06話 ゴブリン村
「強き者よ、我らに守護をお与え下さい! さすれば我らは、貴方様方に忠誠を捧げます……!」
ゴブリン村にて。
リグルドとリグルが地に平伏している。
いやえーと、正確には二人ともまだ名前はないんだな、リムルが名付けしてないから。リグルドはヨボヨボの爺さんだし、リグルも子供みたいな貧弱な身体のゴブリンだ。
森の散策中にゴブリン達が現れて、リグル(予定)が話し掛けてきた。俺は『魔力感知』の範囲は狭いけど感度は悪くないらしく、リグルの声も最初からハッキリクッキリ聞き取れた。
リムルと一緒にゴブリン村へお邪魔すると、村長であるリグルド(予定)から、最近竜の神が消えてしまい、森で魔物達の縄張り争いが活発化し、ゴブリンの集落が牙狼族に襲われていることを聞かされた。
そうそう、牙狼族と言えば、森でランガ(予定)に会ったのだ!
額に星型の模様がある狼だからすぐにわかって、『粘糸』で枝をひょいひょい渡っていた俺は、これはリムルに会わせなければと急いで地上に降りた。
まあ、俺は魔素をきちんとしまい過ぎていたらしく、ランガ達は「何だ砂か」みたいな顔で俺を踏み潰そうとしてきて……あっやべ俺ザコ認定されてる、と逃げる振りしてリムルの所へ連れて行くと、ランガ達は魔素ダダ漏れのリムルにビビって逃げてしまった。うん、原作通り。
それからゴブリン達に会うまでは、俺も気を付けて魔素を撒き散らすようにした。少しも妖気を零していない砂スライムのままだと、リグル達からもザコ扱いされてしまう可能性があったからだ。それは悲しい。ちなみに今は妖気を抑えてくれと言われてそうしたから、もう社会の窓は開いてはいない。
「お前達の願い、"暴風竜"ヴェルドラに代わり、このリムル=テンペストが聞き届けよう!」
リムルが格好良いな……!
俺もあんな感じに振る舞ってみたいけど、なんか恥ずかしくて気後れする……いや、ハッタリを利かせて偉そうにするのが良い時もあるってリムルが言ってたし、そのうち俺もやってみよう。
「この村のことは俺とレトラで引き受ける。俺の弟だ、よろしくな」
「俺は
「はっ! リムル様、レトラ様、どうか我らをお導き下さい……!」
俺とリムルは"同格兄弟"というものになったようだ。種族は違っても共通の名前を持っているし、俺がリムルを真似してスライム形態を取っているので見た目にもわかりやすく、ゴブリン達は疑問なくあっさりと兄弟設定を受け入れてくれた。
今はリムルがうまいこと俺も同じ立場になるようにしてくれているけど、いずれ仲間達の名付け親となるのはリムルだ。それは守られるべきだと思うので、俺は名付けに関わるつもりは一切ない。
つまり俺はテンペストの皆からは、部外者というか余所者というか何コイツ誰? 的な存在になるかもしれなくて…………そ、そこは、俺だってちゃんと役目を貰って仕事をして幹部になって! 仲間としての地位を手に入れるつもりだから大丈夫だ!
俺の持つスキルで使えそうなのは、やっぱり『
◇
牙狼族にやられたゴブリン達が寝かされている建物。
皆怪我の程度は重く、もう長くない者もいると村長に聞かされたが……怪我人を『捕食』して、俺が体内で作った回復薬をぶっかけて吐き出すことで、治療に成功した。
備えあれば憂いなしの精神が実を結んだというわけだ。用意していた回復薬が日の目を見たことに気を良くした俺は、次々とゴブリン達を処置していく。
そこへ、ふよんふよんと砂スライムが入ってきた。
「リムルー」
「おう、レトラ。どうした?」
「どうしたじゃないよ。柵を作れって言ったのはリムルだろ」
俺が負傷者の様子を見る間、レトラには村を防護する柵の設置指揮を任せた。いつ狼達の襲撃があるかもわからないので、手っ取り早く家を取り壊した木材で作るようにと指示してある。
それはもちろんわかってるんだが、こんなに早く俺を呼びに来たということは……柵の作り方がわからないのか? それとも、途中経過を確認して欲しいってことか?
「囲んだよ」
「囲んだ?」
「村を」
「村を…………全部!? もう!?」
いやそれは早すぎる。頼んでから、まだ一時間くらいしか経ってないだろ!
