"テンペスト復活祭"から一夜が明けた。
集められた皆の前で、リムルは宣言する。
十大魔王に名乗りを上げ、魔王クレイマンを討つと。
クレイマンは今回の襲撃事件の裏でミュウランを操り被害の拡大を目論んだばかりか、ミリムによるユーラザニア王国滅亡にも関わっている疑いが高く、これ以上の暗躍を許すことは出来ない。本格的な作戦会議はソウエイ達諜報部門の報告を待ってからになるが、それまでは各々の役目を果たし、決戦に向けた準備を整えておくように──という命令が、リムルから下された。
数ヶ月に及ぶ国主代理業務も終了し、俺はリムルにバトンタッチして国相に戻っている。
だが町は戦時体制に入ったので視察などの通常業務は休止となり、リムルからも「何かあったら呼ぶから、今は休んでおけ」としか言われていない。そのリムルは、ファルムス王国との戦後処理に関する打ち合わせに出掛けてしまった。大方、俺は色々大変だっただろうから、しばらく仕事からは離れさせようという気遣いだろうな……ギリィ……
ま、俺にも済ませておきたい用事はあるのだ。
俺は町中でもまだ空き地の多い、未開発区画へやって来た。
(それじゃウィズ、俺の進化とスキルについて確認したい!)
《了。進化結果を報告します》
まずは種族。砂の属性を持つ精神生命体である俺は、
新しくユニークスキルも獲得したようだけど、何が出来るようになったんだ?
ユニークスキル『
精神介入:対象の感情、意識、夢見へ働き掛ける。無抵抗状態ほど成功率が高まる。
精気吸引:支配済みの対象から、魔素を吸い取る。
ふむふむ、つまり相手の精神を支配して精気を奪うと…………悪魔かな?
魔素を吸うのはエネルギー補給のための夢魔の固有能力だとして……『風化』を使えば砂も魔素も『吸収』出来る俺が、わざわざ魔素だけ吸う意味は? うーん、相手の力を奪うってことなら、溶かした方が構成情報やスキルも獲得出来るし……使い所がよくわからない。
《告。『精神介入』による支配以外にも、対象の承認を得ることで『精気吸引』が実行可能です》
(それって何か便利なの?)
《魔素の補充が必要となった場合、魔素譲渡を受けるために有効です》
(ああ! 敵から奪うんじゃなくて、味方に魔素を分けてもらえるってことか! それは確かに、溶かさなくて済む分『風化』より安全だな……覚えとくよ)
魔素を受け取る他にも、『
ところで、ナイトメアは悪夢という意味だっけ?
俺が魔国襲撃の件で悩んできた数ヶ月、あれは出口のない悪夢のようなものだった。その間ずっと精神を削られてきた反動で、悪夢や精神面に特化した魔物に進化してしまったのかも……まあ夢魔でも何でも、俺は砂だ。砂に憑依した
(それで、ウィズ。
《告。究極能力『
おお……俺の先生が更に頼もしくなった……!
権能は『思考加速、解析鑑定、並列演算、森羅万象、未来予見』。
増えたのは『未来予見』。特定の未来、事象に関する予測演算を行う。取得情報が多ければ多いほど正確性が高まり、確定に近付く……これって『未来攻撃予測』のような、確定予測レベルの先読みも可能になる能力なのでは? 先見の名通りの、恐ろしいスキルを獲得したな……
《否。
(え? 俺が何?)
《以前より
(お……?)
《今回獲得した『
ウィズがめちゃくちゃ喋るようになってる……という感動はさておいて、ポン、と手を打ち合わせたい気分になった。そうか、ウィズは俺が未来予測をしてると思ってたのか!
俺が大した根拠もないまま予測計算を行って行動しているように見えていたなら、今まで意味不明だっただろうな……だがウィズは、自分にもそれが出来るようになりたいと、『未来予見』なんて能力を獲得してくれたんだろう。超いいやつ。
でもごめんな、違うんだ……俺には先見の明があるんじゃなくて、知ってるだけなんだよ。『転スラ』という原作の知識を。
ウィズの口ぶりから察してはいたが、やはりウィズはまだ『転スラ』を認識していなかった。俺の前世の記憶や知識については、『
これで判明したのは、情報隠蔽は少なくとも『
よし、三度目の正直──名付けしてみるか!
《名付けに失敗しました。必要な規定条件が不足しています》
はいはい!
まだ失敗するのかよ……ウィズにはもう自我がありそうなんだけど……って、あれ?
