転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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74話 人魔会談①

 

「ではこれから、俺達の今後の動向を決める会議を行う。この場にいない幹部全員を招集し、ヨウムやミュウラン、カバル達にも参加するよう通達してくれ」

「──ハッ!」

 

 ヴェルドラの件が落ち着いて町へと戻り、リムルは毅然とした態度で指示を出す。

 すげえ、さっきまでの失態(ブラコン)ぶりを帳消しにする王の風格が発揮されている。

 

 皆が行動を開始し、俺達も会議室に移動しようとしていたところ──町には客人があった。

 ブルムンド王国のギルドマスター、フューズ。魔国連邦との間で結ばれた安全保障条約に従い、大国ファルムスと事を構える俺達の援軍として、五十名ほどではあるがすぐに動ける戦力を集めてやって来てくれたのだ。王国騎士団も出陣の準備をしているそうで、ブルムンド王国が見せてくれた誠意は大きい。

 

 まあ、もう戦は終わってしまっているんだけど…………

 困惑するリムルに決死の覚悟を語るフューズの目は、やがて俺にも向けられた。

 

「これは、レトラ殿。ファルムス軍の先遣隊との戦闘で負傷され、思わしくない状態のようだとミョルマイルから聞き案じていましたが……大事には至らずに済んだようで良かった」

「え、いえ、ありがとうございます。俺は全快しましたので、ご心配無く……」

 

 俺が人知れず亜空間へ退避している間、リグルド達は他国の客人には俺の行方不明を伏せ、弱って寝込んでいるとかで説明していたらしい。すみませんでした、俺は無事です。

 

「あの……フューズさん。こうして駆け付けて頂いたこと、嬉しく思いますが……」

「確かに、二万もの軍勢にまともにぶつかっても勝ち目はない。俺達もどこまで助けになれるかはわかりませんがね、それでも──我々は貴方々に加勢しますよ」

 

 ダメだ、話を遮れない。

 二万の軍勢はもういないんだ……リムルが一人で片付けたから……! 

 

 その後、リムルに何度も説明されて、早すぎる戦争終結をどうにか理解してくれたフューズ達だが、全員もれなく唖然呆然となっていた。ファルムス軍を避けて街道を外れた森の悪路を行軍してきた疲労も重なっているようで、五十名の戦士達には宿で休んでもらうことにする。

 まだ頭が混乱している様子のフューズにも休憩して欲しかったのに、それには少し遅かった。

 

「久しいな、リムル。"魔王"になったらしいな?」

「まあね、ガゼル。ちょっと色々あってさ」

 

 まーた自ら天翔騎士(ペガサスナイト)三十騎ほどを従えて、ドワーフ王国の王、ガゼル・ドワルゴが現れた。ガゼル王にはベスターから詳細な連絡が行っているはずだから、その確認に来たんだろう。

「魔王って一体何の話ですか!?」と、聞いてしまったからには無視出来なくなったフューズが、血相を変えてリムルに詰め寄っている。中間管理職って大変だな。

 

「お久しぶりです、ガゼル王」

「レトラか。少し見ぬうちに、大きくなったな」

 

 俺の成長というか進化については、フューズのようにスルーしてくれても(たぶん本人がそれどころではなかった)良かったのだが……ガゼル王はやはり甥っ子か何かを見守るように目元を和ませ、そしてすぐに表情を引き締める。

 

「此度の件、聞いたぞ。侵略に屈せず戦ったお前の行動は、多くの民の希望となっただろう。国を統治し庇護する者として、お前の英断には敬意を表する」

 

 ガゼル王から見れば、侵略への正当防衛と評されるらしい俺の殺戮。俺のしたことに意味を見出してくれているのは有り難く思うが、決してそれだけで終わらせていい話ではない。

 俺の行動がこの世界に変化を与える恐れがあるなら、俺はその対策も取らなければいけない……一応、どうすべきかは考えてきた。俺のためではなく、魔国のために、俺には自分の仕出かしたことの責任を取る必要があるのだ。

 

「お心遣い頂きまして、痛み入ります──」

「まったくお前という奴は、堅苦しいのは要らんと何度言わせる? ……ともかく良かった、お前が無事で安心したぞ」

「えーと、…………うん、ありがとう」

 

 大きな手が乗せられて、ぐしゃぐしゃと強めに頭を撫でられる。

 ぐううーと首に力を入れて耐える俺に、笑いながらもガゼル王の手の力は弱まらない。

 

