じらいって大事だと思うんだよ……

 普段は人型でいることが多い俺でも、女性陣と風呂に入る時はなるべく砂スライムを心掛けている。いや、最近では、身体を洗う砂スポンジとして使われるようになってしまったが(大体ミリムのせい)……俺はアレ、疲労感の方が強くてあんまり楽しくない。

 

 その点、男湯だったらそんな気苦労はしなくていいからな。

 人型のままでも罪悪感はないし、シュナやシオンやミリムのように、今日は誰がどっちを洗うとかで俺達の奪い合いを始めて騒いだりすることもな…………

 

「おい待てソウエイ。今日は俺がレトラ様の背中を流す番だぞ」

「昨日は途中でハクロウ様が来られて、俺が譲ることになっただろう」

「譲ったのはお前であって俺じゃないぞ。今日は俺の番だ」

「いや、まだ俺の番だ。あれでは役目を全う出来ていない」

「そうはならないだろ。途中まででも、お前の番は終わっただろうが!」

 

 …………待って、うるさいんだけど。

 男湯の洗い場で、椅子に腰掛けて待つ俺の後ろが騒がしい。

 これって単にいつもの騒ぎが、ベニマルとソウエイになっただけじゃね?

 

「あー……昨日は途中でハクロウに交代したとは言え、ソウエイの番だったのは確かだし……順番待ってたベニマルの番が取られるのは理不尽じゃない?」

「そうですよね!」

「…………」

 

 ソウエイがズシンと消沈した。何でそこまで落ち込むの……

 俺の背中を流すことに一体どんだけの意味合いがあるっていうんだ……

 

「えーと、ソウエイ、今日は俺の髪でも洗う?」

「……よろしいのですか?」

「レトラ様、それはずるいですよ。俺だって洗いたいです」

「でも昨日のハクロウは……あれはあれで恐喝とか強奪だったし」

 

 いつもならハクロウはもっと早くか遅くに、人の少ない中で風呂に浸かるのが好きらしいが、昨日はたまたま同じ時間帯に遭遇した。俺がいるのを珍しいと思ったんだろう、御一緒させて頂いても? とついてきて、ソウエイが俺を洗おうとしたらほうほうと興味深そうに観察してきて、ソウエイは無言で抵抗してたんだけど、結局ハクロウの圧力に勝てなかったっていうね。大人げないよハクロウ。せっかくなので俺もハクロウの背中を流してあげたけど……

 

「あれはソウエイも可哀想だったかなと」

「レトラ様、何だかソウエイに甘くないですか?」

「喧しいぞベニマル。レトラ様のお考えに口を出すな」

「お前、さっきまでの死にそうな顔はどこに行ったんだよ!」

 

 普段は女性陣の勢いがすごくて目立たないだけで、シュナ達がいないと今度はベニマル達が自重しなくなる……しかもこの二人は同種族同年代のライバル……それで執拗に張り合うのか。

 はあ、俺は風呂に寛ぎに来たはずなのに……ああもう、面倒臭い! 

 

「じゃあ、俺が決めれば文句ないよな? 今日はベニマルの番で背中を流すだけで終わり! 明日のソウエイの番から、俺の髪も洗いたければ洗っていいから! これ以上揉めるなら、もう二人には頼まない!」

「「!!」」

 

 どうだ! 最近、伊達に揉め事の仲裁ばかりやってるわけじゃないのだ! ていうかいい加減洗ってくれないかな? 裸でこれだけ放置されて、もし俺が生身だったらそろそろ風邪引いてるぞ。

 俺の脅しも効いたのか、二人はそれ以上渋ることなく従ってくれた。まだ言うこと聞いてくれるベニマル達で助かった。女の子に必殺・泣き落としをされると逆らえないからなあ……

 

 

 

 火山地帯から影空間を通して引いている温泉に浸かる。染み渡るね。

 町の共同温泉には様々な種族の魔物達が来ていて、彼らの間でも確実に風呂の習慣が広まってきており、元人間の俺やリムルにとっては嬉しい限りだ。

 

「今更なんですが、レトラ様は砂ですよね。砂だけど風呂には入れるって前から言ってましたし、実際何ともなさそうに見えるんですが……本当に不都合はないんですか?」

「ああ、人化してれば大丈夫だよ」

「それでは、砂の御姿では問題があるということでしょうか?」

「それなんだけど……見てよコレ」

「レトラ様?」

 

 お湯に浸かったまま身体を崩して砂に変わり始めた俺に、二人がギョッとする。まあ見てろって。

 湯船に投入されることになった砂は一度水中へ潜り込んだ後、いつもの球状に丸まりながらぷかりと水面へ顔を出した。『重力操作』の賜物だ。砂スライムボディはサラッサラで普段とまるで変わらず、湿気を帯びる気配すらない。

 

「勝手にスキルが仕事して、砂形態だとどうしてもガッチリ"不吸水"の性質が付くんだよ。前は人間形態にもそれが反映してて……町に温泉が出来るっていうのに水を弾いたら話にならないから、せめて人型の時はちゃんと水に濡れるように、身体も髪も洗えるように練習したんだ!」

「いや、そういうこと言ってるんじゃなくてですね」

 

 そうだっけ? 砂だと風呂に入るのに不便じゃないかって話だったよな? 