レトラの後ろからついてきた団子っ鼻のゴブリンが、両手を広げて興奮したように説明してくれる。
「すごいっすよ! 最初の一つは、皆で家を壊して何とか作ったんすけど。これじゃ材料が足りなくなるって、レトラ様が砂をブワーッてやるだけで、どんどん柵が出来たっす!」
ああ……レトラの奴、砂を使いやがったか。
レトラは『
ちょっと来い、とレトラをテントの隅に呼び、こそこそと声を潜める。
「やりすぎだ。『
「あー……そうか、ごめん。俺にも手伝えることがあると思って……」
「気持ちは有り難いよ。よくやってくれたな」
レトラは素直な奴だ、俺に頼まれたことを精一杯やろうとするだろう。高いレベルでスキルを使いこなすことは知っていたし、この事態は予測出来たはずなのに、気を遣ってやれなかった俺も悪い。
優秀なのは悪いことではないんだが、そのために必要以上の仕事を任され、負担を抱えてしまっては元も子もないのだ。それにゴブリン達だって、悪気はなくとも俺達に頼りすぎる癖がついてしまうかもしれない。レトラには適度に手を抜く方法も教えてやらないとな。
「というかレトラ、砂は足りたのか? 水は体内に残ってるんだよな? 身を守るくらいはあるよな?」
「うん、まあ……」
「それならいいんだが。疲れただろ、仕上げは俺がやるから休んでろ。でもあんまり遠くに行くなよ、村からは出ないで……ん、どうした?」
「……何だかリムルも、ヴェルドラみたいになってきたな」
失礼な。この俺を、あの親バカ竜と一緒にするとは!
だが一応レトラを任されている身だ、保護者としての役割くらいは果たさせて貰う所存である。
◇
リムルに怒られた。やりすぎだって。
ゴブリン達の仕事を全て奪うくらいに張り切ったのが悪かったらしい。リムルは、後は俺がやるからと言って、その後の手伝いはさせてくれなかった。過保護かよ。
俺の見せ場だと思ったんだけどな……加減が難しい。
とぼとぼと、村を囲んだ柵の近くをうろつく。
村から出るなと言われたし、内側から周囲の様子を窺うくらいにしておいたんだけど、柵の外にゴブリンが一人いるのが見えた。そのゴブリンは棍棒を持ち、外敵を警戒するような緊張した動作で、少しずつ村から離れて森へ近付いていく。
何してるんだろう……というかあのバンダナ、リグルだよな。
ここは村の裏手に当たり、俺の他には誰もリグルに気付いていない。一人で森へ行ったら危ないだろうと、俺は柵の隙間を潜って後を追い、声を掛けた。
「リグル」
「え?」
…………。
しまったあ──!? 違う、まだリグルじゃなかった! 気を付けてたつもりだったのに!
足を止めて振り向き、目を丸くしているリグル(予定)。
砂なので冷や汗に気付かれることもないのを幸いとし、無い脳味噌をフル回転させる。
「…………。村一番の戦士だったって、聞いたよ」
「……はい、自慢の兄でした」
セーフ……!
これは何とか……セーフだ! 本当に気を付けよう、シャレにならない。
そう、"リグル"は今のところ、リグルの亡き兄の名前なのだ。村では唯一の
「私に力が無いばかりに、兄を手助けすることも出来ず……死地へ向かわせてしまったのです」
肉親が戦死していて辛くないわけがなく、語るリグルは苦渋の顔だった。
あ、そうかそれで……わかったぞ。
「それで、兄のように村を守りたくて……一人で偵察に?」
「……!」
リグルがぎゅっと歯を食い縛る。図星だな。
牙狼族の動向を探るためリムルがゴブリンの数人に斥候を命じているけど、まだ戻ってはいない。斥候が無事に帰る保証もなく、情報を掴めないまま村が奇襲を受ける可能性だってある。
「気持ちはわかるけど、一人は危ないよ。牙狼族は強いんだろ」
「ですが、私に出来ることはこのくらいしか……! いくら無力を嘆いたところで、私では村を守れません……レトラ様やリムル様に庇護を求めるばかりの自分が情けないのです」
リグルは真面目だな。ゴブリンにしておくのが勿体無いくらいだ。
「あのさ、俺も、リムルの役に立ちたくて頑張ってるんだけど。あんまりうまくいかないんだよ」
「レトラ様が……?」
相手がリムルだしな……あの最強チートスライムに、どうすれば俺が役に立つのかわからない。いやそもそも俺ってこの世界にいらない存在じゃ……? 今はそこ考えるのやめよう、立ち直れなくなる。
「出来ることをやればいいって、リムルに言われたんだ。だから俺達もお互いに出来ることで協力しよう? リムルと俺が力を貸すよ、きっと皆で村を守れるから」
「それでは私は、一体何をすれば……?」
「そうだな……俺は頼ってくれて嬉しかったから、死なないで欲しいんだ。お前が死んだら悲しいよ。忠誠を捧げるって言ってくれたけど、それって勝手に死ぬことじゃないだろ?」
リグルの目が動揺に揺れる。
心配しなくていい、今にお前は進化して、立派にテンペストを支える一員になれる。俺はどうなるかわからないけど……いや、だから今は考えるのやめようって! キツイから!
「……わかりました。レトラ様がそうお望みなら」
「じゃあ村に戻ろう。戦いは近いはずだし、ゆっくり休んで備えてくれ」
わかってくれて良かった。リグルなら、こう言っておけば命を粗末にするような真似はしないはず。原作を知っている贔屓目はあるにしろ、リグルは死なせてはならないし、死なせたくない男だ。
俺も頑張ろう。ゴブリン村を守りたい。
ステータスに変化がないため省略