「……なあレトラ? 俺の気のせいかもしれないが、何で前よりガゼルと仲良くなってるんだ?」

 

 会う機会なんてなかったよな? とリムルは怪訝そうな顔だ。

 ああそうだよ、俺はドワルゴンへ行くチャンスを二回失くしてるからな。でもリムルの留守中に何度か、魔法通話でガゼル王と話す機会があったのだ。ドワルゴンとの連絡役となっていたベスターに通信を頼んで、貿易に関する意見交換をしたり、経済の捉え方について相談したり、色々と勉強になった。

 それだけなら良かったんだけど、ある時うっかり、俺がベスターやカイジンとはかなり親しく接していることをガゼル王に知られてしまい…………

 

「兄弟子の自分とも、もっと気安く話せって……」

「災難だったな……」

 

 遥か年上、しかも他国の王という最上級の目上に向かってタメ口を叩けとかいう、ひどい駄々を捏ねられた。出来るか! と思ったが俺は押し切られてしまい、努力しますと譲歩する羽目になったわけだ。

 何という痛いオッサンだ……という眼差しでリムルがガゼル王を見ている。

 心を読まれてなければいいけど……って、それは俺もか。

 

《告。個体名:ガゼル・ドワルゴによる"読心"能力を感知、抵抗(レジスト)に成功しています》

 

 おっ? ウィズが究極能力に進化したから、妨害性能が上がったんだな! 

 心を読まれるって普通に怖いので、今までガゼル王と話す時は思考に気を付けていたけど、これからはそう警戒しなくても良さそうだ。

 以前は俺の知る『転スラ』関連の知識まで読まれるかもしれないという心配もしていたが、それはこの世界では認識されない概念だったことが判明している。俺の脳内相棒であるウィズにさえ無理なら、誰にも読み取られることはないんだろう。

 

 で、先程リムルが、二万の軍は全て一人で全滅させたとフューズ達に漏らしてしまったことが問題となった。そんな兵器のような奴が魔国の王と知られると、人間達に受け入れられるのは絶望的となるため、有耶無耶にしなければならない……とガゼル王が助言をくれたのだ。

 こうなると可哀想なのはフューズで、何も聞かなかったことにするとは言ってくれたが、とんでもないものを抱え込まされてしまったな。一気に老け込んで見えてきた。

 

 これから行われる会議には、急遽フューズやガゼル王も参加することになり、フューズが控え室へ案内されてその場を去る。宿で休んでいる戦士達については、ディアブロが記憶の改竄に向かったようだ。悪魔は魂や精神の操作が上手い種族だそうだけど、気軽に怖いことをする……まあ、知らない方が安全が保障されるならそれもアリか……

 ところで、俺が新しく獲得したユニークスキル『夢現者(マドロムモノ)』も精神系スキルのはずだ。その権能の『精神介入』とは要するに、精神操作とか精神誘導と同じようなことが出来るんだろう。今回、俺はこのスキルを使って実験してみようと思っていることがある。

 

 その時、ウィズからお知らせが入った。

 

《告。前例のない魔力を感知しました。魔導王朝サリオンの使者と名乗る六名が、個体名:ソーカの先導により接近しています。その内一名は精神体を人造人間(ホムンクルス)の肉体に憑依させており高い魔力を有していますが、他個体を含め、現時点で害意は感知されていません》

 

 知らない人物についてはキッチリ探って報告してくれるのが、俺の有能な先生です。

 エラルド公爵が来たか……それじゃあ早速、実験を始めるとしよう! 

 

(なあウィズ、『夢現者(マドロムモノ)』を俺に使って、キラキラしないように抑えられるかな……?)

《解。『精神介入』の自身への実行は可能ですが、状態:キラキラの発現条件が不明であるため、抑制効果についても不明です》

 

 原因は恐らく『転スラ』の知識だから、ウィズにわからなくても無理はない。

 しかしこのキラキラ、外交においては悪癖でしかなかった。フューズやガゼル王なら顔見知りだからもういいとして、初対面で輝き出すのはどう考えても先走り過ぎである。俺がサリオンを友好国だと思ってしまっている以上、エラルド公爵に対してもやらかす可能性があるんだよなあ……

 

《過去の観測結果からは、状態:キラキラは、状態:興奮に類似するものと推測されます》

(テンション上がってきた感じか……じゃあ、興奮しないように感情制御を頼む)

