転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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09話 ドワルゴンへ

 リグルドをゴブリン・ロードに任命し、上手く村を治めるようにと丸投げすることにした。

 いや丸投げというのは言葉が悪いな。俺が取り仕切るのではなく、ゴブリンや狼達だけでも上手く自立してやっていけるよう、細かい口を出さないという方針なのだ。

 

 警備班や食糧調達班はそれなりに機能しているが、建築関係になると、ゴブリン達では技術が足りないようだった。衣服、道具類の製作に関しても同様だ。

 レトラが自分の出番を期待したのかソワソワとしていたが、だからそれじゃダメなんだっての。誰もレトラの『造形』を真似出来ないのだから、村としての進歩が見込めないのは困る。

 

 現在自分達だけではどうにもならないなら、外部からの供給方法を探さなければ……ということで、リグルドから得た情報により、大河沿いにあるという国家ドワルゴンへ取引に行くことにした。

 なんとそこはドワーフ達の王国で、英雄王の治める武装国家として有名らしい。この世界でもやはりドワーフと言えば鍛冶の達人であるらしく、ワクワクが止まらない。取引を成功させ、最低でも物資調達……欲を言えば、技術指導者を連れて来られたら最高なんだがな。

 

 人間になれるレトラを連れて行くかどうか悩んだ末、今回は留守番してもらうことにした。

 交渉相手はドワーフだし、以前ゴブリン達でも取引が出来ていたのなら、人間の姿である必要は薄いと思ってのことだ。

 

「ドワーフ王国へは俺が直接行ってくる。レトラは村に残っていてくれ」

「わかった」

 

 レトラだってドワーフに会ってみたいだろうに、悪いことしたかなと思わなくもない。だがまずは安全性を確かめてからだ。ドワーフの国とはいえ、人間も多く集まるという大国。俺のようなスライムでも自由に街中を歩けるのか、魔物に対する差別や偏見はないか。

 先に俺が行ってみてそこらへんを判断しないことには、レトラを連れて行くわけにはいかない。別に過保護じゃないよ? 兄として気を配るべき当然のことだ。

 

「リグルド。俺のいない間、レトラのことを頼んだぞ」

「はっ! お任せ下さい、この命に代えましてもレトラ様をお守り致します!」

 

 出発の用意をしてくれているリグルドに言付けると、ムッキムキの筋肉を誇張しながら返事が来た。

 いやそこまでは……というか正直、レトラの方が強いだろう。俺と同じく『鋼糸』『水刃』などが使え、砂だからか物理攻撃にも耐性があるようだし、しかも相手を『風化』で砂に変えることが出来るチートモンスターとあっては、並の魔物がレトラに立ち向かえるわけがない。

 

「まあその、レトラはまだ子供だからな。一人で張り切り過ぎてしまうところがあるんだ。無理をされたくはないし、それとなくレトラを気遣って休ませてやってくれ」

「そうですな……我らが不甲斐ないばかりに、お優しいレトラ様の御手を煩わせてしまい、情けない限りです。レトラ様に頼るばかりにならぬよう、我ら一同、精一杯励ませて頂きますぞ!」

「ああ、くれぐれも頼む」

 

 だから、別に俺は過保護じゃないって。

 

 

   ◇

 

 

 リムルがドワルゴンへ行くことになった。

 俺も行きたかったけど、捕まったり裁判になったり、ゴタゴタするからな……でもエルフに会えるんだよな……うーん、まあ留守番役も必要か。一応リムルと二人で村の守護者ってことになってるのに、両方ともいなくなるのは無責任な感じがする。

 

「ドワーフ王国へは俺が直接行ってくる。レトラは村に残っていてくれ」

「わかった」

「危ないことはするなよ? もし敵が襲ってきたらこの前俺がやったようにして……話し合いも無理でいきなり攻撃してくるようならこっちも問答無用でいいからな、手加減無しで」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 心配性すぎる。リムルってこんなキャラじゃなかったような……? 