"世界の言葉"が変わってる? 前に二回失敗した時は、対象が存在しませんって言われたような……それが変わったってことは、世界から見てウィズは名付け対象になったんじゃね? やっぱり自我あるんじゃね?
《否。スキルに自我はありません》
(だってお前、俺のために自分で考えて動いてくれるだろ? そういうとこだよ)
《スキルは
(そういう頑なな考えをする時点でさあ……)
これはアレかな、ウィズがまだ自分のことをちゃんと認識していないから……?
能力や結果だけを追い求めて、内面の成長を疎かにするのは良くないことだ。ゆっくり時間を掛けて自分を理解していけば、ウィズがウィズになる日も来るだろう。
ちなみに俺が散々呼んでいる『ウィズ』だが、本人には『ウィズ』とは聞こえていないということが発覚した。ウィズにとって
気を取り直して、次のスキル。
俺のメインウェポンの一つである『
ユニークスキル『
質料操作:砂操作、変質化。魔素により第一質料を自在に操る。
創造再現:造形再現。物質体、精神体、魔法等の再現が可能。
自然構想:取得済みの情報を元に、理論、法則、構成情報等を構築する。
『砂操作』と『変質化』がまとまって『質料操作』になり、『造形再現』は『創造再現』に。
新しい能力は『自然構想』……ウィズは以前、解析情報から"空間理論"を完成させ、『影移動』と組み合わせて『砂移動』を作り出してくれている。そういう経験を元に生まれた権能だとしたら、これはウィズの能力でもいいような気がするが……
《否。第一質料を使用することで、新規理論及びスキルの効率的な構築が可能となります。その制御にユニークスキル『
(じゃあお前が『
《是。
ん……んん? 何?
いきなりそんなファンタジーなこと言われてもわからない。
俺の砂は、砂じゃなかったのか?
《構成情報を付与することで全てに成り得る可能態です。魂に"砂"の概念を持つ
えーと、俺に溶かされて出来上がるのが、あのサラサラの砂。でもそれは最小単位に戻っているだけで、再び砂から何にでもなれる可能性を秘めている? うん、砂から炎や氷、対魔結界まで作れるのはおかしいと思ってたよ…………あ、そうだ。
(砂と言えば、亜空間の砂がごっそりなくなってるんだけど、どうした?)
《解。亜空間内部に溜めていた第一質料のほぼ全てを、進化と蘇生の儀式に消費しました》
ここで俺は初めて知ることになったのだが、ウィズは本当に蘇生の儀式を手伝ってくれていたらしい。ラファエル先生がリムルの身体で起き上がり、儀式を行ったのと同様に。トレイニーさんはそれを見ていて、だから俺にもお疲れ様でしたと言ったのか……謎が解けた。
で、俺の亜空間にはいつも砂漠があるようなものだったのに、今や俺の身体をあと三、四体作ったらなくなりそうな量にまで減っていた。まさか砂が枯渇する時が来るとは思わなかったが、そういう事情なら砂なんて全て使ってくれて構わない。足りて良かった……
砂を補充するため、効率は悪いが俺の魔素をチマチマと砂に変えてくれるようにウィズに頼んでおいた。自動回復するんだし体内魔素は八割あればいいと言ったんだけど、ウィズは九割と言って譲らなかった。まあいいよ、それで。
しかし第一質料というのは恐るべき万能物質だな。進化の素材として申請したら世界に認められた上、住民達の魂を復元するのにも役立ったって? 万物に成り得ると言うだけのことはある……そんな砂を作り出すとは、俺がすごいのか、はたまた『
《解。本来ユニークスキル『
ああ、最初から『砂憑依』だけでも砂がサラサラに変わってたな。つまりあの砂を作り出すのは俺の特性で、俺に影響されて『
…………あまり考えないようにして次に行こう。他に進化したスキルは?
《解。ユニークスキル『
(考えないようにしようって言ったのに──!)
な、なんか『
ただでさえ取扱注意の危険物だったのに、
究極能力『
万象衰滅:風化。捕捉可能なあらゆる存在を破壊し、第一質料へ還元する。
天外空間:吸収、放出。制御下にある対象を固有の亜空間へ出し入れする。
境界侵食:空間干渉、移動能力。空間の掌握、連結、侵入を可能とする。
『万象衰滅』って……『風化』が凶悪になっている……まさか、もう砂との接触も必要ないのか? 認識したものを手当たり次第に溶かせるんだとしたら……危なくない?