 再び人型でちゃぷんと湯に浸かる。さっきまでの状態を『造形再現』したので、自分で洗った髪はしっかりと濡れている。当然のように見える現象も、実はこうした細かな調整によって成立しているのだ。

 

「スキルが勝手にってそれ、危機的状況を回避しようとする本能ですよね……やっぱりレトラ様にとって水濡れは危険ってことじゃないですか。風呂にはお一人で入らないでくださいよ?」

「俺は風呂にまで護衛が必要なの……」

 

 ベニマルは俺の護衛に熱心だなあ……

 もしも湯船で砂の身体が散って『砂憑依』が解除されようが、乾いた砂を出して憑依し直せばいいだけだ。というか砂が濡れても『渇望者(カワクモノ)』で水分吸収すれば即座にサラサラ砂に復帰出来るだろうし……というか湯船のお湯程度、それこそ一瞬で飲める量だし……飲む気はないけど! 

 

「レトラ様、御身体を洗う練習をされたとのことでしたが、一体いつの間に……?」

「ああそれは──」

「おや、レトラ様! 奇遇ですな、ここでお会いするとは」

「あ、ガビル。来てたのか」

 

 ソウエイの問いに口を開き掛けたところへ、噂をすれば。広い湯船の中に作られた趣ある岩場の脇に、いつの間にかガビルが部下の龍人族(ドラゴニュート)達と数名で、お湯に浸かっていた。

 

「俺はいつも男湯には来ないから珍しいよな……っていうかガビル達こそ、温泉入りに町まで来てるとは思わなかったよ。水に浸かる方が好きって言ってなかった?」

「レトラ様があまりに熱心に風呂の良さを語って下さるので、我輩共も興味が湧きまして……初めは戸惑いましたが、慣れてみれば熱い湯に浸かるというのもオツなものですな」

「本当? 流石ガビル、話がわかるね」

 

 おお、俺は風呂の布教に成功していたのか。ぜひとも研究開発の息抜きにして欲しい。

 一つ気になるのは、もしかしてガビル達は変温動物系の種族だったりしないかなってことだけど……まあ、上位種族に進化したんだから温泉に負けるような軟弱な作りはしていないだろう。のぼせないようにだけ気を付けてくれ。

 

「レトラ様も、念願とまで仰っていた風呂を楽しんでおられるようで何よりですな」

「うん、最高だよ。練習に付き合ってくれてありがとな」

「いや何! あれしきのこと、レトラ様のお役に立てるのならば幾らでも!」

 

 ワハハ、と持ち前の調子の良さでガビルが笑う。

 俺はガビル達がリムルの配下になってすぐの頃、封印の洞窟内部を掘って住居を作っていたガビル達を手伝って、寝床用として部屋に地底湖の水を引き込んだり、岩を『造形』して水中に仕切りを作ったり、洗面所や風呂のように使える水場を設置したり、所々で手を貸した。

 そして、その水場で風呂に入る練習をしたのだ。地底湖の冷水でだけど……そこは『熱変動無効』を活かし、予行演習だからと水風呂でも我慢した。くだらない練習をしてる自覚はあったが、ガビルもああいう性格なので、我輩もお力添え致しますぞ! と、一切の疑問を抱かず協力してくれたしな。

 

「つまり……一番にレトラ様の背中をお流ししたのは……」

「ガビルということに……?」

「そうだね」

 

 ガビルは手先の器用な奴で、背中も頭もわしゃわしゃ普通に洗ってくれた。

 ヒポクテ草の栽培にしても、割と何を任せてもオールマイティに対処してくれる有能な配下である。戦闘面での実力も高いし、まだ幹部としては認められてないけど、それはそのうちだ。

 

「……? ベニマル殿とソウエイ殿は、どうかされたのですかな?」

「さあ……」

 

 鬼人二人が、くっ……! と歯噛みする様子に、ガビルは首を傾げていた。

 だから、先を越されたとかって、何か意味あるのかそれ! 

 

 

 




おまけ、女湯にうっかり人型で入ったレトラ
「レトラ様、今日は人の御姿ということは……お背中をお流ししてもよろしいのですね?」
「え、シュナ? ……あっしまった、人型のままだった!」
「御遠慮なさらずに……さあ、こちらへお掛けください」
「忘れてただけだから!砂スライムになります!」
「あっ、シュナ様ずるいです!レトラ様、よろしければ私にもお身体を……」
「二人掛かりはやめて!? リムル、俺が砂になるの忘れてたら教えてくれよ……!」
「すまん、違和感なくて気付かなかった」

※リムルはスライム状態
※次回は普段全く書けない魔国の皆さん


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