 トラブルなんて起こらないだろうから、手伝いでもしながらのんびり過ごそう。

 

「お気を付けて、行ってらっしゃいませー!」

「お早いお戻りをー!」

 

 ドワルゴンへ行くメンバーはリムルと、リグルやゴブタの他に数人のホブゴブリン。そしてランガを始めとしたテンペストウルフ達が、皆を乗せて走る役目だ。

 皆の出発を見送って、居残り組は村の立て直し作業に戻る。

 リムルがカイジン達を連れてくるまではもう少し時間が掛かる。ゴブリン村の家は元々粗末な作りで、進化で皆が一斉に成長したこともあり、本当に家が足りない。多くのゴブリンは外で寝る事態になっていて、ペアの狼と一緒に寝るから温かいし進化して体力ついたって言われても、それはちょっと……俺とリムルが優先的に建物を宛がわれているので更に辛い。

 

「家はまだ建てられなくても、寝る場所くらいはあった方がいいんじゃないか? 簡易的なテントなら、こういう……支柱をクロスさせて……上にこう、梁を渡して……こんな感じにしてさ」

 

 言いながらサラサラと砂を出し、その場に骨組みを作り上げた。

 俺ってすごく便利な気がする。この程度の構造なら、あっという間に砂で成形してみせることが出来るんだから。リアル3Dプリンターと呼んでくれ。

 

「なるほど、この骨組みの上から干し藁を掛け、中を寝床とすれば良いのですな」

「これなら作業は早く進められるんじゃないかな? 骨組みだけでも俺が適当にどんどん……」

「いいえ、これ以上レトラ様を煩わせるわけには参りません! 後は我らが引き受けますので、どうかレトラ様はお休み下さいませ!」

「あ……ああ、うん」

 

 これ以上って言うか、俺まだほとんど何もしてない……

 ってそうだった、仕事を奪っちゃダメなんだっけな。リムルに言われたことを思い出す。なのでリグルドの言う通りテント設営は任せて、俺は他で手伝いをすることにした。

 

「あの……」

「狩りの最中にレトラ様に危険があってはいけません。どうぞ村でお寛ぎください」

 

「俺も……」

「まあ、レトラ様にお手伝い頂くなど恐れ多いことです。あ、木の実をお一つ如何ですか?」

 

 おかしいな。どこへ行っても仕事が貰えないぞ? 

 テント作りもダメ、狩猟参加もダメ、果物採集もダメ? 何ならいいんだ? 

 無理を言って困らせるわけにもいかないし……孤独感すごい。いや別にハブられているわけじゃなく、声を掛ければ嬉しそうにしてくれるし、作業の進捗報告もきちんとしてくれる。

 皆は本当に、俺に仕事をさせるなんてとんでもない! という考えらしい。

 

 仕方がないので、俺は村や近場の見回りをしながら過ごしている。

 ペアを持っていないテンペストウルフ達に頼んで、日替わりで背中に乗せてもらう。同じ狼にばかり頼むと他の狼がしょんぼりするので……皆しっぽフリフリでOKしてくれるのが可愛い。

 村の外ではスキル練習もした。『粘糸』で大縄跳びを作り、狼達に跳ばせるという芸を仕込むことに成功して満足だ。遊んでいただけとは言っちゃいけない。

 

 

 

 リムル達が旅立って一週間ほど経った。

 今日は『砂工職人(サンドクラフター)』をレベルアップさせるべく、建屋の中で人間形態を作る。十分の壁を切ることを目標に、サラサラと砂を操り……大体の『造形』が終わった辺りで、外から声が掛かった。

 

「レトラ様。少々よろしいですか?」

「リグルド? どうした?」

「ゴブリンの族長達が、面会を求めてきております」

 

 現れたリグルドの話を聞くと、あーそういうイベントがあったな、と思い出した。

 森の各地からゴブリン村の長達が来て、リムルの部下にして欲しいと言ってくるやつだ。

 

「リムル様がご不在の今、レトラ様にお伺いを立てねばなりませんからな」

「え、俺に? 村長はリグルドだよな?」

「我らの主は、リムル様とレトラ様でございます」

 

 またそれだ……そこ気になってたんだよな。

 この際だから、はっきりさせてしまおう。

 

「リグルド、確かに俺も村の守護者なんだろうけど、皆の主はリムルだけで充分だよ。そこまで俺を持ち上げなくていい。俺をリムルと同一視してると、後で問題になると思うよ」

 

 集団のトップが複数いると混乱するし、実際の話、リムルだけでいいんだよ。

 俺まで主だって持て囃されていると、いずれそれを良く思わない住人だって出てくるだろう。弟ってだけでデカイ顔しやがって、って煙たがられることになったら俺は泣く自信あるわ……

 