以前から繋がっていた亜空間が『天外空間』として存在がハッキリしたのはいいとして、目立つのは『境界侵食』。空間制御系か? 移動能力が含まれてるけど、移動とかいう穏やかな感じじゃないぞ……閉じた空間でもぶち壊してお邪魔しますってことだろこれ。
でも、移動能力なら俺もう持ってるよな? 『砂移動』があるんだから…………
《解。『砂移動』は『
(喰われたの!? 『
話を聞くに、『
《是。『
(うわあああ……!)
俺を亜空間に閉じ込める策が潰された……! しかもコイツ、『空間封鎖』くらいならブチ破って来そうな貫禄まである……どうやって止めるんだよ! どうしてこんなことになった……!?
《解。進化の眠りに就く直前の、
(え!?)
何だっけ? 俺は何を願った?
あの時は眠くて……確かこう、必死に……
──もっと強い力が欲しい
──対魔結界だろうが簡単にぶち壊して
──出来れば俺も消えなくていいくらいに……
ああああ……! 本当だ、全部『
じゃあ『
《告。現在までに、『
そ、そう言われるとそうなんだよな……町への襲撃で『
俺が眠りから覚め、生き返ったシオンの姿を見た時には『
要するに、やはり問題は俺にある。俺さえ憎悪や欲望に囚われずにいれば、『
(そこで食い止めるしかないか……でも、もし暴走しても『
《了。私は
ウィズが格好良いんだけど……惚れる……
だけど少し思うのは、ウィズはこれを予測してたんじゃないか? ってことだ。ウィズは俺の死に否定的で、亜空間に俺を封印するという案にも乗り気ではなさそうだった。本当は俺も望んでいないその未来を阻止するべく、ウィズは『
いや、真相なんてどうでもいいな。
ウィズのすることは、いつでも全てが俺のためのものなのだ。
こんなに格好良いこと言う癖に自我がないって言い張るんだから、困った奴だよ。
それから、気になるのは……何故か
俺、まだ覚醒魔王にはなってないよな……?
《解。"真なる魔王"には覚醒していませんが、今回の進化により"魔王種"を獲得しました》
そうそう、教えてもらった新規スキルの中に『魔王覇気』があったから、それは何となく。
うーん……覚醒魔王は
そして、純粋に俺の力だけで獲得したのではないという可能性。
更にそこへ第一質料の上乗せや、『
進化の確認はこんなところかな。
テンペストには例の如く問題が山積みだが、今のところは順調と言っていいだろう。
魔王クレイマンの企みに介入するため、"真なる魔王"となったリムルが本腰を入れて動く。
魔国に戦争を仕掛けてきたファルムス王国への戦後交渉は……これはディアブロと、ヨウム達が担当することになるな。エドマリス王達への尋問は、シオンに一任されている。
ヒナタ達西方聖教会への牽制も、しばらくは問題ない。何故なら──
その瞬間、それは起こった。
出鱈目なほどの莫大な妖気が、一瞬にして辺りの大気を飲み込んだ。
まるで荒れ狂う暴風のような圧倒的なエネルギーと存在感が、この世に現れ出たのだった。
《告。個体名:ヴェルドラ=テンペストの復活を確認しました。封印の洞窟にて、『無限牢獄』からの解放が行われたものと推測されます》
天変地異と大差無い妖気の出現にも、ウィズは動じない。
ウィズはもちろんヴェルドラのことも、その経緯も知っているからだ。
当然俺も知っていた。『無限牢獄』の解析が終われば、ようやくヴェルドラに会えるということを。
そう、それで、リムルがヴェルドラの封印を解くと思って、楽しみにして…………
封印の洞窟のある北の方角を見上げ、俺は呆然と立ち尽くす。
突き付けられた現実に、頭がうまく働かない。
あ、あれ……リムル?
俺は?
何かあったら呼んでくれるって言うから…………待ってたんだけど…………
…………あ、違うんだ?
※ヴェルドラ登場は次の次です
※皆の前で再会をやりたいので少々お待ちください
感想、誤字報告等、ありがとうございます
レトラがサキュバス系に進化したという噂が定着しそうで草です(広義ではアリ)
やっと体調が戻ってきたので、ぼちぼち返信していきます
名前:レトラ=テンペスト
種族:
加護:暴風の紋章
称号:"魔物達の守護者"
魔法:なし
アルティメットスキル:
『
『
ユニークスキル:
『
『
固有スキル:
『砂憑依』『魔力操作』『多重結界』
『万能感知』『魔王覇気』『強化分身』
『黒炎雷』『万能糸』
耐性:
痛覚無効、物理攻撃無効、捕食無効、自然影響無効、状態異常無効
精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性