《了。ユニークスキル『夢現者(マドロムモノ)』を使用、『精神介入』を実行します──》

 

 そして耳長族(エルフ)の帝国、魔導王朝サリオンからの使者が現れる。

 エラルド・グリムワルト。皇帝の親戚筋である大公爵家の当主で、エレンの父親。エレンは本名をエリューン・グリムワルトと言い、公爵令嬢というとんでもない身分のお嬢様なのだ。

 

 リムルの魔王進化にエレンの情報提供が関わっている件と、今後の魔国との付き合い方を見極めるために出向いて来たというところだが……大変な親馬鹿であるエラルド公爵は、娘を誑かした魔王め! とリムルに突っ掛かり、何やらすごい大魔法をぶっ放そうと詠唱を始めた。その暴走は、駆け付けたエレンのキレのある張り手ツッコミによって止められたが。

 

「いやー申し訳ない。娘が魔王に攫われたと報告を受けたもので、慌ててしまったのです」

「パパの早とちりじゃないのよぅ!」

 

 エレンに怒られ、エラルド公爵が悪びれもせず笑って釈明する。

 今の激昂には半分俺達を試す意味も込められていて(もう半分は親馬鹿モードで本気だった)、ウチの配下達は皆その演技を見破って平然としたものだった。ウィズなど、何だその……超高等爆炎術式? という合成魔法を解析しようという気配まで感じられた。情報収集に余念がなさすぎる。

 

「親馬鹿は直らんな、エラルド」

「親馬鹿ではない。エレンちゃんが可愛いから仕方ないのだ」

 

 旧知の仲であるらしいガゼル王とエラルド公爵が、慣れたように言い合っている。

 俺達の場合、口に出せないツッコミは『思念伝達』で行うのみだ。

 

『この人、エレンが絡むと周囲が見えなくなるタイプか……これじゃエレンも苦労するよな』

『おま言う──……それよりリムル、俺って今キラキラしてた?』

『え? ……いや、特には』

『わかった。ありがとう』

『レトラ、お前まさか……キラキラをコントロール出来るようになったのか?』

『さあ、どうかな?』

 

 まだ実験段階だが、コントロールは出来ていると思う。

 エラルド公爵のはっちゃけ具合に対して俺が持つ印象は悪くなく、心和む親子漫才も見られたし、素のままの俺だったらきっとキラキラしてしまっていただろう。

 このスキルの使い方、かなり良い線行ってるんでは? 感情を殺すというのはちょっと不健康な感じがあるけど、駆け引きが必要な場面はあるわけだし……会議中も、このまま感情制御を続けてみよう。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 俺達は、準備の整った大会議室へ移動した。

 各国からの重鎮達が来客用の席へと案内され、最奥にはいつものように俺とレトラが並んで座る。起立していた幹部達が着席し、後の世では人魔会談と称される会議が始まった。

 

 ジュラ・テンペスト連邦国の他、獣王国ユーラザニア、武装国家ドワルゴン、ブルムンド王国、魔導王朝サリオン──魔物の国と人間の国とが入り交じり、錚々たるメンバーが揃ったものだ。

 まずは来賓の紹介の後、魔国側の幹部達の自己紹介に入る。

 リグルドやホブゴブリンの長老達などは、もう俺よりも堂々とした貫禄があるので心配ないが、さてレトラはどうだろう。レトラは数ヶ月もの間俺の代理をしてくれていたが、つまり常にその場に不在だった俺は、レトラが本気で公務を務める姿を見たことがなかったのだ。

 

「国相のレトラ=テンペストと申します。兄であるリムル陛下の補佐を務めております。どうぞお見知りおき下さい」

 

 静まり返る緊張の中、レトラは落ち着いて挨拶を述べた。短い口上ながらもその振る舞いに一切の揺らぎ無く心の内を悟らせない、悠然とした威厳と気品を感じさせる存在感。あの子供らしい笑顔や意味不明な輝きは、今や完璧に仕舞い込まれている。

 レトラがこんな為政者らしい表情をするようになっていたとは……少し寂しい気もするが、いつまでも子供のままではいないんだな。

 

 他にもトレイニーさんやヨウム達など、一通りの参加者の紹介を終える。

 ……と思ったが、もう一人残っていた。衣装合わせのためにいなくなっていたヴェルドラが身支度を終え、裸マント姿からシャツ姿となってクァーハッハッハと高笑いしながら会議室に登場した。