「とんでもない! ご心配には及びませんぞ」

「え?」

「リムル様に名を頂いたことで、レトラ様がリムル様と同格の御方であることは殊更はっきりと認識出来ております。しかも名付け主たるリムル様より、レトラ様も同等の主として敬うお許しを頂いているのですから、我らはレトラ様にも変わらぬ忠誠を捧げる所存でございますぞ!」

「そう…………なんだ?」

 

 そうか、"同格兄弟"っていうのがここで効いてくるのか。

 しかもリムルに先手を打たれていた。っていうかこれ、こいつ俺の弟だからよろしくなーとわざわざ兄貴に触れ回られてしまった状況では? 俺が本当に反抗期なら危ないところだった。

 

「あの、でも俺、増長するかもしれないし……村にとって良くないかなって……」

「ご冗談を! レトラ様が非常に奥ゆかしい御方であることは、我ら充分に理解しております。レトラ様に限って、そのようなことは起こりますまい」

 

 ダメだこの人達、俺にも盲目的なヤツだ。

 えーと、リムルに代わって、ゴブリンの村長達に会ってくれっていう話だったよな……うん、まあ、話を聞くくらいなら俺でも出来るか。仕事が無いままでいるのも嫌だし、やってみよう。

 

 

 

「初めまして、俺はレトラ=テンペストです。村の主であるリムル=テンペストが不在のため、弟の俺がお話を伺います」

 

 別の建物では各ゴブリン村からやってきた村長達と、そのお付きが待っていた。

 ちょうど人型だった俺はそのまま出向き、妖気を多めに滲ませながら挨拶をする。

 

「お、お初にお目に掛かります、偉大なる御方! リグルド殿の治める集落の守護者となられた貴方様方の武勇の数々、聞き及んでおります。この度はどうか、我々を貴方様方の配下に加えて頂きたく、こうして参りました!」

「…………」

 

 目の前に並ぶ四人の族長……この四人ってつまり、ルグルド(予定)やリリナ(予定)ってことだよな。一人だけいる雌ゴブリンはわかるけど、他はまだあまり個性がなくてわかり辛いな……体格も同じようだし、眼鏡掛けてるゴブリンなんていないし……誰が誰になるんだろう? 

 

「あ、あの、レトラ様……我らが何か……お気に障ることでも…………」

 

 無言でじっくりとゴブリン達の顔を見つめすぎて、気付けば向こうの顔色が悪くなっていた。

 まずいまずい。リムルがいないんだから、俺がしっかりしてないと。

 失礼、と誤魔化して先を促す。

 

 村長達の話は、俺が知っているものと変わりなかった。

 ヴェルドラが消えたため、大森林の各地で覇権争いが起き始めたこと。弱小種族であるゴブリン達では抵抗も出来ず、蹂躙される道しか残されていないこと。そこへ最近リグルド達の村が強大な守護者の庇護を得て台頭してきたという噂を聞き付け、ぜひその配下に加わりたいということ。

 

「お話はわかりました」

 

 この族長達も、将来のテンペストには欠かせない人材となる。

 それは前世から知っていることだが、だからって俺が勝手に決めていい話ではない。

『造形』を解き、俺は砂の姿に戻る。

 

「見ての通り、俺は砂妖魔(サンドマン)です。それと兄のリムルはスライムですが、それでもこの村の一員となり俺達に従うことは可能か、お聞きしたい」

 

 俺の変わり様にざわめくゴブリン達だが、俺が放出している妖気は先程から同じ量。砂妖魔(サンドマン)でありながら魔人でもある実力者と思ってくれたことだろう。

 更に『威圧』も上乗せすると、俺の凄味に震え上がり、平身低頭になるゴブリン達。

 

「も、もちろんでございます強き者よ! 我らを下僕とお認め下さった暁には、絶対の忠誠を……!」

「その言葉、お忘れのないように願います。貴方達を受け入れるかどうかの最終的な判断はリムルが下しますが、それまではどうぞこの村でお待ちください」

 

 妖気を引っ込め『威圧』を解くと、村長達は脱力し、ホッとした雰囲気になった。進化前のゴブリンを脅しすぎかもしれないが、裏切ったら許さないよ? と言っておくことは建前上でも必要だろう。

 リムルが帰って来るまでお客さん達を手厚くもてなすようにと、リグルドに頼んでおいた。

 

 俺の方針も決まった。

 皆が俺のことも主と慕ってくれるならそこはお言葉に甘えるけど、俺は徹底的にリムルのサポート役に回ることにして、あまり出しゃばらないように気を付けてやっていこう。

 

 

 




※ドワルゴンへ(リムルが)


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