 配下達は既にヴェルドラの正体を知っているが、それでも皆が息を呑んで身構え、客人達もただならぬ空気を察したようだ。動じていないのは、当然だがレトラくらいか。来客達にもヴェルドラを紹介しておかなくてはと、俺は席を立ってヴェルドラを出迎える。

 

「どうか驚かないで聞いて欲しい。俺の盟友の、ヴェルドラ君だ」

「ヴェルドラである! 我の事を"暴風竜"と呼ぶ者もおるようだな。まあ、我と語ることが出来た者は数える程しかおらぬ故、光栄に思うがよいぞ!」

 

 ヴェルドラの物言いは尊大だが、こういう人なので仕方ないし、むしろ似合っているだろう。

 しかし、会議中はちゃんと大人しくしててくれるんだろうか? 俺は絶対に無理だと思うんだけど……どうせ飽きるなら、今ここで退室してくれた方が……

 

「ヴェルドラ、今日のところはもういいぞ? 出て行ってくれても」

「クァハハハ、つれないなリムルよ! 我を仲間外れにするのは止めよ」

「俺達は真面目な話をするんだから、邪魔だけはするなよ?」

「わかっている、我を信じるがいい!」

 

 全く信用ならないことを言い張りながら、ヴェルドラは奥の席までズカズカと歩み寄り、俺の隣の席に座っていたレトラを──そう、レトラを、ヒョイと椅子から持ち上げる。

 

「そしてこやつが我の愛し子、レトラだ! 手塩に掛けて育て上げた我が子に手出ししようものならば、この我が生かしてはおかぬぞ。それだけは心しておくのだな! クァハハハ!」

 

 宣言したヴェルドラは、満足気にレトラの席に腰を下ろすと、膝の上にレトラを乗せた。

 予想を超えた一連の出来事に、レトラは「!?」の顔でフリーズしており、他の面々も反応を起こせていない。俺もまさか、ノータイムでやらかすとは思っていなかったよ。

 しんとした静寂に包まれる会議室で、再起動したレトラが口を開いた。

 

「ヴェルドラ……あの、ヴェルドラ……?」

「ム? どうしたレトラ?」

「こ、この席使っていいよ……俺は椅子用意するから……」

 

 そうだな、こんな畏まった会議の場で膝抱っこはキツいよな。

 部屋中から突き刺さる多くの視線に耐えられないとばかりに顔を逸らして、膝から降りようとするレトラを、ヴェルドラが引き戻す。

 

「気にするな。我はこれで構わんぞ」

「い、いや、俺は気にする……このままは無理……!」

「クァハハハ、照れているのか? 可愛い奴め!」

「ちょ、ちょ! 待って……!」

 

 空気を読まないヴェルドラにギュウギュウと抱きしめられ、常識あるレトラは焦って赤面しながら身じろぎするが相手は"竜種"、その程度で抜け出せるものでもない。というか、何をイチャイチャしてんだこいつらは……と黒い気持ちが吹き荒れたが、待てよ? 

 いっそ、レトラに任せるか? それならヴェルドラも大人しくしていてくれそうだし……各国の重鎮達が集まる会議に、大の大人が子供を抱っこして参加するなどふざけているにも程があるが、それが"暴風竜"ならば皆許してくれるんじゃないだろうか? と考えた俺は、レトラ、と思念で呼び掛ける。

 

『あ、リムル! 助け……』

『スマンが会議を始めたい。ヴェルドラのことは頼んだぞ』

『見捨てられた!? なあこれ公開処刑って言わない!?』

『ヴェルドラを抑えられるのはお前だけだ……大丈夫、お前が被害者なのは皆もわかってるさ』

『やっぱり俺が生贄にされてるんだけど!』

 

 うむ、レトラはいつも通り元気だ。

 客人達の前で頑張って整えていたんだろう平静はすっかり崩れ去り、激しく動揺しているのが丸わかりになっていた。俺としては、レトラはこのくらい騒がしい方が落ち着くな。

 

 一安心した俺は早速会議を進めようと思ったんだが、それは叶わなかった。

 "暴風竜"復活という青天の霹靂にフューズやエレンなど気絶者が続出し、ガゼルでさえも慌てて説明を求めてくるような、大混乱が巻き起こったためだった。

 

 

 




※人魔会談は重要だけど長いんですよね……


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